外れ職業の旅芸人(LV.15)だったけれど、呪いの装備を使いこなせるチートに目覚めました

寿司

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酪農の村ヨード

第12話 弱い!弱すぎる!

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奥地に辿り着いた僕はあまりの惨状に目を疑った。点々と存在する血だまりに、倒れている歴戦の騎士たち。うう……という呻き声があちこちから聞こえてきた。

「酷い……」

 僕は思わず呟く。すると、その声を聞き付けてか何やら赤黒い塊がこちらを振り返った。

 ギラギラと充血した瞳に、血塗られた牙。僕なんて一飲みにされそうなくらい大きな体をした赤い竜ーーレッドドラゴンだ。

 しかしそこそこ腕の立つ冒険者ならば勝てない相手ではないはず。ならばどうして?

 グルルルルと唸る竜がゆっくりとこちらに寄ってくる。重圧感が半端ではないが誰かを呼びに行ってる時間などない。
  
 僕は腰から下げている剣を構えた。リオンの話が本当ならば、僕にだって勝機はあるはずだ。

 相変わらずオンボロな剣はなまくらにしか見えないがあのゴーレムをも斬った切れ味を信じるしかない。

 しかし、僕が攻撃をしかける前にレッドドラゴンは火炎を吐き出した。まずい、竜の吐く炎は鉄をも溶かすとされ、まともに浴びたら一溜まりもない。

「あれ? 熱くない」

 ……はずなのだが、まったく持って暑さを感じなかった。まるで鎧が炎を吸収しているかのようだ
 いや違う、これは守備力があまりに高くなっているのでこの程度の攻撃では熱さを感じなくなっているというのが正しいのかもしれない。
 まさか、これが怨嗟えんさの鎧の真の力!?

「グルル……? 」

 竜すら目の前の炎が効かない旅芸人を不思議に思っているらしく少しだけ後ろに下がる。しかしそこそこの知能を持つ生物らしく、一気に飛びかかってきた。

「やばい!! 」

 炎は効かないかもしれないが物理攻撃はどうなのか分からない。僕は慌てて剣でガードをする。

 バキッ。

 鈍い音を立てて竜の爪が真っ二つに割れた。攻撃をしかけた側がダメージを受けるなんてことあって良いのだろうか。

 怯んだ竜の一瞬の隙をついて僕は懐に潜り込むと、剣を横に振り切った。

 まるで豆腐のように易々と切り裂かれる鱗。グギギと泣くような声をあげて、竜はそのまま絶命した。

「まじか……」

 僕は未だに信じられず、腰を抜かしてしまった。あのドラゴンですら赤子の手を捻るように勝ててしまう。……パーティにいた頃では信じられない偉業だ。

「あ、怪我してる人の回復をしなきゃ!! 」

 僕はこうしている場合ではないと辺りの状況を思い出した。ざっと見た感じたが薬草でどうこう出来るような怪我ではなさそうだ……。今生きているのが奇跡といっても良いぐらいだ。

「あれってもう一度使えるのかな……? 」

 僕はカバンから賢者の遺書を取り出すと、あのページを開く。

 すると再び淡い光が本の中からあふれでたかと思うと、僕の唱えた回復魔法は怪我をしている人たちを優しく包み込んだ。

 便利なことに、何度も使えるらしい。
 うん、これは結構使えそうだ。

 しかし凄いな……僕の回復魔法なんて精々切り傷を治すぐらいだったのに、瀕死の、それもたくさんの人たちを一遍に癒すことが出来るなんて……。

「う……」

 みるみる内に怪我が治っていく騎士たち。そのうちにすやすやという規則正しい呼吸に戻っていった。

 全員の安否を確認した僕はふーっとやりきったように地べたに座り込んだ。

 人助けって気持ちいいな、なんて呑気なことを思っていたのである。

「……やっぱり」

 気が付くとリオンが険しい表情で立っていた。いつの間にこっちに来てたのだろうか? 

「お、リオン。あの女の人は……? 」

「分かんない。どこかに逃げちゃった」

 逃げた……。まさか僕がドラゴンを倒せると思っていなかったのだろうが、それにしても女の子を置いていくなんてどうかと思う。

「ね、ノアは夜って好き? 」

「え? 」

 あまりに突然の質問に僕は思わず変な声を出してしまった。

 この世界は元々"夜"という概念がなく、一日中太陽が昇り、生命か活動する眠らぬ世界だったという。しかし邪神ニュクスがこの地に降り立ったことにより世界に夜が訪れ、人々を恐怖に陥れた。
 そこを神ファリアスがこの邪神ニュクスを打ち倒すことにより再び世界に光を取り戻した、というのは有名な話だ。

 しかし、最近はまた夜が長くなってきている。
 このことを危惧した王は冒険者を募り、邪神の探索と討伐を目標にしているのだ。

 まあそれもただの旅芸人である僕には関係のないこと。

「うーん……、僕は暗くないと眠れないからどっちかと言えば好きかな」

 リオンはふんわりと笑みを浮かべただけで、特に返事はしなかった。
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