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プロローグ
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この世の地獄、最果ての町、罪人の住処と好き放題呼ばれ続けた不幸な町、イルゼルムに神父が派遣されるという情報が流れたのはつい先日のことであった。
大昔のイルゼルムは海も近く、温泉も湧き出たことから観光地として栄え、たくさんの人が訪れる賑やかな場所であったという。
しかしいつの日か、魔王が近くに降り立ってからは人は皆この地を離れ、廃れていってしまった。
古くからの住人も危険を感じてこの故郷を捨て、今この町には両手でで数えらるぐらいの人数しか住んでいない。
しかも彼らは毎日魔物たちの襲撃に怯え、地下に作ったシェルターで身を隠しながら細々と生活をしていた。
そんなときに舞い込んだ神父派遣の一法、これはイルゼルム復興の第一歩になるのではないか? と期待する者も多かった。そして実際に来たのはーー。
「始めまして、王国から派遣されましたアレスと申します」
イルゼルムの町長であるカールは驚いた。そこにいたのはまだあどけなさを残している少年、そして傍らにはどういう関係なのかは分からないが、扇情的な恰好をした美女が付き添っていた。
「は、はぁ……」
まだ少年じゃないかとカールは驚いた。神父というからにはそれなりの年齢の男性が来たと思っていたのだ。
こんな少年にお祈りや解毒、解呪といった神父業務がこなせるのだろうか? と不信感を抱く。
「何じゃ、お前さん疑っとるじゃろ」
そんなカールの心を見透かしたかのように美女が声をあげる。透き通るような白い髪を腰の辺りまで伸ばし、金色の瞳はまるで満月のようでこの世の者とは思えないほどの美女だった。どこか古風な話し方をする彼女は何歳なのだろう。
「やめろ、フレイア」
少年が彼女を叱責する。
「ダーリンが言うなら仕方ないのう」
「ダーリン? 」
まさかこの二人夫婦なのか……?
いやそれにしても年齢差がありそうだし、でも姉弟にしては似ても似つかない。
「その呼び方やめろって! 」
フレイアと呼ばれた女は返事をすることなくつんとそっぽを向く。
その気ままさからしてまるで猫のような女だ。
「すいません、村長さん」
「いや、こちらこそ済まない。わざわざこんな辺境の町まで来て下さるなんて……」
神父がいる町というのはそこそこ大きな町だと認められた証拠である。これはイルゼルムにとっては大きい。
「貴方、本当に大丈夫なんですか……? 」
お茶を出していたカールの孫娘、シャロンがつい口を挟んでしまった。
「こらシャロン! 」
慌てて窘めるがシャロンは止めない。
「本当に貴方、神父様としての業務を果たせるんですよね? 女を連れて気ままな旅行気分では困ります」
「いや~、その……」
口ごもるアレス。
「俺、落ちこぼれだったのでそういうことは苦手なんです」
ーーーそしてアレスは自分がここに来た経緯を話し始めた。
契約の儀
これは神父、修道女を目指す者ならば誰でも通る道だ。
精霊と契約し、その精霊に応じてどこの街に行くのかが決まる。
例えば火の精霊と契約したら鍛冶屋が盛んな街の神父になり、水の精霊と契約したら、船の安全を祈る為に港町の神父になる。そんなかんじだ。
そして俺、アレス=レシピオはかの有名なレシピオ家の長男としてこの世に生を受けた。
レシピオ家とは名の知れた聖職者を輩出し続けている名家で、王族からの信頼も厚い古くから続く名門だ。そしてそんなところに生まれたものだから幼い頃から立派な神父になる為に教育を受けてきた。
しかし、その全ては無駄になったのだった。
生まれたときから才能がなかった俺は簡単な回復魔法一つ使えず、神の声を聞くことも出来ず、紛うことなき落ちこぼれであった。
一方、三つ下の弟クレスは俺と違って大変優秀で、飛び級で聖セレスティア学園を卒業すると今は立派に神父として働いている。
親から決められた俺の許嫁であるミリーナも、クレスを好いていることは一目瞭然であった。
そして迎えた契約の儀、他の人とはだいぶ遅れて行われたのだがここでも事件は起こった。
ーー俺と契約をしてくれる精霊がいなかった
何時間祈っても、どの精霊からも声がかかることはなかった。
これは学園史上前代未聞のことで、何百年遡っても前例はない。
まぁこの時点で会場は爆笑の渦だったのだが、俺の黒歴史はこれだけでは終わらないのだ。
何とこの状況を面白がったらしい死神が俺との契約を持ちかけた。
「ふむ、面白そうな奴じゃな。どうだ? わしと契約せんか? 」
あるときそんな声が頭の中で響いた。それが精霊のものではないことは薄々分かってはいた。
聖職者たるもの死神と契約なんて許されるものではない。ましてやレシピオ家の血を引く人間が。
しかし疲れ切っていた俺はつい、その申し出にイエスと返事をしてしまったのである。
さっさと帰って家で寝たい、そんな気持ちがあったのは確かだ。
まー、そこからは色々大変だったので簡単に。死神と契約したものだから縁を切られ、婚約者を弟に奪われ、この僻地に飛ばされた。二度と俺たちの前に姿を見せるな! という父の怒号と、母の嘆き、そしてゴミを見るような弟の目とと共に。
そうして俺は親からの最後の情けなのだろう、神父としてこのイルゼルムに派遣されたのである。
家族、家柄、許嫁、住処、学歴、全てをなくした俺だったが、新天地で(似非)神父生活というのも悪くはないだろう。
大昔のイルゼルムは海も近く、温泉も湧き出たことから観光地として栄え、たくさんの人が訪れる賑やかな場所であったという。
しかしいつの日か、魔王が近くに降り立ってからは人は皆この地を離れ、廃れていってしまった。
古くからの住人も危険を感じてこの故郷を捨て、今この町には両手でで数えらるぐらいの人数しか住んでいない。
しかも彼らは毎日魔物たちの襲撃に怯え、地下に作ったシェルターで身を隠しながら細々と生活をしていた。
そんなときに舞い込んだ神父派遣の一法、これはイルゼルム復興の第一歩になるのではないか? と期待する者も多かった。そして実際に来たのはーー。
「始めまして、王国から派遣されましたアレスと申します」
イルゼルムの町長であるカールは驚いた。そこにいたのはまだあどけなさを残している少年、そして傍らにはどういう関係なのかは分からないが、扇情的な恰好をした美女が付き添っていた。
「は、はぁ……」
まだ少年じゃないかとカールは驚いた。神父というからにはそれなりの年齢の男性が来たと思っていたのだ。
こんな少年にお祈りや解毒、解呪といった神父業務がこなせるのだろうか? と不信感を抱く。
「何じゃ、お前さん疑っとるじゃろ」
そんなカールの心を見透かしたかのように美女が声をあげる。透き通るような白い髪を腰の辺りまで伸ばし、金色の瞳はまるで満月のようでこの世の者とは思えないほどの美女だった。どこか古風な話し方をする彼女は何歳なのだろう。
「やめろ、フレイア」
少年が彼女を叱責する。
「ダーリンが言うなら仕方ないのう」
「ダーリン? 」
まさかこの二人夫婦なのか……?
いやそれにしても年齢差がありそうだし、でも姉弟にしては似ても似つかない。
「その呼び方やめろって! 」
フレイアと呼ばれた女は返事をすることなくつんとそっぽを向く。
その気ままさからしてまるで猫のような女だ。
「すいません、村長さん」
「いや、こちらこそ済まない。わざわざこんな辺境の町まで来て下さるなんて……」
神父がいる町というのはそこそこ大きな町だと認められた証拠である。これはイルゼルムにとっては大きい。
「貴方、本当に大丈夫なんですか……? 」
お茶を出していたカールの孫娘、シャロンがつい口を挟んでしまった。
「こらシャロン! 」
慌てて窘めるがシャロンは止めない。
「本当に貴方、神父様としての業務を果たせるんですよね? 女を連れて気ままな旅行気分では困ります」
「いや~、その……」
口ごもるアレス。
「俺、落ちこぼれだったのでそういうことは苦手なんです」
ーーーそしてアレスは自分がここに来た経緯を話し始めた。
契約の儀
これは神父、修道女を目指す者ならば誰でも通る道だ。
精霊と契約し、その精霊に応じてどこの街に行くのかが決まる。
例えば火の精霊と契約したら鍛冶屋が盛んな街の神父になり、水の精霊と契約したら、船の安全を祈る為に港町の神父になる。そんなかんじだ。
そして俺、アレス=レシピオはかの有名なレシピオ家の長男としてこの世に生を受けた。
レシピオ家とは名の知れた聖職者を輩出し続けている名家で、王族からの信頼も厚い古くから続く名門だ。そしてそんなところに生まれたものだから幼い頃から立派な神父になる為に教育を受けてきた。
しかし、その全ては無駄になったのだった。
生まれたときから才能がなかった俺は簡単な回復魔法一つ使えず、神の声を聞くことも出来ず、紛うことなき落ちこぼれであった。
一方、三つ下の弟クレスは俺と違って大変優秀で、飛び級で聖セレスティア学園を卒業すると今は立派に神父として働いている。
親から決められた俺の許嫁であるミリーナも、クレスを好いていることは一目瞭然であった。
そして迎えた契約の儀、他の人とはだいぶ遅れて行われたのだがここでも事件は起こった。
ーー俺と契約をしてくれる精霊がいなかった
何時間祈っても、どの精霊からも声がかかることはなかった。
これは学園史上前代未聞のことで、何百年遡っても前例はない。
まぁこの時点で会場は爆笑の渦だったのだが、俺の黒歴史はこれだけでは終わらないのだ。
何とこの状況を面白がったらしい死神が俺との契約を持ちかけた。
「ふむ、面白そうな奴じゃな。どうだ? わしと契約せんか? 」
あるときそんな声が頭の中で響いた。それが精霊のものではないことは薄々分かってはいた。
聖職者たるもの死神と契約なんて許されるものではない。ましてやレシピオ家の血を引く人間が。
しかし疲れ切っていた俺はつい、その申し出にイエスと返事をしてしまったのである。
さっさと帰って家で寝たい、そんな気持ちがあったのは確かだ。
まー、そこからは色々大変だったので簡単に。死神と契約したものだから縁を切られ、婚約者を弟に奪われ、この僻地に飛ばされた。二度と俺たちの前に姿を見せるな! という父の怒号と、母の嘆き、そしてゴミを見るような弟の目とと共に。
そうして俺は親からの最後の情けなのだろう、神父としてこのイルゼルムに派遣されたのである。
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