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内乱の開始

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いっぽうペルディッカスはみずから発案したエジプトへの出征計画に自信を持ってはいたものの、留守にしていく後背地こうはいちには優秀で信用のおける守り手が必要だと考え、エウメネスをキリキアから帰還させることにした。表むきはやはり太守領には太守がいなくては、というものだが、実際にはネオプトレモスの失政によって動揺するアルメニア地方を抑え、自陣営に組み込ませる算段だった。

最初エウメネスは、いまや虚栄と自尊心のとりことなったネオプトレモスに対し、個人的な交流をはかってその行動を制御しようと思ったが、彼の配下のマケドニア歩兵までもが自惚れと横暴に染まっているのを見て、やはり叩くしかないと考えを変えた。

敵に対抗するため騎兵の必要を感じた彼は、乗馬に巧みな原地人をあつめて免税特権と引きかえに兵士に雇用し、また最も信頼する部下にも馬を買い与えて分配した。そうして名誉と贈り物でこれらの人々の精神を鼓舞し、訓練を施し規律をただして体を鍛えさせた。結果、またたく間に6300もの騎兵がエウメネスの周りに集まったのを見て、敵は驚き、味方はおおいに勇気づけられた。


さてこの時クラテロスとアンティパトロスはギリシアの反乱を鎮定し終えたため、いよいよペルディッカスを権力の座から引きずり下そうとアジアへわたり、カッパドキアに侵攻を目論んでいた。

この報告を受けたときペルディッカスはプトレマイオス征伐の途上であったことから、エウメネスをカッパドキアならびにアルメニアの軍司令官に任じ、全権を委ねることにした。また書簡を発して、ネオプトレモスと弟アルケタスにはエウメネスの指揮を仰ぐこと、エウメネスには何ごとも最良と思われるやり方で処理するよう命じた。

だがアルケタスは手勢のマケドニア兵がアンティパトロスに槍を向けることを恥じており、またクラテロスには好意を抱いているため、いま戦えばもろ手をあげて両名に降参しかねないとの理由から、この作戦への参加をきっぱりと拒否した。

なお悪いことにネオプトレモスはエウメネスに対する裏切りを企てていた。ところが未然に発覚してしまったため、追い詰められたネオプトレモスは召集には従わず、手勢を展開して戦闘態勢をとった。

ここで初めてエウメネスは先見の明と周到な準備の成果を得たといえよう。歩兵どうしの戦いでは負けていたにもかかわらず、彼の騎兵隊はネオプトレモスを潰走させ、その財物を奪い取った。さらにネオプトレモス方の歩兵が敵を追うあまり密集陣ファランクスが崩れたところへ全騎兵を率いて突撃し、一気に勝利をつかんだうえ、敵兵には武器を捨てて彼に従うという誓いを立てさせたからである。


いっぽうネオプトレモスはわずかな敗残兵をまとめてクラテロスとアンティパトロスのもとへ駆け込んだが、二将は入れ違いでエウメネスのもとに自派閥へ勧誘する使者を送っていた。いわく――こちらに付けば現在の太守領は安堵あんどする、また追加の軍隊と領土も用意しよう。これで敵であったアンティパトロスとは友となり、友であったクラテロスとは敵対せずに済むだろう――と。

提案を聞いたエウメネスは、このように返答した。――アンティパトロスは積年の敵であって、彼がわが友ペルディッカスを敵と見なしている以上いまさら友人になれるはずもない。だがクラテロスとペルディッカスを和解させ、公正かつ対等な条件で両者を結びつける用意はある。そしてもしどちらかが他方を裏切ろうとするなら、自分は全身全霊でもって被害を受けた側を助け、名誉を失うよりはむしろ命を失うみちをえらぶだろう――と。


これに対しアンティパトロス、クラテロスが今後予想されるあらゆる展開を考慮して熟議を重ねていたところへ、ちょうどネオプトレモスがやって来た。

彼は敗北して兵を失ったことを報告すると、出来ることなら両名に、無理なら少なくともクラテロスには兵を挙げて助けて欲しいと訴えた。マケドニア兵らはクラテロスを長いこと待ち望んでおり、戦場で彼の帽子を見、彼の声を聞けば誰もが武器をたずさえたまませ参じるに違いないから――というのが理由だった。

じっさいクラテロスの名声は非常に高く、アレクサンドロス亡きあと兵士たちの多くが司令官として期待を寄せていたという。かつてアレクサンドロスがペルシアの習俗を取り入れたいという願望を次第々々に強めていったとき、これに決然と反対したのがクラテロスだった。何度となく大王本人の強い不興をこうむってまで贅沢と退廃の蔓延まんえんにより軽蔑されていた祖国マケドニアの伝統を擁護してくれたことを、兵士らは忘れていなかったのである。
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