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第21話 準備
しおりを挟む……実は一つ気が付いたことがある。
吸血鬼の母体とその子は感覚を共有するようなのである。
と言ってもそれが出来るのは母体からだけで、子側からは特に何も出来ない。
つまり、私はリクの見ているもの、聞いているものなどを感じることが出来る。しかし逆にリクは私の感覚を共有することは出来ない。
それに気が付いたのは本当にたまたまで、流石にプライバシーの侵害になるので今まで封印してきたのだけど、これを使えばその怪しい人物たちが何者なのか知ることが出来るだろう。
要は敵をスパイにしてしまおう、という作戦だ。
もちろんあっさり目的を吐いてくれれば私だって手荒な真似をするつもりはない。ただ下手に歯向かうのなら……。
……何だか結構私も化け物らしくなってきたな。
いけないいけない。
「カミルさん……? 」
ぼーっとしてる私を不審がったアルが声をかける。
「あ、ご、ごめんなさいね。ぼんやりしてたわ」
「カミルさんごめんなさい……僕のせいで」
「え? 」
「僕少し思い出したんです。多分僕は誰かから逃げてきた。その誰かのことは思い出せないけど……昼間来たのはその仲間かも」
今にも泣きそうな顔をしてアルが唇を噛む。
「気にしないで」
私はアルの頭を撫でた。
彼はくすぐったそうに目を閉じた。
「でも、カミルさんが酷いことされたら……」
「私も意外と強いのよ。平気よ」
アルはそれでも不服そうに睫毛を伏せる。
ーー足音
「さあさあ、夜も遅いし早く寝なさい。明日は村の方に行ってみようか。皆優しいから色々助けになってくれるわよ」
「……分かりました」
寝室に向かうアル。
そしてあるときピタリと足を止めた。
「あのリクって人は本当にカミルさんの恋人じゃないんですよね? 」
「ええそうよ」
「そっか……すいません変なこと聞いて」
顔はむこうを向いているのでアルがどんな表情をしているのかは分からない。ただ耳まで真っ赤にしていることに気が付いた。
「でもどうしてそんなこと……」
「……おやすみなさい!! 」
アルはそう叫ぶと、足早に寝室へと去っていった。
その姿が完全には見えなくなってから、私はさて、と呟く。
招待した覚えのないお客様に挨拶をしなければ。
私は冷蔵庫から赤ワインを取り出す。そしてそれを一口含んだ。
うん、美味しい。
夜は私の狩場。どんな獲物でも逃がしはしない。
こんな月もない真っ暗な夜に私を襲撃しようなんて、ちょっと相手が気の毒になってしまう。
私はふぅと息を吐くと、何者かが潜んでいる玄関の方へ向かったのだった。
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