364 / 449
遭遇!ラーノ族?
しおりを挟む◇◆◇◆◇◆◇◆
それは突然の知らせだった。
「なあ。俺、明後日村出るわ」
「は? 何言ってんの?」
この異世界に転生してから、8年。
ずっと一緒に過ごして来た、まさとさんが村を出ると言った。
たしかに、アルソン村の様な田舎では15歳になると成人扱いされる。
実際、王国で定められた年齢は17歳だから、制限はつくけど。
高校生だった僕は、通り魔に刺されて死んだ。
あの時は、周囲に居た人達も斬りつけられていたから、もしかしたら他にも犠牲者は出ていたのかもしれない。
産まれて直ぐは理解出来なかったけど、目が見える様になってからは、異世界だと気付いた。
ファンタジー映画に出てきそうな妖精が飛んでいたり、不思議と文字が読めたり。
学校で流行ってた“異世界転生”って言うのは、こういう事なんだろうなと。
ただ、運は僕に味方していた。
隣に住む一家に、同じ転生者が居たんだ!
しかも日本人の。
どれだけ救われたか。年齢にそぐわない行動や言動も、常識や文化の違いに戸惑う自分も。全部まさとさんは、僕より先に体験していて、僕が困らない様に助けてくれた。
彼は直ぐに僕の憧れになった。
だから、言葉が上手く発声出来ない時も、感謝や好意を伝えたくて、必至で声を出した。
そうしているうちに、僕等は親よりも一緒の時間を過ごす様になったんだ。
笑ったら右にだけ出来るエクボ。
困った様に眉毛を下げて笑う姿。
落ち着いたトーンで寄り添ってくれる声。
雪みたいに真っ白で、全然日焼けしない肌。
サラサラと絹糸の様に、頬に落ちてくる琥珀色の髪。
シャンパン色にキラキラ光る、おっとりした瞳。
手を繋ぐ度に、ほっそりした指が折れないかドキドキした。
全部全部、魅力的で。気付けば、僕は彼の虜だった。
人前では「ルーカス兄」と、兄の様に慕い。2人だけの時は「まさとさん」と、僕の甘ったるい気持ちを込めて、何度も呼んだ。
両親や村長は、再三王都の学校へ行かないかと勧めてきたけど、断り続けた。
だって村を出たら、まさとさんに会えない。
きっと彼はずっと村に居る。
知識が豊富で、優秀な彼を人々の目から隠すのは大変だったけど、大丈夫。
僕が目立ち続ければ良い。
誰も彼の凄さに気付かない。
まさとさんがどんどん自信をなくしていく姿は、気の毒だったけど、同時に安心した。
ーー何も出来ない。
そう思わせれば、外になんか出て行かない。
この村には、僕より魅力的な奴なんか居ない。
だから、まさとさんは絶対に僕を選ぶ。
そうなるはずだった。
なのに、なのにーーーー
「何でっ! 何で急にっ」
「何でって、この前15になっただろ?
だから村を出て行くんだ」
「別にココで暮らせば良いじゃん!」
「えー、だって田舎だし。
それに去年だって、薪割りオヤジのとこの息子が旅に出たろ。
そんなもんだって」
「ムリ。絶対嫌だ。
だいたい、まさとさんがどうやってココ以外で暮らすの。
そんなに外が見たいなら、僕が連れてってあげる。だから待って」
床に寝そべって、テキトーに返事をしながら本を読む姿に腹が立って、乱暴に本を取り上げた。
ちゃんと僕を見ろ!
「おい、何すんだよ。ったく。
あのなぁ。お前を待ってたら、あと7年も辛坊しなくちゃならねーんだぞ?
待てるかよ」
「じゃあ2年!
僕が10歳になるまで待って」
「はあ? 10歳で親元を離れたら危ないだろ。おばさんが悲しむから、やめなさい」
「…んで、なんでっ!
まさとさんは、僕と離れて平気なの?
僕を捨てるの!?」
ダメだ。こんな言い方しても、説得出来るわけないのに。
もっと彼が苦手に思ってる事を指摘しなきゃ。じゃないと。
「翔」
「えっ」
「いいか。お前はムカつくぐらい良く出来たヤツだ。
俺がなるはずだった、転生チートも全部持ってきやがって。
……だから、ちょっとは周りも見た方がいい。お前はすごいんだから。
俺ばっかりに執着しないで。な?」
「チートなら僕と一緒にいた方が良いじゃん。お金だって稼ぐ。まさとさんに贅沢させるよ。何もしなくて良い。隣にいてくれたら、それでーーー」
それで僕は幸せになれるのに。
「ごめんな。
明後日は盛大に見送ってもらう事になってんだ。お前もしっかり見送ってくれよ?」
うそつき。嘘つき嘘つき嘘つき!!!
「おはよう、テオドール」
「ミル……」
「あの人、今日出て行くんですってね。
今あちこち挨拶に回ってたわ」
「そう」
「ひどいクマだわ。寝てないの?」
「……」
あの日から、毎晩まさとさんと一緒に寝て、ずっと起きて見張ってた。
こっそり夜中に出て行くんじゃないかと思って。
「まあ、まだ時間もあるし、仮眠でもしたら? あとこれ、パパから。いつでも婿にきて良いからな、だって」
渡されたのは、この辺では滅多に手に入らない焼き菓子の詰め合わせ。
まさとさん、甘い物好きだから喜ぶだろうな。
そうだ。一緒に食べよう。呼んで来なくちゃ。
「何処へ行くの?」
「別に関係ないだろ」
「ダメよ。挨拶回りを邪魔しちゃ。
それに大事な話もあるの。来月の農作物の割当よ」
「そんなの村長に言ってくれ」
「村長なら、もうすぐ此処へ来るわ」
「は?」
「テオドールの家で会議する事になってるの。私は内容が分からないから、パパの手紙を渡して返事をもらうだけだけど。
貴方は必要よ。精霊についての話らしいから、テオドールが居なきゃ話にならないでしょ?」
「……くそっ」
断ったら、アルソン村は窮地に立たされる。そうなれば、まさとさんの両親が困ってしまう。
「じゃあ、よろしくね」
早く、まさとさんに会わなきゃ。
最悪、魔法を使ってでも阻止する。
彼が村に居ないなら、一切村の為に力を使わないと宣言しよう。
そうすれば、村の大人だけでなく、村長自らも動くはずだ。
やっと終わった。
出立時刻まで、あと1時間。
急がないとっ!
「おばさんっ! ルーカス兄はっ」
「あらいらっしゃい。
ごめんなさいねぇ。あの子ったら、急にお別れするのが寂しくなっちゃったみたいで。
2時間くらい前に出てったのよ」
「………ぇ」
「まったく、ご近所に謝りに行かなきゃいけないのは、私なのに。困った子よねぇ」
「うそつき」
2
お気に入りに追加
1,838
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる