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第27話 決意
しおりを挟む「アルくん、ちょっと良い? 」
扉を軽くノックする。
……返事はない。
しかしキイと扉が開き、気まずそうに顔をしかめたアルが顔を覗かせた。
「……はい」
「ああ、無理して立たないで。ほら寝てなさい」
私はアルをベッドに寝かせて、近くにあった椅子を引き寄せるとそこに座った。
「……アルくん。落ち着いて聞いてね」
「はい」
僅かに怯えたような目をしたが、アルは冷静そうであった。
「ごめんなさい、勝手にアルくんのことを調べさせて貰ったわ。貴方の本当の名前はアル=アレキサンドリア。王家の者よ」
「アル……アレキサンドリア」
確かめるようにその名を復唱する、
「そして貴方は幼い頃から心臓の病にかかっているらしいの」
「はい、それは知ってます。きっと僕はそんなに長く生きられない」
自嘲気味な笑みを浮かべるアル。その表情はまるで人生のすべてを諦めてしまった人間のものだ。
「それでね、私はアルくんが望むなら血を吸うわ」
「え!? 」
「でも私が吸血したからと言って必ず吸血鬼になるかは分からない。それに吸血のショックで死んでしまうかもしれない。それでもアルくんは良いの?」
「勿論構いません。例え吸血鬼になれなくても、カミルさんに……」
「え? 」
「いや、何でもないです。僕はそれでも吸血して欲しいです。例えそれで死んだとしても」
「分かったわ……」
アルの真っ直ぐな目を見て私も覚悟をした。彼の願いを叶えてやらなければなるまい、それが私が彼と出会った理由かもしれないのだから。
「痛かったら言ってね」
私はアルの首筋を顕にすると、ゆっくり噛みついた。
「……っあ」
「痛い?ご、ごめんね」
「大丈夫ですカミルさん。これぐらい我慢できます」
明らかにアルは辛そうだった。
しかしここで辞めては彼の思いを無下にすることになるのでは。
私は再び牙を突き立て、血を吸い始めた。
吸う量をきちんと調整しなくてはならない。あまり吸いすぎると彼の命に関わるからだ。
「んあっ……カミルさ、」
アルが強く私の体を抱き締めた。
吸血しているときは言葉が喋れないので私は彼の方にちらりと視線を向ける。
「だ、大丈夫です。いたくは、ないです。でも何か……変なんです 」
んんっ……と何度も吐息を漏らしながらアルは何かに耐えているようだった。
「体が熱くて……どうにかなっちゃいそうなんです」
まずい、もしかして病の発作が?
そう思い牙を抜こうとしたがアルに押さえつけられた。
「僕は、平気、です。気にしないで下さい」
顔を真っ赤にして視線を逸らすアル。
そして私はそのまま、アルの温かな血を吸い続けた。
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