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春
第11話 作物はどうしよう?
しおりを挟むミシェルも来たことだし、町を守る仕事はしばらく任せてしまっても良いだろう。
あ、もうこんな事故は起こさないために町の出入り口に死神の霧を張るのはやめた。これで人の往来は出来るであろう。
俺の今一番の悩みはそう、でかすぎる作物をどうするかということだ。
一応キッチンには一通り揃っているが、こうイチゴばかり食べているわけにもいかないだろう。それにイチゴ単体でどう調理しろと言うのか。
ジュースにしてみる、砂糖をかけてみる、それぐらいしか思い付かないのだった……。
「売って金にしたいけどなぁ……」
しかしこんなもの買ってくれる人がいるだろうか?
二束三文で買い叩かれるのが関の山であろう……。
一応町の人たちにお裾分けはしているのだが、それでも俺が種を撒く度にぐんぐん育っていくものだから全然減らない。
「イチゴばっかり飽きたのう。クッキーとかケーキが食べたいんじゃが」
食い意地の張ったフレイアすらもう飽きているらしい。
「確かになぁ……他の作物も植えてみるか」
ありがたいことに教会の畑は俺一人じゃ管理しきれないぐらい広い。
これだけの広さなら色々なものが育てられそうだ。
でも何を育てようか? 小麦とか米とか主食になりそうなものがそろそろ欲しいところではあるが。
「ほら、これシャロンに貰った何かの種じゃ! 」
「何か……? 」
「言っとった気もするけど忘れてしもうた」
何だそれ……と呆れながらもフレイアから種の入った麻袋を受けとる。ふむ、特に名前は書いていないようだ。
「何の種かは分からんけどまあ大丈夫じゃろ! シャロンが変なものを渡してくるはずなかろう」
「まーね」
そして俺は一掴み種をつまむと、土にパラパラと撒く。
すると……。
まるで風船が膨らむように育っていくのは……キャベツだった。
「うわわわわわわわわ」
「なんじゃこれ!!! 」
まずい、もう大型犬ぐらいの大きさになってきた。
フレイアと二人で固まって呑気に眺めている場合ではない……!!
「フレイア! 」
「はいよ」
流石フレイア、察しが早い。
あんまり武器をこういう使い方はしたくないんだが、緊急事態だ仕方あるまい。
俺は受け取った鎌でキャベツを狩り尽くす。危ない危ない、このまま放置していたらキャベツに押し潰されるところだった。
しかしこの鎌は魂を奪うんだから枯れると思ったのだがそういうわけではなさそうだ。もしかして俺が育てたからだろうか?
「ふーむ……これは当分キャベツ炒めがご飯になるのかの」
イチゴに加えて大きすぎるキャベツ。この後処理は一体どうするのがベストなのだろうか……。
「どうすれば俺はまともに作物を育てられるのだろう……」
「贅沢な悩みじゃの、こんな巨大作物作れるのアレスしかおらんよ。もっと誇りを持たんか! 」
そりゃそうかもしれないけどさ……。丹精込めて育てて、収穫してさ、それで達成感を味わいたいじゃん……。
「でもさ……」
「人間というのはないものねだりじゃのう」
まあ出来てしまったものは仕方ない。今のところこれを売ることは出来ないのだから保存するしかないだろう。
「と、言ってもこんなに食べきれないなぁ」
「凍らしとけば良かろう」
あのねフレイアさん、俺は魔法が使えないんだって……。
そう言うと彼女はニヤリと意地悪っぽい笑顔を浮かべた。
「今はわしがおる。やってみい」
そうだった……。フレイアが俺の魔力を調節してくれるんだっけ。
「でも俺、氷の精霊と契約してないから氷魔法は使えないんじゃ……」
「アレスはそこら辺の神父とは違う。ごちゃごちゃ言ってないでやってみい」
渋々魔法を唱える俺。
「 氷結矢!」
そして落ちてきたのは矢なんて可愛いものではない。まるで氷山の一角を切り取ったような塊がキャベツの上に落ちてきた。
「……は? 」
思わず動けなくなる俺。え、これ、俺がやったの?
そして傍らでは腹を抱えてひーひー笑っているフレイア。
「ひゃはは……、まさか……こんなに大きくなるとは……わしもアレスの魔力を侮ってたわ」
いや、笑ってないでこの後処理どうすれば良いんだよ……。
俺たちに残ったのは巨大キャベツと馬鹿デカイ氷の塊。
これで一体何をどうしろと言うのか……俺の貧相な頭ではちょっと思い付きそうになかった。
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