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タダ酒を頂くヨーホーヨーホー
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フルージを発って約一ヵ月、カーチ村を含めて五つの街村を経由しながら商品の仕入れと販売も行い、商隊はついにソーマルガ皇国の国境をまたいだ。
国土の大半が砂漠となるソーマルガにおいて、東部地方は最大の穀倉地帯でもあるため、俺達が進む街道に沿って広がる畑には青々とした実りの証が、見える限りの遠くまで続いている。
ソーマルガと言えば殺人的な暑さが特徴的な地ではあるが、俺達が今いる辺りはまだ砂漠からは離れているため、灼熱の暑さというほどではないものの、暦の上での夏としては相応しい気温だ。
これから向かう先で更に気温が上がっていくと思うと気が滅入るが、皇都に目的がある以上、避けられないものと覚悟するしかない。
「暑っちぃ~…おいパーラ、もっと風起こせよ」
空気を取り入れるための窓的なものを全開にはしているが、元々みっちりと荷物が詰めこまれている馬車内は風の通りも悪く、殺人的な暑さが俺を苦しめる。
さっきからパーラの風魔術を扇風機代わりにしているが、それでも多少涼しいくらいで決して快適とは言えず、俺はグデリとした態勢のままパーラに風量の増大を要請した。
「もう限界いっぱいだよ、これで」
俺と同じ体勢で暑さに参っているパーラなら、風量アップにはノータイムで賛成してくれると思っていたのだがそんなことはなかった。
「なに言ってんだ、こんなのそよ風に鼻毛が生えたみたいなもんだろ。もっと強い風くれよ、全てを吹き飛ばすような強いのをさ。やれるだろ、お前なら。やれるやれる、きっとやればできる。シジミがトゥルルって頑張ってるんだから」
地球で最も熱い男が言ってたんだ、誰だって本気出せば何でもできる。
こっちの世界でシジミがあるかは知らんけど。
「シジミ…?いやそりゃもっと風は強くできるけど、馬車の中だと大惨事になっちゃうって。周りにこんだけ物があるんだよ?この強さが最高に丁度いい風なの」
今日までの旅で立ち寄った街村で商品の出入りはあったが、俺達の乗るこの馬車の品だけは減ることはなく、未だ狭苦しい中に大量の品が犇めきあっている。
そんな中で強烈な風を起こしてしまえばどうなるか、考えるまでもない。
この暑さをどうにかしたいとは思うが、だからといって馬車の中をシェイクするような事態を望むほどではなく、説かれるように言われては俺も黙るしかない。
ソーマルガに来ると分かっていながら、暑さ対策を怠った俺のミスだな。
せめて服ぐらいはソーマルガに対応したものを用意しておくべきだった。
「ちっ、水魔術が使えればな。水で体を覆うの気持ち良すぎだろ」
精密に制御された水を体に纏わりつかせれば、人間一人分に多少増したぐらいのスペースだけでプールに入っているの同じ感覚を得られる。
実は今朝方実行したのだが、ある理由で今は使うことは出来ない。
「それを馬車の中でやって、くしゃみ一発でここを水浸しにしたからアッジさんに怒られて禁止されたんでしょ。ほら、あっちでエランドさんが私らを凄い目で見てるじゃん」
言われて奥を見ると、俺に向けられた鋭い目と視線があう。
あれこそ俺が今、水魔術を使えない理由だ。
この狭い馬車の中で水魔術を使っても、俺なら完璧に制御しきって体の表面を水で覆うだけの状態を維持するのは難しくはない。
むしろ鼻をホジりながらでもできそうなほどだ。
実際、暑くなってきたあたりに試した最初の内は余裕だったのだが、気のゆるみからか不意に襲い掛かってきたくしゃみであっさりと魔術を暴発させ、馬車の中を水浸しにしてしまった。
商隊の出発直後から騒ぎを起こしてしまった俺は当然アッジにこってりとしぼられ、またおかしなことをしないよう、エランドによる監視を強いられているというわけだ。
そのため、先程の俺の言葉もエランドの耳はしっかりと拾っており、こちらを見る目は一層鋭くなってしまった。
まるでCIAかNHKの工作員かのようである。
ここで俺が水魔術を使おうものなら、すかさずエランドは発動を阻害してくることだろう。
「分かってるよ。言ってみただけだって。…しかし、俺達はこんなに暑そうにしてるってのに、エランドさん達は平気な顔してるな。汗一つかいてないぞ」
いつものスタイルで眠りながら前方を警戒しているリーオスをはじめ、俺を監視するようにただジっとしているエランドに、揺れる中器用に剣の手入れをしているクプルなど、この三人はまるで暑さなど感じていないかのように平然としている。
同じ場所にいながらこの差は一体…。
「あぁ、それクプルさんに聞いたんだけど、なんかあの三人って元々ソーマルガの生まれなんだって。だから暑さには強いみたいだね」
生まれついた土地の気候なら、体も慣れている。
俺達にとっては地獄でも、エランド達には普通の環境というわけか。
「なるほど、そういう理由か。なんかズルいな」
「いやズルくはないでしょ、別に」
「暑いか寒いか、生まれた場所でその人間の得意不得意が決まるんだぞ?才能や努力でどうにもできんやつだろうが。エランドさん達が厚着して、俺らが素っ裸になってようやく対等ぐらいだと思うぞ」
「極端なことを言うね、アンディは。暑さでおかしくなってない?」
「バカ野郎、俺はそこまでやわじゃない」
暑さでヘタってはいるが、判断や思考がおかしくなるほどじゃあない。
目の前に居眠りしてる国会議員がいたら、ノータイムで殴り倒すぐらいには冷静だ。
「とはいえ、馬車の中がとにかく暑いってのは確かだな。パーラ、俺はちょっと外に出てくるわ」
「え?外にって、馬車と並走するの?疲れちゃわない?」
「誰がそんなことするかよ。幌の屋根に上るんだ。そっちの方なら風も感じられる」
走っている馬車の屋根なら風も十分だし、馬車内の圧迫感ともおさらばできる。
直射日光への対策は必要だが、マントを上手いこと張って日除けにすればいい。
「てことで俺は行く。止めるなよ」
「別に止めないけど…だったら私も一緒に行く。そっちの方が涼しそうだし。エランドさん、いい?」
どうやらパーラもこの暑さから解放されるべく動くようだ。
一応俺の監視であるエランドに許可を取ろうとするとは、パーラも律義な奴だ。
「…まぁパーラが一緒ならいいよ。アンディ、くれぐれも魔術は使っちゃだめだよ?パーラは僕の代わりにしっかり見張っててくれ」
「へいへい…俺って信用ねぇのな」
意外とあっさりと監視の目を外してくれたが、代わりにパーラをその役目に充てるとは、俺への信用もたかが知れてるな。
「そんなことはないけど、バカを一つやらかしてるから…ね」
ぬぅ、言い返せん。
早速後部に垂れていた布をめくり、幌を形成するフレームの上淵を慎重に掴んで逆上がりの要領で屋根へと上がる。
走行中の馬車からやるにはあまりにも危険な行為だが、身体強化とクソ度胸でブーストされている俺には朝飯前の芸当だ。
無論、パーラも同様なので少し遅れて同じようにして続く。
これは特殊な訓練を受けた人間がやることなので、良い子は真似をしないように。
「うひょー、いい風。やっぱり外の風の方がいいねぇ」
「まぁな。お前の魔術の風も悪くないが、肌にあたる感じはこっちの方が気持ちいい」
燦燦と照り付ける日差しをマントで避けながら、全身を撫でていく風の心地よさにうっとりとしてしまう。
外気温もそれなりとはいえ、やはり狭い場所よりもこうして外で受ける風の方が断然心地いい。
馬車内の荷物が丁度幌の天井にあたって足場のしっかりとしたところを見つけて、そこにごろりと寝転がって体を落ち着ける。
ここに来てから道がよくなったおかげで、走り続ける馬車の振動は格段に抑えられ、なんとも心地よい揺れに襲われて眠気がジワジワと湧き出てきた。
直射日光はマントがかなり弱めてくれているし、このまま眠ってしまうのも悪くないかと目を閉じたその時、唐突にパーラが声を上げた。
「あ!街だ!アンディ街だよ!」
「お、どれどれ」
跳ねるように立ち上がって前方を指さすその姿に、俺も前へと視線を向けると、遠くに白く巨大な人工物が薄っすらと見えている。
その正体はソーマルガ特有の建材で出来た外壁だ。
あれこそがソーマルガ皇国東端の国境を守る街シャンキルであり、この商隊が目指していた最終到達地であった。
「あそこに着いちゃえば、アッジさん達との旅も終わりだね」
「そうだな」
遠くを眺めるパーラが妙にしんみりとしたことを言うのは、アッジ達とはシャンキルでお別れとなるからだ。
この商隊はシャンキルで商品を捌き、しばらく滞在して交易に向いた品を仕入れたらまたフルージへと帰っていく。
だが俺達は飛空艇を求めて皇都まで行かなければならない。
向かう先が異なる以上、ここまでが旅の供としての付き合いとなる。
アッジ達とは共に強敵と戦い、同じ飯を食った仲ではあるが、この別れは避けられない。
少々寂しさはあるが、これもよくあること。
惜しむことはすれど、悲観せずに別れを受け入れるのみだ。
商隊との別れが近いと自覚したせいか、自然と会話もなくなったパーラと二人で遠くに見える白亜の人工物を眺めているうちに、馬車はシャンキルの街門の前まで到着した。
時刻は昼を少し回ったぐらいで、門の近くでは通過のための門衛による身分確認を待つ人達が並んでいる。
旅人や冒険者、商人が操る馬車や手引きの荷車が列をなす光景は、この時間帯に相応しい混雑具合だ。
俺達もその列に並ぶのかと思っていたが、商隊の馬車は入場待ちの列から少し離れた所に停まってしまった。
そしてアッジが一人、馬車から離れて門へと近付いていく。
それに気付いた門衛の兵士が一瞬怪訝な顔を見せたが、すぐにその表情が和らぐ。
「あ!これはアッジさん!また今年も来ましたか!」
メアリ商会として何度もシャンキルに来ているだけに、アッジは門衛にも顔を覚えられていたようだ。
親しげに手を振りながら近付いてきた兵士にアッジも手を振り返し、目の前までやってくると挨拶代わりにと兵士と肩を組んで笑顔を見せる。
「当たり前だ。私が来なきゃ誰が来るって言うんだ。それにしても、門衛姿も随分様になったな。去年など、人間を着た鎧みたいな似合わなさだったというのに」
「なんですか、人間を着た鎧って。勘弁してくださいよ、俺だっていつまでも新入りってわけじゃないんですから」
「バカ、私に取っちゃお前はまだまだ若造だっての」
この若い門衛とは去年も顔を合わせていたようで、一年の間での成長を感じとったが故の言葉だろう。
親子ほどの歳の差があるアッジと門衛だが、接する姿は友人としてのそれに近く、じゃれるように交わす言葉には嫌味が感じられない。
「適わないなぁ、まったく。それで、そちらの馬車の通行ですよね?」
「ああ、馬車は十一台、人員は五十二名だ」
途中で離脱したり合流したりと商隊の人数に変動はありつつ、最終的にはこれがシャンキルまでの道のりで同行した人数となっている。
「十一台ですか。去年と同じぐらいですね。念のため書類を確認させてください。……はい、結構です。ではいつも通り、そちらの門を使ってください」
アッジから手渡された書類に目を通した門衛は、その内容に何属したのか大きく頷くと、今開いている門とは違う、丁度馬車が一台ぐらいは余裕をもって通れる程度のちょっとした門を指さす。
一般人の入場には使わないが、門の通過に必要な手続きを免じた馬車などを通す際の特別な門なのだろう。
これだけの数の馬車と人を通門させるのに、一々ギルドカードのような身分証を確認し、荷物も検める手間はかなり大変なものだ。
メアリ商会ほどの大物ともなれば、書類一枚でそれをパスして街へと入れるのだから、シャンキルの街からいかにメアリ商会を信頼されているかが分かる。
ほぼペラ紙一枚で通過できるなど、貴族並ではないかと思えてしまう。
「おう、ありがとよ。後で酒を届けさせるから、お仲間とでも飲んでくれや」
「いつもありがとうございます…あぁ、そうだ。今は大通りも人が少ないので、まっすぐ商会へと向かえますよ」
「そうか、分かった」
門衛に別れを告げ、馬車に戻って来たアッジの指示で商隊は指定された門をくぐってシャンキルへと入っていく。
特別な門を使っていることと、先頭の馬車の屋根にいる俺とパーラが目立つせいで、入場待ちの人達から向けられる視線に居心地の悪さを感じるが、粛々と進む馬車は門を潜り、その先に伸びる大通りをゆっくりと走り出す。
ソーマルガの街だけあって、建物には見慣れた懐かしさが感じられ、改めてソーマルガへ来たのだという事実にちょっぴり感動を覚える。
同行している馬車の中にはメアリ商会とは関係のない商人もいるため、途中で四台が離れていき、七台の馬車はそのまま大通りを抜け、倉庫や大型の店舗が並ぶエリアへとやってきた。
周りを行き交う人が発する声から、この辺りは商会が店舗や倉庫などを構える区画と分かった。
俺達の乗る馬車はその中にあった一つの建物へと入る。
周りと比べて一際大きく、門からして立派なそこがメアリ商会がシャンキルで構える店のようだ。
早速入ってくる馬車に気付いて誘導の人間が現れ、馬車は建物の奥へと向かう。
倉庫と店舗を兼ねると思われるこの建物は、荷物を積んだ馬車がそのまま内部を通過できるような造りをしており、七台の馬車は奥まった場所にある倉庫の中へと全て収容された。
「よーし!着いたぞ!野郎ども、荷物を下ろせ!」
馬車が停止するや否や、アッジが辺りへ響く大声を上げると、一気に多くの人が馬車に群がってきて荷物が次々に下ろされていく。
そして荷物は簡単にチェックがされると、そのままどこかへと運ばれていく。
凄まじい速度で馬車が空になっていく様は驚きを通り越して少し怖いぐらいで、こういう馬車からの商品の搬入と搬出が、ここでは数えきれない数と頻度で行われていることがその慣れた手際から窺える。
当然俺とパーラが乗っている馬車からも荷物が運び出されていくため、その作業の邪魔にならないよう幌の上からどくと、エランドら護衛役の者が集まっているのを見つけてそちらへと向かう。
旅の途中では人手不足から俺達も商品の積み替えなどを手伝っていたが、こうして商会の人間の手が十分に足りている場所ではやることは何もない。
今はただ、こうしてただ突っ立っているだけの置物となるのみだ。
何とはなしに目の前で商品が運ばれていくのを眺める俺の視界に、アッジが何やら上等な服を着た数人の女性と話しているのが見えた。
手にしている書類と、商品の見本と思しき子袋を女性に手渡し、真剣な顔で何かを話している様子は、メアリ商会の重鎮に相応しいものだ。
あの様子だと当分こちらのことに気を回す暇はなさそうなので、指示待ちに近い俺達は放置が続きそうだ。
それに気付いたエランドが一度軽く溜息を吐くと、前に進み出て俺達を見据えるように向き直って口を開く。
「さて、僕達はこれで用済みだし、これで解散としようか。みんな、後のことは僕がアッジに言っておくから、もう行っていいよ。何人か、我慢できそうにないのもいるみたいだし」
アッジの手が足りない時はエランドが護衛の隊を仕切ることも多かったため、今もエランドが指示を出すのは自然な成り行きだろう。
エランドがそう言うと、何人かがバツの悪そうな笑い声を小さく零し、簡単に周囲へ挨拶をするとこの場を離れていく。
だらしない笑みを顔に張り付けて足早に去っていく姿は、とても清廉な大人とは言い難い。
彼らがどこに行くかは考えるまでもない。
長い旅で色々と不便を強いられていたため、色々と欲求が溜まっていたはずだ。
今日すぐに支払われるとはいかないが、メアリ商会からの十分な報酬も期待できるので、街に繰り出しての酒と女と涙の大騒ぎが彼らを待っていることだろう。
「じゃあエランド、私らも行くわね。いつもの所、席をとっておくからあんたも後で来なさいね」
去っていく集団から少し遅れ、クプルがエランドへと声をかける。
彼女もまた騒ぎたい側の人間のようで、平静を装っているが目と足に落ち着きがないあたり、さっきの連中と同類だからか。
「ああ、分かってるよ。リーオス、クプルを頼むよ」
「おう、勝手に始めないように見張っとく」
「ちょっと、やめてよね。私はそこまでせっかちじゃないわよ」
「バカ野郎、そう言って去年はエランドを待たずに樽一つ空けて潰れてただろうが。誰が介抱したか忘れたとは言わせねぇぞ。ついでにエランドの服をゲロ塗れにしたのが誰だったかもな」
そう言われた途端に視線を逸らしたクプルに、エランドもひきつった笑いを零す。
普段は姉御肌で仕切りもいいクプルだが、酒が絡むと残念な女になるというのはエランドとリーオスから秘かに聞かされていた。
去年そんなことがあったとなれば、リーオスの警戒も決して無意味とは言えない。
「ま、まぁいいじゃない、昔のことなんて。酒の席には無粋よ、そういうの。アンディ、パーラ、あんた達も一緒にどう?あれがあったおかげで、この旅最大の功労者とも言えるんだから、私らがおごってあげるわ」
あれというのは吸血種との遭遇のことだ。
新参の身でありながら、エランド達と共に一番前で戦った俺とパーラに商隊の誰もが感謝をしていた。
実際、さっき離れていく他の連中も、言葉を濁しはしたが吸血種のことで俺とパーラに礼を言っていたのも少なくなかった。
そのご褒美にと、クプルが酒の席に誘ってくれたようだ。
「どうするよ、パーラ」
俺としては誘いを受けるのも吝かではないが、パーラの方はどうだろうか。
こいつも酒は飲むことは飲むが決して強いわけじゃないし、パーラが断るなら俺もそうするつもりだ。
「いいじゃんいいじゃん、行こうよ。クプルさん達とはこれが最後の夜になるかもしれないんだよ。パーっとやらなきゃ勿体ないって。なにより、おごりだし。前にアンディも言ってたでしょ、人の金で飲む酒ほど美味いものはないって」
「バカっ、そういうのをでかい声で言うな!」
しっかりとクプル達にも聞こえる声の大きさに、俺は恥ずかしさと気まずさをいっぺんに覚える。
そういうのは思ってても口にしないもんだぞ。
「あっはっはっはっは!確かに、人の金で飲む酒は美味しいよねぇ。いいよいいよ、私がおごりって言ったんだから、好きなだけ飲みな」
人の金で飲む酒の美味さにはクプルも覚えがあるのか、愉快そうに笑い声をあげる。
その姿から、先程のパーラの言葉に気を悪くしなかったのが分かって一安心だ。
「わーい!やったー!流石クプルさん!よっ!いい女!」
「調子に乗るな。すいません、ご馳走になります」
はしゃぐパーラを窘めつつ、今日の酒代を出してくれる財布に頭を下げる。
殊勝な態度を見せてはいるが、内心では酒が飲めることと出費が抑えられることで小躍りしたい気分だ。
それに、エランド達と酒を酌み交わすのはこれで最後となるだろうから、最後に浴びるほど酒を飲もうというのも本心ではある。
寂しいものになりがちな別れの酒を、気分良く飲むのなら騒ぎながらが一番だ。
せっかくおごってくれるというのだから、酒の席を盛り上げるためのかくし芸の一つでも用意していくべきかもしれん。
「じゃあ行きましょうか」
「おーい、ちょっと待て」
クプルが歩き出そうとしたところに、アッジが声をかけてきた。
お偉いさんとの話は終わったのか、立っているのは彼一人だけだ。
「アンディ、パーラ、ちょっとこっちに来い」
そして俺とパーラを名指しして手招きをする。
二人で一瞬顔を見合わせて、アッジの下へと向かう。
「お前ら、本当にご苦労だったな。色々あったが、お前らがいなきゃこの旅は上手くいかなかったかもしれん。礼を言わせてくれ。特に、あれの時のパーラの働きは大きい」
真剣な顔でそういうアッジの様子は、商隊を襲った特大の危機と無事にたどり着けた幸運に対する憔悴が見てとれる。
なにより、吸血種との戦いでは犠牲を覚悟していただけに、ルーシアがクロウリーを楽に殺せる程度にまで弱らせたのはパーラの手柄が大きい。
感謝を示す態度には偽りや陰りが一片もないのは当然のことか。
「いえ、それが俺達の仕事ですから」
「そうそう、私ら商隊の護衛だからね。まぁクロウ…じゃなかった、あれに関しては運が悪かったみたいなもんだし」
「それでも私が無事にこうしてここに立っているのは、お前達のおかげだ。それでだ、依頼の報酬とは別に私からお前達に礼をさせてくれ」
「礼などと…」
俺達は仕事を全うしただけなのに、ここまで感謝されると逆に申し訳なくなる。
とはいえ、クロウリーのことを考えればアッジの気持ちとして礼をしたいというのはわからなくもない。
それだけの危機に遭遇したわけだしな。
「これは私の気持ちだ。どうしてもいらないというのならば仕方ないが、ぜひ受け取ってほしい」
あまり強く断るのも失礼か。
多少の金なら貰っておいても損はないし、向こうもそれで気が済むならそれで終わらせてやったほうがいい。
「分かりました。ではありがたく頂戴します」
「うむ、そうこなくてはな。お前達、確か皇都を目指しているんだったな?」
「え?ええ、まぁ。元々そっちに用があったんで、今回の護衛依頼も引き受けたわけですし」
「だったら、向こうに行く足が欲しいだろう?うちで予約した風紋船の乗船券があるんだが、お前たち二人に融通してやる。皇都までそれを使ってくれ」
なんと、アッジから風紋船の乗船権を譲ってもらえるとは。
皇都へ行くまでの移動手段はまだ用意してなかった俺達にとって、これはまさに渡りに船だ。
実はここから先、どこか適当な街で巡察の飛空艇を捕まえて皇都まで一っ飛びなんてことを考えていた。
だが残念なことに、それを実現させるための重要なキーであるダンガ勲章は俺達の飛空艇に残してきたため手元になく、あれなくして俺個人の名前でどうにか飛空艇を借りれるほどセキュリティは甘くないだろう。
盗…黙って借りるのも選択肢の一つだったが、それをして指名配でもされたら面倒だし、この国にいる知り合いにかかる迷惑を考えると最終手段にと温存したい。
どうしたものかと思っていたところに、降ってわいた風紋船の乗船券だ。
合法的に楽に目的地に行けるのなら、こんなにも嬉しいことはない。
「それはまた…いいんですか?メアリ商会が使う予定のを俺達に譲っても」
風紋船に乗船するには、手間と金が結構かかる。
メアリ商会クラスならその辺もどうにかなりそうだが、果たして俺達をそれに融通して大丈夫なのだろうか。
「構わんさ。実はな、次の便に乗る奴だったのが他の所に用が出来てな、偶々空いただけなんだ。もう金も払っちまってるし、無駄にするぐらいならお前らで使ってほしい」
なるほど、キャンセルが出来た航空チケットが回されてきたようなものか。
これで皇都まで楽に行けるのだから、急用が出来たその誰かには感謝しておこう。
「そうですか。では遠慮なく、使わせていただきます」
「ああ、そうしてくれ。ここから南西に、風紋船がやってくる桟橋がある。八日後ぐらいに来る船が皇都までいくやつだ。そいつに合わせて準備をしておけ。乗船に必要な書類なんかはこっちで用意するから、そうだな…三日後にまたここに顔を出してくれ」
「分かりました」
「話は終わった?終わったよね?もう私ら行っていい?」
少し前からそわそわしだしたパーラが、会話の終わりをしつこいぐらいに尋ねてくる。
「ああ、構わんが、なんだ、用でもあんのか?」
「実はこの後、クプルさん達と酒を飲む約束をしてまして」
「しかもおごりだよ!おごり!」
「はっはっはっは!そうか、それでパーラは落ち着きがなかったのか。なら早く行ったほうがいい。酒は逃げないが席はなくなるからな」
この街の大きさはかなりのもので、それだけに人口も多く、酒場の混雑もそれに比例してひどくなるだろう。
今はまだ明るいが、既に護衛隊の人間の多くが俺達に先行して酒場に行っているので、いい店ほど早い者勝ちで埋まっていく。
パーラが焦っているのもそのせいだ。
「そういうことだから、私達は行くね!アッジさん、お世話になりました!」
「おい襟首をつかむなぐぇっ!す、すいませんアッジさん!今日の所はこれで!」
「おーう、楽しんで来い」
パーラに引きずられながら、アッジになんとか一言を告げて去っていく。
まったく、大事な会話を無理矢理切り上げさせてまで酒に急ぐとは、礼儀知らずにもほどがある。
後でパーラには説教だな。
クプル達と合流し、メアリ商会の倉庫を後にした俺達は、その足で酒場へと向かい、エランドの到着を待って、旅の終わりと無事を祝っての打ち上げとなった。
今日までも旅の途中に立ち寄った街や村でも酒場で飲むことはあったが、仕事があるということで量をセーブしていた。
だが今はそれから解放され、浴びるように飲んでも何一つとして問題はない。
クプル達から勧められるままに色んな酒を飲んでいき、気付けば酒場全体を巻き込んだ宴となってしまっていた。
共に商隊にいた者もたまたま今日酒場にいた者まで一緒になり、肩を組んで笑い合いながら飲む酒のなんと美味いことか。
なによりタダ酒というのがいい。
クプルは勿論、エランドやリーオスまで赤ら顔で騒ぐ夜はいつまでも続き、酒場の灯が落とされることはなかったそうだ。
なお、勢いで酒場を借り切ったクプル達に何故か昨夜居合わせた客全ての酒代の請求が来て、一気に酔いがさめたとかどうだとか。
俺達はタダ酒じゃなければ即死だった。
危ない危ない。
国土の大半が砂漠となるソーマルガにおいて、東部地方は最大の穀倉地帯でもあるため、俺達が進む街道に沿って広がる畑には青々とした実りの証が、見える限りの遠くまで続いている。
ソーマルガと言えば殺人的な暑さが特徴的な地ではあるが、俺達が今いる辺りはまだ砂漠からは離れているため、灼熱の暑さというほどではないものの、暦の上での夏としては相応しい気温だ。
これから向かう先で更に気温が上がっていくと思うと気が滅入るが、皇都に目的がある以上、避けられないものと覚悟するしかない。
「暑っちぃ~…おいパーラ、もっと風起こせよ」
空気を取り入れるための窓的なものを全開にはしているが、元々みっちりと荷物が詰めこまれている馬車内は風の通りも悪く、殺人的な暑さが俺を苦しめる。
さっきからパーラの風魔術を扇風機代わりにしているが、それでも多少涼しいくらいで決して快適とは言えず、俺はグデリとした態勢のままパーラに風量の増大を要請した。
「もう限界いっぱいだよ、これで」
俺と同じ体勢で暑さに参っているパーラなら、風量アップにはノータイムで賛成してくれると思っていたのだがそんなことはなかった。
「なに言ってんだ、こんなのそよ風に鼻毛が生えたみたいなもんだろ。もっと強い風くれよ、全てを吹き飛ばすような強いのをさ。やれるだろ、お前なら。やれるやれる、きっとやればできる。シジミがトゥルルって頑張ってるんだから」
地球で最も熱い男が言ってたんだ、誰だって本気出せば何でもできる。
こっちの世界でシジミがあるかは知らんけど。
「シジミ…?いやそりゃもっと風は強くできるけど、馬車の中だと大惨事になっちゃうって。周りにこんだけ物があるんだよ?この強さが最高に丁度いい風なの」
今日までの旅で立ち寄った街村で商品の出入りはあったが、俺達の乗るこの馬車の品だけは減ることはなく、未だ狭苦しい中に大量の品が犇めきあっている。
そんな中で強烈な風を起こしてしまえばどうなるか、考えるまでもない。
この暑さをどうにかしたいとは思うが、だからといって馬車の中をシェイクするような事態を望むほどではなく、説かれるように言われては俺も黙るしかない。
ソーマルガに来ると分かっていながら、暑さ対策を怠った俺のミスだな。
せめて服ぐらいはソーマルガに対応したものを用意しておくべきだった。
「ちっ、水魔術が使えればな。水で体を覆うの気持ち良すぎだろ」
精密に制御された水を体に纏わりつかせれば、人間一人分に多少増したぐらいのスペースだけでプールに入っているの同じ感覚を得られる。
実は今朝方実行したのだが、ある理由で今は使うことは出来ない。
「それを馬車の中でやって、くしゃみ一発でここを水浸しにしたからアッジさんに怒られて禁止されたんでしょ。ほら、あっちでエランドさんが私らを凄い目で見てるじゃん」
言われて奥を見ると、俺に向けられた鋭い目と視線があう。
あれこそ俺が今、水魔術を使えない理由だ。
この狭い馬車の中で水魔術を使っても、俺なら完璧に制御しきって体の表面を水で覆うだけの状態を維持するのは難しくはない。
むしろ鼻をホジりながらでもできそうなほどだ。
実際、暑くなってきたあたりに試した最初の内は余裕だったのだが、気のゆるみからか不意に襲い掛かってきたくしゃみであっさりと魔術を暴発させ、馬車の中を水浸しにしてしまった。
商隊の出発直後から騒ぎを起こしてしまった俺は当然アッジにこってりとしぼられ、またおかしなことをしないよう、エランドによる監視を強いられているというわけだ。
そのため、先程の俺の言葉もエランドの耳はしっかりと拾っており、こちらを見る目は一層鋭くなってしまった。
まるでCIAかNHKの工作員かのようである。
ここで俺が水魔術を使おうものなら、すかさずエランドは発動を阻害してくることだろう。
「分かってるよ。言ってみただけだって。…しかし、俺達はこんなに暑そうにしてるってのに、エランドさん達は平気な顔してるな。汗一つかいてないぞ」
いつものスタイルで眠りながら前方を警戒しているリーオスをはじめ、俺を監視するようにただジっとしているエランドに、揺れる中器用に剣の手入れをしているクプルなど、この三人はまるで暑さなど感じていないかのように平然としている。
同じ場所にいながらこの差は一体…。
「あぁ、それクプルさんに聞いたんだけど、なんかあの三人って元々ソーマルガの生まれなんだって。だから暑さには強いみたいだね」
生まれついた土地の気候なら、体も慣れている。
俺達にとっては地獄でも、エランド達には普通の環境というわけか。
「なるほど、そういう理由か。なんかズルいな」
「いやズルくはないでしょ、別に」
「暑いか寒いか、生まれた場所でその人間の得意不得意が決まるんだぞ?才能や努力でどうにもできんやつだろうが。エランドさん達が厚着して、俺らが素っ裸になってようやく対等ぐらいだと思うぞ」
「極端なことを言うね、アンディは。暑さでおかしくなってない?」
「バカ野郎、俺はそこまでやわじゃない」
暑さでヘタってはいるが、判断や思考がおかしくなるほどじゃあない。
目の前に居眠りしてる国会議員がいたら、ノータイムで殴り倒すぐらいには冷静だ。
「とはいえ、馬車の中がとにかく暑いってのは確かだな。パーラ、俺はちょっと外に出てくるわ」
「え?外にって、馬車と並走するの?疲れちゃわない?」
「誰がそんなことするかよ。幌の屋根に上るんだ。そっちの方なら風も感じられる」
走っている馬車の屋根なら風も十分だし、馬車内の圧迫感ともおさらばできる。
直射日光への対策は必要だが、マントを上手いこと張って日除けにすればいい。
「てことで俺は行く。止めるなよ」
「別に止めないけど…だったら私も一緒に行く。そっちの方が涼しそうだし。エランドさん、いい?」
どうやらパーラもこの暑さから解放されるべく動くようだ。
一応俺の監視であるエランドに許可を取ろうとするとは、パーラも律義な奴だ。
「…まぁパーラが一緒ならいいよ。アンディ、くれぐれも魔術は使っちゃだめだよ?パーラは僕の代わりにしっかり見張っててくれ」
「へいへい…俺って信用ねぇのな」
意外とあっさりと監視の目を外してくれたが、代わりにパーラをその役目に充てるとは、俺への信用もたかが知れてるな。
「そんなことはないけど、バカを一つやらかしてるから…ね」
ぬぅ、言い返せん。
早速後部に垂れていた布をめくり、幌を形成するフレームの上淵を慎重に掴んで逆上がりの要領で屋根へと上がる。
走行中の馬車からやるにはあまりにも危険な行為だが、身体強化とクソ度胸でブーストされている俺には朝飯前の芸当だ。
無論、パーラも同様なので少し遅れて同じようにして続く。
これは特殊な訓練を受けた人間がやることなので、良い子は真似をしないように。
「うひょー、いい風。やっぱり外の風の方がいいねぇ」
「まぁな。お前の魔術の風も悪くないが、肌にあたる感じはこっちの方が気持ちいい」
燦燦と照り付ける日差しをマントで避けながら、全身を撫でていく風の心地よさにうっとりとしてしまう。
外気温もそれなりとはいえ、やはり狭い場所よりもこうして外で受ける風の方が断然心地いい。
馬車内の荷物が丁度幌の天井にあたって足場のしっかりとしたところを見つけて、そこにごろりと寝転がって体を落ち着ける。
ここに来てから道がよくなったおかげで、走り続ける馬車の振動は格段に抑えられ、なんとも心地よい揺れに襲われて眠気がジワジワと湧き出てきた。
直射日光はマントがかなり弱めてくれているし、このまま眠ってしまうのも悪くないかと目を閉じたその時、唐突にパーラが声を上げた。
「あ!街だ!アンディ街だよ!」
「お、どれどれ」
跳ねるように立ち上がって前方を指さすその姿に、俺も前へと視線を向けると、遠くに白く巨大な人工物が薄っすらと見えている。
その正体はソーマルガ特有の建材で出来た外壁だ。
あれこそがソーマルガ皇国東端の国境を守る街シャンキルであり、この商隊が目指していた最終到達地であった。
「あそこに着いちゃえば、アッジさん達との旅も終わりだね」
「そうだな」
遠くを眺めるパーラが妙にしんみりとしたことを言うのは、アッジ達とはシャンキルでお別れとなるからだ。
この商隊はシャンキルで商品を捌き、しばらく滞在して交易に向いた品を仕入れたらまたフルージへと帰っていく。
だが俺達は飛空艇を求めて皇都まで行かなければならない。
向かう先が異なる以上、ここまでが旅の供としての付き合いとなる。
アッジ達とは共に強敵と戦い、同じ飯を食った仲ではあるが、この別れは避けられない。
少々寂しさはあるが、これもよくあること。
惜しむことはすれど、悲観せずに別れを受け入れるのみだ。
商隊との別れが近いと自覚したせいか、自然と会話もなくなったパーラと二人で遠くに見える白亜の人工物を眺めているうちに、馬車はシャンキルの街門の前まで到着した。
時刻は昼を少し回ったぐらいで、門の近くでは通過のための門衛による身分確認を待つ人達が並んでいる。
旅人や冒険者、商人が操る馬車や手引きの荷車が列をなす光景は、この時間帯に相応しい混雑具合だ。
俺達もその列に並ぶのかと思っていたが、商隊の馬車は入場待ちの列から少し離れた所に停まってしまった。
そしてアッジが一人、馬車から離れて門へと近付いていく。
それに気付いた門衛の兵士が一瞬怪訝な顔を見せたが、すぐにその表情が和らぐ。
「あ!これはアッジさん!また今年も来ましたか!」
メアリ商会として何度もシャンキルに来ているだけに、アッジは門衛にも顔を覚えられていたようだ。
親しげに手を振りながら近付いてきた兵士にアッジも手を振り返し、目の前までやってくると挨拶代わりにと兵士と肩を組んで笑顔を見せる。
「当たり前だ。私が来なきゃ誰が来るって言うんだ。それにしても、門衛姿も随分様になったな。去年など、人間を着た鎧みたいな似合わなさだったというのに」
「なんですか、人間を着た鎧って。勘弁してくださいよ、俺だっていつまでも新入りってわけじゃないんですから」
「バカ、私に取っちゃお前はまだまだ若造だっての」
この若い門衛とは去年も顔を合わせていたようで、一年の間での成長を感じとったが故の言葉だろう。
親子ほどの歳の差があるアッジと門衛だが、接する姿は友人としてのそれに近く、じゃれるように交わす言葉には嫌味が感じられない。
「適わないなぁ、まったく。それで、そちらの馬車の通行ですよね?」
「ああ、馬車は十一台、人員は五十二名だ」
途中で離脱したり合流したりと商隊の人数に変動はありつつ、最終的にはこれがシャンキルまでの道のりで同行した人数となっている。
「十一台ですか。去年と同じぐらいですね。念のため書類を確認させてください。……はい、結構です。ではいつも通り、そちらの門を使ってください」
アッジから手渡された書類に目を通した門衛は、その内容に何属したのか大きく頷くと、今開いている門とは違う、丁度馬車が一台ぐらいは余裕をもって通れる程度のちょっとした門を指さす。
一般人の入場には使わないが、門の通過に必要な手続きを免じた馬車などを通す際の特別な門なのだろう。
これだけの数の馬車と人を通門させるのに、一々ギルドカードのような身分証を確認し、荷物も検める手間はかなり大変なものだ。
メアリ商会ほどの大物ともなれば、書類一枚でそれをパスして街へと入れるのだから、シャンキルの街からいかにメアリ商会を信頼されているかが分かる。
ほぼペラ紙一枚で通過できるなど、貴族並ではないかと思えてしまう。
「おう、ありがとよ。後で酒を届けさせるから、お仲間とでも飲んでくれや」
「いつもありがとうございます…あぁ、そうだ。今は大通りも人が少ないので、まっすぐ商会へと向かえますよ」
「そうか、分かった」
門衛に別れを告げ、馬車に戻って来たアッジの指示で商隊は指定された門をくぐってシャンキルへと入っていく。
特別な門を使っていることと、先頭の馬車の屋根にいる俺とパーラが目立つせいで、入場待ちの人達から向けられる視線に居心地の悪さを感じるが、粛々と進む馬車は門を潜り、その先に伸びる大通りをゆっくりと走り出す。
ソーマルガの街だけあって、建物には見慣れた懐かしさが感じられ、改めてソーマルガへ来たのだという事実にちょっぴり感動を覚える。
同行している馬車の中にはメアリ商会とは関係のない商人もいるため、途中で四台が離れていき、七台の馬車はそのまま大通りを抜け、倉庫や大型の店舗が並ぶエリアへとやってきた。
周りを行き交う人が発する声から、この辺りは商会が店舗や倉庫などを構える区画と分かった。
俺達の乗る馬車はその中にあった一つの建物へと入る。
周りと比べて一際大きく、門からして立派なそこがメアリ商会がシャンキルで構える店のようだ。
早速入ってくる馬車に気付いて誘導の人間が現れ、馬車は建物の奥へと向かう。
倉庫と店舗を兼ねると思われるこの建物は、荷物を積んだ馬車がそのまま内部を通過できるような造りをしており、七台の馬車は奥まった場所にある倉庫の中へと全て収容された。
「よーし!着いたぞ!野郎ども、荷物を下ろせ!」
馬車が停止するや否や、アッジが辺りへ響く大声を上げると、一気に多くの人が馬車に群がってきて荷物が次々に下ろされていく。
そして荷物は簡単にチェックがされると、そのままどこかへと運ばれていく。
凄まじい速度で馬車が空になっていく様は驚きを通り越して少し怖いぐらいで、こういう馬車からの商品の搬入と搬出が、ここでは数えきれない数と頻度で行われていることがその慣れた手際から窺える。
当然俺とパーラが乗っている馬車からも荷物が運び出されていくため、その作業の邪魔にならないよう幌の上からどくと、エランドら護衛役の者が集まっているのを見つけてそちらへと向かう。
旅の途中では人手不足から俺達も商品の積み替えなどを手伝っていたが、こうして商会の人間の手が十分に足りている場所ではやることは何もない。
今はただ、こうしてただ突っ立っているだけの置物となるのみだ。
何とはなしに目の前で商品が運ばれていくのを眺める俺の視界に、アッジが何やら上等な服を着た数人の女性と話しているのが見えた。
手にしている書類と、商品の見本と思しき子袋を女性に手渡し、真剣な顔で何かを話している様子は、メアリ商会の重鎮に相応しいものだ。
あの様子だと当分こちらのことに気を回す暇はなさそうなので、指示待ちに近い俺達は放置が続きそうだ。
それに気付いたエランドが一度軽く溜息を吐くと、前に進み出て俺達を見据えるように向き直って口を開く。
「さて、僕達はこれで用済みだし、これで解散としようか。みんな、後のことは僕がアッジに言っておくから、もう行っていいよ。何人か、我慢できそうにないのもいるみたいだし」
アッジの手が足りない時はエランドが護衛の隊を仕切ることも多かったため、今もエランドが指示を出すのは自然な成り行きだろう。
エランドがそう言うと、何人かがバツの悪そうな笑い声を小さく零し、簡単に周囲へ挨拶をするとこの場を離れていく。
だらしない笑みを顔に張り付けて足早に去っていく姿は、とても清廉な大人とは言い難い。
彼らがどこに行くかは考えるまでもない。
長い旅で色々と不便を強いられていたため、色々と欲求が溜まっていたはずだ。
今日すぐに支払われるとはいかないが、メアリ商会からの十分な報酬も期待できるので、街に繰り出しての酒と女と涙の大騒ぎが彼らを待っていることだろう。
「じゃあエランド、私らも行くわね。いつもの所、席をとっておくからあんたも後で来なさいね」
去っていく集団から少し遅れ、クプルがエランドへと声をかける。
彼女もまた騒ぎたい側の人間のようで、平静を装っているが目と足に落ち着きがないあたり、さっきの連中と同類だからか。
「ああ、分かってるよ。リーオス、クプルを頼むよ」
「おう、勝手に始めないように見張っとく」
「ちょっと、やめてよね。私はそこまでせっかちじゃないわよ」
「バカ野郎、そう言って去年はエランドを待たずに樽一つ空けて潰れてただろうが。誰が介抱したか忘れたとは言わせねぇぞ。ついでにエランドの服をゲロ塗れにしたのが誰だったかもな」
そう言われた途端に視線を逸らしたクプルに、エランドもひきつった笑いを零す。
普段は姉御肌で仕切りもいいクプルだが、酒が絡むと残念な女になるというのはエランドとリーオスから秘かに聞かされていた。
去年そんなことがあったとなれば、リーオスの警戒も決して無意味とは言えない。
「ま、まぁいいじゃない、昔のことなんて。酒の席には無粋よ、そういうの。アンディ、パーラ、あんた達も一緒にどう?あれがあったおかげで、この旅最大の功労者とも言えるんだから、私らがおごってあげるわ」
あれというのは吸血種との遭遇のことだ。
新参の身でありながら、エランド達と共に一番前で戦った俺とパーラに商隊の誰もが感謝をしていた。
実際、さっき離れていく他の連中も、言葉を濁しはしたが吸血種のことで俺とパーラに礼を言っていたのも少なくなかった。
そのご褒美にと、クプルが酒の席に誘ってくれたようだ。
「どうするよ、パーラ」
俺としては誘いを受けるのも吝かではないが、パーラの方はどうだろうか。
こいつも酒は飲むことは飲むが決して強いわけじゃないし、パーラが断るなら俺もそうするつもりだ。
「いいじゃんいいじゃん、行こうよ。クプルさん達とはこれが最後の夜になるかもしれないんだよ。パーっとやらなきゃ勿体ないって。なにより、おごりだし。前にアンディも言ってたでしょ、人の金で飲む酒ほど美味いものはないって」
「バカっ、そういうのをでかい声で言うな!」
しっかりとクプル達にも聞こえる声の大きさに、俺は恥ずかしさと気まずさをいっぺんに覚える。
そういうのは思ってても口にしないもんだぞ。
「あっはっはっはっは!確かに、人の金で飲む酒は美味しいよねぇ。いいよいいよ、私がおごりって言ったんだから、好きなだけ飲みな」
人の金で飲む酒の美味さにはクプルも覚えがあるのか、愉快そうに笑い声をあげる。
その姿から、先程のパーラの言葉に気を悪くしなかったのが分かって一安心だ。
「わーい!やったー!流石クプルさん!よっ!いい女!」
「調子に乗るな。すいません、ご馳走になります」
はしゃぐパーラを窘めつつ、今日の酒代を出してくれる財布に頭を下げる。
殊勝な態度を見せてはいるが、内心では酒が飲めることと出費が抑えられることで小躍りしたい気分だ。
それに、エランド達と酒を酌み交わすのはこれで最後となるだろうから、最後に浴びるほど酒を飲もうというのも本心ではある。
寂しいものになりがちな別れの酒を、気分良く飲むのなら騒ぎながらが一番だ。
せっかくおごってくれるというのだから、酒の席を盛り上げるためのかくし芸の一つでも用意していくべきかもしれん。
「じゃあ行きましょうか」
「おーい、ちょっと待て」
クプルが歩き出そうとしたところに、アッジが声をかけてきた。
お偉いさんとの話は終わったのか、立っているのは彼一人だけだ。
「アンディ、パーラ、ちょっとこっちに来い」
そして俺とパーラを名指しして手招きをする。
二人で一瞬顔を見合わせて、アッジの下へと向かう。
「お前ら、本当にご苦労だったな。色々あったが、お前らがいなきゃこの旅は上手くいかなかったかもしれん。礼を言わせてくれ。特に、あれの時のパーラの働きは大きい」
真剣な顔でそういうアッジの様子は、商隊を襲った特大の危機と無事にたどり着けた幸運に対する憔悴が見てとれる。
なにより、吸血種との戦いでは犠牲を覚悟していただけに、ルーシアがクロウリーを楽に殺せる程度にまで弱らせたのはパーラの手柄が大きい。
感謝を示す態度には偽りや陰りが一片もないのは当然のことか。
「いえ、それが俺達の仕事ですから」
「そうそう、私ら商隊の護衛だからね。まぁクロウ…じゃなかった、あれに関しては運が悪かったみたいなもんだし」
「それでも私が無事にこうしてここに立っているのは、お前達のおかげだ。それでだ、依頼の報酬とは別に私からお前達に礼をさせてくれ」
「礼などと…」
俺達は仕事を全うしただけなのに、ここまで感謝されると逆に申し訳なくなる。
とはいえ、クロウリーのことを考えればアッジの気持ちとして礼をしたいというのはわからなくもない。
それだけの危機に遭遇したわけだしな。
「これは私の気持ちだ。どうしてもいらないというのならば仕方ないが、ぜひ受け取ってほしい」
あまり強く断るのも失礼か。
多少の金なら貰っておいても損はないし、向こうもそれで気が済むならそれで終わらせてやったほうがいい。
「分かりました。ではありがたく頂戴します」
「うむ、そうこなくてはな。お前達、確か皇都を目指しているんだったな?」
「え?ええ、まぁ。元々そっちに用があったんで、今回の護衛依頼も引き受けたわけですし」
「だったら、向こうに行く足が欲しいだろう?うちで予約した風紋船の乗船券があるんだが、お前たち二人に融通してやる。皇都までそれを使ってくれ」
なんと、アッジから風紋船の乗船権を譲ってもらえるとは。
皇都へ行くまでの移動手段はまだ用意してなかった俺達にとって、これはまさに渡りに船だ。
実はここから先、どこか適当な街で巡察の飛空艇を捕まえて皇都まで一っ飛びなんてことを考えていた。
だが残念なことに、それを実現させるための重要なキーであるダンガ勲章は俺達の飛空艇に残してきたため手元になく、あれなくして俺個人の名前でどうにか飛空艇を借りれるほどセキュリティは甘くないだろう。
盗…黙って借りるのも選択肢の一つだったが、それをして指名配でもされたら面倒だし、この国にいる知り合いにかかる迷惑を考えると最終手段にと温存したい。
どうしたものかと思っていたところに、降ってわいた風紋船の乗船券だ。
合法的に楽に目的地に行けるのなら、こんなにも嬉しいことはない。
「それはまた…いいんですか?メアリ商会が使う予定のを俺達に譲っても」
風紋船に乗船するには、手間と金が結構かかる。
メアリ商会クラスならその辺もどうにかなりそうだが、果たして俺達をそれに融通して大丈夫なのだろうか。
「構わんさ。実はな、次の便に乗る奴だったのが他の所に用が出来てな、偶々空いただけなんだ。もう金も払っちまってるし、無駄にするぐらいならお前らで使ってほしい」
なるほど、キャンセルが出来た航空チケットが回されてきたようなものか。
これで皇都まで楽に行けるのだから、急用が出来たその誰かには感謝しておこう。
「そうですか。では遠慮なく、使わせていただきます」
「ああ、そうしてくれ。ここから南西に、風紋船がやってくる桟橋がある。八日後ぐらいに来る船が皇都までいくやつだ。そいつに合わせて準備をしておけ。乗船に必要な書類なんかはこっちで用意するから、そうだな…三日後にまたここに顔を出してくれ」
「分かりました」
「話は終わった?終わったよね?もう私ら行っていい?」
少し前からそわそわしだしたパーラが、会話の終わりをしつこいぐらいに尋ねてくる。
「ああ、構わんが、なんだ、用でもあんのか?」
「実はこの後、クプルさん達と酒を飲む約束をしてまして」
「しかもおごりだよ!おごり!」
「はっはっはっは!そうか、それでパーラは落ち着きがなかったのか。なら早く行ったほうがいい。酒は逃げないが席はなくなるからな」
この街の大きさはかなりのもので、それだけに人口も多く、酒場の混雑もそれに比例してひどくなるだろう。
今はまだ明るいが、既に護衛隊の人間の多くが俺達に先行して酒場に行っているので、いい店ほど早い者勝ちで埋まっていく。
パーラが焦っているのもそのせいだ。
「そういうことだから、私達は行くね!アッジさん、お世話になりました!」
「おい襟首をつかむなぐぇっ!す、すいませんアッジさん!今日の所はこれで!」
「おーう、楽しんで来い」
パーラに引きずられながら、アッジになんとか一言を告げて去っていく。
まったく、大事な会話を無理矢理切り上げさせてまで酒に急ぐとは、礼儀知らずにもほどがある。
後でパーラには説教だな。
クプル達と合流し、メアリ商会の倉庫を後にした俺達は、その足で酒場へと向かい、エランドの到着を待って、旅の終わりと無事を祝っての打ち上げとなった。
今日までも旅の途中に立ち寄った街や村でも酒場で飲むことはあったが、仕事があるということで量をセーブしていた。
だが今はそれから解放され、浴びるように飲んでも何一つとして問題はない。
クプル達から勧められるままに色んな酒を飲んでいき、気付けば酒場全体を巻き込んだ宴となってしまっていた。
共に商隊にいた者もたまたま今日酒場にいた者まで一緒になり、肩を組んで笑い合いながら飲む酒のなんと美味いことか。
なによりタダ酒というのがいい。
クプルは勿論、エランドやリーオスまで赤ら顔で騒ぐ夜はいつまでも続き、酒場の灯が落とされることはなかったそうだ。
なお、勢いで酒場を借り切ったクプル達に何故か昨夜居合わせた客全ての酒代の請求が来て、一気に酔いがさめたとかどうだとか。
俺達はタダ酒じゃなければ即死だった。
危ない危ない。
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