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第二十三話 決着
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この世界と元の世界の常識は違う。そんなことは分かっていたつもりだった。
そう、つもりだったのだ。目の前の光景を見れば、俺の認識がいかに甘かったかを思い知らされるというものだろう。
「――ふんっ!」
『なああああああ!? こ、この力……一体何者だというのです!?』
ジョニーは、確かに筋骨隆々の大男だ。
身長は二メートルを超えるだろうし、体重だって百キロ以上あるだろう。いきり立つ不良だって身を縮めて争いごとを避けるような、立派過ぎる漢である。
とはいえそれも、あくまで常人の中の話。三階建ての屋敷よりもでかい巨大ロボを相手にしては、自慢の体躯もちっぽけな小人にしか見えないものなのだが……。
「ふん!」
小さな拳が振るわれる度、隕石でも降ってきたかのような爆音が鼓膜に軽く突き刺さり、白銀の巨体が大きく揺らぐ。
発射される幾多の魔法の矢を肉体だけで受けきり、迫る巨大な拳に平然と己の拳を合わせたジョニーは、そのまま魔道ロボを押し返して見せた。
体制を立て直そうとするロボに浴びせられる、ジョニーの拳打。武装などない裸の拳に打たれるたび、ミスリルの装甲が罅割れ砕ける。
「頼んどいてなんだけど、どんだけ強いねん。もう、ジョニー一人で良いんじゃないかな」
「あ、あはは……」
隣のスピカちゃんが苦笑するも、異論はないらしい。
大斧を振るい、巨大な魔物をも屠る彼女からしても、ジョニーの強さは頭がおかしいレベルのようだ。
先程までとは逆転、一方的な展開に冒険者達も戦うのを止め、やんややんやと騒ぎ立てている。あ、何処から酒なんて持って来やがったんだ。ちゃんと働け、ボーナスなしにするぞ!
「ぶーぶー。っていうか俺達が下手に手を出しても邪魔でしょ? だから何もしてないんすよ」
「だからって酒盛り始めんなや。あと賭けも止めろ、ジョニーが負けたらどうすんだ!」
「大丈夫っすよ。あのデカブツがあと何分持つか、っていう賭けなんで」
あ、そうなの。じゃあ俺も参加しよっかな。
などと近くの冒険者とのんびりしている間に、いよいよ戦いは佳境を迎えているようで。
腕を片方失くし、あらゆる場所の装甲はボロボロ。胸部は砕け中身まで見えている魔道ロボが、最後とばかりに残った腕を振り上げる。
『ありえない、このようなことは! 私が長年掛けて造り上げてきた魔道ロボが、たった一人の人間如きにぃ!』
老執事の悲痛な叫びと共に、魔道ロボが跳び上がる。
数メートルとはいえ、あの巨体で跳べるとか普通に凄いな。そう感心する間に落下を始めた魔道ロボは、自らの重さの全てを籠め、一つだけの腕をハンマーのように振り下ろす。
『これで砕けなさいぃぃぃぃいいいいいいい!!』
「…………」
対し、無言で片足を引き、腰を落とすジョニー。
筋肉が浮き上がり、大地が唸りを上げる。解き放たれた右のハイキックは、打ち下ろしの拳と激突。一層激しい衝突音を掻き鳴らす。
うっそだろおい。言ってみれば今のジョニーは片足立ちだ。なんでそんな状態であの重さを支えられるん?
「ふぅー……はあっ!」
そうして、気合の入った低い声と共にジョニーの腰に捻りが加わり。
大地から力を練り上げ、全身を駆動させ力を増した雄雄しい右脚は、その力を余す事無く敵へと伝える。
ビシリ。初めは接触する拳から。次いで腕、肩、そして胴体や全身へと。
美しいミスリルの身体に刻まれていた皹が、次々と大きさを増していき、
『あ、ありえない。私の計算ではこんなこと、有り得ないぃぃぃ!』
最早絶望感さえ漂わせた絶叫を残し、魔道ロボは月夜に降り注ぐ結晶群と化したのであった。
「……綺麗だなー。まるで空から宝石が降り注いでいるみたいだー」
「……回収、する? 売ればお金になる」
「いんや、止めとこう。既に皆群がってるし」
先程まで宴会気分だったはずの冒険者達が、我先にと結晶に群がり懐に収めて行く様を眺めながら、俺は『ボーナスはこれで良いんじゃないかな』とか思っていた。あいつら途中で働くの止めやがったしな。
しかし、ジョニーが強いのは本人から聞いて知ってたが、まさかこれ程とは。何で一級奴隷になったんですかね。世の中武力だけじゃ上手くいかないってことだろうか。
「いやあ、お疲れ様ジョニー。本当の本当に助かったよ」
「……いえ。これくらいは」
塀から顔を出し、佇むジョニーにねぎらいの言葉を掛ける。
あれ、その手に持ってるのは何? ……あ、そう、あの魔道ロボの動力源。暴走して爆発しそうだったから鎮めておいたと。あんたそんなことも出来たの?
ジョニーの万能性に震える俺だが、目端に捉えたそれを見逃しはしなかった。素早く後ろに手を伸ばし、それの後ろ襟をガシリと掴む。
「は、離せ! 誰に許可を貰って掴んでおる、この平民がっ」
「うるせい、どさくさに紛れて逃げようとしてんじゃねーよ。ぶっ飛ばすぞ」
ひぃぃ、と慄く子爵の頭に拳骨が落ちる。
俺じゃないよ。何時の間にか傍までやって来ていた伯爵のだ。
「捕獲感謝します。あとは此方でしっかり拘束しておきますので。それからあの猛者、そなたの知人ですか?」
「ええ、まあ。うちで雇ってる一級奴隷ですけど……」
「そうですか。ならば伝えておいてください、感謝していると。それから、あとで褒賞を与えるとも」
「あ、はい。分かりました」
そう言いながら子爵にアームロックを決める伯爵の姿は、淑やかなのに女傑って感じだった。
っていうか凄い腕力ですね。子爵の顔が真っ青に染まってますよ。散々タップされてもビクともしてないし。
良い笑顔の伯爵から距離を取るように、ククナとスピカちゃんを連れて塀の影から出る。とりあえずジョニーをしっかりとねぎらいに行こう。報酬の話もしなくちゃいかんしな。
「ぐ、うぐ……ぅ。こんな、こんなことが……」
「あ、執事。よく生きてたな、てっきり死んだものだと思ってたぞ」
ジョニーを褒めちぎりねぎらっていると、こんもり積もったミスリル結晶の中から傷だらけの老執事が這い出てくる。
多分、ハイキックの衝撃と、砕けたミスリルに当たって受けた傷だろう。加えてあのデカブツを操る為に何かしていたのかもしれない。老執事は息も絶え絶えで、フルマラソン後のランナーのように限界寸前の有様だ。
俺を庇うように、ククナとスピカちゃんが前に出る。が、俺は二人を制すると、倒れる老執事の前に立つ。
「以前、街中で殴りあった時。あんたとは仲良くなれると思ったんだけどなぁ……」
「ふ、ふふ。あの下らない殴り合いですか。本当はあの時、貴方を殺してそこの二人を奪いたかったのですがな……。流石に人目が多すぎました。殺人などすれば、子爵も煩かったでしょうしな」
憎憎しげに老執事が歯噛みする。
「いいえ、そもそもそれ以前。あの夜、貴方を暗殺出来てさえいれば……所持者の居なくなった奴隷など、どうとでも手に入れられたというのに」
「……あの暗殺者。もしかして、あんたの独断か?」
問いではあるが、同時に確認でもあった。
違和感は感じていたのだ。以前子爵に嫌がらせ云々について問い質した時、あからさまな態度だったにも関わらず、暗殺に関してだけは本気で心当たりがないようだったから。
とぼけているだけかとも思ったが、よくよく考えるとおかしいことに気付く。いきなり暗殺者を仕向けた奴にしては、その後の行動が幼稚過ぎた。
武器を買えないようにしたり。臭いものを擦り付けて来たり。確かに迷惑ではあったが、暗殺に比べると格段にレベルが下がる。
そこから俺は、あの暗殺に関しては別人の仕業じゃないか? と考えるようになっていた。最も、心当たりはなく、やっぱり子爵が黒幕だろうと思っていたのだが……。
「ふ、ふふ、そのとおりですとも。貴方に面子を潰され、怒り心頭の子爵から、貴方に嫌がらせをするようにと指示を受けましたのでね。子爵家の資産を幾らか使っても誤魔化せるだろうと、暗殺者を雇い、貴方を亡き者にしようとしたのですよ」
何故か失敗してしまいましたがな。そう言って老執事は自嘲するように笑った。
詰まりだ。今回の件は、奴隷競売で負け俺に嫌がらせをしたかった子爵と、己が魔道ロボを完成させる為にククナ達を欲し俺を亡き者にしようとした老執事と、二つの思惑が重なって起きた出来事だったと。
糞迷惑な話だな。俺にしてみれば知ったことかって感じだ。ただルールに則り、二級奴隷を落札しただけなのに。
「……予想外でしたよ。私の魔道ロボが負けるとは。ですがっ」
きらり、老執事の目が光る。
伸ばされた手の先に宿る、猛々しい魔法の炎。
「こうなったら、せめて貴方の命を貰い、この屈辱を晴らさせてもらいます――!」
あーあー凄絶な笑みを浮かべちゃって。
最後の足掻きは良いけどさぁ。お前、こっちに誰が居るのか忘れたのかよ?
「ジョニー」
「……はい」
「ほ? ほぶばっ!?」
一言。それだけで魔法が放たれるよりも早く、目の前に現れた筋肉漢の右腕が唸りを上げる。
上から叩き付けるようなストレート。老執事の顔が歪む瞬間がはっきり分かり、俺はうへーと呟きながら両手を合わせ、冥福を祈った。
まあ、死んではいないようだけど。ジョニーが手加減してくれたようだ、殺人は流石に不味いからね。
「何はともあれ。これで一件落着、かな?」
やって来た伯爵の護衛に引き摺られていく老執事を見やり、俺は安堵と共に何とはなしに夜空を見上げたのであった。
……相変わらずムカつく顔の月だ。ジョニーならあれ、壊せないかなぁ。
そう、つもりだったのだ。目の前の光景を見れば、俺の認識がいかに甘かったかを思い知らされるというものだろう。
「――ふんっ!」
『なああああああ!? こ、この力……一体何者だというのです!?』
ジョニーは、確かに筋骨隆々の大男だ。
身長は二メートルを超えるだろうし、体重だって百キロ以上あるだろう。いきり立つ不良だって身を縮めて争いごとを避けるような、立派過ぎる漢である。
とはいえそれも、あくまで常人の中の話。三階建ての屋敷よりもでかい巨大ロボを相手にしては、自慢の体躯もちっぽけな小人にしか見えないものなのだが……。
「ふん!」
小さな拳が振るわれる度、隕石でも降ってきたかのような爆音が鼓膜に軽く突き刺さり、白銀の巨体が大きく揺らぐ。
発射される幾多の魔法の矢を肉体だけで受けきり、迫る巨大な拳に平然と己の拳を合わせたジョニーは、そのまま魔道ロボを押し返して見せた。
体制を立て直そうとするロボに浴びせられる、ジョニーの拳打。武装などない裸の拳に打たれるたび、ミスリルの装甲が罅割れ砕ける。
「頼んどいてなんだけど、どんだけ強いねん。もう、ジョニー一人で良いんじゃないかな」
「あ、あはは……」
隣のスピカちゃんが苦笑するも、異論はないらしい。
大斧を振るい、巨大な魔物をも屠る彼女からしても、ジョニーの強さは頭がおかしいレベルのようだ。
先程までとは逆転、一方的な展開に冒険者達も戦うのを止め、やんややんやと騒ぎ立てている。あ、何処から酒なんて持って来やがったんだ。ちゃんと働け、ボーナスなしにするぞ!
「ぶーぶー。っていうか俺達が下手に手を出しても邪魔でしょ? だから何もしてないんすよ」
「だからって酒盛り始めんなや。あと賭けも止めろ、ジョニーが負けたらどうすんだ!」
「大丈夫っすよ。あのデカブツがあと何分持つか、っていう賭けなんで」
あ、そうなの。じゃあ俺も参加しよっかな。
などと近くの冒険者とのんびりしている間に、いよいよ戦いは佳境を迎えているようで。
腕を片方失くし、あらゆる場所の装甲はボロボロ。胸部は砕け中身まで見えている魔道ロボが、最後とばかりに残った腕を振り上げる。
『ありえない、このようなことは! 私が長年掛けて造り上げてきた魔道ロボが、たった一人の人間如きにぃ!』
老執事の悲痛な叫びと共に、魔道ロボが跳び上がる。
数メートルとはいえ、あの巨体で跳べるとか普通に凄いな。そう感心する間に落下を始めた魔道ロボは、自らの重さの全てを籠め、一つだけの腕をハンマーのように振り下ろす。
『これで砕けなさいぃぃぃぃいいいいいいい!!』
「…………」
対し、無言で片足を引き、腰を落とすジョニー。
筋肉が浮き上がり、大地が唸りを上げる。解き放たれた右のハイキックは、打ち下ろしの拳と激突。一層激しい衝突音を掻き鳴らす。
うっそだろおい。言ってみれば今のジョニーは片足立ちだ。なんでそんな状態であの重さを支えられるん?
「ふぅー……はあっ!」
そうして、気合の入った低い声と共にジョニーの腰に捻りが加わり。
大地から力を練り上げ、全身を駆動させ力を増した雄雄しい右脚は、その力を余す事無く敵へと伝える。
ビシリ。初めは接触する拳から。次いで腕、肩、そして胴体や全身へと。
美しいミスリルの身体に刻まれていた皹が、次々と大きさを増していき、
『あ、ありえない。私の計算ではこんなこと、有り得ないぃぃぃ!』
最早絶望感さえ漂わせた絶叫を残し、魔道ロボは月夜に降り注ぐ結晶群と化したのであった。
「……綺麗だなー。まるで空から宝石が降り注いでいるみたいだー」
「……回収、する? 売ればお金になる」
「いんや、止めとこう。既に皆群がってるし」
先程まで宴会気分だったはずの冒険者達が、我先にと結晶に群がり懐に収めて行く様を眺めながら、俺は『ボーナスはこれで良いんじゃないかな』とか思っていた。あいつら途中で働くの止めやがったしな。
しかし、ジョニーが強いのは本人から聞いて知ってたが、まさかこれ程とは。何で一級奴隷になったんですかね。世の中武力だけじゃ上手くいかないってことだろうか。
「いやあ、お疲れ様ジョニー。本当の本当に助かったよ」
「……いえ。これくらいは」
塀から顔を出し、佇むジョニーにねぎらいの言葉を掛ける。
あれ、その手に持ってるのは何? ……あ、そう、あの魔道ロボの動力源。暴走して爆発しそうだったから鎮めておいたと。あんたそんなことも出来たの?
ジョニーの万能性に震える俺だが、目端に捉えたそれを見逃しはしなかった。素早く後ろに手を伸ばし、それの後ろ襟をガシリと掴む。
「は、離せ! 誰に許可を貰って掴んでおる、この平民がっ」
「うるせい、どさくさに紛れて逃げようとしてんじゃねーよ。ぶっ飛ばすぞ」
ひぃぃ、と慄く子爵の頭に拳骨が落ちる。
俺じゃないよ。何時の間にか傍までやって来ていた伯爵のだ。
「捕獲感謝します。あとは此方でしっかり拘束しておきますので。それからあの猛者、そなたの知人ですか?」
「ええ、まあ。うちで雇ってる一級奴隷ですけど……」
「そうですか。ならば伝えておいてください、感謝していると。それから、あとで褒賞を与えるとも」
「あ、はい。分かりました」
そう言いながら子爵にアームロックを決める伯爵の姿は、淑やかなのに女傑って感じだった。
っていうか凄い腕力ですね。子爵の顔が真っ青に染まってますよ。散々タップされてもビクともしてないし。
良い笑顔の伯爵から距離を取るように、ククナとスピカちゃんを連れて塀の影から出る。とりあえずジョニーをしっかりとねぎらいに行こう。報酬の話もしなくちゃいかんしな。
「ぐ、うぐ……ぅ。こんな、こんなことが……」
「あ、執事。よく生きてたな、てっきり死んだものだと思ってたぞ」
ジョニーを褒めちぎりねぎらっていると、こんもり積もったミスリル結晶の中から傷だらけの老執事が這い出てくる。
多分、ハイキックの衝撃と、砕けたミスリルに当たって受けた傷だろう。加えてあのデカブツを操る為に何かしていたのかもしれない。老執事は息も絶え絶えで、フルマラソン後のランナーのように限界寸前の有様だ。
俺を庇うように、ククナとスピカちゃんが前に出る。が、俺は二人を制すると、倒れる老執事の前に立つ。
「以前、街中で殴りあった時。あんたとは仲良くなれると思ったんだけどなぁ……」
「ふ、ふふ。あの下らない殴り合いですか。本当はあの時、貴方を殺してそこの二人を奪いたかったのですがな……。流石に人目が多すぎました。殺人などすれば、子爵も煩かったでしょうしな」
憎憎しげに老執事が歯噛みする。
「いいえ、そもそもそれ以前。あの夜、貴方を暗殺出来てさえいれば……所持者の居なくなった奴隷など、どうとでも手に入れられたというのに」
「……あの暗殺者。もしかして、あんたの独断か?」
問いではあるが、同時に確認でもあった。
違和感は感じていたのだ。以前子爵に嫌がらせ云々について問い質した時、あからさまな態度だったにも関わらず、暗殺に関してだけは本気で心当たりがないようだったから。
とぼけているだけかとも思ったが、よくよく考えるとおかしいことに気付く。いきなり暗殺者を仕向けた奴にしては、その後の行動が幼稚過ぎた。
武器を買えないようにしたり。臭いものを擦り付けて来たり。確かに迷惑ではあったが、暗殺に比べると格段にレベルが下がる。
そこから俺は、あの暗殺に関しては別人の仕業じゃないか? と考えるようになっていた。最も、心当たりはなく、やっぱり子爵が黒幕だろうと思っていたのだが……。
「ふ、ふふ、そのとおりですとも。貴方に面子を潰され、怒り心頭の子爵から、貴方に嫌がらせをするようにと指示を受けましたのでね。子爵家の資産を幾らか使っても誤魔化せるだろうと、暗殺者を雇い、貴方を亡き者にしようとしたのですよ」
何故か失敗してしまいましたがな。そう言って老執事は自嘲するように笑った。
詰まりだ。今回の件は、奴隷競売で負け俺に嫌がらせをしたかった子爵と、己が魔道ロボを完成させる為にククナ達を欲し俺を亡き者にしようとした老執事と、二つの思惑が重なって起きた出来事だったと。
糞迷惑な話だな。俺にしてみれば知ったことかって感じだ。ただルールに則り、二級奴隷を落札しただけなのに。
「……予想外でしたよ。私の魔道ロボが負けるとは。ですがっ」
きらり、老執事の目が光る。
伸ばされた手の先に宿る、猛々しい魔法の炎。
「こうなったら、せめて貴方の命を貰い、この屈辱を晴らさせてもらいます――!」
あーあー凄絶な笑みを浮かべちゃって。
最後の足掻きは良いけどさぁ。お前、こっちに誰が居るのか忘れたのかよ?
「ジョニー」
「……はい」
「ほ? ほぶばっ!?」
一言。それだけで魔法が放たれるよりも早く、目の前に現れた筋肉漢の右腕が唸りを上げる。
上から叩き付けるようなストレート。老執事の顔が歪む瞬間がはっきり分かり、俺はうへーと呟きながら両手を合わせ、冥福を祈った。
まあ、死んではいないようだけど。ジョニーが手加減してくれたようだ、殺人は流石に不味いからね。
「何はともあれ。これで一件落着、かな?」
やって来た伯爵の護衛に引き摺られていく老執事を見やり、俺は安堵と共に何とはなしに夜空を見上げたのであった。
……相変わらずムカつく顔の月だ。ジョニーならあれ、壊せないかなぁ。
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ジョニーそんなに強いんですか???
冒険者が傭兵になってるw
最初から突撃させれば良かったのに……
豚の最後が楽しみです
しっかり動画撮影www
漢の鑑ですねwwww