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第8話 町にいるのは今何人?

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 次の日の朝、俺は畑に出ると、次々イチゴを収穫していく。

「面白いぐらい収穫出来るけど……流れ作業みたいだな」

 あまりにもポンポン収穫されるので冗談のようだ。ああ、フレイアのやつはまだ眠っている。

「アレス! 」

 声のした方を向くと、そこにはパタパタとこちらに駆け寄ってくるシャロンの姿があった。
 綺麗な黒髪をなびかせてこちらに駆け寄る彼女の姿はまるで絵画のようだ。

「シャロン、おはよう。早いな」

「うん、私久しぶりにシェルターの外で夜を明かせたわ。その御礼がしたくって」

「大げさだな」

 俺は思わず笑みを浮かべる。なぜなら本当に嬉しそうなシャロンが今にも飛び跳ねそうで、その様子が面白かったのだ。

「それでね、おじいちゃんからも御礼がしたいみたいで、家まで来て欲しいんだけど……フレイアは? 」

「ああ、あいつはまだ寝てるよ。おそらく昼まで起きない」

「そ、そうなの。じゃあまた昼頃伺うわね」

「あいつは置いていっても大丈夫だ。俺だけ伺おう。それにまた魂を抜いちゃ困るからな」

「分かったわ……ん? 魂? 」

 フレイアの性質を説明すると、シャロンは顔を真っ青にして震えあがっていた。

◇◇◇

「やあアレスくん。朝からすまないね」

 カールの家に来た俺はさっそく豪勢な食事でもてなされた。

「いえ、そんな」

 そして深々と頭を下げられる。

「本当に君たちには感謝している。私たちはようやくシェルターの外で生活出来るようになったんだ」

「とんでもないです。それに俺というよりフレイアに感謝してください」

「フレイア……」

 カールがビクッと体を震わせた。まだ魂を抜かれた恐怖があるのだろう。

「すいません、私から話してしまいました。フレイアこそがアレスが契約した死神であることと、この町を囲う霧のことも」

 シャロンが慌てて話に割って入る。

「いえ、丁度俺から話そうと思っていたところです」

「本当なんだな……まさか彼女が神の端くれとは。すまんがにわかには信じられん……」

「そう思うのは当たり前です。神なんてその存在すら疑われていたんですから」

 それも”死”の神なんてものが目の前に現れれば、その恐怖は計り知れない。

「ははは、長く生きてきたけど、神なんてものに会えるとは思ってなかったよ」
 
「悪いやつじゃないんです。それにこれからは気を付けさせますから」

 フレイアはああ見えて意外と繊細だ。
 傷つきやすくて寂しがり屋だ。町の人とも仲良くしたいと思っているのだろう。

「……随分仲が良いんだね。やはり夫婦か何かなのかな? 」

「は!? 夫婦!? ないないない、それはないですよ。フレイアは妹みたいなかんじです」

 フレイアが奥さんだなんて考えただけで背中に変な汗をかいてしまいそうだ。
 俺はもっとお淑やかで、清楚な女の子が好みだ。
 あんな大食らいできまぐれで、ガサツな女は俺のタイプの正反対だ。

 それを聞いたカールがシャロンにそっと耳打ちをする。

「だ、そうだ。チャンスだぞ」

「な、何を言ってるんですかおじいちゃん!! 」

 えっと……聞こえてますよ。
 でも内容の意味はさっぱり分からない。

 チャンスって一体何のチャンスなのだろうか? 

「アレスくん、良い男じゃないか。この町にはお前と同じ年ぐらいの男がいないからおじいちゃん心配してたんだぞ」

「そんな心配はいりません!!! 」

 何やらぎゃーぎゃー言い争いを始めた二人。

「ま、兄ちゃんがいれば俺の娘と嫁も呼び戻せるぜ」

 そう言って口を挟んで来たのは筋肉隆々の大男だった。
 日に焼けた肌や体についた無数の傷から、只者ではないことは確かだ。

「えっと」

「ああすまん、俺はリュイだ。武器屋を営んでいたんだが、最近は魔物が多くてな……。でもお前さんのお陰でまた再開出来そうだよ」

「よろしくお願いします」

 リュイから差し出された手を俺は握りしめる。
 白い歯を見せて爽やかな笑顔を浮かべる彼は気の良いお父さんといったふうだ。

「リュイは数少ない町人の一人だ。きっと助けになるだろう」

 シャロンとの言い争いを終えたカールが気を取り直して話に加わる。

「あ、そういえば今、この町には何人住んでるんですか? 」

 何人だっけ? とカールがシャロンに問いかける。
 すると一歩歩みでたシャロンがこう言った。

「私とおじいちゃん、リュイさん、後は温泉を経営してるキクリさんの四人ですかね」

「あれ、騎士の人もいなかったか? 」

「あの人は昨日逃げたじゃないですか。死神と暮らすなんてごめんだとのことです」

 そうか、そうか、年を取ると忘れがちで困るね~とカールが微笑を浮かべる。

「てことで今町にいるのは四人だ! あ、君たちをいれて六人だな」

 思っていたよりずっと少ない……。
 俺はそんな言葉がでかかったが、何とか飲み込んで腹の中に収めた。

「少ないと思うでしょう? 」

 そんな俺の心を読んだかのようにシャロンが笑う。

「……ばれた? 」

「そう思うのは当たり前です。でも皆さんとっても良い人なんですよ。確かに今はまだ人手は少ないですけど、力を合わせて頑張りましょう! 」

 俺はシャロンと目を合わせると、こっくり深くうなずいた。
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