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第15話 再
しおりを挟むこれはおそらく吸血衝動だ。
お母さんが話してくれたことがある。
吸血鬼になりたての若い個体は、吸血衝動という本能に囚われがちだ、ということだ。
つまり血が吸いたくてたまらないという状態だ。
こうなった吸血鬼は人間を襲い始めるため、殲滅対象になりやすい。
妹の前ではおそらく必死に我慢していたのだろう、その理性の強さに私は思わず驚いた。
「……リクさん、私の血を吸ってください。そうすれば多少は楽になるはずです」
リクは驚いたような顔をして私を見上げる。
「だ、駄目だ」
「大丈夫です。確かに私は吸血鬼ですけど、半分は人間の血が流れています。いくらかは衝動を抑えられると思います」
それでもゆるゆると首を振るリク。しかしその目はギラギラと光っている。
まずい、このままではリクは理性を失ったただの化け物になってしまうだろう。
それだけでなくミルファを吸血してしまうかもしれない。
「……仕方ありません」
私は近くにあったナイフを取ると、自分の腕を切りつける。
そして流れた血を自分の口に含んだ。
「うっ……」
衝動に襲われリクにとって血の匂いは刺激でしかない。
必死に顔を伏せて、耐えようとしている。
私はそんな彼の顎を掴むと、無理に顔をあげさせた。
そして口移しで私の血を彼に飲ませる。
「……!? 」
リクが目を見開いた。
荒療治だけれど仕方がない。
彼は小さく声を漏らしながら必死に抵抗するが、次第におとなしくなっていく。
そして体の力が抜けたことを確認した私は、ようやく唇を離した。
はー、はーと荒い息を繰り返す彼だったが赤い瞳の怪しい光はもうないようだ。
「どうですか? 落ち着きました……? 」
一時的ではあるが吸血衝動は抑えられたはずだ。
「あ、ああ……」
「リクさんごめんなさい、その血を吸いたくて仕方がないという状況を吸血衝動、と言います。これを抑えるには誰かを吸血するしかない。ですから私の血を吸ってください」
「……分かった」
そして私は自分のドレスを緩めると、吸いやすいように首を顕にする。
「この辺りに牙を突き立てて、ゆっくり血を吸ってください。大丈夫、吸われた人は死んだりしません」
リクは吸い寄せられるように私の肩を掴むと、ゆっくり私の首筋に顔を寄せる。
ピリッとした痛みが走る。
「……もう少し強く刺しても良いですよ」
痛みが深くなった。私の肩を掴むリクの手が震えている。
「リクさん大丈夫ですよ、痛くないです」
彼の頭をポンポンと撫でる。
きっと彼は優しい人なのだ。自分をこんな体にした私のことを恨むどころか気遣ってくれている。
そんな彼の生活を、私は必ず守らなければいけない。
そう心に固く誓った。
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