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春
第17話 作物を売りたい
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マルタがこの町に帰って来て、鍛冶屋(兼道具屋とでも言おうか)が復活した!
「しかしのう、武器や防具なんていらんのではないか? 」
その報告を聞いたフレイアが言う。まあ確かに俺には死神の鎌があるし、俺が買うわけではない。
「違うよフレイア、宿屋に鍛冶屋に教会、町として必要な設備が整えば沢山の人が来るだろう、そうすればこのイルゼルムに活気が戻るんだよ」
「ふーん、なるほどな」
それに、と俺はぴしっとフレイアを指差す。
「どうやら物を売ることも出来るらしい、だからあのお化けイチゴやキャベツが売れるかもしれないぞ! 」
「それは良い話じゃな! 1ガルドでも手に入れば万々歳じゃ」
「だろ! じゃ、早速運び込むぞ! 」
よしきた! とフレイアがガッツポーズをした。
そうして俺たちは協力してカチンコチンに冷凍保存してある作物を運び出したのである。
◇◇◇
「何これ……」
「こりゃ、すげえな……」
目を見開いて固まるマルタとリュカ。いきなり店の前に巨大作物(冷凍保存)を並べられたのだ、そう反応するのも無理はない。
「いや~、これを売りたくて……」
まずいな、この反応だと1ガルドの価値もないのかもしれない。しかしリュカさんの反応は俺の予想を上回っていた。
「大地の聖遺物……」
「大地の聖遺物? 」
聞きなれない単語に思わず聞き返す俺。
するとマルタが話始めた。
「ごく稀に……巨大な作物が実ることがある。これは狙って出来るものじゃなくて、ノウハウを知り尽くした農家でも一生の内に出会えるか出会えないかの代物」
「えーとつまり? 」
「……とんでもないレア物ってこと」
なるほど分かりやすい。
「大地の聖遺物はな、神様に捧げる食べ物として高額で取引されているんだ」
「へえ、それならこれも結構な値段になりますかね」
色々な種も買いたいしフレイアに服も買ってやりたい。お金はいくらあっても困るものではないだろう。
「分からん……だが俺もここまで良質で巨大なものは生まれて初めて見た……。まさか生きている内にこんなものが見れるとはな」
なぜか少し瞳を潤ませるリュカ。そんな様子を見ていたフレイアが大げさじゃの~と不思議がっている。
「アレス、もしかしたらこれがこの町を救うことになるかもしれないぞ」
「は、はぁ? 」
確かに大げさだなと俺も思う。だが俺の作物がこの町の役に立つのなら良いことだ。
「……これはママもびっくりするね」
マルタがしげしげとキャベツを眺める。その目はまるで鑑定士のようだ。
「俺の妻は名の知れた商人でな、今は城下町で暮らしているけど彼女に任せれば……」
「ここから城下町まで馬車を使っても3日かかるね……」
マルタがうーんと頭を抱え込んでいる。3日か……。鮮度的には問題なさそうだが、こんなに巨大なものを持ち運ぶのは少々骨が折れる。
「そんなのわしとアレスが運べば良かろう」
さらっと言うフレイア。
「え? フレイアちゃんとアレスが? 」
「わしは今は肉体を得てここにいるが、本来の姿は死の化身。どこにでもいるがどこにもいないそんなあやふやな存在じゃ」
「つまり……? 」
分かっていない俺とリュカ。マルタだけは何かに気づいたのかはっとしたようにフレイアを見ていた。
「わしが神体に戻れば距離なんて関係ない。あっという間じゃ! 」
「え、俺、必要なの? 」
必要に決まっとるじゃろ、とフレイア。
「わし一人だと……その、なんじゃ。また誰かに触っちゃいそうじゃ」
彼女なりに気を使ってるのだろう、もじもじと顔を赤らめる。
「分かったよ……」
そう言われれば仕方ない。俺はフレイアの希望を渋々受け入れるのだった。
「決まりじゃの、それでその商人とやらはどこにいるんじゃ? 」
「え、ああ。セレスティア城下町にあるセレスティア商会。ここのボスが俺の妻だ」
「ふむふむ、セレス……ティア? 城下町じゃな」
「ああ、まず俺から連絡を入れておく。だから返事が来てから向かってくれないか? その方が向こうも準備が出来るだろう」
それもそうじゃな、とフレイアが頷いた。
「じゃあ奥さんとやらから返事が来たら出発じゃ! 」
「……何かフレイア楽しんでない?」
「そんなことはないじゃろ! いつも通りじゃ」
しかしやっぱり彼女の口許は緩んでいて、どこか嬉しそうであった。
「しかしのう、武器や防具なんていらんのではないか? 」
その報告を聞いたフレイアが言う。まあ確かに俺には死神の鎌があるし、俺が買うわけではない。
「違うよフレイア、宿屋に鍛冶屋に教会、町として必要な設備が整えば沢山の人が来るだろう、そうすればこのイルゼルムに活気が戻るんだよ」
「ふーん、なるほどな」
それに、と俺はぴしっとフレイアを指差す。
「どうやら物を売ることも出来るらしい、だからあのお化けイチゴやキャベツが売れるかもしれないぞ! 」
「それは良い話じゃな! 1ガルドでも手に入れば万々歳じゃ」
「だろ! じゃ、早速運び込むぞ! 」
よしきた! とフレイアがガッツポーズをした。
そうして俺たちは協力してカチンコチンに冷凍保存してある作物を運び出したのである。
◇◇◇
「何これ……」
「こりゃ、すげえな……」
目を見開いて固まるマルタとリュカ。いきなり店の前に巨大作物(冷凍保存)を並べられたのだ、そう反応するのも無理はない。
「いや~、これを売りたくて……」
まずいな、この反応だと1ガルドの価値もないのかもしれない。しかしリュカさんの反応は俺の予想を上回っていた。
「大地の聖遺物……」
「大地の聖遺物? 」
聞きなれない単語に思わず聞き返す俺。
するとマルタが話始めた。
「ごく稀に……巨大な作物が実ることがある。これは狙って出来るものじゃなくて、ノウハウを知り尽くした農家でも一生の内に出会えるか出会えないかの代物」
「えーとつまり? 」
「……とんでもないレア物ってこと」
なるほど分かりやすい。
「大地の聖遺物はな、神様に捧げる食べ物として高額で取引されているんだ」
「へえ、それならこれも結構な値段になりますかね」
色々な種も買いたいしフレイアに服も買ってやりたい。お金はいくらあっても困るものではないだろう。
「分からん……だが俺もここまで良質で巨大なものは生まれて初めて見た……。まさか生きている内にこんなものが見れるとはな」
なぜか少し瞳を潤ませるリュカ。そんな様子を見ていたフレイアが大げさじゃの~と不思議がっている。
「アレス、もしかしたらこれがこの町を救うことになるかもしれないぞ」
「は、はぁ? 」
確かに大げさだなと俺も思う。だが俺の作物がこの町の役に立つのなら良いことだ。
「……これはママもびっくりするね」
マルタがしげしげとキャベツを眺める。その目はまるで鑑定士のようだ。
「俺の妻は名の知れた商人でな、今は城下町で暮らしているけど彼女に任せれば……」
「ここから城下町まで馬車を使っても3日かかるね……」
マルタがうーんと頭を抱え込んでいる。3日か……。鮮度的には問題なさそうだが、こんなに巨大なものを持ち運ぶのは少々骨が折れる。
「そんなのわしとアレスが運べば良かろう」
さらっと言うフレイア。
「え? フレイアちゃんとアレスが? 」
「わしは今は肉体を得てここにいるが、本来の姿は死の化身。どこにでもいるがどこにもいないそんなあやふやな存在じゃ」
「つまり……? 」
分かっていない俺とリュカ。マルタだけは何かに気づいたのかはっとしたようにフレイアを見ていた。
「わしが神体に戻れば距離なんて関係ない。あっという間じゃ! 」
「え、俺、必要なの? 」
必要に決まっとるじゃろ、とフレイア。
「わし一人だと……その、なんじゃ。また誰かに触っちゃいそうじゃ」
彼女なりに気を使ってるのだろう、もじもじと顔を赤らめる。
「分かったよ……」
そう言われれば仕方ない。俺はフレイアの希望を渋々受け入れるのだった。
「決まりじゃの、それでその商人とやらはどこにいるんじゃ? 」
「え、ああ。セレスティア城下町にあるセレスティア商会。ここのボスが俺の妻だ」
「ふむふむ、セレス……ティア? 城下町じゃな」
「ああ、まず俺から連絡を入れておく。だから返事が来てから向かってくれないか? その方が向こうも準備が出来るだろう」
それもそうじゃな、とフレイアが頷いた。
「じゃあ奥さんとやらから返事が来たら出発じゃ! 」
「……何かフレイア楽しんでない?」
「そんなことはないじゃろ! いつも通りじゃ」
しかしやっぱり彼女の口許は緩んでいて、どこか嬉しそうであった。
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