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第6話 案内
しおりを挟むミルファたちの村はユースリア村というらしい。信仰している神の名前をそのまま取っているようだ。
住人もそう多くはなく、おそらく二十人ぐらいしかいないようだ。
しかしどの人も親切で、よそ者である私を見ても笑顔で挨拶をしてくれた。
そして至るところでお祭りの準備なのか、やぐらのようなものが立てられていた。
皆、せかせかと忙しそうに動いている。
「……凄いですね」
圧巻の光景に私は思わず呟いた。
「でしょう? かなり盛り上がるお祭りなんですよ」
「お、ミルファちゃん」
そして私たちに気が付いた一人の男性が近づいてきた。
そして彼はミルファを見るなり、一瞬悲しそうな表情をした。
「アンドンさん、こんにちは」
「ああ、こちらが倒れていた女性か。いや中々にべっぴんさんだ」
「カミルと申します。よろしくお願い致します」
恭しく自己紹介をすると、アンドンという男性はガハハと笑う。
「そんな堅苦しい挨拶をしなくても大丈夫だよ。よろしくな、カミルちゃん」
気さくで明るい人のようだ。
「今年はミルファちゃんが巫女様だからね。盛大にしなきゃね」
「巫女? 」
「お祭りの主役ってことさ。まさかミルファちゃんが指名されるとは思わなかったけどな」
お祭りの主役、よく分からないけど凄そうだ。
「見に余る名誉です。精一杯努めさせて頂きます」
あれ? あんまりミルファは嬉しそうじゃない。それにアンドンも目は笑っていない。
「……じゃあなミルファちゃん。また後で。カミルちゃんも楽しんでな」
そう言い残して彼は作業に戻ってしまった。
「……ミルファさんはあんまり嬉しそうじゃないのね」
「え? 」
「巫女様、本当はやりたくないんじゃないの? 」
「……何を言ってるのカミルさん。私、選ばれてとても嬉しいわ。ユースリア様の祝福を頂けるなんてね」
「さっきから皆が言う、ユースリア様って何なんですか? 」
土地神だろうか? 少なくとも屋敷にいたときはそんな神の名前は聞いたことがない。
「……ユースリア様はこの村の守り神」
そう言うと、ミルファはそっと近くにあった像に触れた。
その像は蛇のような生き物を象っている。
「私たちは生まれたときからユースリア様を信仰しているの。そうすれば守ってもらえるし、ご利益がある。そうして私たちは生きてきたんです」
「なるほど……」
「ミルファ! 探したよ」
すると後ろから知らない男性が現れた。しかしミルファは彼を見るなり、泣きそうな顔で逃げていった。
「あ! ミルファさん」
残されたその男性と私。
気まずい空気が流れる。
「どうしてだよミルファ……俺とは口を利いてくれないのか」
短髪を刈り込んだ爽やかな青年。小麦色の肌がいかにも健康的だ。
彼は悔しそうに唇を噛む。
どういうこと……? 何が何やらさっぱり分からない。
そして不意に私を見つけた彼は、声をかけてきた。
「君は外から来た人だな? 頼む! ミルファを助けてくれ! 」
「へ? 」
いきなりの事態に、私は思わず変な声を出した。
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