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第13話 自己紹介
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「やべ、仮面返すの忘れた」
あんな場所、一刻も早く出ていきたかった。
慌てていたためわ係りの人に仮面を返却し忘れていた。
どうしようかな……こんな気持ちの悪いものずっと持っているのも気が引けるし、だからと言って捨てるのもな……。
って、そんなことはどうでも良い。
あの後、地上に戻った俺たちはさっさと家に戻ったのだった。何度も心配で後ろを振り返ったが、特に誰かが追いかけてくる様子はなかった。
少女は依然としてぼんやりと虚空を見つめている。
俺の家の玄関で立ちっぱなしのまま、動こうとしない。
「まぁ、小さい家だけどあがれよ。今後はここで生活してくれ」
「はい、分かりました」
うーん……表情が読めないやつだな。
「そうだ、君の名前は何だい? 」
「名前……? 」
不思議そうに俺を見つめる少女。俺そんなに変なこと言っただろうか……? 名前がないと呼びにくいじゃないか。
「そうだ。あ、俺はヨリという。よろしくな」
「奴隷に名前なんてつけるんですか……? 」
「え? 」
「奴隷は道具。それ以上でもそれ以下でもありません」
奈落の底のような瞳。これが本当に少女の目なのだろうか?
「あー、そうだな。俺がお前を買ったのは別に奴隷としてじゃない」
俺は貰った鍵を使い、少女の首輪と手の拘束具を外す。そもそもこんなものがあっては護衛としての仕事がこなせないではないか。
「……な!? 」
初めて少女の顔色が変わった。そして自由になった自分の体を信じられないという風に何度も触る。
「俺はお前と契約をしたい」
「契約……? 」
訝しげに聞き返す少女に、俺はコクンと頷く。
「端的に言うと、俺を守って欲しいんだ」
「ま、守る……? 」
「君は最強の種族らしいじゃないか。一方俺はごく普通の一般人。護衛として君を雇いたい」
「雇う……ですか」
「条件としてはそうだな……住み込み三食付きで月収100万ゴールドでどうだ? もちろん福利厚生も……」
お金はいくらでもあげられるのだが大金を子どもに渡すのは不安だ。これぐらいが妥当であろう。
「100万ゴールド!? マスター、貴方正気ですか? もしかしてからかっているのですか? 」
少女が初めて声を荒げた。
「からかってなんかいない」
「で、でも。私は貴方の奴隷なんですからいくらでも好きにする権利があります。奴隷に給料を払うなんて……世間知らずにもほどがあります」
「権利? ああ」
俺は少女を買ったときに書かされた契約書を取り出すと、少女の前で黒焦げに燃やし尽くす。
灰になった契約書は風に舞って消えてしまった。
「……」
もはや声も出ないらしい少女は呆然と俺の顔を見つめる。
「これで権利ってやつもないな」
「……変な人です。マスターは」
「マスターってのはやめてくれ。ヨリで良い。それに俺はもう君のご主人ではない」
「それもそうですね……」
少女は口元に笑みを浮かべたかと思うと、クスクスと笑い出した。
「分かりました、ヨリ。その契約、受け入れましょう」
「本当か!? 」
「ええ、むしろやらせてください。私に貴方を守らせて欲しい」
よっしゃ!!! 強力な味方をゲットしたぜ!
「それで、君の名前は? 」
少女はしばし思い出すように目をつぶり、黙っていたが、あるときぱっと顔をあげた。
「シエル、シエルと言います」
シエルは複雑そうな表情をすると、視線を俺から外した。
「久しぶりに自分の名前を呼びました。ふふ、おかしいですね。思い出すのに時間がかかってしまいました」
「シエル、良い名前じゃないか。よろしくな」
俺シエルに向かって手を差し出す。
すると一瞬彼女は身を竦めたが、俺の意図に気が付いたのかそっと遠慮がちに握りしめたのだった。
その小さい手は、確かに温もりを持っていた。
あんな場所、一刻も早く出ていきたかった。
慌てていたためわ係りの人に仮面を返却し忘れていた。
どうしようかな……こんな気持ちの悪いものずっと持っているのも気が引けるし、だからと言って捨てるのもな……。
って、そんなことはどうでも良い。
あの後、地上に戻った俺たちはさっさと家に戻ったのだった。何度も心配で後ろを振り返ったが、特に誰かが追いかけてくる様子はなかった。
少女は依然としてぼんやりと虚空を見つめている。
俺の家の玄関で立ちっぱなしのまま、動こうとしない。
「まぁ、小さい家だけどあがれよ。今後はここで生活してくれ」
「はい、分かりました」
うーん……表情が読めないやつだな。
「そうだ、君の名前は何だい? 」
「名前……? 」
不思議そうに俺を見つめる少女。俺そんなに変なこと言っただろうか……? 名前がないと呼びにくいじゃないか。
「そうだ。あ、俺はヨリという。よろしくな」
「奴隷に名前なんてつけるんですか……? 」
「え? 」
「奴隷は道具。それ以上でもそれ以下でもありません」
奈落の底のような瞳。これが本当に少女の目なのだろうか?
「あー、そうだな。俺がお前を買ったのは別に奴隷としてじゃない」
俺は貰った鍵を使い、少女の首輪と手の拘束具を外す。そもそもこんなものがあっては護衛としての仕事がこなせないではないか。
「……な!? 」
初めて少女の顔色が変わった。そして自由になった自分の体を信じられないという風に何度も触る。
「俺はお前と契約をしたい」
「契約……? 」
訝しげに聞き返す少女に、俺はコクンと頷く。
「端的に言うと、俺を守って欲しいんだ」
「ま、守る……? 」
「君は最強の種族らしいじゃないか。一方俺はごく普通の一般人。護衛として君を雇いたい」
「雇う……ですか」
「条件としてはそうだな……住み込み三食付きで月収100万ゴールドでどうだ? もちろん福利厚生も……」
お金はいくらでもあげられるのだが大金を子どもに渡すのは不安だ。これぐらいが妥当であろう。
「100万ゴールド!? マスター、貴方正気ですか? もしかしてからかっているのですか? 」
少女が初めて声を荒げた。
「からかってなんかいない」
「で、でも。私は貴方の奴隷なんですからいくらでも好きにする権利があります。奴隷に給料を払うなんて……世間知らずにもほどがあります」
「権利? ああ」
俺は少女を買ったときに書かされた契約書を取り出すと、少女の前で黒焦げに燃やし尽くす。
灰になった契約書は風に舞って消えてしまった。
「……」
もはや声も出ないらしい少女は呆然と俺の顔を見つめる。
「これで権利ってやつもないな」
「……変な人です。マスターは」
「マスターってのはやめてくれ。ヨリで良い。それに俺はもう君のご主人ではない」
「それもそうですね……」
少女は口元に笑みを浮かべたかと思うと、クスクスと笑い出した。
「分かりました、ヨリ。その契約、受け入れましょう」
「本当か!? 」
「ええ、むしろやらせてください。私に貴方を守らせて欲しい」
よっしゃ!!! 強力な味方をゲットしたぜ!
「それで、君の名前は? 」
少女はしばし思い出すように目をつぶり、黙っていたが、あるときぱっと顔をあげた。
「シエル、シエルと言います」
シエルは複雑そうな表情をすると、視線を俺から外した。
「久しぶりに自分の名前を呼びました。ふふ、おかしいですね。思い出すのに時間がかかってしまいました」
「シエル、良い名前じゃないか。よろしくな」
俺シエルに向かって手を差し出す。
すると一瞬彼女は身を竦めたが、俺の意図に気が付いたのかそっと遠慮がちに握りしめたのだった。
その小さい手は、確かに温もりを持っていた。
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