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夏
第24話 ミシェルの笑み
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「待て!! 」
何とかミシェルに追い付いた俺は彼女の腕を掴む。
「へ!? アレスさん!? 」
不意を突かれたミシェルは驚いたように目を丸くした。
「ミシェル、何か言いたいことがあったんじゃないか? 俺じゃ役に立たないかもしれないけど……もし良かったら話して欲しい」
「えっ……ア、アレスさん。落ち着いて下さいませ」
困惑するミシェルの手を握り、まっすぐ彼女の目を見つめる。
悩んでいる人がいるのなら、それを救わずに何が神父だ。
「……雨も降っていますし、取り敢えず家にお入り下さいませ」
折れたミシェルは渋々俺を家に入れてくれたのだった。
◇◇◇
「どうぞ」
ホットミルクを出してくれたミシェル。
初めて彼女の住みかに来たが、きっちり整理されていて驚くほど物がない。
まあ騎士として来ているのでさほど私物も持ち込めないのかもしれないが。
「ありがとう」
遠慮なくホットミルクを頂くと、じんわりとした温かさが胸一杯に広がった。
「……美味しい」
思わずそう呟くと、ミシェルが嬉しそうに笑った。
「特製ですわ。お砂糖を少々多目にいれるのがポイントですの」
そうして俺たちはしばらく無言でホットミルクに集中していた。
何か話さなければと思うのだが、どうしても声が出ない。
一人、そんなことを悶々と考えていると、不意に彼女から口を開いた。
「……私、実はミストリウスという家の出身ですの」
「ミストリウス!? 」
聞いたことがある。有名な貴族の家で、王族の次に力があるとされている貴族の家系だ。
「でもその家の女性は……」
はい、とミシェルが頷く。
「皆、貴族の妻となる運命です。政略結婚の道具ですわ。でも私はちょっと特別で……」
声が震えていた。
「剣の扱いに秀でていましたの。それで特別に騎士になることを許されていましたわ」
「なるほど、凄いことじゃないか。女騎士なんてそうそういない」
でもそれももうおしまい、とミシェル。
「……私はミストリウスの名を捨てて騎士として生きるつもりでしたわ。でもそれは間違いだった……」
「間違い? 」
「今朝手紙が来ましたの」
ミシェルは泣いているようにも笑っているようにも見えるような表情をして、懐から手紙を取り出した。
内容は、わざわざみなくても分かる。
「……縁談が決まったのですぐに帰れとのことですわ」
「それって……」
俺は思わず椅子から立ち上がる。
「……私は結局、ミストリウスの呪縛から逃げられなかったのです」
でも、ありがとう。とミシェルは言う。
「アレスさんにお話しできて、少し気が楽になりましたわ。本当はイルゼルムの発展をこの目で見たかったけれど、残念ですわ」
「そんな、ミシェルは結婚なんてしたくないんだろ……!? 」
「したくないけれど、お父様やお母様を裏切ることはできない。でも絶対遊びに行きますわ。そのときこの町がどれぐらい発展しているのか楽しみにしています」
そう言って微笑むミシェルに、俺は何も言葉をかけることができなかった。
貴族の大変さは俺も痛いほど知っている。
特に婚姻ともなれば一族全体の問題だ。
俺に口を出す権利があるのだろうか?
ーー今の俺には何も言えなかった
何とかミシェルに追い付いた俺は彼女の腕を掴む。
「へ!? アレスさん!? 」
不意を突かれたミシェルは驚いたように目を丸くした。
「ミシェル、何か言いたいことがあったんじゃないか? 俺じゃ役に立たないかもしれないけど……もし良かったら話して欲しい」
「えっ……ア、アレスさん。落ち着いて下さいませ」
困惑するミシェルの手を握り、まっすぐ彼女の目を見つめる。
悩んでいる人がいるのなら、それを救わずに何が神父だ。
「……雨も降っていますし、取り敢えず家にお入り下さいませ」
折れたミシェルは渋々俺を家に入れてくれたのだった。
◇◇◇
「どうぞ」
ホットミルクを出してくれたミシェル。
初めて彼女の住みかに来たが、きっちり整理されていて驚くほど物がない。
まあ騎士として来ているのでさほど私物も持ち込めないのかもしれないが。
「ありがとう」
遠慮なくホットミルクを頂くと、じんわりとした温かさが胸一杯に広がった。
「……美味しい」
思わずそう呟くと、ミシェルが嬉しそうに笑った。
「特製ですわ。お砂糖を少々多目にいれるのがポイントですの」
そうして俺たちはしばらく無言でホットミルクに集中していた。
何か話さなければと思うのだが、どうしても声が出ない。
一人、そんなことを悶々と考えていると、不意に彼女から口を開いた。
「……私、実はミストリウスという家の出身ですの」
「ミストリウス!? 」
聞いたことがある。有名な貴族の家で、王族の次に力があるとされている貴族の家系だ。
「でもその家の女性は……」
はい、とミシェルが頷く。
「皆、貴族の妻となる運命です。政略結婚の道具ですわ。でも私はちょっと特別で……」
声が震えていた。
「剣の扱いに秀でていましたの。それで特別に騎士になることを許されていましたわ」
「なるほど、凄いことじゃないか。女騎士なんてそうそういない」
でもそれももうおしまい、とミシェル。
「……私はミストリウスの名を捨てて騎士として生きるつもりでしたわ。でもそれは間違いだった……」
「間違い? 」
「今朝手紙が来ましたの」
ミシェルは泣いているようにも笑っているようにも見えるような表情をして、懐から手紙を取り出した。
内容は、わざわざみなくても分かる。
「……縁談が決まったのですぐに帰れとのことですわ」
「それって……」
俺は思わず椅子から立ち上がる。
「……私は結局、ミストリウスの呪縛から逃げられなかったのです」
でも、ありがとう。とミシェルは言う。
「アレスさんにお話しできて、少し気が楽になりましたわ。本当はイルゼルムの発展をこの目で見たかったけれど、残念ですわ」
「そんな、ミシェルは結婚なんてしたくないんだろ……!? 」
「したくないけれど、お父様やお母様を裏切ることはできない。でも絶対遊びに行きますわ。そのときこの町がどれぐらい発展しているのか楽しみにしています」
そう言って微笑むミシェルに、俺は何も言葉をかけることができなかった。
貴族の大変さは俺も痛いほど知っている。
特に婚姻ともなれば一族全体の問題だ。
俺に口を出す権利があるのだろうか?
ーー今の俺には何も言えなかった
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