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第16話 謝罪
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「すいません、俺……」
思う存分血が吸えたのか、リクは正気に戻ってくれた。
そして直ぐに土下座でもしかねない勢いで私には謝る。
「気にしないで下さい、ほら、口元に血液がついてます。ミルファさんが見たら怖がります」
リクの口元についた血を拭うと、彼は顔を赤くしてぱっと私と距離を取る。
「それぐらい自分で出来ます」
そう言うと、自分の服の裾でごしごし擦り始めた。
「あ、服で拭うと……」
「うわ! 血まみれだ! 」
……言わんこっちゃない。
「血は服につくと中々取れないんです。だから舐めとった方が……」
「ですね……」
リクははぁと息を吐くと、汚れた部分を隠すように裾を折り込んだ。
「……家に帰ったら洗濯します。ミルファが下りてくる前に掃除を進めましょうか」
「ですね」
私はこくりと頷くと、箒を手にするのだった。
◇◇◇
一人で住むには中々広い家だ。
一階を掃除するだけでもかなり骨が折れそうだった。
リクと手分けして掃除をしたものの、一日はかかりそうだ。
無言で掃除に集中していると、不意にリクが声を掛けた。
「……他に俺みたいな吸血鬼っているんですか? 」
「他に? 」
えっとその……と口ごもるリク。
「他に誰か吸血したことはあるのかなって、ことです」
ああ、と私は理解した。
「ないです。そもそも人間の男の人を吸血したのはリクさんが初めてです」
女を入れたら妹が先、ということは言わないでおこう。
「そうか」
リクはそう言うと、なぜかほっとしたように表情を緩め、再び作業に戻った。
すると、ドタドタと階段を駆け下りる音がした。
「お兄ちゃーん、掃除終わった? 」
ひょこっと顔を出したのは顔を埃で真っ黒にしたミルファだった。
「……ああ」
ばつが悪そうに頭をかくリク。
ミルファはキョロキョロと辺りを見回すと、つーっと近くのタンスを指でなぞる。
そして指先に何も着いていないことを確認すると、満足そうに笑った。
「うん、合格! 」
「お前なぁ……」
「カミルさん、上は私がピカピカにしておきましたよ。ただベッドのシーツは埃まみれだったので新しいものを買った方が良いかもしれません」
「ありがとうございます、ミルファさん」
するとミルファがちょっと考え込むような仕草をした後、こう続けた。
「そのミルファさん、っていうのやめてください。ミルファ、で良いですよ」
「え、でも……」
「これから同じ村のご近所さんなんですから遠慮はいりません! 」
おっとりしてるように見えて結構ぐいぐい来る女の子だ。
「ミ……ルファ」
しどろもどろながら呼んでみる。人を呼び捨てしたことがないから何だか気恥ずかしい。
しかしミルファはぱっと笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます! 」
「えっとその、私のこともカミルで良いです」
そう言うと、ミルファは私に抱きついてきたのだった。
リクはその様子を不思議そうに、でも少し嬉しそうに眺めていた。
思う存分血が吸えたのか、リクは正気に戻ってくれた。
そして直ぐに土下座でもしかねない勢いで私には謝る。
「気にしないで下さい、ほら、口元に血液がついてます。ミルファさんが見たら怖がります」
リクの口元についた血を拭うと、彼は顔を赤くしてぱっと私と距離を取る。
「それぐらい自分で出来ます」
そう言うと、自分の服の裾でごしごし擦り始めた。
「あ、服で拭うと……」
「うわ! 血まみれだ! 」
……言わんこっちゃない。
「血は服につくと中々取れないんです。だから舐めとった方が……」
「ですね……」
リクははぁと息を吐くと、汚れた部分を隠すように裾を折り込んだ。
「……家に帰ったら洗濯します。ミルファが下りてくる前に掃除を進めましょうか」
「ですね」
私はこくりと頷くと、箒を手にするのだった。
◇◇◇
一人で住むには中々広い家だ。
一階を掃除するだけでもかなり骨が折れそうだった。
リクと手分けして掃除をしたものの、一日はかかりそうだ。
無言で掃除に集中していると、不意にリクが声を掛けた。
「……他に俺みたいな吸血鬼っているんですか? 」
「他に? 」
えっとその……と口ごもるリク。
「他に誰か吸血したことはあるのかなって、ことです」
ああ、と私は理解した。
「ないです。そもそも人間の男の人を吸血したのはリクさんが初めてです」
女を入れたら妹が先、ということは言わないでおこう。
「そうか」
リクはそう言うと、なぜかほっとしたように表情を緩め、再び作業に戻った。
すると、ドタドタと階段を駆け下りる音がした。
「お兄ちゃーん、掃除終わった? 」
ひょこっと顔を出したのは顔を埃で真っ黒にしたミルファだった。
「……ああ」
ばつが悪そうに頭をかくリク。
ミルファはキョロキョロと辺りを見回すと、つーっと近くのタンスを指でなぞる。
そして指先に何も着いていないことを確認すると、満足そうに笑った。
「うん、合格! 」
「お前なぁ……」
「カミルさん、上は私がピカピカにしておきましたよ。ただベッドのシーツは埃まみれだったので新しいものを買った方が良いかもしれません」
「ありがとうございます、ミルファさん」
するとミルファがちょっと考え込むような仕草をした後、こう続けた。
「そのミルファさん、っていうのやめてください。ミルファ、で良いですよ」
「え、でも……」
「これから同じ村のご近所さんなんですから遠慮はいりません! 」
おっとりしてるように見えて結構ぐいぐい来る女の子だ。
「ミ……ルファ」
しどろもどろながら呼んでみる。人を呼び捨てしたことがないから何だか気恥ずかしい。
しかしミルファはぱっと笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます! 」
「えっとその、私のこともカミルで良いです」
そう言うと、ミルファは私に抱きついてきたのだった。
リクはその様子を不思議そうに、でも少し嬉しそうに眺めていた。
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