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第5話 兄
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「お兄ちゃん! 」
無愛想ながら整った顔立ち。中肉中背の青年が丁度部屋に入ってくるタイミングだった。
ミルファと同じように栗色の髪をしていて、後ろでちょこんと結んでいる。
茶色の透き通った瞳がじっと私を見つめていた。
ミルファにお兄ちゃんと呼ばれた彼は、私をちらりと見る。
「すまないな、こいつ、人の詮索するのが好きなんだ」
「いえ……大丈夫です」
「もう、お兄ちゃん酷い! そんなことないもん」
ぷんっとそっぽを向くミルファ。そんな彼女を無視してその青年は言葉を続ける。
「俺はリク。倒れてた君を見たときはびっくりしたが、目が覚めたようで良かった」
「あ、貴方が運んでくれたんですね。ありがとうございます。私はカミルと言います」
リクはコクリと頷くと、それじゃごゆっくりと言い残してどこかへ去って行った。
「お兄ちゃん、無愛想だけど本当は優しいのよ。あまり気にしないでね」
「はい」
「それでカミルさんはこれからどうするの? 旅人さんならそろそろ出発かしら」
「そうね……」
何にも考えてないなんて言えない……。ただ私はどこかで身を隠してひっそり生きたいとは思っていた。
「決まってないのかしら? 」
ギクッ。おっとり系に見えて意外と鋭い。
私はただコクリと首を縦に振ると、途端にミルファの顔がパッと明るくなった。
「それなら祭りを見ていきませんか? 明日の夜に開催されるんです」
「お祭り? 」
「ええ。私たちが信仰している神、ユースリア様をもてなすお祭りなんです。小さな村ですけど、盛大にやるんですよ」
「それは面白そうですね」
屋敷暮らしをしていた頃はお祭りになんて参加させて貰えなかった。中々興味をひかれる。
「ふふ、ぜひ参加してください! 」
しかし次の瞬間、何かを思い出したかのように笑顔を引っ込めるミルファ。
「ミルファさん? 」
「……あ、いや、ごめんなさい。何でもありません」
一瞬だけ苦しそうな顔をしたが、直ぐにもとの笑顔を浮かべる。
「顔色が悪いですよ、大丈夫ですか? 」
「いえいえ気のせいです! さぁさぁ、せっかくだし村を案内しますよ! 小さい村ですけど結構見所はあるんです」
「え、あ、ありがとうございます」
こうして私はミルファに連れられるまま、外に飛び出した。
日光が私たちに降り注ぐ。うん、何ともない。
体が灰になったらどうしようかと実は内心怯えていたのだ。
ただいつまでも彼女の悲しそうな表情が気がかりだった。もしかしたらミルファは何か大事なことを隠しているのではないか?
そんな疑念が私の中でムクムクと育っていくのが分かる。
無愛想ながら整った顔立ち。中肉中背の青年が丁度部屋に入ってくるタイミングだった。
ミルファと同じように栗色の髪をしていて、後ろでちょこんと結んでいる。
茶色の透き通った瞳がじっと私を見つめていた。
ミルファにお兄ちゃんと呼ばれた彼は、私をちらりと見る。
「すまないな、こいつ、人の詮索するのが好きなんだ」
「いえ……大丈夫です」
「もう、お兄ちゃん酷い! そんなことないもん」
ぷんっとそっぽを向くミルファ。そんな彼女を無視してその青年は言葉を続ける。
「俺はリク。倒れてた君を見たときはびっくりしたが、目が覚めたようで良かった」
「あ、貴方が運んでくれたんですね。ありがとうございます。私はカミルと言います」
リクはコクリと頷くと、それじゃごゆっくりと言い残してどこかへ去って行った。
「お兄ちゃん、無愛想だけど本当は優しいのよ。あまり気にしないでね」
「はい」
「それでカミルさんはこれからどうするの? 旅人さんならそろそろ出発かしら」
「そうね……」
何にも考えてないなんて言えない……。ただ私はどこかで身を隠してひっそり生きたいとは思っていた。
「決まってないのかしら? 」
ギクッ。おっとり系に見えて意外と鋭い。
私はただコクリと首を縦に振ると、途端にミルファの顔がパッと明るくなった。
「それなら祭りを見ていきませんか? 明日の夜に開催されるんです」
「お祭り? 」
「ええ。私たちが信仰している神、ユースリア様をもてなすお祭りなんです。小さな村ですけど、盛大にやるんですよ」
「それは面白そうですね」
屋敷暮らしをしていた頃はお祭りになんて参加させて貰えなかった。中々興味をひかれる。
「ふふ、ぜひ参加してください! 」
しかし次の瞬間、何かを思い出したかのように笑顔を引っ込めるミルファ。
「ミルファさん? 」
「……あ、いや、ごめんなさい。何でもありません」
一瞬だけ苦しそうな顔をしたが、直ぐにもとの笑顔を浮かべる。
「顔色が悪いですよ、大丈夫ですか? 」
「いえいえ気のせいです! さぁさぁ、せっかくだし村を案内しますよ! 小さい村ですけど結構見所はあるんです」
「え、あ、ありがとうございます」
こうして私はミルファに連れられるまま、外に飛び出した。
日光が私たちに降り注ぐ。うん、何ともない。
体が灰になったらどうしようかと実は内心怯えていたのだ。
ただいつまでも彼女の悲しそうな表情が気がかりだった。もしかしたらミルファは何か大事なことを隠しているのではないか?
そんな疑念が私の中でムクムクと育っていくのが分かる。
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