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第18話 いくらになるかな?

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 リュカの奥さんはセシリーという名前らしい。
 獣人の女性でありながらやり手で、数々の交渉を成功させてきた商売人のようだ。
 奥さん自身は多忙で俺たちと会うことは出来ないが、部下が手伝ってくれるとの返事が来た。

「よし……」

 荷台に作物を積んで、フレイアの能力で城下町まで移動する。
 うーん、文字にすると簡単そうだが少し不安だ。

「町のことは私に任せて下さいませ。アレスさんがいなくても守り通してみせますわ」

 ドンと自分の胸を叩くミシェル。流石は騎士だ。心強い。

「嫁によろしくな」

 リュカがにかっと白い歯を見えて笑う。

 ただ物を売りに城下町まで行くだけなのに町人総出で迎えてくれるなんて少し照れてしまう。

「準備は良いかの? 」

 フレイアが問いかける。俺は、ああと小さく頷いた。

「じゃあ行こうか、セレスティア城下町へ! 」

 そしてまるで魂が抜け落ちるような感覚がした後、俺の意識は闇に吸い込まれた。
 まるで睡魔のようで、俺は抗う術を持っていなかったのであった。

「……! 」

 誰かが呼んでいる。

「……ス! 」

 あ、段々と意識が戻ってきた。

「アレス! 」

「うわ!! 」

 俺は完全に意識を取り戻した。
 横では、フレイアがにやりと笑みを浮かべていた。

「着いたぞ。ふむ、荷台も無事じゃな」

「え、もう!? 」

 体感では瞬きをしたぐらいの短い時間だった。
 しかし確かに俺たちはセレスティア城下町の目の前に立っていたのだった。

 行き交う人たちが、急に現れた俺たちを不思議そうに見ている。

「まるで瞬間移動だな……」

「間違ってはいないじゃろ」

 フレイアがうんうんと頷く。
 そしてまあ、そんなことはどうでも良い。と続ける。

「さっさとお金に換えに行こうじゃないか」

「ああ、そうだな」

 あまり長くここにいるのはイルゼルムが心配だ。
 さっさと換金して帰ろう。

 そして俺たちはセシリーさんから来た手紙に記されている地図を頼りに、商会に向かったのだった。

◇◇◇

「こ、こ、こ、こ、こ、これを君が? 」

 指定された場所に着くなり歓迎してくれたのはユジンという名前の商人だった。人の良さそうな男性だがその瞳にはただならぬ情熱が見え隠れしている。

 そして俺の育てた作物を見るなり、彼は顎が外れそうなぐらい口を開けて驚いていた。

「はい。えっと、これもまだ一部で、残りはイルゼルムに置いてきてしまったんですけど……」

「このレベルの作物がまだまだあるというのかい!? 」

「ふむ、食べきれないぐらい残っとるの」

 信じられない……とユジンさんが呟く。

「大地の聖遺物なんてものは何十年に一度しかお目にかかることができない。私もまだ見たことがなかったよ……」

 俺からしたらただ大きい作物にしか見えないけれど、見る人が見れば随分価値のあるものらしい。

「それで、これいくらで売れますかね……」

「え!? ああそうだな……これだけ質の良いものだ……」

 そうするとユジンさんはパチパチとそろばんを弾き始めた。
 このぐらいでどうかな? と彼が提示した額は……。

「三千万ガルド!?!? 」

 嘘だろ!?
 驚き過ぎて今度は俺の顎が外れそうだ。
 三千ガルドぐらいになれば嬉しいな~とは思っていたけどまさかそんな金額になるとは……。

 それだけあれば俺たちの生活費を差し引いたとしてもいくらかは町の整備に利用できる。
 カールたちにも喜んで貰えるだろう。

「こんなに質の良くて大きな作物、ぜひうちで買いたい。はは、まだこの光景が信じられなくて膝が笑っているよ……」

 確かにユジンさんの膝は小刻みに笑っていた。

「三千か~、のう、五千にはならぬかの? 」

 傍で聞いていたフレイアが口を挟む。

「五千!? 」

 流石のユジンさんも声をあげた。

「おい、フレイア……」

 しかし俺の静止も聞かずにフレイアは更に言葉を続ける。

「もちろんタダで、とは言わぬ。ここだけの話じゃが、この男は自由自在に大地の聖遺物とやらを作ることが出来る」

「な、何と!? 君、本当なのか!? 」

「ええ、まあ……」

 ま。まあ嘘ではないな。
 力が暴走した結果の産物であるのだから。

「だから、今後作物が実ったらお前たちに売ることを約束しよう。どうじゃ? 契約をしないか? 」

 契約を持ちかけるフレイア。うん、俺に迫ったときと同じ表情をしている。

「私では判断がつきません……。せシリ―様に確認しますので少し時間を頂けませんか? 」

「仕方ないのう……。じゃあ今日は三千で我慢してやろう」

 にやりと笑うフレイア。
 さすがは長年生きているだけあって知恵が回るようだ。

「ありがとうございます、返事はなるべく早く致します」

 ぺこりとお辞儀をするユジンさん。

 こうして俺は三千万ガルドという大金を受け取ると、フレイアと二人、城下町を散策することにした。
 
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