19 / 27
春
第18話 いくらになるかな?
しおりを挟むリュカの奥さんはセシリーという名前らしい。
獣人の女性でありながらやり手で、数々の交渉を成功させてきた商売人のようだ。
奥さん自身は多忙で俺たちと会うことは出来ないが、部下が手伝ってくれるとの返事が来た。
「よし……」
荷台に作物を積んで、フレイアの能力で城下町まで移動する。
うーん、文字にすると簡単そうだが少し不安だ。
「町のことは私に任せて下さいませ。アレスさんがいなくても守り通してみせますわ」
ドンと自分の胸を叩くミシェル。流石は騎士だ。心強い。
「嫁によろしくな」
リュカがにかっと白い歯を見えて笑う。
ただ物を売りに城下町まで行くだけなのに町人総出で迎えてくれるなんて少し照れてしまう。
「準備は良いかの? 」
フレイアが問いかける。俺は、ああと小さく頷いた。
「じゃあ行こうか、セレスティア城下町へ! 」
そしてまるで魂が抜け落ちるような感覚がした後、俺の意識は闇に吸い込まれた。
まるで睡魔のようで、俺は抗う術を持っていなかったのであった。
「……! 」
誰かが呼んでいる。
「……ス! 」
あ、段々と意識が戻ってきた。
「アレス! 」
「うわ!! 」
俺は完全に意識を取り戻した。
横では、フレイアがにやりと笑みを浮かべていた。
「着いたぞ。ふむ、荷台も無事じゃな」
「え、もう!? 」
体感では瞬きをしたぐらいの短い時間だった。
しかし確かに俺たちはセレスティア城下町の目の前に立っていたのだった。
行き交う人たちが、急に現れた俺たちを不思議そうに見ている。
「まるで瞬間移動だな……」
「間違ってはいないじゃろ」
フレイアがうんうんと頷く。
そしてまあ、そんなことはどうでも良い。と続ける。
「さっさとお金に換えに行こうじゃないか」
「ああ、そうだな」
あまり長くここにいるのはイルゼルムが心配だ。
さっさと換金して帰ろう。
そして俺たちはセシリーさんから来た手紙に記されている地図を頼りに、商会に向かったのだった。
◇◇◇
「こ、こ、こ、こ、こ、これを君が? 」
指定された場所に着くなり歓迎してくれたのはユジンという名前の商人だった。人の良さそうな男性だがその瞳にはただならぬ情熱が見え隠れしている。
そして俺の育てた作物を見るなり、彼は顎が外れそうなぐらい口を開けて驚いていた。
「はい。えっと、これもまだ一部で、残りはイルゼルムに置いてきてしまったんですけど……」
「このレベルの作物がまだまだあるというのかい!? 」
「ふむ、食べきれないぐらい残っとるの」
信じられない……とユジンさんが呟く。
「大地の聖遺物なんてものは何十年に一度しかお目にかかることができない。私もまだ見たことがなかったよ……」
俺からしたらただ大きい作物にしか見えないけれど、見る人が見れば随分価値のあるものらしい。
「それで、これいくらで売れますかね……」
「え!? ああそうだな……これだけ質の良いものだ……」
そうするとユジンさんはパチパチとそろばんを弾き始めた。
このぐらいでどうかな? と彼が提示した額は……。
「三千万ガルド!?!? 」
嘘だろ!?
驚き過ぎて今度は俺の顎が外れそうだ。
三千ガルドぐらいになれば嬉しいな~とは思っていたけどまさかそんな金額になるとは……。
それだけあれば俺たちの生活費を差し引いたとしてもいくらかは町の整備に利用できる。
カールたちにも喜んで貰えるだろう。
「こんなに質の良くて大きな作物、ぜひうちで買いたい。はは、まだこの光景が信じられなくて膝が笑っているよ……」
確かにユジンさんの膝は小刻みに笑っていた。
「三千か~、のう、五千にはならぬかの? 」
傍で聞いていたフレイアが口を挟む。
「五千!? 」
流石のユジンさんも声をあげた。
「おい、フレイア……」
しかし俺の静止も聞かずにフレイアは更に言葉を続ける。
「もちろんタダで、とは言わぬ。ここだけの話じゃが、この男は自由自在に大地の聖遺物とやらを作ることが出来る」
「な、何と!? 君、本当なのか!? 」
「ええ、まあ……」
ま。まあ嘘ではないな。
力が暴走した結果の産物であるのだから。
「だから、今後作物が実ったらお前たちに売ることを約束しよう。どうじゃ? 契約をしないか? 」
契約を持ちかけるフレイア。うん、俺に迫ったときと同じ表情をしている。
「私では判断がつきません……。せシリ―様に確認しますので少し時間を頂けませんか? 」
「仕方ないのう……。じゃあ今日は三千で我慢してやろう」
にやりと笑うフレイア。
さすがは長年生きているだけあって知恵が回るようだ。
「ありがとうございます、返事はなるべく早く致します」
ぺこりとお辞儀をするユジンさん。
こうして俺は三千万ガルドという大金を受け取ると、フレイアと二人、城下町を散策することにした。
0
お気に入りに追加
607
あなたにおすすめの小説
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる