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第18話 目覚め
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ユキトの尽力もあり、少年の容態は良くなっていったようだ。
どうやら野犬に噛まれたことによる感染症と失血が原因らしい。
「まあこれで一先ずは大丈夫やろ。後は大きい病院に連れてった方がええな」
「ありがとう。流石ね」
「お礼は一噛みでどうや? わしの首をかるーくでええよ」
それは遠慮しとくわ、と私は目を細める。
そして少年に視線を移す。すやすやと心地よい寝息をたて、顔色も良さそうだ。
血や泥で汚れた服は洗濯してあげたいけど目が覚めてからだな。
「……でもこの子も長く無さそうやな」
ぽつりとユキトが呟く。
「え、ど、どうして? 怪我は治ったんじゃないの? 」
「おそらく生まれつきなんやろな、心臓に関する病気を抱えているようや。悪いがわしには治せない」
「そんな……」
でもなぜそんな子どもがこんな場所に? 心臓に病気を持った少年が野犬の住む森を命からがら抜けてくるなんて一体どんな状況だったのだろう。
私は少年の額に手を当て、目を閉じた。
どうか彼が目を覚ましますように、と。
◇◇◇
ユキトは一先ず診療所に帰ると言い残して去っていった。
目が覚めたら風呂に入れてあげて、衣服を替えてあげろと言われたのでしっかり準備はしてある。
「……ん」
するとまるで待っていたかのように少年が目を覚ました。
青く透き通る瞳が辺りの風景を映している。
「あ、目覚めた? 気分はどうですか? 」
「……ここは? 」
「ここはえっと……イルステルス領のユースリア村。貴方、家の前で倒れていたのよ」
「僕が……? 」
少年がゆっくりと体を起こした。
「大丈夫? 動ける? 」
ゆっくりと頷く少年。まだ完全には頭が働いていないようだ。重たい瞼を必死に開けている。
「……僕は、何をしてたんだっけ……」
「まだ体調が万全じゃないのよ、無理に思い出さなくても良いわ」
「僕は……そうだ、名前はアル。確か、奴等から逃げてて……」
アル、と名乗った彼は必死に思い出そうとしているようだ。
「奴等? 誰かに追われているの? 」
「分からない……でもそこで、犬に襲われて……」
そのとき、アルはうっと心臓を押さえてうずくまった。
「大丈夫!? 」
慌てて背中をさするが、彼はだ、大丈夫です。と声を振り絞った。
ただ尋常ではないその様子に私はどうすれば良いのか必死に頭を働かせた。
「……落ち着きました。すいません」
「良かった……お水でも飲む? 」
アルはこくりと頷いた。
私はマグカップに水を注ぐと彼に手渡した。アルはゴクゴクと音をたてて水を飲む。
よっぽど喉が渇いていたのだろう。
「もしお風呂に入りたければ沸いてるからね。後着替えもここにあるから」
アルはありがとうございますと頭を下げると、お風呂お借りしても良いですか? と声をあげた。
「うん、良いよ。まだ怪我も治りきってないみたいだし一緒に……」
「結構です! 」
顔を真っ赤にしたアルが着替えを抱えると、パタパタと浴場の方へ駆けていった。
どうやら野犬に噛まれたことによる感染症と失血が原因らしい。
「まあこれで一先ずは大丈夫やろ。後は大きい病院に連れてった方がええな」
「ありがとう。流石ね」
「お礼は一噛みでどうや? わしの首をかるーくでええよ」
それは遠慮しとくわ、と私は目を細める。
そして少年に視線を移す。すやすやと心地よい寝息をたて、顔色も良さそうだ。
血や泥で汚れた服は洗濯してあげたいけど目が覚めてからだな。
「……でもこの子も長く無さそうやな」
ぽつりとユキトが呟く。
「え、ど、どうして? 怪我は治ったんじゃないの? 」
「おそらく生まれつきなんやろな、心臓に関する病気を抱えているようや。悪いがわしには治せない」
「そんな……」
でもなぜそんな子どもがこんな場所に? 心臓に病気を持った少年が野犬の住む森を命からがら抜けてくるなんて一体どんな状況だったのだろう。
私は少年の額に手を当て、目を閉じた。
どうか彼が目を覚ましますように、と。
◇◇◇
ユキトは一先ず診療所に帰ると言い残して去っていった。
目が覚めたら風呂に入れてあげて、衣服を替えてあげろと言われたのでしっかり準備はしてある。
「……ん」
するとまるで待っていたかのように少年が目を覚ました。
青く透き通る瞳が辺りの風景を映している。
「あ、目覚めた? 気分はどうですか? 」
「……ここは? 」
「ここはえっと……イルステルス領のユースリア村。貴方、家の前で倒れていたのよ」
「僕が……? 」
少年がゆっくりと体を起こした。
「大丈夫? 動ける? 」
ゆっくりと頷く少年。まだ完全には頭が働いていないようだ。重たい瞼を必死に開けている。
「……僕は、何をしてたんだっけ……」
「まだ体調が万全じゃないのよ、無理に思い出さなくても良いわ」
「僕は……そうだ、名前はアル。確か、奴等から逃げてて……」
アル、と名乗った彼は必死に思い出そうとしているようだ。
「奴等? 誰かに追われているの? 」
「分からない……でもそこで、犬に襲われて……」
そのとき、アルはうっと心臓を押さえてうずくまった。
「大丈夫!? 」
慌てて背中をさするが、彼はだ、大丈夫です。と声を振り絞った。
ただ尋常ではないその様子に私はどうすれば良いのか必死に頭を働かせた。
「……落ち着きました。すいません」
「良かった……お水でも飲む? 」
アルはこくりと頷いた。
私はマグカップに水を注ぐと彼に手渡した。アルはゴクゴクと音をたてて水を飲む。
よっぽど喉が渇いていたのだろう。
「もしお風呂に入りたければ沸いてるからね。後着替えもここにあるから」
アルはありがとうございますと頭を下げると、お風呂お借りしても良いですか? と声をあげた。
「うん、良いよ。まだ怪我も治りきってないみたいだし一緒に……」
「結構です! 」
顔を真っ赤にしたアルが着替えを抱えると、パタパタと浴場の方へ駆けていった。
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