19 / 64
第18話 謎の商人 サクヤ
しおりを挟む
なるほど、どうやらこの世界では奴隷に対してまだまだ差別と言うものがあるらしい。
日本で育った俺にはイマイチピンと来ないのだが、俺が世間知らずだったせいでシエルを傷付けてしまった。
俺の手を強く握りながら歩くシエルが不意に口を開いた。
「あの、私は大丈夫です。あの服も、実はそんなに欲しくなかったですし」
「シエル……」
「それに今の服も気に入ってるんです。確かに汚れているけど、洗えばまだまだ使えます」
空元気なのは見て明らかだった。
目にはうっすら涙が浮かんでいて、でも泣かまいと必死に唇を噛んで耐えていた。
「なあシエル、その、背中の刻印はどうすれば消えるんだ? この前は無理だと言っていたが、方法がまったくない訳じゃないだろう」
「……」
シエルは口をつぐんでいたが、不意に喋り始めた。
「……確かにあります。これを付けられたときに、魔法使いのおじさんが言っていました。これを消せるのは天使の涙というアイテムぐらいだろうと」
「天使の涙? 」
何だか凄そうな名前だ。
いかにもレアアイテムなのだろうということが伝わってくる。
「はい、究極の回復アイテムです。あらゆる怪我や病気を治すと言われています。ですがほんとにそんなものがあるのかは分かりません。あくまでも言い伝えですから」
確かにこの辺りの店で売っているという話は聞いたことないな。
この辺りの道具屋には売っていなそうだ。
「なるほど。それさえあればシエルを……」
とんでもないです! とシエルが目を丸くした。
「もしあったとしても高価です。とてもじゃないけど……買えませんよ」
お金の問題ならなんとかなるんだよな、と俺はひそかに思っていた。
そのとき、何かお探しなん? という元気な声が響いた。
思わずそちらに視線を向けると、そこにいたのは切り揃った黒髪を艶めかせ、唇にひいた紅が印象的な着物の美少女。
背中にはその身長に似つかわない大荷物を抱えている。
思わずここは日本か? と錯覚してしまいそうな出で立ちだ。
彼女の肩には狐のような小動物が長い尻尾をゆらゆらさせて、こちらを睨んでいた。
「すまんな、ちょっと話盗み聞いてしもたわ」
日本の色々な方言が混ざったような不思議な喋り方だ。
「君は? 」
「うちはサクヤ。流浪の商売人や」
「商売人? 」
そ、とサクヤと名乗る少女が頷く。
「古今東西、あらゆるアイテムを取引するカリスマ商売人、サクヤ様と言えばうちのことよ」
見るからに胡散臭いな……しかし胸を張って自己紹介をするサクヤはどことなく自信がありそうだ。
「あらゆるアイテムか……それって本当なのか? 」
うちを舐めて貰っちゃ困ります、とサクヤは指を振る。
「うちが売れないアイテムなんてこの世にありませんわ。何か探してるんやろ? ほら、言うてみい」
しかし俺が話すより先に、サクヤはあっと小さく声をあげた。
「商いの話をこんな道の真ん中でするもんじゃありませんな。こりゃうちの配慮不足だったわ。お二人さん付いてきて、うちの店で話をしましょうや」
俺とシエルははたと顔を見合わせ、お互いにどうしようかと目で訴えた。しかし、一先ず彼女の後を付いていくことにした。
サクヤ、イマイチ信用は出来ないが、藁にもすがりたい気分だったからだ。
もし天使の涙とやらが手に入れば、シエルを呪いから解放することが出来るかもしれない。
あまり過度な期待をするのは良くないが、何か手がかりが掴めれば良いな。
日本で育った俺にはイマイチピンと来ないのだが、俺が世間知らずだったせいでシエルを傷付けてしまった。
俺の手を強く握りながら歩くシエルが不意に口を開いた。
「あの、私は大丈夫です。あの服も、実はそんなに欲しくなかったですし」
「シエル……」
「それに今の服も気に入ってるんです。確かに汚れているけど、洗えばまだまだ使えます」
空元気なのは見て明らかだった。
目にはうっすら涙が浮かんでいて、でも泣かまいと必死に唇を噛んで耐えていた。
「なあシエル、その、背中の刻印はどうすれば消えるんだ? この前は無理だと言っていたが、方法がまったくない訳じゃないだろう」
「……」
シエルは口をつぐんでいたが、不意に喋り始めた。
「……確かにあります。これを付けられたときに、魔法使いのおじさんが言っていました。これを消せるのは天使の涙というアイテムぐらいだろうと」
「天使の涙? 」
何だか凄そうな名前だ。
いかにもレアアイテムなのだろうということが伝わってくる。
「はい、究極の回復アイテムです。あらゆる怪我や病気を治すと言われています。ですがほんとにそんなものがあるのかは分かりません。あくまでも言い伝えですから」
確かにこの辺りの店で売っているという話は聞いたことないな。
この辺りの道具屋には売っていなそうだ。
「なるほど。それさえあればシエルを……」
とんでもないです! とシエルが目を丸くした。
「もしあったとしても高価です。とてもじゃないけど……買えませんよ」
お金の問題ならなんとかなるんだよな、と俺はひそかに思っていた。
そのとき、何かお探しなん? という元気な声が響いた。
思わずそちらに視線を向けると、そこにいたのは切り揃った黒髪を艶めかせ、唇にひいた紅が印象的な着物の美少女。
背中にはその身長に似つかわない大荷物を抱えている。
思わずここは日本か? と錯覚してしまいそうな出で立ちだ。
彼女の肩には狐のような小動物が長い尻尾をゆらゆらさせて、こちらを睨んでいた。
「すまんな、ちょっと話盗み聞いてしもたわ」
日本の色々な方言が混ざったような不思議な喋り方だ。
「君は? 」
「うちはサクヤ。流浪の商売人や」
「商売人? 」
そ、とサクヤと名乗る少女が頷く。
「古今東西、あらゆるアイテムを取引するカリスマ商売人、サクヤ様と言えばうちのことよ」
見るからに胡散臭いな……しかし胸を張って自己紹介をするサクヤはどことなく自信がありそうだ。
「あらゆるアイテムか……それって本当なのか? 」
うちを舐めて貰っちゃ困ります、とサクヤは指を振る。
「うちが売れないアイテムなんてこの世にありませんわ。何か探してるんやろ? ほら、言うてみい」
しかし俺が話すより先に、サクヤはあっと小さく声をあげた。
「商いの話をこんな道の真ん中でするもんじゃありませんな。こりゃうちの配慮不足だったわ。お二人さん付いてきて、うちの店で話をしましょうや」
俺とシエルははたと顔を見合わせ、お互いにどうしようかと目で訴えた。しかし、一先ず彼女の後を付いていくことにした。
サクヤ、イマイチ信用は出来ないが、藁にもすがりたい気分だったからだ。
もし天使の涙とやらが手に入れば、シエルを呪いから解放することが出来るかもしれない。
あまり過度な期待をするのは良くないが、何か手がかりが掴めれば良いな。
6
お気に入りに追加
3,045
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる