チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

文字の大きさ
上 下
29 / 64

第28話 まさかの再会

しおりを挟む
「着替えも持ったしタオルも持ったし……準備万端です! 」

 荷物を嬉しそうに握りしめながらシエルは歩く。
 楽しそうだな、と俺が声をかけると、もちろんです! と返事をした。

「奴隷は大浴場には入れないんです。痣がありますからね。でもヨリが私を解放してくれたお陰で入れるようになりました」

 そうだったのか……知らなかった。

「そりゃ良かった」

「ヨリのお陰で私は色々なことを知ることが出来ました。ありがとうございます」

 まるで最後の挨拶みたいなことを言い出すシエル。俺は彼女がどこかに行ってしまうような、そして何だか物悲しいような変な気持ちになり、誤魔化すようなことを口にする。

「あー、そのなんだ。もう着いたぞ」

「わーい! 」

 そこは確かに日本の銭湯のような場所だ。
 どうやらこの世界にも似たような文化はあるらしい。まあサクヤの服装も明らかに和服だったし、もしかしてこの世界のどこかに日本のような国があるのかも。
 となると文化もそっくりなのだろうか……? ううむ地味に気になってきたな。今度聞いてみるか……。

「おい走るな」

 ぼんやりそんなことを考えていた俺を尻目に、暴走するシエルを引き留めながら、俺たちは大浴場に足を進めた。

◇◇◇

 中は意外と人がいて混んでいる。
 このゴミゴミしたかんじ、なんだか故郷を思い出すな。

 水道が止められたときは仕方なく近所の銭湯に行ったっけ……。今となっては懐かしい思い出だ。

「ヨリ、入りましょう! 」

 グイグイ俺の手を引くシエル。

「いやいや、ここは女湯と男湯に別れてんだ。俺とシエルは一緒に入れないよ」

「女湯? 男湯? 」

 そうかシエルはこういうルールもまだ知らないのか。

「俺は男でシエルは女だろ? 性別によって場所が違うんだ」

「え、て、てことは私は一人でお風呂に入るんですか? 」

 途端に顔を青くするシエル。
 先程の楽しげな笑みは一体どこへやら。

「そういうことだな。て、家ではいつも一人だろ」

「そ、そうですけど……。ヨリ以外の人と入るのは緊張すると言うか……」

「おいおい、ここまで来て」

「ま、まだ私に大浴場は早かったみたいです……!! ごめんなさい……!! 」

「大丈夫だって……」

 そのとき、あら、という声がした。
 振り返るとそこにいたのはミシェルと見知らぬ……いや、あの少年。

「ヨリさんじゃない」

「ミシェルさん……」

 最悪だ。まさかこんな場所でこの女に会ってしまうとは。ミシェルも同じ気持ちなのだろう、明らかに眉間に皺を寄せている。

「お姉ちゃんのお知り合い? 」

 少年ーー名前は聞かなくても分かる。リュイが首をかしげた。そうか、彼はミシェルの弟だったのか。

「ま、まあそうね」

 ミシェルも濁しぎみで彼の質問に答える。
 まあ調査対象とは流石に答えられないのだろう。

「まさかお姉ちゃんの恋人!? 」

「そんなわけないでしょ! ごめんなさい。こういう話が好きな子なの」

 リュイはつまんないのーと唇を尖らせて笑う。
 そして俺とシエルを交互に見比べると、不思議そうに瞬きを数回する。

「初めまして、リュイです。お姉ちゃんがお世話になっているみたいでありがとうございます」

 中々礼儀正しい少年のようだ。

「俺はヨリ。こっちはシエルだ」

 恥ずかしがり屋のシエルが俺の背中に隠れる。
 しかしぺこりと小さくお辞儀をした。

「……ヨリさんとシエルちゃんは親子ですか? それにしても年が……」

 中々鋭い質問をしてくる子だな……。

「まあそんなかんじだな」

「そんなかんじって何だか誤魔化されてるような……」

「あーあーあーリュイ! いい加減にしなさい。ごめんなさいヨリさん。それじゃあ……」

「えー、僕もっとお話した……」

 そのとき少年の細い体が大きくくの字に折れたかと思うと、ゴホゴホと大きな咳をしてその場に座り込んだ。

「リュイ!! 」

 慌ててミシェルが駆け寄ると、懐から何かを探し始めた。そして取り出したビンの中の液体を彼に飲ませる。

「ゴホッ……お姉ちゃ……」

「喋らないで!! ほら、飲んで」

 リュイがゴクゴクとその液体を飲み干すと、落ち着いたのか規則正しい呼吸を取り戻した。

「……ごめんね。もう大丈夫」

「無理しないで。今日は辞めときましょうよ」

 ふるふると首を横に振るリュイ。

「大丈夫、今日行かなかったらもしかしたらもう二度と行けないかもしれないし」

「そんなこと言わないでよ! 」

 ミシェルが鋭く叫んだが、直ぐにごめんね。と謝る。珍しく感情を露にしてしまったようだ。

「でも……男湯には私は入れないのよ。一人で入るなんて危ないわ」

 するとミシェルははっと俺に視線を向ける。
 しかし犯罪者と疑っているの人間に大事な弟を預けるわけにはいかないのだろう、直ぐに顔を伏せた。

 仕方ない……。ここは……。

「……あー、ミシェルさんだっけ? うちの娘を女湯に入れてあげてくれないか」

「え……? 」

「シエルは人に馴れてなくてな。俺が女湯に入る訳にはいかないし」

「えっ、えっと……」

「……お、お願いします」

 俺の意図を汲んでくれたらしいシエルがおずおずとミシェルに近付いた。
 シエルは怖がると思ったが、意外と心を開いているらしい。まあ根が悪い人という訳ではなさそうだしな。

「わ、分かったわ」

 ミシェルもお姉さんだからだろう、何だかんだ面倒見は良いようだ。

「じゃ、よろしく」

 そして俺は男湯へと向かう。
 ちらりとリュイに視線を向けると、ぽかーんとした顔でこちらを見ていた。

「俺は風呂に入るけど……少年はどうする? 」

 リュイは俺の意図を読んだのか、にやりといたずらっぽい笑みを浮かべた。

「僕も行きます! 」

「あ、ちょっと……! 」

「大丈夫だよお姉ちゃん! 行ってきます! 」

 いつの間にかリュイに手を引かれ、俺は更衣室へと向かっていた。
 ミシェルのもう! という呆れたような声が背中ごしに聞こえた。

 ただ、それ以上は何も言っては来ないようだった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...