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第17話 少年
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屋敷から遠く離れた村で一人暮らしを始めた私、カミル。
一人暮らしというのは思っていたより大変だ。
「うわ……!! 火がついた! 」
フライパンを焦がす私。
「洗濯物、ぐしゃぐしゃだ……」
洗濯物をし忘れて溜めまくる私。
「洗濯物取り込み忘れた……!! 」
せっかく洗濯物を干していたのに雨に降られて台無しにされる私。
毎日何らかの失敗をしてしまう。
お手伝いさんというのはとても大変な仕事だったのだと今さら気が付いた。
毎日毎日焦げた炭のような物体を食べる日々だ。
「美味しくない……」
一口噛むとじゃりじゃりという砂のような音がする。
屋敷にいた頃は毎日ご馳走だったな……。それが当たり前だと思っていたけどそれは間違いだ。
ううむ、これは料理の腕を磨かなければなるまい。
このままだと早死にしてしまいそうだ。
やらなきゃいけないことは山積みだ。一つ一つ片付けていこう。
すると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
誰だろう? ミルファだろうか?
それともリクか?
「はーい」
玄関を開けると……誰もいない。
「あれっ? でも今確かに……」
辺りを見回してみるが誰もいない。そして視線を下に向けたとき、私は思わずあっ! と声をあげた。
そこには泥だらけになった少年が倒れていた。
「ちょっと君! 大丈夫!? 」
声をかけ、体を軽く揺すってみるが返事はない。
ただうっすらと瞼を上げてくれた。
青く透き通る瞳は光がない。
「大変……!! 」
私は少年を自宅のベッドにひとまず寝かせると、ユキトを呼びに勢いよく走った。
◇◇◇
「随分酷いのう……」
少年を診察するユキトの顔が曇る。
少年はかろうじて息はしているが、今にも止まりそうなほどか細いものであった。
上質そうな服を着ているが、爪で抉られたように破れている。
「おそらく野犬にでも襲われたんやろ。傷が深いわ」
「そんな……でもこの子は一体どこから? 村の子どもかしら」
「いや見たことないなぁ……。喋れるようになれば何か分かるかもしれんけど今は無理や」
「そうね……」
「よしその為には命を救わないかんな。カミル、温かい湯とこれとこれとこの薬をわしの診療所から持ってきてくれ」
ユキトは私に薬の名前が書かれたメモを渡すと、忙しそうに少年を治療し始めた。
「分かった! 」
私は力強く頷くと、再び薬を取りに走ったのだった。
ユキトも知らない少年、一体彼は何者でどこから来たのだろうか? いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
彼の命を救うことが何よりも大事なのだから。
一人暮らしというのは思っていたより大変だ。
「うわ……!! 火がついた! 」
フライパンを焦がす私。
「洗濯物、ぐしゃぐしゃだ……」
洗濯物をし忘れて溜めまくる私。
「洗濯物取り込み忘れた……!! 」
せっかく洗濯物を干していたのに雨に降られて台無しにされる私。
毎日何らかの失敗をしてしまう。
お手伝いさんというのはとても大変な仕事だったのだと今さら気が付いた。
毎日毎日焦げた炭のような物体を食べる日々だ。
「美味しくない……」
一口噛むとじゃりじゃりという砂のような音がする。
屋敷にいた頃は毎日ご馳走だったな……。それが当たり前だと思っていたけどそれは間違いだ。
ううむ、これは料理の腕を磨かなければなるまい。
このままだと早死にしてしまいそうだ。
やらなきゃいけないことは山積みだ。一つ一つ片付けていこう。
すると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
誰だろう? ミルファだろうか?
それともリクか?
「はーい」
玄関を開けると……誰もいない。
「あれっ? でも今確かに……」
辺りを見回してみるが誰もいない。そして視線を下に向けたとき、私は思わずあっ! と声をあげた。
そこには泥だらけになった少年が倒れていた。
「ちょっと君! 大丈夫!? 」
声をかけ、体を軽く揺すってみるが返事はない。
ただうっすらと瞼を上げてくれた。
青く透き通る瞳は光がない。
「大変……!! 」
私は少年を自宅のベッドにひとまず寝かせると、ユキトを呼びに勢いよく走った。
◇◇◇
「随分酷いのう……」
少年を診察するユキトの顔が曇る。
少年はかろうじて息はしているが、今にも止まりそうなほどか細いものであった。
上質そうな服を着ているが、爪で抉られたように破れている。
「おそらく野犬にでも襲われたんやろ。傷が深いわ」
「そんな……でもこの子は一体どこから? 村の子どもかしら」
「いや見たことないなぁ……。喋れるようになれば何か分かるかもしれんけど今は無理や」
「そうね……」
「よしその為には命を救わないかんな。カミル、温かい湯とこれとこれとこの薬をわしの診療所から持ってきてくれ」
ユキトは私に薬の名前が書かれたメモを渡すと、忙しそうに少年を治療し始めた。
「分かった! 」
私は力強く頷くと、再び薬を取りに走ったのだった。
ユキトも知らない少年、一体彼は何者でどこから来たのだろうか? いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
彼の命を救うことが何よりも大事なのだから。
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