吸血姫と赤薔薇の騎士

寿司

文字の大きさ
上 下
6 / 30

第6話 案内

しおりを挟む

 ミルファたちの村はユースリア村というらしい。信仰している神の名前をそのまま取っているようだ。

 住人もそう多くはなく、おそらく二十人ぐらいしかいないようだ。
 しかしどの人も親切で、よそ者である私を見ても笑顔で挨拶をしてくれた。

 そして至るところでお祭りの準備なのか、やぐらのようなものが立てられていた。
 皆、せかせかと忙しそうに動いている。

「……凄いですね」

 圧巻の光景に私は思わず呟いた。

「でしょう? かなり盛り上がるお祭りなんですよ」

「お、ミルファちゃん」

 そして私たちに気が付いた一人の男性が近づいてきた。
 そして彼はミルファを見るなり、一瞬悲しそうな表情をした。

「アンドンさん、こんにちは」

「ああ、こちらが倒れていた女性か。いや中々にべっぴんさんだ」

「カミルと申します。よろしくお願い致します」

 恭しく自己紹介をすると、アンドンという男性はガハハと笑う。

「そんな堅苦しい挨拶をしなくても大丈夫だよ。よろしくな、カミルちゃん」

 気さくで明るい人のようだ。

「今年はミルファちゃんが巫女様だからね。盛大にしなきゃね」

「巫女? 」

「お祭りの主役ってことさ。まさかミルファちゃんが指名されるとは思わなかったけどな」

 お祭りの主役、よく分からないけど凄そうだ。

「見に余る名誉です。精一杯努めさせて頂きます」

 あれ? あんまりミルファは嬉しそうじゃない。それにアンドンも目は笑っていない。

「……じゃあなミルファちゃん。また後で。カミルちゃんも楽しんでな」

 そう言い残して彼は作業に戻ってしまった。

「……ミルファさんはあんまり嬉しそうじゃないのね」

「え? 」

「巫女様、本当はやりたくないんじゃないの? 」

「……何を言ってるのカミルさん。私、選ばれてとても嬉しいわ。ユースリア様の祝福を頂けるなんてね」

「さっきから皆が言う、ユースリア様って何なんですか? 」

 土地神だろうか? 少なくとも屋敷にいたときはそんな神の名前は聞いたことがない。

「……ユースリア様はこの村の守り神」

 そう言うと、ミルファはそっと近くにあった像に触れた。
 その像は蛇のような生き物を象っている。

「私たちは生まれたときからユースリア様を信仰しているの。そうすれば守ってもらえるし、ご利益がある。そうして私たちは生きてきたんです」

「なるほど……」

「ミルファ! 探したよ」
 
 すると後ろから知らない男性が現れた。しかしミルファは彼を見るなり、泣きそうな顔で逃げていった。

「あ! ミルファさん」

 残されたその男性と私。
 気まずい空気が流れる。

「どうしてだよミルファ……俺とは口を利いてくれないのか」

 短髪を刈り込んだ爽やかな青年。小麦色の肌がいかにも健康的だ。

 彼は悔しそうに唇を噛む。
 どういうこと……? 何が何やらさっぱり分からない。

 そして不意に私を見つけた彼は、声をかけてきた。

「君は外から来た人だな? 頼む! ミルファを助けてくれ! 」

「へ? 」

 いきなりの事態に、私は思わず変な声を出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

高いお金と引き換えに家族から売られた私ですが、どうやら最終的には過去一の幸せが待っているようです。

加集 奈都
恋愛
「2つも同じ顔など、我が家に必要はない。」 そう言われ、高いお金と引き換えに子供好きと噂される変態伯爵の元へと売られた男爵令嬢のアイヴィ。 幸せとは程遠い生活を送り、いやらしい要求を嫌々のむ毎日。 まだ愛玩動物としての価値があるだけ喜ばしいことなのか。それとも愛玩動物としての価値しかないことに絶望するべきなのか。 そんなことを考えていたアイヴィだったが、助けは突如としてやって来た。 助けられたことをきっかけに、高名な公爵家とされるウィンストン家の養女となったアイヴィ。そしてそこで出会う、3人の兄弟+1人の王太子。 家族に捨てられ、変態伯爵に可愛がられてしまったことで、すっかり感情を表に出すことが苦手になってしまったアイヴィと、そんなアイヴィを可愛がりたい兄弟達+王太子+大人達の物語。

処理中です...