チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

文字の大きさ
上 下
31 / 64

第30話 男同士の入浴(誰得?)

しおりを挟む
「ヨリさんありがとうございます」
 
「別に気にすんな」

 待望の入浴シーンですよ皆さん。……と言っても男同士だが。それにしてもすかっとしたな。あのアホ兄弟のポカーンとした顔。何度思い出してもにやけてしまう。

「……僕、実は魔力欠乏症っていう病気なんです」  

「魔力欠乏症? 」

 聞いたことない病名だ。
 日本ではあり得ない症状なのだし、この世界特有のものなのだろう。

「はい、何もしてなくても徐々に魔力が漏れてしまい、それを補うために体力も持っていかれてしまうんです。そのせいでずっと発熱や発作が起きるんです」

「それは大変だな……治療法は無いのか? 」

 リュイは悲しそうに睫毛を伏せる。

「無くはないと思います。賢者と評される人たちの治癒魔法。これで治るとされています。だけれど、そういう人たちの治療を受けるにはお金が必要です」

「そんなにかかるのか? 」

「はい。だからお姉ちゃんは必死に稼いでくれてるんです。かなり無理して、休日も返上して」

「……」

 俺は何も言えなくなってしまった。弟の治療費を稼ぐためにあれほどしゃかりきに働いていたのか。それならユージーンの誘いを断ったのも納得出来る。恋愛なんてしている暇はないのだろう。

「僕にはあまり時間がないんです。今はなんとか魔力を回復する薬を飲み続けることで耐えてるんですけど、最近は減るスピードが早いんです」

 悲しそうに笑うリュイは子どもの表情ではなかった。

「お姉ちゃんを一人にしちゃうのは悲しいけど。負担が減らせるなら僕はそれで……」

「そんなこと言うなよ。お姉ちゃんは君のために頑張ってるんだろ? 最後まで足掻こうぜ」

 俺の見た予知が正しければ確かにリュイは死ぬだろう。何とかして彼を救うことは出来ないのだろうか?

「ありがとうヨリさん。ヨリさんは変わった人ですね」

 バシャッとお湯を俺にかけてリュイは笑う。

「あっつ! 」

「へへ! 僕、ヨリさんみたいなお兄ちゃんが欲しかったんです」

「そりゃどうも! 」

 お湯をかけ返す俺。
 そうして俺たちはしばらく、こうしてお湯を掛け合って笑っていた。
 何だか子どもの頃に戻ったような気がして、俺はしばらく熱中してしまった。

◇◇◇

 風呂上がりと言えばやはりコーヒー牛乳だろう。この文化はこの世界でも同じらしい。
 さっぱりした体に、コーヒー牛乳の甘さが染み渡る。

「美味しいです! とても」

「おう」

 リュイにも奢ってやると、彼も嬉しそうに飲み始めた。

「リュイ! 」

 するとこちらが上がるのを待っていたのだろう、ミシェルと、彼女と手を繋いだシエルがパタパタと近付いてきた。

「ヨリ! 」

「おっと! 」

 全力で抱き付いてくるシエルを何とか受け止める。
 危うくコーヒー牛乳を溢しそうになり、ひやりとした。

「すっごく楽しかったよ! 」

「そりゃ良かった」

 上気した頬を赤らめ、興奮ぎみに話すシエル。
 どうやらミシェルは面倒を見てくれていたようだ。

「ありがとう、ミシェルさん」

「いや、こちらこそ」

 ミシェルは深々とお辞儀をした。
 しかし直ぐに顔を曇らせると、声のボリュームを下げてこう続けた。

「ユージーンという男が来たと小耳に挟んだのだが……大丈夫でしたか? 」

「ああ、来ましたよ」

「お姉ちゃん聞いてよ! あの意地悪セルネも来てたんだけど、ヨリさんがかっこよく撃退してくれたんだよ!」

 鼻息荒く報告するリュイ。まあ撃退と言っても、ただ金の力で押しきっただけだのだが……。

「撃退……!? そ、そんなことが出来るとは。しかし申し訳ないことをした。あの男はしつこくてな、私も手を焼いていたんです」

「随分女々しい男でしたね」

 そう答えるとミシェルはくすりと少しだけ笑った。

「そうね、女々しい男です」

 では、と彼女はリュイの手を取ると、もう一度深々と頭を下げた。

「今日はありがとう、感謝します。しかし仕事に関しては手を緩めるつもりはないので」

 ……なるほど。俺に対する調査を辞めるつもりはないらしい。

「こちらこそ」

 だが少しだけ打ち解けられたのか、先ほどまでの敵意に満ちた視線はもうなかった。それどころか、少し迷っているような、そんな色が瞳に滲んでいた。

「なあミシェルさん。話があるんだが」

「はい? 」

「いや、あのシエル、先行っててくれ」

「分かったー」

 するとミシェルも何かを察したのか、リュイにシエルを見ておくように言いくるめていた。
 リュイもうん! と頷くと、二人揃って出口の方へと走っていった。

 そして残されたのは俺たち二人。
 話を切り出したのはミシェルの方だった。

「リュイがいると話しにくいんですよね? 何ですか? 」

 流石に機転が聞く。

「その……なんだ。取引をしないか? 」

「取引? 」

 ミシェルの眉がぴくりと動いた。

「リュイから全て聞いたよ。病のこと、君がなぜ働いているかということも」

「……そう」

 何と言えば良いのだろう、上手い言い回しが思い付かない。

「だからその……リュイの治療費を全て出してやる。だから俺たちのことを詮索するのはやめてくれ」

 ミシェルは驚いたように目を丸くすると、直ぐに顔を真っ赤にした。

「言いたいことはそれだけ? 」

「え? 」

「……最低です。リュイのことを盾にして保身を図ろうなんて」

「そんなつもりじゃない。ただお互いにとって悪い話じゃないだろう」

 ミシェルはぎっと俺を睨み付けると、最後にこう言い残した。

「貴方と話すことなんてもうありません。馬鹿にしないで!!! 」

 そしてリュイの手を引くと、足早にその場を去ってしまった。
 シエルの「ヨリ、どうしたの? 」という声が酷く遠くで聞こえた。

「いやなんでもない」

 そう答えた俺だったが、多分少し震えていたと思う。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

処理中です...