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第4話 俺は勇者になれない
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カナのあの態度の理由は案外直ぐに分かった。
王様から用意された部屋に戻ろうとしたとき、空き部屋から何かを話し合う男女の声がした。
ここって誰の部屋だったかな……?
そう思った俺は思わずそこに立ち止まり、聞き耳をたてる。
「……なんて有り得なくないですか? 」
カナの声だ。思わず扉を開けてハンカチを返そうとしたのだが、尋常ではないその様子に俺は思わずドアノブを回す手を止め、扉に耳を押し当てる。
「ええ~~やっぱあいつ高卒なの? それであんだけ無能なんだ」
あいつとは俺のことだろう。
心臓がバクバクと高鳴るのが分かった。
え、でもアズサには自分の話をしていないんだけどな。なぜ彼女が知ってるんだ……?
そして俺は思い出した。
女子というイキモノの恐ろしさを。
ーー考えたくなかったが、カナが教えたのだろう。
そんなことをするように見えなかったから俺は頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。あんなに優しそうな子でも信じてはいけないのか、と。
「ギフトがないっていうのも驚きだね。そんな転送者がいるなんて驚きだと王様も言ってたよ」
この声はおそらくタクトだ。
どうやら鑑定結果を王様に報告したらしい。
「どうせ私たちのオマケとして連れてこられただけなんでしょ。ああいう大人には私なりたくないわ」
「惨め……だよね。私気持ち悪くてハンカチあげちゃった。あの人が使ったものなんて、持ってたくないもん」
「確かに縁起が悪そうだよな。魔王に負けそうだ」
タクトがははっと笑う声がした。
「それは流石に酷くなーい? ま、同意だけど。それにあいつ、パーティーから追い出すんでしょ? 」
からかいを帯びたアズサの声。嫌だ、もう聞きたくない。しかし俺は耳を塞ぐことが出来ない。
「追い出すなんて人聞きの悪いことは言わないでくれ、ただあのステータスじゃ彼も怪我をするばかりだろ? これは彼のためでもあるんだ」
「ま、足引っ張られたくないしね。尻拭いなんてしたくないもの」
「じゃあ明日の早朝、こっそり出発しようか。あの人もそこまで馬鹿ではないと思うので気が付いてくれるでしょう」
俺が置いていかれるのは薄々気が付いていた。そもそもステータス的にはそこらの村人と変わらないし、ギフトもない。これは当たり前だ。
ーーでも、俺も夢見たって良いじゃないか。何もない俺だけど、奇跡が起きたって。
「あいつも可哀想ねー。こんなよく分からない世界に取り残されて一人ぼっちなんて」
「前から一人だったみたいですよ。友達も家族もいない、とか。物憂げに語ってたんでちょっと笑いそうになりました」
キャハハという甲高い笑い声と共に、手を叩くような音がした。
「ウケる~! じゃああいつ、今も昔も変わらないじゃん。それならやっていけそうだね。それにカナ、狙われてたんじゃない? あいつロリコンっぽかったし」
「やめてくださいよ気持ち悪い! 」
「ま、カナ可愛いもんね。タクトもそう思わない? あいつじゃなくても狙うかも~」
俺はもうそれ以上彼らの話を聞くことが出来なかった。
高校生たちの純粋な悪意に晒された俺は、自分でも驚くぐらいダメージを受けたようだ。
視界が真っ白になって、息が出来ない。
あ、あれ。何だか呼吸が変だ。上手く出来ない。俺はいつもどうやって息をしてたんだっけ?
逃げるように自室に帰った俺は、耳を塞ぐように布団を深く被ったまま、そのまま眠りに落ちた。
そして彼らの言葉通り、目が覚めると三人の姿はもうなくて、
「ヨリさんへ
ちょっとだけ出掛けてきます!
お元気で
タクト、カナ、アズサ」
という簡素なメッセージカードだけが残されていた。
俺はそのカードをビリビリに破くと、ゴミ箱に放り込んだのだった。
性格の悪い俺は、彼らの不幸を願わずにはおれなかった。
もし魔王を倒してここに戻ってきたときに全国民に言ってやるんだ。こいつらはほんとは性格の悪いクソガキですよーって。
なーんて、俺の言葉なんて誰も聞かないと思うけど。
王様から用意された部屋に戻ろうとしたとき、空き部屋から何かを話し合う男女の声がした。
ここって誰の部屋だったかな……?
そう思った俺は思わずそこに立ち止まり、聞き耳をたてる。
「……なんて有り得なくないですか? 」
カナの声だ。思わず扉を開けてハンカチを返そうとしたのだが、尋常ではないその様子に俺は思わずドアノブを回す手を止め、扉に耳を押し当てる。
「ええ~~やっぱあいつ高卒なの? それであんだけ無能なんだ」
あいつとは俺のことだろう。
心臓がバクバクと高鳴るのが分かった。
え、でもアズサには自分の話をしていないんだけどな。なぜ彼女が知ってるんだ……?
そして俺は思い出した。
女子というイキモノの恐ろしさを。
ーー考えたくなかったが、カナが教えたのだろう。
そんなことをするように見えなかったから俺は頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。あんなに優しそうな子でも信じてはいけないのか、と。
「ギフトがないっていうのも驚きだね。そんな転送者がいるなんて驚きだと王様も言ってたよ」
この声はおそらくタクトだ。
どうやら鑑定結果を王様に報告したらしい。
「どうせ私たちのオマケとして連れてこられただけなんでしょ。ああいう大人には私なりたくないわ」
「惨め……だよね。私気持ち悪くてハンカチあげちゃった。あの人が使ったものなんて、持ってたくないもん」
「確かに縁起が悪そうだよな。魔王に負けそうだ」
タクトがははっと笑う声がした。
「それは流石に酷くなーい? ま、同意だけど。それにあいつ、パーティーから追い出すんでしょ? 」
からかいを帯びたアズサの声。嫌だ、もう聞きたくない。しかし俺は耳を塞ぐことが出来ない。
「追い出すなんて人聞きの悪いことは言わないでくれ、ただあのステータスじゃ彼も怪我をするばかりだろ? これは彼のためでもあるんだ」
「ま、足引っ張られたくないしね。尻拭いなんてしたくないもの」
「じゃあ明日の早朝、こっそり出発しようか。あの人もそこまで馬鹿ではないと思うので気が付いてくれるでしょう」
俺が置いていかれるのは薄々気が付いていた。そもそもステータス的にはそこらの村人と変わらないし、ギフトもない。これは当たり前だ。
ーーでも、俺も夢見たって良いじゃないか。何もない俺だけど、奇跡が起きたって。
「あいつも可哀想ねー。こんなよく分からない世界に取り残されて一人ぼっちなんて」
「前から一人だったみたいですよ。友達も家族もいない、とか。物憂げに語ってたんでちょっと笑いそうになりました」
キャハハという甲高い笑い声と共に、手を叩くような音がした。
「ウケる~! じゃああいつ、今も昔も変わらないじゃん。それならやっていけそうだね。それにカナ、狙われてたんじゃない? あいつロリコンっぽかったし」
「やめてくださいよ気持ち悪い! 」
「ま、カナ可愛いもんね。タクトもそう思わない? あいつじゃなくても狙うかも~」
俺はもうそれ以上彼らの話を聞くことが出来なかった。
高校生たちの純粋な悪意に晒された俺は、自分でも驚くぐらいダメージを受けたようだ。
視界が真っ白になって、息が出来ない。
あ、あれ。何だか呼吸が変だ。上手く出来ない。俺はいつもどうやって息をしてたんだっけ?
逃げるように自室に帰った俺は、耳を塞ぐように布団を深く被ったまま、そのまま眠りに落ちた。
そして彼らの言葉通り、目が覚めると三人の姿はもうなくて、
「ヨリさんへ
ちょっとだけ出掛けてきます!
お元気で
タクト、カナ、アズサ」
という簡素なメッセージカードだけが残されていた。
俺はそのカードをビリビリに破くと、ゴミ箱に放り込んだのだった。
性格の悪い俺は、彼らの不幸を願わずにはおれなかった。
もし魔王を倒してここに戻ってきたときに全国民に言ってやるんだ。こいつらはほんとは性格の悪いクソガキですよーって。
なーんて、俺の言葉なんて誰も聞かないと思うけど。
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