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第9話 儀式
しおりを挟む「そろそろ行くぞ」
「は、はい」
お祭りを楽しむ気にもなれなかった私はあの後もずっと家で一人、考え込んでいた。
そうしているうちにいつの間にか辺りは暗くなっていて、式が始まろうとしていた。
リクに連れられた私は、だだっ広い空き地のような場所に連れられる。
豪華な神棚がびっしりと並び、その中心に神妙な面持ちでただ一点を見つめるミルファの姿があった。
そして無数の蝋燭が彼女の姿を妖艶に照らしている。
「これが……儀式」
「……あまり喋らない方が良い。ユースリア様の気分を害す」
リクがこそこそと耳打ちをする。
私は黙ってこくりと頷く。
よく見ると村の人々が皆集まっているようだ。皆の顔に笑顔はない。
そして、ルイスの姿もなかった。
それに気が付いたリクが私には耳打ちする。
「ルイスなら遅れてくるそうだ。……まだ気持ちの整理がついてないんだろう」
そうだよね……私も何も答えられないまま、ただコクリと頷いた。
そのとき、神棚を照らす蝋燭の光が一瞬で消え失せた。
そして、ズルズルという重いものを引き摺るような音がしたかと思うと、村の人たちが一斉に膝まづく。
私もリクに体を抑え込まれ、無理やり地面に倒れ込む。
そっと顔をあげると、大蛇の姿をした異形のものが森の奥から這い出していた。
「あれがユースリア様だ」
「蛇……? 」
『ふむ、ご苦労。今年もまことに良き祭りであった』
地面を震わせるような低い声。これだけだと、老齢の男性のようにも聞こえる。
「ありがとうございます、ユースリア様」
村長らしいおじいさんが深々と頭を下げる。
『今回の巫女は……ほう、美しいではないか』
つられて、ミルファもお辞儀をする。
「ミルファと申します。ユースリア様」
『ミルファか。良き名だ。それに美しい、巫女に相応しいな』
そして大蛇は鱗をヌラヌラと光らせ、ミルファを取り囲む。
『我が血となり、永久の命を得るのだ。ミルファ』
「……ありがとうございます」
村人たちが顔を背ける。隣にいるリクは、涙を拭うことなく、ただじっとミルファを見つめていた。
そのとき
「うわあああああああ!!!!!! 」
男の絶叫。
そして何者かがミルファとユースリアの間に割り込んだかと思うと、手に持っていた銀の剣で大蛇を切りつける。
しかし、バキンという音を響かせて、剣は折れてしまった。
「ルイス!!! 」
ミルファが悲鳴にも似た声をあげる。
「ミルファは……!! ミルファはお前なんかに渡さない!! 」
もはや発狂しかけているルイス。手にある折れた剣を再び構える。
「ルイスやめろ! 戻れ!! 」
リクが、他の村人が、ミルファが叫ぶ。彼の末路を皆が分かっていた。
『儀式を邪魔する、罰当たりが』
大蛇が鋭く尾を鞭のようにしならせると、ルイスの体に叩きつける。
枝が折れるような嫌な音を響かせて、ルイスは木に叩きつけられる。
「いやあああああ!!!! ルイス!!!! 」
ミルファが巫女でもあることを忘れて叫んでいる。
「ルイス……!! ルイス! 」
ルイスの元に行きたいのに、行けばおそらく自分も殺される。
それが分かっているのだろう、リクはまるで硬直したようにそこから動けなくなった。
「どうすれば……」
リクが唇を強く噛むと、血が滲んだ。
「……ねえリクさん。ミルファさんやルイスさんが助かるためなら何でもする? 」
「ああ!! 何でもしてやる! 俺に出来ることなら何だって! 」
言ったね。
「これからどうなっても恨まないでね」
私はリクを抱き締めると、ゆっくり顔を寄せる。
そして唇に滲んでいる血を舐めとる。
「な、何を!? 」
「血を、少しだけ頂くわ」
そして彼の白い首に、私は牙を突き立てた。
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