世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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旅と旅でまた旅だ

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ソーマルガに来てそろそろ二ヵ月になろうかという頃、依頼で始まった教師生活も終わりを迎える。
当初の予定では一カ月もやれば十分教え子は育つと思い、実際その通りになっていたのだが、なんやかんやと理由を付けられて依頼の拘束期間延長が繰り返されてしまい、二ヵ月もの間城に通う羽目になってしまった。

俺の教え子ともいうべき者達はそのまま全員がいきなり遺跡の再調査チームに組み込まれるのではなく、彼らが教師となってさらに下の人間にタブレットの使い方を教えるという役目に就くことになっている。
一応彼らが授業を行った際に何かしらの問題が発生しないとも限らないため、暫くは俺もフォローが必要な場面に備えて城に詰めることになった。
俺自身は授業をするわけではないので暇なのだが、その間も俺を遊ばせるつもりはないようで、ハリムの執務室に留め置かれていろいろな政策を見せられては意見を求められるたり、ほぼ城の文官と同じような仕事を割り振られることもあったりと、なんだか受けていた依頼内容にそぐわないほど働かされた気分だ。

それでもなんとか依頼の方も一段落し、俺が必要になることが無くなったと判断したため、ようやくお役御免と相成った次第で。
まだまだ俺を引き留めようとする宰相の手を逃れ、城を辞した俺はマルステル公爵邸に帰ってから、公爵一家に旅に出ることを告げる。
丁度一家が昼食後のお茶をしている所にお邪魔する形になったが、いきなり切り出したその話題に驚きの感情を隠せないようで、お茶を飲む手が固まってしまっている。

「そんなわけで、俺とパーラは準備が出来次第旅に出ようかと思います」
「…それはまた、随分と急だね。準備出来次第と言うと、いつぐらいになりそうなんだい?」
最初に硬直から回復したのはジャンジールでだった。
「早ければ5日ほどで出発できそうかと。今パーラが物資を買い付けに走ってます」

依頼で城に入り浸っていた俺よりもパーラの方がこの街を熟知しているため、買い物を頼むなら彼女が適任だ。
砂漠を移動するのだからまずは水、そして食料、宿泊用のテントなど買うものは多岐にわたる。
実はこの砂漠地帯では俺の土魔術での小屋作りは期待できない。

土魔術で地面の土を成形するやりかたは粒子の細かい砂にはあまり適してない。
なにせ圧縮するはしからサラサラと崩れてしまうため、形を作るのも保つのも非常に難しいのだ。
一度街の外で実験してみたところ、ある程度小屋らしき形にまではもっていけるのだが、それを維持するには延々と砂を魔力で操作し続けなければならず、これは実用的ではないと判断した。

なので、この先砂漠を旅するのならテントは必要だろうと思ったわけだ。
これまで土魔術の万能さに頼り切っていたため、何気に今回が初めてのテント旅となる。
ちょっと楽しみだ。

「困りましたわね…。これではアンディ達を私の領地に引き抜く算段が崩れてしまいますわ」
ボソリと呟くアイリーンの言葉を俺は聞き逃すことが出来なかった。
「引き抜くって何がです?」
「え、あー…んー…まぁそのぉー…」
何故か急に口ごもるアイリーンに変わってジャンジールが口を開く。
「アイリーンはアンディ達に領地の運営を手伝ってほしかったんだよ」
「お父様!それはまだ言わない約束で―」
「いいじゃないか、今更。どうせアンディ達の旅立ちの方が早いんだから、アイリーンの望みは叶いそうにないんだし」
なにが言わない約束なのか、アワアワと慌て気味のアイリーンを置いてけぼりにして、ジャンジールが教えてくれた。

アイリーンは男爵になったことでそこそこの大きさの領地を貰ったのだが、いかんせん新興の貴族家となるので家臣と言える人材が不足している。
しばらくは実家から人を借りて領地運営をすることもできるが、それでもずっとそのままとはいかない。
となればいろいろな伝手で人を集めることも考えたが、正直今のアイリーンはどこの派閥にも属していないのでどこも取り合うぐらいだという。
おまけに実家が公爵家であるからして、今のうちに恩を売るだけでも後々に帰ってくるものに期待できる。
そんなわけで色んな所から人の紹介を受け、さらにはどこから聞きつけたのか仕官の口を求めて在野の士が訪ねて来るようにもなったせいで、急に大勢の人間と面会をすることが原因となってアイリーンは少しノイローゼ気味だとか。

こうなるとアイリーンも知らない人間よりも知っている人間を自分の周りに置きたいと考えるようになる。
そこで候補に挙がったのが俺とパーラというわけだ。
貴重な魔術師を二人確保できるうえに、どうも宰相が俺の文官としての能力を高く評価しているという噂が立っているらしく、その点でも領地運営に役立つと思っているようだ。

「いや、俺の文官としての能力ってのは大したものじゃないんですけど」
「そう謙遜することは無い。少し前にハリム殿から見せてもらったが、あの収支を振り分けた表は実に読みやすかったよ。城の文官達も感心していたぐらいだ」
ジャンジールが言っているのは、以前ハリムとの雑談の中で漏らした複式簿記を基にした財務諸表の作り方を、見本で作成した書類のことだろう。
あの時は城で使う日用品に充てられる予算で書類を作ったが、確かにあれを見たハリムもしきりに感心して俺にやり方を聞いて来たのは印象に残っている。

まさかあれがそんなに評価されることになろうとは夢にも思わなかった。
この世界では簿記というのは一部の商人か財務を取り仕切る官僚が我流で身に着ける一種の特殊技能のようなものだ。
そのため個人個人で財務関係の書類の作り方は大分違う。
自分に見やすいように作るそれらは、他人から見たら必ずしも見やすいものとは限らない。
機密保持の観点から優れているとも言えなくはないが、誰かに扱い方を教えるには少しクセが強い。

しかし俺が使ったのはいわゆる現代の簿記に基づいたもので、画一的でありなおかつコツさえつかめば誰でも資産の動きや収支の流れを読み解くのが容易な、洗練されたものだと言える。
数字に携わる機会の多い文官からしたら、書類に数字をずらずらと書かれるよりも、こういった表にされた方が読みやすいし、管理もしやすい。
少し触れてみてその有効性を見出した城の人達が俺のことを持ち上げて話すのもある意味では当然なのかもしれない。

「…まぁあれは確かに財務関係の人間にはいい道具になるかもしれませんけど。ですが、俺は以前から言ってましたように、どこかに仕える気はありませんから」
「それは私も分かってますわよ。…でも友人として困っている私を助けるというのはどうでしょう?」
そう言う切り口で攻めてきたか。
アイリーンが困っているのは俺も理解している。
友人として手助けしたいという気持ちも確かにある。

しかし、今アイリーンが抱えている問題は恐らく俺やパーラが多少手を貸したぐらいで大きく好転するようなものではないだろう。
新興の男爵家に必要なのは戦力足る魔術師ではなく、領地運営に長けた文官だ。
俺は領地運営に関しての知識などないので、当てにはしないほうがいい。

ただ何か困ったことがあったら出来る範囲で助けるぐらいのことは約束しておこう。
まあ俺が出来ることと言ったら農業関係の援助か、この世界に無い発想を提供するぐらいしかないので、その時になってみなければ分からない。
これを約束することで俺への勧誘は諦めてもらうとしよう。

「そう言えばアイリーンさんの領地ってどこなんですか?」
「そうですわね…。地理的にはソーマルガ南端の海に面した地方で、二つの漁村と内地の村一つの合わせて三つの村だけの小さな土地ですわ。マルステル公爵領に近い場所でかつ国の直轄領から分けられる場所ということで陛下がご配慮下さいましたの」
ドヤァという顔で自慢げにそう言うが、この国の人間ではない俺としてはそこがどんな場所なのか想像すらできない。
詳しい説明を待つ俺に気付くことなく胸を張り続けるだけのアイリーンに変わり、ジャンジールとディーネが説明を買ってくれた。

今回の領地の選定に際し、当初与えられる予定だった領地はお家の断絶やらで空いていた適当な土地になるはずだったのだが、そこにグバトリアの鶴の一声で『新興の男爵家となるマルステル公爵家令嬢を実家から遠い地へ押し込むのは忍びない』として、王家直轄地からマルステル公爵領に近い土地を与えられることになった。
これには一から領地運営を行うことになる姪への配慮の側面が強いが、それと同時に直轄地をアイリーンに分け与えることで行く行くは王家とのつながりを強めていきたいという思いも込められているらしい。

王家直轄地を下賜される男爵というのも今の平和な世の中ではそういないとのことで、普通なら他の貴族からの嫉妬や嫌がらせは避けえないが、アイリーンは公爵令嬢で現国王の姪である。
思うところはあれどそうそう表に出すことはしないそうだ。

このアイリーンの領地だが、二つの村が海に面しているということからも海産物が豊富に採れることで有名な土地だ。
砂漠地帯から少し離れた海岸線沿いには耕作に適した土地も多いが、この地方の場合は海産物を売りにしているらしく、皇都でもその地方から持ち込まれた加工済みの魚介類が見られるぐらいだ。
既に特産品がある土地となるため、税収に関してはさほど心配はない。
新興の貴族としては比較的好スタートを切れることだろう。

「ほぅ、海ですか…。旨い海産物には惹かれるものがありますね」
「そうでしょう!では私と共に―」
「いえ、いずれ旅の途中で訪れることにします。その方がアイリーンさんの領地運営を外から見れますから」
海への興味を示した俺に攻め口を見出したのか、アイリーンが身を乗り出して勧誘しようとするが、バッサリと断りをいれる。
間髪入れずに断られたことでショボーンとするアイリーンだが、こればかりはノってやるわけにはいかない。

とはいえ、海への興味はやはり誤魔化せない。
日本人としては出汁への憧憬はいかんともしがたく、この世界にも果たして昆布はあるのかというのは非常に重要な案件として俺の心に深く刻まれている。
鰹節も欲しい所である。

こう考えるとアイリーンの勧誘に乗って領地に着いて行くのも悪くないと思えるが、いやいや、そこは自由を愛する冒険者であるからして。
パーラも宮仕えには興味を持たないこともあって、俺達は自由に旅をすることを決めていたのだ。
まずはこのソーマルガを見て回ってからアイリーンの領地に長逗留というのもいいだろう。







旅の準備に追われて、あっという間に日々は過ぎていった。
一度ハリムが俺を本気で召し抱えようと自ら説得に訪れたが、それをされても俺にその気は全くないので丁重にお断りした。
時間を置くとまたハリムが来そうだと思ったので、少々急ぎ脚で旅立ちを決める。

砂漠を移動するのに必要な物資の大半を占める水は樽で用意しておく。
乾燥する中で大気中から水分を集めるのが困難である以上、水魔術を飲料用の当てには出来ない。
この樽一つでおよそ100リットルほど入るのだが、砂漠地帯にはオアシスも点在しているため、これぐらいあればまず心配はいらないらしい。

出立の朝、荷物を満載したリヤカーを牽くバイクで皇都の外へとつながる門前へと移動し、見送りに来てくれたアイリーンと別れの挨拶を交わす。
「名残惜しいですが、しばしのお別れと思いましょう。砂漠を渡るのは危険が伴いますから、気を付けてお行きなさい」
「ご心配なく。準備は万端整えましたし、なるべく水場か人の住処を経由する道を選びますよ」
砂漠を渡るなどと前世を含めて初めてのことなので、集めれる情報はとにかく種類を選ばず集めたため、万事安全な旅とはいかないまでも、危険を知った上で避けるための行動を心がけて旅に臨む。

「パーラ、あなたも気を付けて。アンディはともかく、あなたは女の子なのですから、無茶をして怪我なんかしないようにお気を付けなさいな」
「うん。アイリーンさんもこれから新しく始まる男爵としての生活も色々と大変だろうけど、体には気を付けて。ちゃんと寝て、ちゃんと食べないとだめだからね」
「ふふ、ええ気を付けますわ」
年下のパーラにまるで母親のような諭され方をされたのが可笑しいようで、微笑みながらアイリーンがパーラと抱擁を交わす。

俺とパーラはソーマルガを見て回ったらアイリーンの領地を訪ねるつもりなので正直さほど長い別れとはならないが、こうも別れを惜しまれる様子を見せられるとは、少々大袈裟な気がしている。
挨拶も済むと、いそいそとバイクに乗り込む。
今回は俺がサイドカーに乗り、パーラが運転する。
暑さ対策で試したいことがあるのでこの配置となった。

「あぁそうそう。アンディ、これを」
そう言ってアイリーンから差し出されたのは上質な紙を丁寧に折り畳んだものだった。
「これは?」
「前に言ったでしょう。ソーマルガでお勧めの場所を書いた地図を用意しておくと。黒で丸印がついているのがおすすめの宿がある街で、青丸の印が景勝地、赤丸は危険な場所といった具合ですわ。旅をするならまずはその地図にある場所を巡ってみるといいでしょう」

地図を広げてみると、確かに色々な場所に印がつけられている。
これはありがたい。
旅の目的地を決めるのにこれを頼りにさせてもらうとしよう。
「ありがとうございます。アイリーンさんのお勧めを楽しむことにしますよ。ではそろそろ―」
礼を言って出発しようとすると、アイリーンがさらに付け加えてきた。
「それと、エリーですけど」
エリーの名前が出ただけでピクリと肩が震えてしまう。

少し前にエリーにも俺達が旅立つのを伝えたのだが―
『やだやだやだやだっ、やだーっ!アンディ達と離れたくない!行くんだったら私も行くっ!行くったら行くー!』
という具合に城の庭で地面を転がりながらの大駄々をこねられてしまった。

そのまま流れるようにして俺の足にしがみ付いて城から逃がさないといわんばかりにコアラ状態のエリーを侍女の手伝いを借りて何とか引きはがしてその日は帰ったが、それ以降エリーはことあるごとに俺を城に呼び出して旅立ちを思いとどまらせようと説得し、そればかりか説得が難しいと判断したエリーは近衛兵を動員してまで俺を捕まえようとしたり、酷いときなどはお茶の誘いで俺に痺れ薬を飲ませようとしたり。

さすがに痺れ薬はやりすぎだと両親からこっぴどく叱られたが、それでも俺を引き留める工作を止めないエリーの手を逃れようと、最近は城から足は遠のいていた。

「まだあなた達と離れたくないとぐずっているみたいですわね。クヌテミア様が宥めているようですけど、機嫌が直るのはまだまだ先のことでしょう」
「そうですか…」
エリーとは別れの挨拶は満足に出来ていないが、相手は王女殿下だ。
本来であれば平民の俺なんかが気軽に会うことも、ましてや旅立つから挨拶をなどというのは畏れ多い事。
とはいえもう友達と言える仲となった俺達なので、何かアイリーンに言伝てもらうことにしよう。

何を伝えてもらおうかと考えていると、キリっとした顔のパーラが先に口を開く。
「……アイリーンさん、エリーに伝えてもらえますか?『次は私が勝つ。』とだけ」
「勝つ?何をですの?」
恐らくパーラはエリーとの相撲勝負のことを言っているのだろうが、それを知らないアイリーンは首を傾げる、
二人だけにしかわからないのでと、パーラもそのまま伝えるようにだけ頼んだ。

なんだかんだでしっかり友情を育んでいるパーラとエリーなら、今の言葉で充分通じるものはあるだろう。
俺の方も簡単に再会の約束を言葉でアイリーンに託す。
パーラのあの言葉以上に格好いい言葉は無いし、そんなもんだ。

「それじゃあその内アイリーンさんの領地にも顔を出しますから、それまでお元気で」
「ええ。必ずいらっしゃいな。あなた達が驚くぐらいに領地を発展させて見せますわ」
いや一年や二年でそんな劇的な変化は無理だろ。
アイリーンの決意に水を差すことも無いので、そんな言葉は胸に留め、皇都を後にする。

後ろでは小さく手を振るアイリーンに、サイドカーにいる俺が手を振り返して姿が見えなくなるまでそれを続けた。
まずは皇都から南に延びる街道をバイクでひた走る。
暫くは街道もしっかりと見えている道を走るが、途中から砂で街道が埋もれる道もある。
とはいえ、比較的道ははっきりと見える方なので、迷うことは無い。

「アンディ、まずはどこに向かうの?」
「ソーマルガに来たんだから、一度は風紋船に乗ってみたくてな。その風紋船の発着場が南の方にあるんだ。とりあえずそこに行って風紋船に乗れるか調べてみよう。なにせ俺達はバイクでの移動だから、バイクごと乗れないと意味がない」
少し調べたが、風紋船には馬車事乗り付けれるとは聞いているが、バイクのような小型で重量のある乗り物がそのまま馬車の扱いで船に積めるのかは分からないので、その辺りも知りたいところだ。

「了解。じゃあこのまま真っ直ぐ南に進むから方向の指示はお願いね」
パーラの言葉と同時に砂塵を上げてバイクは南へと向かう。
アイリーンから貰った地図を見ると、印の付いた場所はソーマルガの各地に散らばっているため、風紋船を利用してあちこち目指す方がいいだろう。
差し当たってまずは風紋船の巡航ルートを調べ、それを地図に書き込んでから次に目指す場所を選びたい。

天上に輝く太陽はもう大分暑さを地上にばらまき始め、こうしてバイクで移動することで吹き付ける風も熱いものに変わり始めている。
俺とパーラは白一色のローブのようなものを着ているが、これはただの布であるので特別涼しいというわけではない。
照りつける太陽の光から守るために身に着けているだけだが、これがないと直ぐに肌を焼かれてしまう。

日中の気温が40度を優に超えるこの気候では、多少の風など正に焼け石に水状態だ。
そこで俺が考えた対策は水魔術を使ったベールを身に纏うというものだった。
空気中から水分を集めるのが難しいため、荷台の樽から水を少々拝借し、俺とパーラの体の表面に薄く水の膜を張る。
この際、水は体から僅かに隙間を空けて存在するようにして、服が濡れないように気を付ける。
移動中に前から吹きつける風にこの水の膜が剥がされないようコツはいるが、それさえ掴めればこの暑さの中でも結構快適なものだ。

このやり方だと気化熱を利用するとともに、日差しもある程度和らぐので体感温度も5度は下がる。
5度という数字は意外と小さいと思うだろうが、この砂漠では湿度も少ないので不快感も無く、たったこれだけ下がるのでも随分違う。

「うん、上等上等。十分涼しいよこれ」
暑さに弱いパーラも、水魔術を使ったこの涼の取り方は気に入ったようだ。
「そうだな。難点を挙げるなら、水魔術の維持に集中するからバイクの運転は無理だってことだ。幸い維持に必要な魔力はそれほどでもないから一日中とはいかないまでも、暑さのひどい時間帯ぐらいなら十分持つだろ」
使っている水の量が少ない事と、元々燃費のいい水魔術であることから、意外と長時間の運用可能なことが嬉しい。

砂漠の移動で最も苦しむ暑さ対策にある程度の目途が立ち、上機嫌で旅を続けられる。
パーラなどはそのあまりの涼しさに鼻歌を歌い出したくらいだ。
それを耳にしながら水魔術の維持に意識を割きつつ、周りの景色を楽しむことにする。

砂漠なのだから砂以外に何があるのかと思っていたが、こうしてみると植物や動物の姿がかなりの頻度で目に付く。
植物はサボテンっぽいものから枯れ木のようなもの、面白い物だと逆さまに突き刺さるようにして咲くチューリップらしき花といったものまでバラエティに富んでいる。
砂漠に付き物と言えるぐらいにメジャーな生き物トップスリーにはいるサソリだが、当然ここにも存在している。
ただその大きさは俺が知るものよりも大分大きく、遠目にではあるが今乗っているバイクとほとんど同じ大きさなのではないかと推測する。

頭上には大鷲よりも遥かに大きい怪鳥が何羽も飛び交っており、いきなり俺達に襲い掛かってくる様子はないが、それでもあの大きさで空から襲われたら対処が面倒だと思った。
こうしてみると砂漠地帯というのはやはり独特の生態系を築いているもので、実に面白い。
俺自身は別に研究者ではないが、こういうのを見せられると好奇心がくすぐられて仕方ない。
もしかしたらこの国の学者あたりで砂漠についてまとめた書籍とかあるかもしれないな。
ちょっと探してみてもいいかもしれないと思い始めた今日この頃だった。
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