吸血姫と赤薔薇の騎士

寿司

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第2話 牢獄

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「痛い……」

 まるで私のことなんて娘だと思っていないのだろう、乱暴に牢獄に押し込められた私は、 全身を痛めた。

 それにしても処刑だなんて冗談ではない!
 結婚なんていくらでも譲ってあげる、だから命だけは……。

「逃げられるなんて思うなよ、おとなしく神にでも祈るんだな」

 お父様の冷たい声。

「誤解です!! 私は魔法なんて使えません! 」

「黙れ! 」

 太い声で一喝される私。

「お前の母親も得体の知れないやつだったんだ……化け物の子は、やはり化け物だな」

 吐き捨てるようにお父様はそう言うと、踵を返して出ていってしまった。

「待って……! 待ってください……!! 」

 私の声など、彼にはもう届かない。
 声が涸れるまで叫んでみたけれど、一回も振り替えることなく、お父様は地上へと姿を消した。

 為す術をなくした私は、力なく牢に体を預ける。

 どうしよう、どうしたら良いのだろう。

 耳を澄ませると、誰かが下りてくるのが分かった。まさかお父様が引き返してくれた!?

 そう思った私は、音のした方に顔を向ける。

「ミスト……」

 しかしそこにいたのは、あの可憐な妹だった。

「お姉様……」

 ミストはカタカタと震えながら、私を見つめる。その瞳は怯えている。

「ミスト、お願い、誤解を解いて! 私は魔女なんかじゃない! 」

「ええ、お姉様……分かっています」

「それなら! 」

 するとミストの大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れる。

「お許しくださいお姉様……私は愛を選んだ悪魔のような女です」

「許す!? どういうことなの? 」

「私はどんな手を使ってもハルツ様と添い遂げたい。そのためなら……何だってします」

 何てことだ……つまり自分の恋のために私に死ねと?

「じゃ、じゃあさ私がハルツ様との結婚を破棄するから! そしたらミストと結婚できるじゃない? 」

「ハルツ様との結婚を破棄なんて出来ません。あんな素晴らしいお方を無下にするなんて……」

 ま、まともに話が通じない!
 ここまで頭がお花畑だったとは……!!

「私に死ねって言うの? 」

 そんなこと! と芝居がかったような手振りでミストが泣き叫ぶ。

「そんな恐ろしいこと考えていませんわ! 私はお姉様もハルツ様も愛している。お姉様は私の中で生き続けるのです」

「……」

 何を言っても駄目だ。この子は話を聞かないだろう。

「……分かったわ。貴女が幸せになるのなら、私、この命を捧げても良い」

「お姉様……!! 」

 歓喜の声をあげるミスト。

「でも最後にお願いがあるの、最後に握手をしてくれないかしら? そう、ちょこっと牢の中に手を入れてくれれば良いから」

「そんなことで良いのですか? 」

「ええ、最後に妹と握手を交わせれば私は満足よ」

 お姉様……ありがとう……。としきりに呟きながら、ポロポロと涙を流すミスト。

 彼女は言われた通り、牢の中に手を入れる。

「ありがとう、ミスト」

 そして私は、その白くて細い腕に噛みついた。
 
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