吸血姫と赤薔薇の騎士

寿司

文字の大きさ
上 下
15 / 30

第15話 再

しおりを挟む

 これはおそらく吸血衝動だ。
 お母さんが話してくれたことがある。

 吸血鬼になりたての若い個体は、吸血衝動という本能に囚われがちだ、ということだ。

 つまり血が吸いたくてたまらないという状態だ。

 こうなった吸血鬼は人間を襲い始めるため、殲滅対象になりやすい。
 
 妹の前ではおそらく必死に我慢していたのだろう、その理性の強さに私は思わず驚いた。

「……リクさん、私の血を吸ってください。そうすれば多少は楽になるはずです」

 リクは驚いたような顔をして私を見上げる。

「だ、駄目だ」

「大丈夫です。確かに私は吸血鬼ですけど、半分は人間の血が流れています。いくらかは衝動を抑えられると思います」

 それでもゆるゆると首を振るリク。しかしその目はギラギラと光っている。
 まずい、このままではリクは理性を失ったただの化け物になってしまうだろう。

 それだけでなくミルファを吸血してしまうかもしれない。

「……仕方ありません」

 私は近くにあったナイフを取ると、自分の腕を切りつける。

 そして流れた血を自分の口に含んだ。

「うっ……」

 衝動に襲われリクにとって血の匂いは刺激でしかない。
 必死に顔を伏せて、耐えようとしている。

 私はそんな彼の顎を掴むと、無理に顔をあげさせた。

 そして口移しで私の血を彼に飲ませる。

「……!? 」

 リクが目を見開いた。
 荒療治だけれど仕方がない。

 彼は小さく声を漏らしながら必死に抵抗するが、次第におとなしくなっていく。

 そして体の力が抜けたことを確認した私は、ようやく唇を離した。

 はー、はーと荒い息を繰り返す彼だったが赤い瞳の怪しい光はもうないようだ。

「どうですか? 落ち着きました……? 」

 一時的ではあるが吸血衝動は抑えられたはずだ。

「あ、ああ……」

「リクさんごめんなさい、その血を吸いたくて仕方がないという状況を吸血衝動、と言います。これを抑えるには誰かを吸血するしかない。ですから私の血を吸ってください」

「……分かった」

 そして私は自分のドレスを緩めると、吸いやすいように首を顕にする。

「この辺りに牙を突き立てて、ゆっくり血を吸ってください。大丈夫、吸われた人は死んだりしません」

 リクは吸い寄せられるように私の肩を掴むと、ゆっくり私の首筋に顔を寄せる。

 ピリッとした痛みが走る。

「……もう少し強く刺しても良いですよ」

 痛みが深くなった。私の肩を掴むリクの手が震えている。

「リクさん大丈夫ですよ、痛くないです」

 彼の頭をポンポンと撫でる。
 
 きっと彼は優しい人なのだ。自分をこんな体にした私のことを恨むどころか気遣ってくれている。

 そんな彼の生活を、私は必ず守らなければいけない。
 そう心に固く誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

処理中です...