吸血姫と赤薔薇の騎士

寿司

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第22話 対話

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「こんばんは、良い夜ですね」

 外に出た私は声をかける。
ーー返事はない。びゅうびゅうという風の音だけが聞こえてくる。

「いるのは分かってるんですよ。お一人ですか? 」

 夜は昼よりもよく物が見える。
 吸血鬼にとっては当たり前のことだ。

 物陰に潜んでいるのはおそらく同い年ぐらいの青年。
 黒いローブをすっぽり被っているので顔は見えない。

「目的は何ですか? 私ですか? 」

 返事はない。
 ただ青年が飛び掛かってきた。

 あらら、会話をする気はないのか。

 私は青年の首もとを掴むと、地面に押し付ける。

「……っぐ!! 」

 うん、意外と若いのね。

「何も喧嘩したいわけじゃないのよ。ねね、お話しましょうよ」

「……化け物が」

「ふふ、顔ぐらい見せてくださいよ」

 私はもう片方の手でローブを剥ぎ取った。顕になる青年の顔。
 茶色の髪に赤い瞳。中々顔立ちの整った美青年だ。

 そしてその纏う鎧、上品な装飾が施されたそれは、騎士団のものだろう。

「ん? これは……」

 そしてその鎧に刻印されたエンブレム。私はこれをどこかで見たことがあるような……。

「離せ……!! 化け物……!! 」

 青年が吠える。
 が、私の手を振りほどくことは叶わない。

「落ち着いてよ。あなたは一体なぜここに来たの? 夜中を狙ったのはなぜ? 」

「化け物に答える義理はない……!! 」

 ギリッと私を睨み付ける青年。おーおー、中々プライドが高いようだ。流石騎士様といったところか。

 ーーただこの赤い瞳は都合が良いな

 吸血鬼になったとしてもおそらく気付かれ辛いだろう。

 おっと、うっかり化け物寄りの思考になってしまった。

「カイル様!! 見つけました! ……って大丈夫ですか!? 」

「ば、馬鹿! 」

 なるほど、この青年はカイルというのか。そして声をあげたのは彼の部下ってところね。

「アル様は無事確保しました。ですが……」

 もう一人の黒いローブの男。その腕には怯えきったアルの姿があった。

「離して……!! 」

「アル様、我らは助けに来たのですよ! ああでもカイル様が……」

「俺のことは良い! アル様を連れて逃げろ!  」

 流石騎士様、カッコいいことで。

「承知致しました……!! 」

 部下らしき男は戸惑いながらもアルを連れて茂みに走った。

「カミルさん……! 助けて……!! 」

 泣き叫ぶアルの声。
 手をこちらに伸ばす。

「……子どもが泣いてるじゃない」

「黙れ化け物!! アル様は必ず連れ帰る! 」

 アルの正体とか青年の仕事なんて私には知ったこっちゃない。

 ただアルは行きたくない、私にはそれだけで充分だ。

「……ごめんね」

 そのとき、黒いローブの男の動きが止まった。影のようなものが男の体に纏わりつく。そして手足の自由を失った男はバランスを崩し、アルを落とした。

「な、何だこれは……!? 」

「ディード!! 貴様、何をした」

 そんなに睨まないでよ、カイル様。

「ちょっとした魔法よ。ああ大丈夫、別に殺すつもりはないわ」

「カイル様……!! 」

 ディードと呼ばれた男がバタつくがより一層私の鎖が食い込むばかりだ。

「ディードさんにはちょっと眠って貰おっかな」

 眠りの魔法を唱える私。
 するとこてんと、赤子のように彼は眠りに落ちた。

「ディード……!!! 貴様、何をするつもりだ!? 」

「別に何もしないよ」

 くすくすと笑う私。
 今にも泣きそうなのに、プライドを保ち続けるカイル。

 その様子をまるで夢でも見ているかのように眺めるアル。

「ただ、少し、血が飲みたいの」

 私はそう呟くと、カイルの白い首筋にそっと牙を立てた。
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