16 / 64
第15話 夜
しおりを挟む
たらふく腹ごしらえを終えた俺たちはすぐに眠りにつくことにした。
今日は色々起きた1日だったので、早めに寝てしまおう。
小さい家なのでベッドは一つしかないが、シエルをそこに寝かせることにした。
俺はソファーをベッド代わりにして、すやすやと眠りに落ちる。……なんだが社畜時代に、会社のソファーでこうして仮眠を取っていたことを思い出すな。丸1週間帰れない日もあったっけ。
あれだけ頑張ってたのに給料はほとんど貰えないなんてやっぱりあの会社はおかしかったんだ。
今頃どうなってるだろうか。俺が自殺したことで倒産してたりしないだろうか?
うーん、そもそも俺は元の世界でどんな扱いなのだろう、ただの失踪者として扱われているのだろうか。
なんてどうでもいいことを考えていたら、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。
カタン
しかし深夜を回った頃、物音で目が覚めた。
「誰だ……? 」
シエルだろうか?
いや、それにしては声をかけないのはおかしい。
俺は慌てて飛び起きようとしたが、すぐそばに人の気配を感じた。
「だ、誰だ? 」
俺は近くにあった蝋燭に火をつけた。そしてそこに照らされたのは……。
「ヨリ……」
俺の名前を小さく呼ぶ、シエルの姿だった。
しかし衣服を脱ぎ捨てた彼女の真っ白な体が蝋燭に照らされて滑らかに映る。
「な、な、な、な、どうしたんだ!? 早く服を着ろ! 風邪引くぞ! 」
少女の豊満な胸を見てはいけないと、俺は必死にあらぬ方向を見る。
「ヨリ、抱いて下さい」
「は? 」
「……私習いました。男の人にお礼をするときは自分の体を差し出すと。それが最大の礼の仕方だって」
なんだその随分偏った方法は……。
「ヨリには感謝しています。だから私はお礼がしたくて……。あ、もちろん経験はないので上手く出来るかは分かりませんが……」
「あのな、それは大間違いだ。間違った知識だぞ」
え、と顔色を変えるシエル。
「お前はもう奴隷なんかじゃない。俺にそんなことをしなくて良い」
「そ、そうなのですか? 」
困惑した表情でシエルは固まっている。自分の常識が覆されたのだ、まあ無理はない。
「それに、そういうことは好きな男とするべきだ。誰彼構わずするもんじゃない」
「好きな男……? 私はヨリのことが好きですよ」
「そういうことじゃない。えーっと何というか、その好きと俺が言ってる好きは別ってことだ」
「……すいません、よく分かりません」
彼女いない暦=年齢の俺が無理矢理絞り出した理屈だ。正直俺にもよく分からない。
「まあともかく! そういう人が現れるまで無闇に裸を晒すなってことだ」
俺は毛布をシエルにかける。
毛布を被って背を向けた彼女。しかしそのとき、不思議なものが俺の目に止まった。
「何だこれ……? 」
彼女の白い肌に、くっきりと火傷のような痕があった。それは何かのエンブレムのようにも見える。
「あ、だ、駄目です! 」
それに気が付いたシエルが慌ててその痣を隠した。この狼狽ぶりから見るに、よっぽと見られたくないものらしい。
「あ、ごめん。見ちゃいけないものだったか? 」
「……」
シエルはうつ向き、しばらく何かを考えるかのように目をキョロキョロさせていたが、不意に口を開いた。
「……これは奴隷の証です」
「奴隷の証? 」
「はい、奴隷として売られた者に押される家畜の烙印。一生消えることのない呪いです」
「そういうことか……」
このエンブレム、確かにオークション会場で見掛けた記憶がある。2匹の蛇が絡まり合っているような醜悪なデザインだ。
「首輪や拘束具がなくなっても、私たちには自由なんてありません。いつも鏡を見るたびに思うのです。私は奴隷だ、家畜なんだ、と」
いつの間にかシエルの大きな瞳からは、ポロポロと涙が流れ始めた。
「ご、ごめんなさい。みっともない姿を晒してしまって」
「じゃあその痣を消せるような薬を明日買いに行こうか、もうシエルが嫌なことを思い出さないように」
ふふ、とシエルは少し笑った。
「面白いことを言いますね。でも、無理です。特殊な魔法で焼いているので並の薬は効きません」
だけど嬉しいです、ありがとうございます。とシエルは笑った。
「並の薬じゃなきゃ消せるかもしれないだろ? 」
そう答えるとシエルは少し悲しそうに笑うのだった。
今日は色々起きた1日だったので、早めに寝てしまおう。
小さい家なのでベッドは一つしかないが、シエルをそこに寝かせることにした。
俺はソファーをベッド代わりにして、すやすやと眠りに落ちる。……なんだが社畜時代に、会社のソファーでこうして仮眠を取っていたことを思い出すな。丸1週間帰れない日もあったっけ。
あれだけ頑張ってたのに給料はほとんど貰えないなんてやっぱりあの会社はおかしかったんだ。
今頃どうなってるだろうか。俺が自殺したことで倒産してたりしないだろうか?
うーん、そもそも俺は元の世界でどんな扱いなのだろう、ただの失踪者として扱われているのだろうか。
なんてどうでもいいことを考えていたら、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。
カタン
しかし深夜を回った頃、物音で目が覚めた。
「誰だ……? 」
シエルだろうか?
いや、それにしては声をかけないのはおかしい。
俺は慌てて飛び起きようとしたが、すぐそばに人の気配を感じた。
「だ、誰だ? 」
俺は近くにあった蝋燭に火をつけた。そしてそこに照らされたのは……。
「ヨリ……」
俺の名前を小さく呼ぶ、シエルの姿だった。
しかし衣服を脱ぎ捨てた彼女の真っ白な体が蝋燭に照らされて滑らかに映る。
「な、な、な、な、どうしたんだ!? 早く服を着ろ! 風邪引くぞ! 」
少女の豊満な胸を見てはいけないと、俺は必死にあらぬ方向を見る。
「ヨリ、抱いて下さい」
「は? 」
「……私習いました。男の人にお礼をするときは自分の体を差し出すと。それが最大の礼の仕方だって」
なんだその随分偏った方法は……。
「ヨリには感謝しています。だから私はお礼がしたくて……。あ、もちろん経験はないので上手く出来るかは分かりませんが……」
「あのな、それは大間違いだ。間違った知識だぞ」
え、と顔色を変えるシエル。
「お前はもう奴隷なんかじゃない。俺にそんなことをしなくて良い」
「そ、そうなのですか? 」
困惑した表情でシエルは固まっている。自分の常識が覆されたのだ、まあ無理はない。
「それに、そういうことは好きな男とするべきだ。誰彼構わずするもんじゃない」
「好きな男……? 私はヨリのことが好きですよ」
「そういうことじゃない。えーっと何というか、その好きと俺が言ってる好きは別ってことだ」
「……すいません、よく分かりません」
彼女いない暦=年齢の俺が無理矢理絞り出した理屈だ。正直俺にもよく分からない。
「まあともかく! そういう人が現れるまで無闇に裸を晒すなってことだ」
俺は毛布をシエルにかける。
毛布を被って背を向けた彼女。しかしそのとき、不思議なものが俺の目に止まった。
「何だこれ……? 」
彼女の白い肌に、くっきりと火傷のような痕があった。それは何かのエンブレムのようにも見える。
「あ、だ、駄目です! 」
それに気が付いたシエルが慌ててその痣を隠した。この狼狽ぶりから見るに、よっぽと見られたくないものらしい。
「あ、ごめん。見ちゃいけないものだったか? 」
「……」
シエルはうつ向き、しばらく何かを考えるかのように目をキョロキョロさせていたが、不意に口を開いた。
「……これは奴隷の証です」
「奴隷の証? 」
「はい、奴隷として売られた者に押される家畜の烙印。一生消えることのない呪いです」
「そういうことか……」
このエンブレム、確かにオークション会場で見掛けた記憶がある。2匹の蛇が絡まり合っているような醜悪なデザインだ。
「首輪や拘束具がなくなっても、私たちには自由なんてありません。いつも鏡を見るたびに思うのです。私は奴隷だ、家畜なんだ、と」
いつの間にかシエルの大きな瞳からは、ポロポロと涙が流れ始めた。
「ご、ごめんなさい。みっともない姿を晒してしまって」
「じゃあその痣を消せるような薬を明日買いに行こうか、もうシエルが嫌なことを思い出さないように」
ふふ、とシエルは少し笑った。
「面白いことを言いますね。でも、無理です。特殊な魔法で焼いているので並の薬は効きません」
だけど嬉しいです、ありがとうございます。とシエルは笑った。
「並の薬じゃなきゃ消せるかもしれないだろ? 」
そう答えるとシエルは少し悲しそうに笑うのだった。
7
お気に入りに追加
3,045
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる