外れ職業の旅芸人(LV.15)だったけれど、呪いの装備を使いこなせるチートに目覚めました

寿司

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闘技大会の街 コロセウム

第22話 エリザベスの悩み

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 そういえばどうしてエリザベスはそんなに優勝にこだわっているのだろう?
 彼女の実力なら僕に勝つことぐらい造作もないことだろうに……。
 何てことを朝、顔を洗いながら考える僕。

「おはよ」

 リオンが朝食に用意されたパンをかじりながらもそもそと挨拶する。

 ……いつものリオンだ。
 ついじっと見つめてしまうと彼女は照れたように頬を赤らめた。

「何? 」

「い、いや何でもない」

 昨夜の出来事は夢だったのだろうか? まるで別人のような重圧感を纏っていた。

「ふーん? ま、 今日は決戦だね。頑張ってねノア」

「善処するよ。そうだ、そういえば準優勝の景品って何なの? 」

「むー、もう優勝狙う気ないでしょ。……えっとねえ」

 ガサゴソと鞄からチラシを取り出すリオン。

「回復ポーションとプロテイン1年分だって! 」

「イマイチだな……」

「優勝は装備品が貰えるみたい。死神貴族しにがみきぞくの大盾だって」

「何だそれ……物騒な防具だな」

「あのお姉さんはこんなものが欲しいのかな? 変なの」

 死神貴族の大盾か……。あの女騎士が魅力を感じるような装備品だとは思えないが。まあ僕には関係のないことだ。

「回復ポーション1年分あれば怪我しても大丈夫そうだな」

 もう! とリオンが頬を膨らませた。

◇◇◇

 準備を終えた僕は召集場所へと向かった。リオンは頑張ってねと一言残すと、客席へと消えていった。
 案の定そこにはエリザベスと司会の人しかおらず、昨日とはうって代わりがらんとしている。

「おはようございますリヒト選手。昨夜は眠れましたか? 」

「ええ」

 昨夜というワードにピクリとエリザベスが反応した。しかし彼女は敵意を向けてくる様子もなく、ただ物憂げに俯いている。

「ではルールは昨日と同じです。お互い全力でぶつかり合って下さいね」

「はい」
「はい……」

 震える声でエリザベスが答える。
何だか様子がおかしいのが少々気になる。

「では正午になったら試合開始です。それまではこの控え室でリラックスしていただいて結構ですので。それではまた後で」

 とだけ言い残し司会はどこかへと去っていった。

 正午まではまだ時間がある。大した時間ではないがこの時間をエリザベスと二人きりで過ごすというのは中々気まずいものがあった。

 リオンでも見に来てくれないかなと密かに期待する。

「……ねえ」

「はひ!? 」

 唐突に話しかけられ僕は間抜けな返事をする。思った以上に高音が出てしまい自分で自分に驚いている。

「そんなにビビらなくても良いじゃない……」

「いや、あはは」

 ふっと少しだけエリザベスが表情を緩ませた。

「昨夜は申し訳なかったわ。貴方にも失礼なことを言ったし、妹さんも寝てるのにお邪魔してしまって」

「いえいえ」

 リオンは妹ではないんだけど、とは言えなかった。

「でももう一度言わせて、私に優勝を譲ってくれないかしら? 」

 僕に向き直り深々と頭を下げるエリザベス。

「うーん、エリザベスさんなら僕に勝つなんて赤子の手を捻るようなものだと思いますよ。だからそんなお願いなんてしなくたって……」

 するとエリザベスは自嘲気味に笑う。

「私は強くなんてない。女という珍しさだけで団を率いているお飾りの騎士様さ。簡単に言えばマスコットキャラクターみたいなものだ」

「えっ……」

「レッドドラゴンだって私なんかじゃ到底勝てるわけなかった。だから……貴方には助けられて感謝してる」

 昨夜とは打って変わった気弱さに僕は思わず面食らってしまった。

「あの女の子にも一言謝らなければならないな、獣人だなんて種族で差別するなんて一番やってはいけないことだ……」

 だからこそ、と彼女は僕に掴みかかった。

「私にはあの大盾が必要なんだ。カーチィス家を取り戻すために! 」

「カーチィス家……? えっとどういうことかさっぱり分からないんですけど……」

 すまない頭に血が昇ってしまって、とはっとしたようにエリザベスが咳払いを一つ。

「カーチィス家とは私の一族のことだ。そしてあの大盾はわが家が代々守っていくはずだった至宝。しかしいつかのときにあれを手放してしまったのだ」

「なるほど」

 つまり一族の誇りを取り戻すために奮闘していると。
 良い生まれの人にもそれなりの悩みがあるのだろう。

「私は取り戻したいのだ……かつての栄光を。そして私自身のために」

「君自身のために?」

 こくりとエリザベスが頷いた。そしてそれと同時に試合が始まろうと鐘が鳴り響いた。

「それでは準備お願いしまーす」

 と、係りの人がバタバタと飛び込んできた。

 エリザベスはいつも通りのキリッとした顔つきになると、さっさと前を行ってしまった。僕はそれを追うようにしていよいよ会場へと向かったのである。
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