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第十二話 潜入大作戦
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「本当に大丈夫か? イブマリー」
「だ……大丈夫です」
久々の我が家なのに足がガクガク震えて止まりません。
時間は真夜中。私イブマリーは、カイウスの首を取り返しに行くため故郷、セレンシア王国のすぐ近くの茂みに身を隠していました。
アルベルトは初めは私たちの計画を聞いて大反対していましたが、自分も同行することを条件に、許可してくれました。
アルベルトの姿は目立ちすぎるので小さい子猫の姿に化け、私のローブのポケットにすっぱり収まっています。
首がないことがバレたら国中大騒ぎなのでカイウスもすっぽり厚いフードを被り、占い師のような風貌です。
どう見ても怪しい二人と一匹ですので、やることをさっさと済ませたいと思います。
「ここ城壁が一部欠けているんです。ここからなら門番にバレることなくこっそり侵入出来ますよ」
私はそびえ立つ城壁にひっそり空いた穴を指差します。
「なるほど、確かにここなら入れそうだ」
『こんな穴あったんですね、長年ここで生活していましたが気づかなかったです』
これは二人には内緒なのですが、実は私がこっそり散歩するために開けた穴なのです。まぁこの話は置いておきましょう。
「早く行きましょう、警備兵が来たら大変です」
「あぁ、そうだな」
私がカイウスを先導し、どうにか城壁の中に入ることに成功しました。
久々の故郷。見慣れているはずなのに、とある違和感が辺りに漂っています。
「……誰もいませんね」
確かに今は真夜中。人通りが少ないのは当たり前なのですが、そうではなく、人の気配が一切ないのです。まるで皆どこかへ行ってしまったみたいです。
「……ふむ、向こうからは微かだが魔力を感じるな」
アルベルトがポケットから頭を出し、辺りを見回す。
「そうですね、行ってみましょう」
細心の注意を払い、私たちは民家の立ち並ぶエリアから、商店街の方へと足を進めていきます。
確かにどの民家を覗いても、一切灯りがついていません。民たちは一体どこへ……?
嫌な予感が胸をざわつかせます。
「しっ!! 誰かいるぞ」
アルベルトの鋭い声を合図に、私たちは近くの家の影に身を隠します。少しだけ体を傾けて覗くと、人々が集まっているのが分かりました。
「ここに住んでる人たちのようですね……良かった。いなくなったのかと思っていました」
『しかしこんな時間に何の集まりでしょうか? 』
カイウスがサラサラと文字を綴る。
「何やら焦げ臭いな、それにちらりと炎が見える」
アルベルトが鼻をひくひくと動かします。
「お祭りか何かでしょうか? でも……それにしては盛り上がってなさそうです」
「もうちょっと近付いてみましょう。カイウスはここで待ってて下さい」
『分かりました。何かありましたらすぐに駆け付けます』
私はこくりと頷き、顔が見えぬようにフードを深く被り直しました。アルベルトもすっぽりと姿を隠しています。
そろりそろりと人混みに近づくと、確かに肉を焼いたような臭いが強くなってきました。
「何でしょうこの臭い……」
人混みの間から、ちらりと炎が見えます。そしてそこにあったのは――。
それを見た私は思わずその場で吐いてしまいました。
磔にされている数人の人間、そしてその足元には燃え盛る火炎。
それを眺めてニヤニヤと笑みを浮かべているのはあのミリアさん。
「何ですか……これ……」
私は目の前の光景が信じられず、呆然と立ち尽くすばかりでした。アルベルトも何も言えないのでしょう、身動きひとつしません。
すると近くにいた見知らぬ男の人が私にこっそりと耳打ちをしてくれました。
「君見ない顔だね。旅人か何かか? 悪いことは言わない、さっさとこの国から出た方が良い」
「何をしてるんですか? 人が……人が……焼かれています」
「勇者たちがこの国を支配してからというもの徐々に洗脳魔法が解ける者たちが現れたんだ。そんな人々を毎日こうやって処刑しているのさ……」
するとその隣にいた女性が声をあげる。
「そうなのよ、私たちだってとっくにもう洗脳は解けているの。だけれど、それがバレたら殺されるから……こうしてまだ魔法がかかっているフリをしているのよ」
「そんな……おとうさ……国王は一体どうしているのですか? 」
男の人は眉間に皺を寄せ、ゆるゆると首を振る。
「ミリアに近しい者ほど魔法が解けづらく遠い者ほど解けやすい、彼女と同じ場所で生活する王はまだ操り人形のままさ」
「そういえばお妃様の姿を最近みないわね……一体どうしていらっしゃるのかしら」
お妃……お母様のことです。お母様の身に何かあったのでしょうか? 心臓がバクバクと高鳴ります。
すると
「ちょっとそこ、うるさいわよ。あんたたちも殺されたいのかしら? 」
その声を合図に、集まっていた人が、さっと波が引くようにひれ伏す。そして立っているのは、私だけです。
「あら、あんた見ない顔ね? 外部からのお客さんは閉め出してるはずなんだけど」
まずい状況です。つかつかと近付いてくるミリア様。私を顔を下に向けたまま、ただ押し黙ります。
「どっかで見たことあるような気がするわ……ふーん」
もうミリア様が私の目の前に立っています。手を伸ばせば触れられる距離。冷たい汗が肌を伝います。
「あんた喋れないの? ちょっと顔見せなさいよ」
顔だけは見せられない。もしイブマリーだなんてバレたら……殺されるに決まっています。
「黙ってないで何か返事しなさいよ! 」
私のフードに手をかけ、もう終わりだと覚悟したとき、何者かに路地裏へ引っ張りこまれました。
その衝撃でポケットからアルベルトが飛び出してしまいました。
「アルベ……!! 」
名前を呼ぼうとしましたが、その誰かに口を塞がれ、願いは叶いませんでした。
「だ……大丈夫です」
久々の我が家なのに足がガクガク震えて止まりません。
時間は真夜中。私イブマリーは、カイウスの首を取り返しに行くため故郷、セレンシア王国のすぐ近くの茂みに身を隠していました。
アルベルトは初めは私たちの計画を聞いて大反対していましたが、自分も同行することを条件に、許可してくれました。
アルベルトの姿は目立ちすぎるので小さい子猫の姿に化け、私のローブのポケットにすっぱり収まっています。
首がないことがバレたら国中大騒ぎなのでカイウスもすっぽり厚いフードを被り、占い師のような風貌です。
どう見ても怪しい二人と一匹ですので、やることをさっさと済ませたいと思います。
「ここ城壁が一部欠けているんです。ここからなら門番にバレることなくこっそり侵入出来ますよ」
私はそびえ立つ城壁にひっそり空いた穴を指差します。
「なるほど、確かにここなら入れそうだ」
『こんな穴あったんですね、長年ここで生活していましたが気づかなかったです』
これは二人には内緒なのですが、実は私がこっそり散歩するために開けた穴なのです。まぁこの話は置いておきましょう。
「早く行きましょう、警備兵が来たら大変です」
「あぁ、そうだな」
私がカイウスを先導し、どうにか城壁の中に入ることに成功しました。
久々の故郷。見慣れているはずなのに、とある違和感が辺りに漂っています。
「……誰もいませんね」
確かに今は真夜中。人通りが少ないのは当たり前なのですが、そうではなく、人の気配が一切ないのです。まるで皆どこかへ行ってしまったみたいです。
「……ふむ、向こうからは微かだが魔力を感じるな」
アルベルトがポケットから頭を出し、辺りを見回す。
「そうですね、行ってみましょう」
細心の注意を払い、私たちは民家の立ち並ぶエリアから、商店街の方へと足を進めていきます。
確かにどの民家を覗いても、一切灯りがついていません。民たちは一体どこへ……?
嫌な予感が胸をざわつかせます。
「しっ!! 誰かいるぞ」
アルベルトの鋭い声を合図に、私たちは近くの家の影に身を隠します。少しだけ体を傾けて覗くと、人々が集まっているのが分かりました。
「ここに住んでる人たちのようですね……良かった。いなくなったのかと思っていました」
『しかしこんな時間に何の集まりでしょうか? 』
カイウスがサラサラと文字を綴る。
「何やら焦げ臭いな、それにちらりと炎が見える」
アルベルトが鼻をひくひくと動かします。
「お祭りか何かでしょうか? でも……それにしては盛り上がってなさそうです」
「もうちょっと近付いてみましょう。カイウスはここで待ってて下さい」
『分かりました。何かありましたらすぐに駆け付けます』
私はこくりと頷き、顔が見えぬようにフードを深く被り直しました。アルベルトもすっぽりと姿を隠しています。
そろりそろりと人混みに近づくと、確かに肉を焼いたような臭いが強くなってきました。
「何でしょうこの臭い……」
人混みの間から、ちらりと炎が見えます。そしてそこにあったのは――。
それを見た私は思わずその場で吐いてしまいました。
磔にされている数人の人間、そしてその足元には燃え盛る火炎。
それを眺めてニヤニヤと笑みを浮かべているのはあのミリアさん。
「何ですか……これ……」
私は目の前の光景が信じられず、呆然と立ち尽くすばかりでした。アルベルトも何も言えないのでしょう、身動きひとつしません。
すると近くにいた見知らぬ男の人が私にこっそりと耳打ちをしてくれました。
「君見ない顔だね。旅人か何かか? 悪いことは言わない、さっさとこの国から出た方が良い」
「何をしてるんですか? 人が……人が……焼かれています」
「勇者たちがこの国を支配してからというもの徐々に洗脳魔法が解ける者たちが現れたんだ。そんな人々を毎日こうやって処刑しているのさ……」
するとその隣にいた女性が声をあげる。
「そうなのよ、私たちだってとっくにもう洗脳は解けているの。だけれど、それがバレたら殺されるから……こうしてまだ魔法がかかっているフリをしているのよ」
「そんな……おとうさ……国王は一体どうしているのですか? 」
男の人は眉間に皺を寄せ、ゆるゆると首を振る。
「ミリアに近しい者ほど魔法が解けづらく遠い者ほど解けやすい、彼女と同じ場所で生活する王はまだ操り人形のままさ」
「そういえばお妃様の姿を最近みないわね……一体どうしていらっしゃるのかしら」
お妃……お母様のことです。お母様の身に何かあったのでしょうか? 心臓がバクバクと高鳴ります。
すると
「ちょっとそこ、うるさいわよ。あんたたちも殺されたいのかしら? 」
その声を合図に、集まっていた人が、さっと波が引くようにひれ伏す。そして立っているのは、私だけです。
「あら、あんた見ない顔ね? 外部からのお客さんは閉め出してるはずなんだけど」
まずい状況です。つかつかと近付いてくるミリア様。私を顔を下に向けたまま、ただ押し黙ります。
「どっかで見たことあるような気がするわ……ふーん」
もうミリア様が私の目の前に立っています。手を伸ばせば触れられる距離。冷たい汗が肌を伝います。
「あんた喋れないの? ちょっと顔見せなさいよ」
顔だけは見せられない。もしイブマリーだなんてバレたら……殺されるに決まっています。
「黙ってないで何か返事しなさいよ! 」
私のフードに手をかけ、もう終わりだと覚悟したとき、何者かに路地裏へ引っ張りこまれました。
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