最強目指す脳筋令嬢は婚約破棄されたい

寿司

文字の大きさ
上 下
18 / 29
1年生・春

第18話 ハルの秘密

しおりを挟む
 脳みそが筋肉で出来たような下らない男、私が一番嫌いなタイプの男である。
 と、私ハル=ヴァイオレテスは思う。

 あれだけ私は結界の外に出るのはやめておけと言ったのに、この隣でビクついている大男ははんば強引に私たちを連れだしたのだ。回復役ヒーラーの二人の姿が見えないが、上手く逃げ出せていると良いのだが。

「なぁ、ハルちゃん。早く回復魔法かけてくれよ……」

 先ほどまでの威勢はどこへやら、コスモは怯えを隠すこともせず、フラフラと私の後を付いてくる。

「もうちょっと敵から離れてからの方が良いです」

 出来れば結界の中に戻れれば良いんだけれど……。流石は迷いの森と言うだけあって、どこから来たのかももう分からない。

 私は気休め程度に火炎球ファイアーボールを天空に撃ち出した。これで先生たちが異常事態に気が付いてくれることを祈っている。

「おい! そんな無駄なことしてんなら俺様をさっさと回復しろよ! 」

「きゃ! 」

 コスモに強く腕を掴まれ、私は思わず身をのけぞる。
 このでくの坊、まだ力を残していたのか……。

「早く助けを呼ぶのが先決です! それにユノさんとゼノさんのことも心配です」

「そんなんどうでもいいだろ!!! 俺様はいてーーんだよ!! さっさとしろ!! 」

「ですから! 」

 びっくりするぐらい話の通じない男だ。虫唾が走る。
 すると、不意にコスモに物凄い力で押し倒された。
 その拍子に頭を強く打ったのか痺れるような感覚を覚えた。

「はやくしねーと、お前をめちゃくちゃにしてやっても良いんだぜ? お前だって傷物にされたかねーよな」

 おそらく極度の緊張と恐怖で正気を失っているのだろう、その目はもはや人間のそれではない。

 コスモは私の右頬に触れると、するりと右目を隠すように長く垂らしていた髪をかき上げる。

「やめ……! 」

 顕わになった私の右の目、それは私が一番見られたくない箇所だった。
 薄桃色の左目とは違い、怪しいぐらいどぎついピンク色をしたその瞳は、まさに全ての人間を魅了する悪魔の目であった。

 この瞳を見てしまった者は、私を性的に求めずにはいられなくなる。

「なぁハルちゃん……」

 いかつい見た目に似合わない甘えた声を出すコスモ。どんなにツンケンした人間も、瞳を見ただけで私の言いなりだ。

 醜い。醜い。汚い。汚い。
 情欲を剥き出しにした人間ほど汚らわしいものはない。
 汚らわしい手で私に触るな!!!

 思わずぎゅっと目を瞑ったそのとき、大地を揺るがすような轟音が鳴り響いた。
 
「何だ!? 」

 音に驚いたコスモは、ぱっと私から離れる。
 
 自由になった私は音のした方向に頭を向けた。

「ひっ……」

 そこにいたのは、軽く私を一飲みに出来そうなぐらい大きな狼。きっと縄張りに入り込んできた私たちを排除しようと姿を現したのだろう。

 純白のその体毛はキラキラと輝いていて美しい、しかしその不機嫌そうに開かれた口からは寒気がするぐらいの牙がずらりと並んでいた。

 私は思わず悲鳴をあげた。しかしそれが狼を刺激してしまったのだろうか、狼は唸り始めた。

「うわああああ、助けてくれ~!!! 」

 先ほど辛そうにしていたのは嘘だったのか、コスモが一目散に逃げ出した。
 大きな狼は彼に目をくれることなく、ただ私を真っすぐに見据えている。

 何で!? どうして私なの!?
 あまりの恐怖で体が動かない。

 ゆっくりと近づいてくる狼、今にもその大きな爪を振り下ろしてきそうな殺意を感じる。

「やだ……、来ないで!! 」

 狼は歩みを止めない。
 もう駄目だ、そう思った時、この場に似合わない明るい声が響き渡った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

処理中です...