チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

文字の大きさ
上 下
5 / 64

第4話 俺は勇者になれない

しおりを挟む
カナのあの態度の理由は案外直ぐに分かった。
 王様から用意された部屋に戻ろうとしたとき、空き部屋から何かを話し合う男女の声がした。

 ここって誰の部屋だったかな……?
 そう思った俺は思わずそこに立ち止まり、聞き耳をたてる。

「……なんて有り得なくないですか? 」

 カナの声だ。思わず扉を開けてハンカチを返そうとしたのだが、尋常ではないその様子に俺は思わずドアノブを回す手を止め、扉に耳を押し当てる。

「ええ~~やっぱあいつ高卒なの? それであんだけ無能なんだ」

 あいつとは俺のことだろう。
 心臓がバクバクと高鳴るのが分かった。

 え、でもアズサには自分の話をしていないんだけどな。なぜ彼女が知ってるんだ……?

 そして俺は思い出した。
 女子というイキモノの恐ろしさを。

 ーー考えたくなかったが、カナが教えたのだろう。
 そんなことをするように見えなかったから俺は頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。あんなに優しそうな子でも信じてはいけないのか、と。

「ギフトがないっていうのも驚きだね。そんな転送者がいるなんて驚きだと王様も言ってたよ」

 この声はおそらくタクトだ。
 どうやら鑑定結果を王様に報告したらしい。

「どうせ私たちのオマケとして連れてこられただけなんでしょ。ああいう大人には私なりたくないわ」

「惨め……だよね。私気持ち悪くてハンカチあげちゃった。あの人が使ったものなんて、持ってたくないもん」

「確かに縁起が悪そうだよな。魔王に負けそうだ」

 タクトがははっと笑う声がした。

「それは流石に酷くなーい? ま、同意だけど。それにあいつ、パーティーから追い出すんでしょ? 」

 からかいを帯びたアズサの声。嫌だ、もう聞きたくない。しかし俺は耳を塞ぐことが出来ない。

「追い出すなんて人聞きの悪いことは言わないでくれ、ただあのステータスじゃ彼も怪我をするばかりだろ? これは彼のためでもあるんだ」

「ま、足引っ張られたくないしね。尻拭いなんてしたくないもの」

「じゃあ明日の早朝、こっそり出発しようか。あの人もそこまで馬鹿ではないと思うので気が付いてくれるでしょう」

 俺が置いていかれるのは薄々気が付いていた。そもそもステータス的にはそこらの村人と変わらないし、ギフトもない。これは当たり前だ。

 ーーでも、俺も夢見たって良いじゃないか。何もない俺だけど、奇跡が起きたって。

「あいつも可哀想ねー。こんなよく分からない世界に取り残されて一人ぼっちなんて」

「前から一人だったみたいですよ。友達も家族もいない、とか。物憂げに語ってたんでちょっと笑いそうになりました」

 キャハハという甲高い笑い声と共に、手を叩くような音がした。

「ウケる~! じゃああいつ、今も昔も変わらないじゃん。それならやっていけそうだね。それにカナ、狙われてたんじゃない? あいつロリコンっぽかったし」

「やめてくださいよ気持ち悪い! 」

「ま、カナ可愛いもんね。タクトもそう思わない? あいつじゃなくても狙うかも~」

 俺はもうそれ以上彼らの話を聞くことが出来なかった。

 高校生たちの純粋な悪意に晒された俺は、自分でも驚くぐらいダメージを受けたようだ。
 視界が真っ白になって、息が出来ない。

 あ、あれ。何だか呼吸が変だ。上手く出来ない。俺はいつもどうやって息をしてたんだっけ?

 逃げるように自室に帰った俺は、耳を塞ぐように布団を深く被ったまま、そのまま眠りに落ちた。

 そして彼らの言葉通り、目が覚めると三人の姿はもうなくて、

「ヨリさんへ
 ちょっとだけ出掛けてきます!
 お元気で
              タクト、カナ、アズサ」

 という簡素なメッセージカードだけが残されていた。
 俺はそのカードをビリビリに破くと、ゴミ箱に放り込んだのだった。

 性格の悪い俺は、彼らの不幸を願わずにはおれなかった。

 もし魔王を倒してここに戻ってきたときに全国民に言ってやるんだ。こいつらはほんとは性格の悪いクソガキですよーって。

 なーんて、俺の言葉なんて誰も聞かないと思うけど。
 
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...