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やはり司教は悪!粉砕する!
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SIDE:リエット
相変わらず、シェイド司教の屋敷は華美とは無縁な質素さだ。
ヤゼス教の要職に就く者は、屋敷に手を加えて自らの思想や立場といった色を示したがるが、シェイド司教はそういった気概が薄い。
無論、立場相応に広い屋敷ではあるのだが、こうして歩き進んでいる廊下を見ても、建具にも凝った装飾などはまずなく、飾り気を強いて挙げるとすれば、実用だけを求めた調度品が廊下の所々に置かれているぐらいだ。
『祈りで心を満たせば、不要なものは削ぎ落される』と、シェイド司教は常々仰っていたが、この飾り気のない館の姿はまさにそれを体現しているようでもある。
私が聖女としての教育を受けていたあの頃、何度か足を運んだ時と変わりがない館の様子に懐かしさに浸っているうちに、目的の場所へと辿り着いた。
見覚えのあるそこは、シェイド司教の執務室だ。
「聖女様をお連れいたしました」
―ご苦労様。中へ
他の部屋のものと比べて幾分か立派な扉の前に立ち、案内をしていた使用人が呼びかけると、すぐに室内へ招き入れる声が聞こえてくる。
使用人はここまでのようで一礼してその場から離れていき、私だけが部屋の前に残された。
招かれた以上、ただ突っ立っているわけにもいかず、両開きの扉を開けて室内へと足を踏み入れた。
屋敷全体がそうだったように、この執務室もまた華美さとは程遠く、一番立派な調度品と言えるのは執務机ぐらいだろう。
そんな中、シェイド司教は私に背を向ける形で窓の傍に立ち、外を見ていた。
好んでよく来ている薄黄色の法衣に凛とした立ち姿は、たとえ顔が見えずともそこにいるのがシェイド司教であると雄弁に語っている。
「…誘拐されたと聞いた時はどうなることかと思いましたが、怪我もないようで何よりです。よくぞ無事に戻ってきてくれましたね、リエット」
私が来たことには当然気付いており、何か思案するように窓の外を眺めて見つめていた顔がこちらを向いた。
穏やかな声を紡ぎながら微笑みを湛えるその顔を見た時、自分が安堵を覚えているのに気付く。
この身にたった一日の間に起きた事のせいで、今も心身が安らかとは言えなかったのだが、こうして信頼できる人を傍に感じたことでようやく一心地着いた気がする。
「ご心配をおかけしました。お察しの通り、怪我もございません。誘拐の件も…全てとは言いませんが、一先ずは危険がない事態には落ち着いたかと」
司教ほどともなれば、私が誘拐された情報を掴んでいてもおかしくはないのだが、それにしてもシェイド司教のこの落ち着きようは流石という外ない。
行方の分からないはずの私が突然屋敷に訪れたというのに、まるでこうなることが分かっていたかのようにも思える。
もっとも、この反応も多少は予想していた。
五十も半ばを迎え、老成されているとはいえ、シェイド司教が慌てたり驚いたりするところを私はこれまで見たことがない。
内心でどうかはともかく、感情の揺れがほとんど表に出ない様は頼もしくすらある。
「そうですか。一時は行方知れずとなっていたようですが、私の所へ辿り着けたのは神のお導きでしょう。しかし先程受けた報告では、なにやら教会関係者ではない男性を連れていたとか。何者ですか?」
「彼の者は昨夜、誘拐犯の手から私を逃がし、その後も匿ってくれていた者です。先日に縁故を持ちましたが、決して害意のある者ではありません」
あっさりと招き入れはしたが、ここまで私と同道してきたアンディのことは気になるようで、不審そうに尋ねられた。
シェイド司教相手なら隠す必要はないのだが、聖衣やパーラの治療のことまで事細かに説明するのは少し面倒だ。
とりあえず、大雑把にではあるが警戒する人間ではないことだけを伝えておく。
「ふむ、事が起きたのは夜中だったはずです。そんな時間に聖女の誘拐現場に、たまたまその男が居合わせたと?」
事実を言ったはずなのに、シェイド司教のこちらを見る目に、疑いの色が灯る。
まぁこればかりは仕方がない。
なにせ、アンディが私の寝所に忍び込んできたのは事実で、誘拐犯とかち合ってから後の流れは正直、どちらが誘拐犯か分かったものではなかった。
実際は私を助けるために即興で行動したとは分かっているが、外から見れば事実としてアンディが怪しい人間に思えてならないのだろう。
「仰る通り疑念はありましょうが、あの時にアンディがいなければこの身が今どうなっていたことか」
「運がよかった、というには些か出来過ぎのような気もしますが…まぁいいでしょう。いずれにせよ、そのアンディなる者は死する定めなのですから」
納得するかはともかく、疑いを飲み込むように鷹揚に頷くシェイド司教の口から、思いもしない言葉が飛び出た。
確かに私の耳には届きはしたが、その意味を理解するのに頭の中で数度、シェイド司教の声が響く様にめぐる。
「死する、定めとは?仰る意味がよく…」
何故今それを口にしたのか、私には理解できずそう尋ねる唇は動揺から微かに震えてしまう。
そんな私の言葉に、シェイド司教がクスリと小さく笑うと、いつもと変わらない様子だと思えていたシェイド司教の姿が、途端に得体のしれない不気味さを醸し出す。
「聞けばあの者、かなりの手練れだとか。またあなたを連れていずこへ姿を眩ませては面倒故、毒を盛っておきました。今頃は主の下へ召されていましょう。罪深きものでも死すれば主の御許へ行けるなど、幸運なことです」
聖職者というのは、本来ならば命の尊さを説くべき立場にいる。
だというのに、恍惚とした表情で人に毒を盛ったと告げるその口が、いかに悍ましいかを私は今日、骨の髄まで思い知らされた。
「なぜそのような、アンディは敵などではっ!……いえ、それよりも一体誰からアンディが手練れと聞いたのです?」
私がアンディの纏う魔力に触れたところから察するに、確かに彼は強大な魔術師ではある。
おまけに噴射装置のような特殊な道具も扱う、その際の体裁きからも手練れの戦士という側面も垣間見た。
だがそれはあくまでも、すぐ傍でアンディという人間を見た上での評価だ。
だというのに、なぜシェイド司教はそれを知っている?
仮に私の誘拐があった後、情報を集めていたとしてもアンディのことまで知るはずもない。
あの晩、私を連れ去ったのがアンディだというのは、この場で初めて明かしたのだから。
知っているとするならば、誘拐騒ぎの現場に居合わせた人間で、しかも直接交戦してアンディの実力を肌で知る者ぐらいだろう。
とするならば、シェイド司教に昨夜と絡めてアンディのことを伝えたのが誰か…考え得る人間は限られる。
「あなたは昔から賢しい子ではありましたが、私のことになると妄信するかのように察しが悪い。時としてそれが美点にもなりましたが、今はそれがなんともわずらわしい」
「なんの話を―ぎゃうっ!?」
まだ私が教えを受けていた頃のように、温かく優しく説くような声に疑問を返そうとしたその時、私の体が強い力で弾かれるようにして地面へ叩きつけられた。
全身が激しい衝撃に襲われ、肺の中の空気がくぐもった悲鳴と共に無理矢理吐き出される。
痛みと共にまるで岩を背負うような重さを感じ、満足に動かせない首を何とか巡らせて背後を見ると、倒れ伏す私にのしかかる人影と目があった。
この部屋には私とシェイド司教しかいなかったはずなのに、一体どこから現れたというのか。
「何、者です!私を誰と知っての…っ!」
司教の館で聖女に対する仕打ちとしては、まったくあり得ないやり口へ避難を口にするが、それも途中で止まる。
顔は布で覆われていて見えず、衣服は肌にピタリと沿うような黒装束という、どう見ても普通の職業に就いているとは思えない人間なのだが、その気配には覚えがあった。
「まさか、昨夜の!?」
この人影の正体は、昨夜私の寝所へ押し入った誘拐犯の一人で間違いない。
暗闇のせいで姿をしっかりとは見ていないが、それでもあの日遭遇した誘拐犯達の悪意ある気配は忘れられるものではない。
「シェイド司教!この者は昨夜の賊です!すぐに警護の……シェイド司教?」
なぜここに昨夜の賊がいるのかはともかく、荒事に慣れていない私とシェイド司教では危険な状況だと理解した。
すぐに館の警備の者を呼ぶべく訴えかけたのだが、どういうわけかシェイド司教は微かにも身動ぎすることなく私を見つめるのみだ。
賊が目の前にいるというのに、恐れや警戒する素振りも見せない。
普段通りといえばそうだが、それ以上の何かを感じ、僅かに覚えた違和感が頭の中を駆け巡るようにして一つの可能性を示す。
「…あなたの、手の者なのですか?誘拐も、あなたが!?」
あくまでも私の想像に過ぎないと、できることなら違うと言ってくれると一抹の希望をもって叫ぶ私を見て、シェイド司教が呆れたように溜息を零した。
その態度は、私の予想を否定するものでは断じてない。
「…やはり、察しが悪い。ええその通り、それは私が雇った凶手です。かなりの手間と費えと引き換えに腕利きということで雇ったのですが…まぁ期待外れでしたね。もっとも、こうしてあなたを捕まえてはくれているので、まったくの無駄ではなかったようですが」
はっきりと、凶手を雇ったと口にしたシェイド司教には、一切悪びれる様子がない。
それはまるで、朝食のパンを選ぶかのような気軽さで、私の命を狙う人間を手配したともとれる。
「そのような……私になにか恨みが?」
聖女になる前から、そしてなってからも、私が最も敬愛していたのはシェイド司教だ。
それがたった今裏切りを突きつけれられ、まるで真冬の泉にこの身を沈められたような、冷たい絶望が襲い掛かってくる。
つい先日会食をした時は、私を恨む様子など微塵も見せてはいなかったというのに。
もっとも、恨みを隠して仇と食事をするぐらいに、かえって恨みが深いとも考えられるが。
だとしても、いったい何の恨みがあって私を誘拐し、あまつさえ命すら狙おうというのかが分からない。
愕然としたまま答えを求めてシェイド司教を睨むように見つめると、穏やかだった顔が一転、恐ろしい形相へと変わっていく。
「なぜ、と。よくもそのように言えたものです。忌まわしくも欺瞞を謳うその口が!汚らわしくも男の身で聖女など!」
今にも火を吐くのではないかというほど、シェイド司教は怒りと憎しみが込もった言葉を口にする。
誰からそれを知ったのか気にはなるが、おかげでシェイド司教が私へ向ける恨みの正体も分かった。
元々潔癖と言っていいほど、正しさを強く求めるのがシェイド司教という人だった。
間違いや失敗には寛容だが、嘘をつくことへはとにかく厳しい。
それゆえ、両性具有者でありながら聖女へと就いた私は、ヤゼス教という仕組みの中では大きな歪みに見えていたのかもしれない。
教会の上層部には私の秘密を知る人間も多いが、それでも知らない人間は確かにいる。
シェイド司教もその一人だ。
私が両性具有の体であることは、シェイド司教には私から明かしてはいなかった。
騙すつもりなどなく、単に聞かれることもなかった以上、こちらからは打ち明けたくなかった。
なにせ普通の女性と違うというこの点は、私にとっては知られたくはない事実だからだ。
その性格から、真実を知ればどういう行動に出るか分からないため、シェイド司教には明かさないということを枢機卿が決めたと聞いている。
実際、この反応を見るに、シェイド司教には秘することを決めたその時の枢機卿の判断は正しかったと言える。
「違います!私は女です!確かに体の一部にはその、男性の特徴はありますが…それでも!聖女としての在り方に背くものは何一つないと断言できます!」
「お黙りなさい!いかに取り繕おうが、その体は純然たる聖女とは言えない!あなたの存在が!ヤゼス教の歴史の中で、拭いきれぬ汚点となるのです!」
この体が普通でないことを自覚しながらも、今日まで聖女として恥じることなく務めてきたと自負していた。
だが、シェイド司教はそれを否定し、踏みにじるような言葉を私にぶつけてくる。
元々シェイド司教は、ヤゼス教の教義を厳格に守ることで知られている。
次代の聖女候補として私が教育を受けていた時も、教えの一つ一つを叩き込まれるたびに、それが十分に伝わっていたほどだ。
加えて、口には出していなかったがシェイド司教には、どこか男性を嫌悪しているように感じられていた。
これは聖職者の中では珍しいことではなく、幼少期から男性と隔離されて修行を積んだ修道女にはよく見られる傾向だという。
シェイド司教もその口だとは思うが、だからこそ、聖女として育てた私に男性の特徴があることが許せないのだろう。
「その在り方のなんたる不徳か!誘拐などと下賤な手も取らざるを得なかった私の屈辱があなたに分かりますか!?」
「誘拐…そういえば、何故私を誘拐などしようとしたのです?憎いのならその場で命を取ればよかったでしょう!?」
アンディも言っていたが、誘拐というのは実行前と実行後の手間が大きいらしい。
わざわざ私の寝所まで凶手を送ったのなら、誘拐などせずに殺す方が手っ取り早いはず。
なにかよほどの狙いがあったとでもいうのか。
「…曲がりなりにもあなたは聖女です。館で暗殺されたとなれば、教会内に混乱を招く。ただ正直なところ、どちらでもよかったのですよ。あなたを攫えればそれでよし、無理ならその場で殺してもいいと、その者には言い含めていました。結局、失敗しましたが」
そう言いながら、シェイド司教は凶手へと冷めた視線を向ける。
高いお金を出して雇ったというのに、目的を果たせなかった人間など価値がないと目で語っている。
もっとも、私としてはこの凶手が単純に無能だったとは思えない。
あの晩、アンディという乱入者が現れたのが不幸だったと言う外ないだろう。
計画ともズレが出たことで、恐らくシェイド司教も焦ったはず。
だがこうして逃がした標的が自分からノコノコとやってきたため、護衛役を毒殺した上で私を始末することにしたわけだ。
つまり、ここへ逃げ込むことを決めた私の迂闊さが、この事態へ繋がっているとも言える。
今朝の時点でシェイド司教が敵だと気付くことは難しかったとしても、せめてもう少し情報を集めて動いていれば…。
「さて、長々と話してしまいましたが、そろそろお別れといたしましょうか。私も暇ではありませんので」
スッと目を細め、シェイド司教の気配が冷たく、鋭いものへと変わる。
いよいよ私を殺そうというのか。
「私を殺したとして、死体が出ればあなたに調査の手が及ぶでしょう!この企みも全て明るみに出ます!今日まで守って来た地位も何もかも、全てを失う覚悟はあるのですか!?」
「すべては信仰のため。望むところです。もっとも、私へ累が及ぶような証拠は残すつもりはありませんが。あなたの死体も、全て綺麗に処理してあげますよ。安心なさい」
無駄とは分かっていながら、思い直す可能性へと賭けてそう問いかけては見たものの、やはりシェイド司教に心変わりはない。
何やら私の死体ごと殺害の証拠を隠滅する算段があるようで、果たして聖女殺害の罪からいかにして免れるというのか。
もはや私を殺すということへの躊躇いもないのだろう。
シェイド司教が狂気すらも見えるほど冷たい目で凶手へと目配せをすると、背後で金属がこすれる音が聞こえてきた。
「一度は私が直々に教えを与えた者です。せめてもの慈悲に苦しまずやってやりなさい」
酷薄な慈悲をシェイド司教が口にしたのと同時に、私を捕えている手に力がさらに籠った。
やられると、そう感じた時には恐怖も悲しみもなく、ただ悔しさと空しさで目を閉じる。
これで私の生涯が終わるのだと、潔く死を受け入れようとするが、体を襲う震えは止まない。
最後まで私は死の恐怖に苛まれて死ぬのかと、嘆く言葉を吐こうと下その時、窓が激しい音と共に割れて飛び散った。
部屋にいた誰もが音の源へと視線を吸い寄せられると、陽光を受けて煌めく欠片の中を切り裂くように人影が室内へ飛び込んできた。
司教の執務室へ窓を突き破って現れるなど、到底まともな人間の所業とは言えないが、今に限っては私にとって天の助けと等しい。
窓から入って来た勢いのまま、その人影は床へ足を着けると同時に剣らしきものを振るってこちらへと迫って来た。
その剣が狙ったのは、私を押さえつけている人間の方だ。
閃光が走る様な鋭い突きに、凶手の方も反応は早かった。
すぐさま私の体から飛び立つように離れると前へ飛び出し、こちらも手に持っていた剣で迫る刺突を迎え撃つ。
瞬きよりも短い一瞬の間に、少なくとも私の目に見えた限りでは四度、火花が散ったかと思えば、気が付くと私は人影に抱えられて部屋の隅へと運ばれていた。
この段階で、ようやく人影の正体が判明した。
凶手と打ち合った時点で、少なくとも私にとっての敵ではないとは分かっていたが、こうして間近で姿を見て味方と確信できた。
「…この国に来てから、よくよく窓を割る機会に恵まれる」
その力強い立ち姿に、頼もしさと安堵を覚える。
シェイド司教が毒を盛ったと言っていたが、弱った様子もなく、まさに今、私を守ろうと敵に立ちはだかる様は、まるで伝承にある神の尖兵のようではないか。
「もう安心していい。何故なら―」
シェイド司教を庇うように立ち位置を変えた凶手を睨みながら、人影の正体―アンディの口からは力に満ちた声が続く。
「俺が来た」
SIDE:END
相変わらず、シェイド司教の屋敷は華美とは無縁な質素さだ。
ヤゼス教の要職に就く者は、屋敷に手を加えて自らの思想や立場といった色を示したがるが、シェイド司教はそういった気概が薄い。
無論、立場相応に広い屋敷ではあるのだが、こうして歩き進んでいる廊下を見ても、建具にも凝った装飾などはまずなく、飾り気を強いて挙げるとすれば、実用だけを求めた調度品が廊下の所々に置かれているぐらいだ。
『祈りで心を満たせば、不要なものは削ぎ落される』と、シェイド司教は常々仰っていたが、この飾り気のない館の姿はまさにそれを体現しているようでもある。
私が聖女としての教育を受けていたあの頃、何度か足を運んだ時と変わりがない館の様子に懐かしさに浸っているうちに、目的の場所へと辿り着いた。
見覚えのあるそこは、シェイド司教の執務室だ。
「聖女様をお連れいたしました」
―ご苦労様。中へ
他の部屋のものと比べて幾分か立派な扉の前に立ち、案内をしていた使用人が呼びかけると、すぐに室内へ招き入れる声が聞こえてくる。
使用人はここまでのようで一礼してその場から離れていき、私だけが部屋の前に残された。
招かれた以上、ただ突っ立っているわけにもいかず、両開きの扉を開けて室内へと足を踏み入れた。
屋敷全体がそうだったように、この執務室もまた華美さとは程遠く、一番立派な調度品と言えるのは執務机ぐらいだろう。
そんな中、シェイド司教は私に背を向ける形で窓の傍に立ち、外を見ていた。
好んでよく来ている薄黄色の法衣に凛とした立ち姿は、たとえ顔が見えずともそこにいるのがシェイド司教であると雄弁に語っている。
「…誘拐されたと聞いた時はどうなることかと思いましたが、怪我もないようで何よりです。よくぞ無事に戻ってきてくれましたね、リエット」
私が来たことには当然気付いており、何か思案するように窓の外を眺めて見つめていた顔がこちらを向いた。
穏やかな声を紡ぎながら微笑みを湛えるその顔を見た時、自分が安堵を覚えているのに気付く。
この身にたった一日の間に起きた事のせいで、今も心身が安らかとは言えなかったのだが、こうして信頼できる人を傍に感じたことでようやく一心地着いた気がする。
「ご心配をおかけしました。お察しの通り、怪我もございません。誘拐の件も…全てとは言いませんが、一先ずは危険がない事態には落ち着いたかと」
司教ほどともなれば、私が誘拐された情報を掴んでいてもおかしくはないのだが、それにしてもシェイド司教のこの落ち着きようは流石という外ない。
行方の分からないはずの私が突然屋敷に訪れたというのに、まるでこうなることが分かっていたかのようにも思える。
もっとも、この反応も多少は予想していた。
五十も半ばを迎え、老成されているとはいえ、シェイド司教が慌てたり驚いたりするところを私はこれまで見たことがない。
内心でどうかはともかく、感情の揺れがほとんど表に出ない様は頼もしくすらある。
「そうですか。一時は行方知れずとなっていたようですが、私の所へ辿り着けたのは神のお導きでしょう。しかし先程受けた報告では、なにやら教会関係者ではない男性を連れていたとか。何者ですか?」
「彼の者は昨夜、誘拐犯の手から私を逃がし、その後も匿ってくれていた者です。先日に縁故を持ちましたが、決して害意のある者ではありません」
あっさりと招き入れはしたが、ここまで私と同道してきたアンディのことは気になるようで、不審そうに尋ねられた。
シェイド司教相手なら隠す必要はないのだが、聖衣やパーラの治療のことまで事細かに説明するのは少し面倒だ。
とりあえず、大雑把にではあるが警戒する人間ではないことだけを伝えておく。
「ふむ、事が起きたのは夜中だったはずです。そんな時間に聖女の誘拐現場に、たまたまその男が居合わせたと?」
事実を言ったはずなのに、シェイド司教のこちらを見る目に、疑いの色が灯る。
まぁこればかりは仕方がない。
なにせ、アンディが私の寝所に忍び込んできたのは事実で、誘拐犯とかち合ってから後の流れは正直、どちらが誘拐犯か分かったものではなかった。
実際は私を助けるために即興で行動したとは分かっているが、外から見れば事実としてアンディが怪しい人間に思えてならないのだろう。
「仰る通り疑念はありましょうが、あの時にアンディがいなければこの身が今どうなっていたことか」
「運がよかった、というには些か出来過ぎのような気もしますが…まぁいいでしょう。いずれにせよ、そのアンディなる者は死する定めなのですから」
納得するかはともかく、疑いを飲み込むように鷹揚に頷くシェイド司教の口から、思いもしない言葉が飛び出た。
確かに私の耳には届きはしたが、その意味を理解するのに頭の中で数度、シェイド司教の声が響く様にめぐる。
「死する、定めとは?仰る意味がよく…」
何故今それを口にしたのか、私には理解できずそう尋ねる唇は動揺から微かに震えてしまう。
そんな私の言葉に、シェイド司教がクスリと小さく笑うと、いつもと変わらない様子だと思えていたシェイド司教の姿が、途端に得体のしれない不気味さを醸し出す。
「聞けばあの者、かなりの手練れだとか。またあなたを連れていずこへ姿を眩ませては面倒故、毒を盛っておきました。今頃は主の下へ召されていましょう。罪深きものでも死すれば主の御許へ行けるなど、幸運なことです」
聖職者というのは、本来ならば命の尊さを説くべき立場にいる。
だというのに、恍惚とした表情で人に毒を盛ったと告げるその口が、いかに悍ましいかを私は今日、骨の髄まで思い知らされた。
「なぜそのような、アンディは敵などではっ!……いえ、それよりも一体誰からアンディが手練れと聞いたのです?」
私がアンディの纏う魔力に触れたところから察するに、確かに彼は強大な魔術師ではある。
おまけに噴射装置のような特殊な道具も扱う、その際の体裁きからも手練れの戦士という側面も垣間見た。
だがそれはあくまでも、すぐ傍でアンディという人間を見た上での評価だ。
だというのに、なぜシェイド司教はそれを知っている?
仮に私の誘拐があった後、情報を集めていたとしてもアンディのことまで知るはずもない。
あの晩、私を連れ去ったのがアンディだというのは、この場で初めて明かしたのだから。
知っているとするならば、誘拐騒ぎの現場に居合わせた人間で、しかも直接交戦してアンディの実力を肌で知る者ぐらいだろう。
とするならば、シェイド司教に昨夜と絡めてアンディのことを伝えたのが誰か…考え得る人間は限られる。
「あなたは昔から賢しい子ではありましたが、私のことになると妄信するかのように察しが悪い。時としてそれが美点にもなりましたが、今はそれがなんともわずらわしい」
「なんの話を―ぎゃうっ!?」
まだ私が教えを受けていた頃のように、温かく優しく説くような声に疑問を返そうとしたその時、私の体が強い力で弾かれるようにして地面へ叩きつけられた。
全身が激しい衝撃に襲われ、肺の中の空気がくぐもった悲鳴と共に無理矢理吐き出される。
痛みと共にまるで岩を背負うような重さを感じ、満足に動かせない首を何とか巡らせて背後を見ると、倒れ伏す私にのしかかる人影と目があった。
この部屋には私とシェイド司教しかいなかったはずなのに、一体どこから現れたというのか。
「何、者です!私を誰と知っての…っ!」
司教の館で聖女に対する仕打ちとしては、まったくあり得ないやり口へ避難を口にするが、それも途中で止まる。
顔は布で覆われていて見えず、衣服は肌にピタリと沿うような黒装束という、どう見ても普通の職業に就いているとは思えない人間なのだが、その気配には覚えがあった。
「まさか、昨夜の!?」
この人影の正体は、昨夜私の寝所へ押し入った誘拐犯の一人で間違いない。
暗闇のせいで姿をしっかりとは見ていないが、それでもあの日遭遇した誘拐犯達の悪意ある気配は忘れられるものではない。
「シェイド司教!この者は昨夜の賊です!すぐに警護の……シェイド司教?」
なぜここに昨夜の賊がいるのかはともかく、荒事に慣れていない私とシェイド司教では危険な状況だと理解した。
すぐに館の警備の者を呼ぶべく訴えかけたのだが、どういうわけかシェイド司教は微かにも身動ぎすることなく私を見つめるのみだ。
賊が目の前にいるというのに、恐れや警戒する素振りも見せない。
普段通りといえばそうだが、それ以上の何かを感じ、僅かに覚えた違和感が頭の中を駆け巡るようにして一つの可能性を示す。
「…あなたの、手の者なのですか?誘拐も、あなたが!?」
あくまでも私の想像に過ぎないと、できることなら違うと言ってくれると一抹の希望をもって叫ぶ私を見て、シェイド司教が呆れたように溜息を零した。
その態度は、私の予想を否定するものでは断じてない。
「…やはり、察しが悪い。ええその通り、それは私が雇った凶手です。かなりの手間と費えと引き換えに腕利きということで雇ったのですが…まぁ期待外れでしたね。もっとも、こうしてあなたを捕まえてはくれているので、まったくの無駄ではなかったようですが」
はっきりと、凶手を雇ったと口にしたシェイド司教には、一切悪びれる様子がない。
それはまるで、朝食のパンを選ぶかのような気軽さで、私の命を狙う人間を手配したともとれる。
「そのような……私になにか恨みが?」
聖女になる前から、そしてなってからも、私が最も敬愛していたのはシェイド司教だ。
それがたった今裏切りを突きつけれられ、まるで真冬の泉にこの身を沈められたような、冷たい絶望が襲い掛かってくる。
つい先日会食をした時は、私を恨む様子など微塵も見せてはいなかったというのに。
もっとも、恨みを隠して仇と食事をするぐらいに、かえって恨みが深いとも考えられるが。
だとしても、いったい何の恨みがあって私を誘拐し、あまつさえ命すら狙おうというのかが分からない。
愕然としたまま答えを求めてシェイド司教を睨むように見つめると、穏やかだった顔が一転、恐ろしい形相へと変わっていく。
「なぜ、と。よくもそのように言えたものです。忌まわしくも欺瞞を謳うその口が!汚らわしくも男の身で聖女など!」
今にも火を吐くのではないかというほど、シェイド司教は怒りと憎しみが込もった言葉を口にする。
誰からそれを知ったのか気にはなるが、おかげでシェイド司教が私へ向ける恨みの正体も分かった。
元々潔癖と言っていいほど、正しさを強く求めるのがシェイド司教という人だった。
間違いや失敗には寛容だが、嘘をつくことへはとにかく厳しい。
それゆえ、両性具有者でありながら聖女へと就いた私は、ヤゼス教という仕組みの中では大きな歪みに見えていたのかもしれない。
教会の上層部には私の秘密を知る人間も多いが、それでも知らない人間は確かにいる。
シェイド司教もその一人だ。
私が両性具有の体であることは、シェイド司教には私から明かしてはいなかった。
騙すつもりなどなく、単に聞かれることもなかった以上、こちらからは打ち明けたくなかった。
なにせ普通の女性と違うというこの点は、私にとっては知られたくはない事実だからだ。
その性格から、真実を知ればどういう行動に出るか分からないため、シェイド司教には明かさないということを枢機卿が決めたと聞いている。
実際、この反応を見るに、シェイド司教には秘することを決めたその時の枢機卿の判断は正しかったと言える。
「違います!私は女です!確かに体の一部にはその、男性の特徴はありますが…それでも!聖女としての在り方に背くものは何一つないと断言できます!」
「お黙りなさい!いかに取り繕おうが、その体は純然たる聖女とは言えない!あなたの存在が!ヤゼス教の歴史の中で、拭いきれぬ汚点となるのです!」
この体が普通でないことを自覚しながらも、今日まで聖女として恥じることなく務めてきたと自負していた。
だが、シェイド司教はそれを否定し、踏みにじるような言葉を私にぶつけてくる。
元々シェイド司教は、ヤゼス教の教義を厳格に守ることで知られている。
次代の聖女候補として私が教育を受けていた時も、教えの一つ一つを叩き込まれるたびに、それが十分に伝わっていたほどだ。
加えて、口には出していなかったがシェイド司教には、どこか男性を嫌悪しているように感じられていた。
これは聖職者の中では珍しいことではなく、幼少期から男性と隔離されて修行を積んだ修道女にはよく見られる傾向だという。
シェイド司教もその口だとは思うが、だからこそ、聖女として育てた私に男性の特徴があることが許せないのだろう。
「その在り方のなんたる不徳か!誘拐などと下賤な手も取らざるを得なかった私の屈辱があなたに分かりますか!?」
「誘拐…そういえば、何故私を誘拐などしようとしたのです?憎いのならその場で命を取ればよかったでしょう!?」
アンディも言っていたが、誘拐というのは実行前と実行後の手間が大きいらしい。
わざわざ私の寝所まで凶手を送ったのなら、誘拐などせずに殺す方が手っ取り早いはず。
なにかよほどの狙いがあったとでもいうのか。
「…曲がりなりにもあなたは聖女です。館で暗殺されたとなれば、教会内に混乱を招く。ただ正直なところ、どちらでもよかったのですよ。あなたを攫えればそれでよし、無理ならその場で殺してもいいと、その者には言い含めていました。結局、失敗しましたが」
そう言いながら、シェイド司教は凶手へと冷めた視線を向ける。
高いお金を出して雇ったというのに、目的を果たせなかった人間など価値がないと目で語っている。
もっとも、私としてはこの凶手が単純に無能だったとは思えない。
あの晩、アンディという乱入者が現れたのが不幸だったと言う外ないだろう。
計画ともズレが出たことで、恐らくシェイド司教も焦ったはず。
だがこうして逃がした標的が自分からノコノコとやってきたため、護衛役を毒殺した上で私を始末することにしたわけだ。
つまり、ここへ逃げ込むことを決めた私の迂闊さが、この事態へ繋がっているとも言える。
今朝の時点でシェイド司教が敵だと気付くことは難しかったとしても、せめてもう少し情報を集めて動いていれば…。
「さて、長々と話してしまいましたが、そろそろお別れといたしましょうか。私も暇ではありませんので」
スッと目を細め、シェイド司教の気配が冷たく、鋭いものへと変わる。
いよいよ私を殺そうというのか。
「私を殺したとして、死体が出ればあなたに調査の手が及ぶでしょう!この企みも全て明るみに出ます!今日まで守って来た地位も何もかも、全てを失う覚悟はあるのですか!?」
「すべては信仰のため。望むところです。もっとも、私へ累が及ぶような証拠は残すつもりはありませんが。あなたの死体も、全て綺麗に処理してあげますよ。安心なさい」
無駄とは分かっていながら、思い直す可能性へと賭けてそう問いかけては見たものの、やはりシェイド司教に心変わりはない。
何やら私の死体ごと殺害の証拠を隠滅する算段があるようで、果たして聖女殺害の罪からいかにして免れるというのか。
もはや私を殺すということへの躊躇いもないのだろう。
シェイド司教が狂気すらも見えるほど冷たい目で凶手へと目配せをすると、背後で金属がこすれる音が聞こえてきた。
「一度は私が直々に教えを与えた者です。せめてもの慈悲に苦しまずやってやりなさい」
酷薄な慈悲をシェイド司教が口にしたのと同時に、私を捕えている手に力がさらに籠った。
やられると、そう感じた時には恐怖も悲しみもなく、ただ悔しさと空しさで目を閉じる。
これで私の生涯が終わるのだと、潔く死を受け入れようとするが、体を襲う震えは止まない。
最後まで私は死の恐怖に苛まれて死ぬのかと、嘆く言葉を吐こうと下その時、窓が激しい音と共に割れて飛び散った。
部屋にいた誰もが音の源へと視線を吸い寄せられると、陽光を受けて煌めく欠片の中を切り裂くように人影が室内へ飛び込んできた。
司教の執務室へ窓を突き破って現れるなど、到底まともな人間の所業とは言えないが、今に限っては私にとって天の助けと等しい。
窓から入って来た勢いのまま、その人影は床へ足を着けると同時に剣らしきものを振るってこちらへと迫って来た。
その剣が狙ったのは、私を押さえつけている人間の方だ。
閃光が走る様な鋭い突きに、凶手の方も反応は早かった。
すぐさま私の体から飛び立つように離れると前へ飛び出し、こちらも手に持っていた剣で迫る刺突を迎え撃つ。
瞬きよりも短い一瞬の間に、少なくとも私の目に見えた限りでは四度、火花が散ったかと思えば、気が付くと私は人影に抱えられて部屋の隅へと運ばれていた。
この段階で、ようやく人影の正体が判明した。
凶手と打ち合った時点で、少なくとも私にとっての敵ではないとは分かっていたが、こうして間近で姿を見て味方と確信できた。
「…この国に来てから、よくよく窓を割る機会に恵まれる」
その力強い立ち姿に、頼もしさと安堵を覚える。
シェイド司教が毒を盛ったと言っていたが、弱った様子もなく、まさに今、私を守ろうと敵に立ちはだかる様は、まるで伝承にある神の尖兵のようではないか。
「もう安心していい。何故なら―」
シェイド司教を庇うように立ち位置を変えた凶手を睨みながら、人影の正体―アンディの口からは力に満ちた声が続く。
「俺が来た」
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