外れ職業の旅芸人(LV.15)だったけれど、呪いの装備を使いこなせるチートに目覚めました

寿司

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幼馴染たちとパーティーを組んだものの…

第6話 捨てられない

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 何とかダンジョンから生還することが出来た僕だったが、新たな問題に直面していた。
 こんなこと信じて貰えないのは重々承知だが聞いて欲しい。なんと、あのゴーレムの傍に置いといた筈の剣が、何度捨てても戻ってきてしまうのだ。

 ひとまず疲れたし、野宿でもと思ったのだが、いつの間にか腰当てにあの剣が差さっていたのだ。僕は絶対にこの剣は置いてきたはずなのに、これはおかしい。最初は疲れで幻覚を見ているのだと思い何度か確認したが、確かにあの神の武器と称される剣だった。

 それから何度川に流しても、火にくべてみても、地面に埋めてみても、何をしたってこの剣は僕の元に戻ってきてしまう。

「絶対これ、呪いだよな……」

 そう言えばこれも呪いの武器だったな、ということを今思い出した。
 ただついてくるだけなら、特に悪影響もなさそうだし放置して良いんじゃないか? むしろ性能的には最強だし、デメリットなしで使えるなら僕にとっても都合が良い。

 一応分析アナライズの魔法を使用してみたが、武器の名前すら分からなかった。
 仕方がないので便宜上、呪いの剣と呼ぶことにしよう。

 こうして僕は『呪いの剣』を手に入れたのである!

 そして、すっかり辺りが暗くなっていることに気が付いた。
 それにしても最近夜の時間が伸びた気がする。一日の三分の一は闇に包まれているのではないのだろうか? これも邪龍の影響なのだろうか。

「もう夜か……、今日はこの辺りで野宿で良いかな」

 本当は宿に泊まりたいところだが、アスベルたちと鉢合わせするのはまずい。死んだと思っていたやつが生きていたとしたら今度こそ息の根を止めに来るだろう。なるべく距離を取りたいのでここは草むらに身を隠すのが一番だろう。

 リーンリーンという虫の声だけが響き、辺りには明かり一つない。僕の吐く息の音がやたらと大音量で聞こえる。
 そして森の中で丁度良い場所はないかとうろうろ探索していると、何か麻袋のようなものが落ちているのを見つけた。
 しめた、もしかしたら商人の馬車が食料でも落としたのかもしれない。僕は思わず口元を緩めるとその麻袋に駆け寄った。そしてそれを持ち上げると、ほのかな温かみを感じた。

「!? これ、女の子だ」

 麻袋に見えたそれは一人の少女だった。フードがぱさりと落ち、その娘の顔が顕わになる。目は閉じているものの、日焼けを知らない真珠のような白い肌に、人形のように整った目鼻立ち。そして滑らかな白い髪がさらりとなびいた。
 更に、僕は彼女の頭から伸びている一対の鹿のような角に思わず目を奪われた。金色に光るそれは神秘的な雰囲気を醸し出している。
 おそらく獣人族の少女だ。年は僕より四、五歳は下だろう。

「おい! しっかりして! 」

 声をかけてみるが少女は返事をしない。ただ細く呼吸を繰り返しているだけだ。

「怪我はなさそうだけど、顔色がやけに悪いな……。これは……」

 すると彼女の足に何かが刺さったような傷跡があり、その部分だけ紫色に変色していることに気が付いた。おそらく毒矢か何かを受けたのだろう。全身に毒が回ってしまい、意識が朦朧としているようだ。
 おそらく森に張り巡らされていた害獣対策の罠にでも引っ掛かってしまったのだろう。

「しっかりしろ! 」
 
 慌てて解毒魔法を少女にかける。緑色の光が優しく少女を包み込む。しかし、一向に少女の顔色は良くならない。

「なぜ……!? まさか、普通の毒じゃないのか!? 」

 僕が扱える解毒魔法は限界があり、いわゆる"猛毒"という悪意を持って人工的に作られたものを打ち消すことは出来ない。この娘を救うには僧侶のみが扱える上級の解毒魔法が必要だ。

 こんなとき、ユキナだったら……。と一瞬だけ元幼馴染の顔がよぎった。が、もう彼女はいない。僕が何とかしなければいけないのだ。

 僕は持ち物をひっくり返し、何か使えるものがないかと手当たり次第に探し回る。薬草にパンの欠片、ロクなものがない。旅芸人には少女一人救うことが出来ないのだろうか。

 情けなさで思わず涙がこぼれた。すると、バサリと音を立てて、何かがカバンから落ちた。

「『愚者の遺書』……」

 これは呪いのアイテムでありながらイマイチ使い方が分からなかった代物。遺書という名前ながら、数百ページにも渡る分厚い本だ。これを持っているだけで暗い気持ちになるという曰くつき。

 僕は微かな希望を胸に、この本を読んでみることにした。名前からして不吉な予感しかしないが、もう僕にはこれしかない。震える指先を抑えながら、僕は一ページずつこの本に目を通していった。

「えっと、目次……は飛ばしてと」

 目まぐるしく本を読み進めていくが特に役に立ちそうな記述はなく、びっしりとこの世界への恨み言が書き連ねてあった。思わず目を背けたくなるような罵詈雑言だが、必死に読み進めていく。

 そうこうしている内にも少女の顔色は悪くなっていき、呼吸も段々と弱くなってきた。

 何か! 何か、有益な情報は……。

 残りのページも少ない、しかし途切れることなくこの世界への恨みの記述。もう僕は気がおかしくなりそうだったが、何とか気力で読み進めている状態だった。
 
『この世界が 闇を取り戻すことを願う』

 その一文を最後に、記述は途絶えた。後のページは何も書かれていない白紙だ。
 そんな、ここまで読んだのに、何の役にも立たなかった。

 僕は結局、役立たずのままなのだろうか。僕は溢れる涙を抑えることが出来ず、せめて少女が寒くないようにと強く抱きしめる。

「こんなもの! 何にも役に立たないんだ! 」

 僕は本を乱暴に叩き付け、ただ泣くことしか出来なかった。
 
「ごめんよ、僕にもっと上級の魔法が使えたら……」

「……それ」

 すると少女がうっすらだが目を開いた。金色の瞳はまるで満月のようだった。

「君意識が! でも駄目だ、寝ていないと」

 少女は返事をしなかったが、僕が落とした本を指さした。

「これがどうかしたの? 」

「読ん、で」

 とだけ言い残すとがっくりと少女は力なく頭を垂れた。

「おい! 」
   
 揺さぶってみてももう少女は返事をしなかった。仕方なく、言われるがままに本を再び手に取った。すると、白紙だったページがほのかに輝いている。何が起きているのかとそのページを開くと、さらさらと文字が浮かび上がってきた。

『ここまで読んでくれてありがとう、君の人生が奇跡に満ちたものにならんことを。願わくばこれを我が娘に渡して欲しい。 ジョージ=ロアクリフ』

「こんな記述、さっきはなかったはず……うわ! 」

 するとその本から光が飛び出したかと思うと僕の両手にまとわりつく。

 --この膨大な魔力、並みではない。

 そこで僕はその状態のまま、再び解毒魔法をかけてみた。

 すると、驚いたことに放たれたのは僧侶であるユキナを凌ぐほどの魔力。
 青白い光が少女を包み込み、段々と少女の頬が赤みを帯びてきた。呼吸も安定したのか、すーすーと規則正しく息をしている。
 体からすっかり毒が消えてしまったようだ。

 僕は少女の体を抱きしめながら訳が分からず本び再び視線を移した。

「どういうこと……? それにジョージってあのジョージ? 」

 ジョージ=ロアクリフ。魔法を学んだ者ならば必ずと言って良いほど知っている有名人だ。おとぎ話の人物で、類まれなる魔法の才能を持った伝説の大賢者。しかしその最期は狂人となり、たくさんの人間を殺めた罪で神の裁きを受けて死んだという言い伝えがある。

 そんな人間の手記がなぜここに呪いのアイテムとして遺されているのだろうか?

 それにこの効果。僕の魔力を増幅したように見えたけれど……?

 色々分からないことでいっぱいだったが、とりあえず少女を助けることが出来たみたいなので良しとしよう。
 僕は少女をそっと寝かせると、その傍で静かに目を閉じた。
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