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完成品が要求仕様と違うのはよくある
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パチリと薪が爆ぜる音を聞きながら、俺達は無言で焚火を眺めている。
すっかり日が落ちて、星明り以外は明かりもない暗闇が辺りを包む。
近くに人里もない山の中で、土魔術で作った小屋の中で熾した火を前に、俺とパーラは身を寄せ合っているが、その間にある空気は重い。
無事に下界に降りられたというのに、素直に喜べたのはほんの一瞬。
その後はテンション駄々下がりのまま夜を迎えていた。
「なんでこうなったんだろうね…」
ポツリと呟かれたパーラの声は、疲れのせいか力が全く籠っていない。
それに対し、俺も何かを言う気力がなく、ただ頷きを返すのみだ。
何故俺達がこんな状態になっているのか。
それは天人回廊を抜けたあたりまで話は遡る。
天人回廊を落ち続けてどれほどの時間が経ったか。
まだ何分程なのか、もう何時間もなのかの感覚が希薄なのは、代わり映えのない回廊の景色のせいだ。
前後以外の上下左右に赤い雲がある以外、ただ落下していくだけの光景に、俺は早々に飽きていた。
もっとこう、オーロラや花火のような色とりどりのエフェクトでもあれば楽しめたのだがな。
そんな風に思っていると、前方の暗闇に細い光が走る。
出口かと注視する間もなく、その光の中へ俺自身が突っ込んでいく。
穏やかな海面を突き破るような感覚と光景の中、シャボン玉のような虹色の飛沫をまき散らしつつ、俺は体を守る保護膜ごと、空中へと放り出された。
朝か夕方か、赤みのある太陽の光が照らす眼下には海と大地が見え、そのことから天人回廊を抜けたと判断できたのだが、同時にかなりの高さを現在も落下中であることが危機感を煽る。
ガルジャパタから出発前に聞かされた、人が即死できる高さというのは伊達ではなく、このまま高度数百メートル、下手をすれば千メートルはあろうかという高さから自由落下で落ちていくと、噴射装置やパラシュートなしでの無事な着地はまず望めないだろう。
未だ俺の周囲を守る膜のおかげで風の影響は感じられないが、着々と地面が迫る恐怖は和らぐことはない。
あと何十秒かの猶予で何かをしようにも、手元には噴射装置もなし。
残された俺の手段としては、地面に叩きつけられる瞬間に雷化で物理的な衝撃をいなすぐらいだ。
後続にはパーラもいるし、まずは俺が無事に着地してパーラを受け止めるべきか。
そう覚悟を決めていると、俺を覆っている膜が突然形を変えだす。
回廊を抜けるまではほぼ球体だったものが、空気抵抗を考えてか、地面が近づくにつれて細長くなっていき、最終的にはライフル弾のような形状へと落ち着く。
そのまま尖った部分が地面へと触れた瞬間、飴細工が溶けるようにして潰れていき、まるでそれ全体で地面を掴むようにして辺りへと広がっていく。
それによって、低反発マットレスに似た固く弾むような感触を全身で感じながら、急速に落下の勢いが打ち消された。
俺の両足が地面を捉えたと同時に、最後まで体を覆っていた膜は空気に混ざるようにして消え始める。
ガルジャパタが寄越した道具は、見事に回廊の通過から着地までしっかり面倒を見てくれたわけだ。
―…ぉぉおおおうぅぅうわぉおっ!
役目を十分に果たして消えていく道具に感謝の念を捧げつつ、無事に下界に到着出来た安心から溜息を漏らすと、頭上からパーラの絶叫が近づいてくる。
俺の後に続いていたのだから、落下する場所もほぼ同じになるのは自明の理。
見上げると、まさに俺を目指して落ちてくるところで、このままだと俺と衝突しかねないので、その場から少し下がって、先程は俺自身で体験した膜が変形して着地の衝撃を逃がす光景を、横から見ようとよく観察する。
しかし、あいつうるせぇな。
噴射装置に慣れているくせに、何をそんなに叫んでんだ?
…いや、もしかしたら俺も自分では気付かなかっただけで、さっきは叫んでいたのか?
そうだったと言われればそんな気もするし、だとしたら叫ぶのを俺がいじるのは筋違いかもしれん。
高速で迫るパーラは、周囲の膜がやはりライフル弾の形状に変わって、地面へと接触するとグニャリと潰れながら衝撃を吸収していく光景に、ちょっとした感動を覚える。
傍から見ると、こんなに面白いとは。
「うわ…っとっと」
「おっと、大丈夫か?」
保護膜が消えていき、そのタイミングに合わせて地面に降り立ったパーラは体勢を崩すが、すぐに俺がその体を支えてやる。
この時、パーラに触れた手から感じる感触や温かさから、今の俺達がちゃんと肉体を持っているということを実感した。
「ありがと。いやぁ、回廊を抜ける時はどうなるのか怖かったけど、何とか無事に着けたね」
久しぶりの下界ということと、五体満足で到着出来たことに喜びをかみしめているパーラの顔に、俺も同じ気持ちを共有し、口元に笑みが浮かぶ。
「ああ、ガルジャパタがくれたあの道具が最後まで役に立ってくれたな」
「結構便利そうな道具だったけど、消えちゃったね。やっぱりあれってもう使えないのかな」
「ま、俺達の手元に残ってないってことは、消耗品だったってことだろ」
クッション変わりとなって俺達を守った道具は、完全に空気に溶けるように消えて行ってしまい、あのビー玉じみた形態に戻ることもなかったことから、使いきりのものだったわけだ。
噴射装置やパラシュート以外で、高空から生身で落ちても無事に着地できる道具というのは、パーラが言うように中々便利だと思え、手元に残らないのが残念でならない。
「それはそうとお前、体に違和感とかはないか?気付いてるとは思うが、俺達のこの体はガルジャパタが作ったやつだからな」
新しい肉体に魂が入り込んだ、ある意味では転生と似てはいるが、こうしている今の状況が普通ではないので、何か違和感があれば今のうちに知っておきたい。
もっとも、異変を知ったところでどうにか出来るとも限らないが。
今のところ俺の方は何も違和感を覚えることはないが、パーラの方はどうなのか。
「そういえばそうだっけ。うーん、特に変なところはないかな。そっちから見てどうなの?変なところとかってある?」
「ん?…あぁ、そうだな。見た感じだと、変なとこは―」
ガルジャパタは要望通り、ちゃんと普人種の見た目で肉体を用意してくれたようだが、ふとパーラの口から覗く歯に視線がいく。
「なぁパーラ、お前の歯って前からそんなだったか?」
「歯?なにが?」
「なんか、妙に尖ってないか?」
耳も体毛も狼化からは遠のいた普人種のものだが、唯一歯だけがイヌ科のような鋭いものに変わっているように見え、特に犬歯に当たる部分にはその特徴が顕著に表れている。
俺に言われて訝しい表情で口をモゴモゴとさせたパーラは、一瞬で顔を青ざめさせると、恐る恐るといった様子で自分の口元へ手を運ぶ。
「……なん、これっ」
鏡がないため見ることはできないからか、パーラは何度もその手で歯に触れている。
「その様子だと、どうやら普通じゃないみたいだな、それ」
「当たり前でしょ!顔は!?顔はちゃんとしてるよね!?」
「そこ以外は俺が知ってる姿と同じだな。一応、口を閉じればわからない程度ではあるし」
幸いにしてか、あの犬っぽい顔つきにはなっていない。
普人種の時のパーラの顔のままだ。
「ぐぬぬ…まぁ九割方は元の姿だと思えば…いや、でもこれ、ガルジャパタがやらかしたんじゃない?」
「そうかもな。ガルジャパタにしてみれば、とりあえず俺達が困らないような肉体を用意したが、案外細かいところは気にしないで作ったかもしれん」
回廊に入る前に、ガルジャパタは俺達の肉体について少し話してくれたが、あの時感じたものはこれだったのかもしれない。
不利にはならないという風なことを言っていたが、それはつまり、元の造形と下界で生きる性能さえ満たせば、多少の差異は気にしないという大雑把さが多分に込められていたのだろう。
それが狼としての一部を残したままのパーラの肉体というわけだが、こうして見た限りではほぼ元の姿と同じだし、とりあえず日常生活に支障があるわけでもないのでいくらかはマシと割り切るべきか。
「はぁー…まぁ体毛とか輪郭が残らなかったからよしとするしかないのかなぁ。……アンディ、それ」
「あん?」
ブツブツと言いながらも、今の心境に折り合いをつけるようなことを口にしたパーラだったが、不意に俺を見て動きが止まる。
そして、若干震える指先を俺の顔へと向けてきた。
まさかと思い、俺も自分の歯に触れてみるが特に尖っていたりということはない。
「そっちじゃなくて。アンディ、耳…」
「耳?………ん?んんんん!?」
そう言われて、今度は自分の耳を触ってみる。
蟀谷から耳の付け根、そこから耳全体の輪郭をなぞるようにしていくと、一番外側に鋭角な手ごたえを感じた。
「もしかして…俺の耳、尖ってる?」
目視はできていないが、指先で探った感覚だと耳輪と呼ばれる部分が外側へ向かって伸びているような気がする。
恐る恐るパーラに尋ねてみると、神妙な顔で頷かれてしまった。
「私にはそう見えるね。あと、耳自体も少し大きくなっている気がするけど」
「まじか。エルフぐらいに?」
「そこまでじゃないけど、普人種って言えば疑われそうではあるね」
聴覚に違和感はないが、そこまで見た目が変わっていては、この先知り合いに会った時に説明する手間が毎回かかるな。
幸い、ギルドカードには本人が希望しない限り、種族の項目などは記載されないので、そっちから偽物と疑われる心配はないはず。
「おいおい、こりゃあパーラの歯のことも他人事じゃなくなったぞ」
「他人事だと思ってたんだ…」
おっと、つい漏れた言葉で、パーラから冷たい目を向けられてしまった。
実際、さっきまでは歯程度で…という気持ちだったが、こうして自分の身に降りかかってみると意外と重くのしかかってくる。
やはり慣れ親しんだ肉体ともなれば、小さいとはいえ確実な異変があると、心理的なショックは大きいということか。
ガルジャパタの奴、何が外見に変化はでないだろう、だ。
一部とはいえガッツリ出てるじゃねぇか。
「ねぇアンディ、これは私の思い付きみたいなもんなんだけど、私の歯にしろアンディの耳にしろ、これってさ、ガルジャパタが言ってた天人回廊を通る際に起きる幽星体の変質ってやつなんじゃない?」
「…まぁそうなんだろうな、きっと」
むき出しで突入すると幽星体に損傷の可能性がある天人回廊だが、肉体を被せたうえで通過する分には最小限の影響で済むとガルジャパタからは言われていた。
だがこうして俺とパーラに出ている影響だが、あるいはこの程度で済んだとするなら、下界へ戻るリスクとして受け入れるべきなのだろうか。
「幽星体は肉体にそのまま反映されることもあると聞いた。特にパーラは狼の因子が幽星体に組み込まれてるし、狼の象徴たる牙が表出した…と考えるのが自然な気もするが」
「うーん、そうなのかな?でもそうなると、アンディの耳はどうなの?私みたいに因子とか関係なくない?」
「さてな。もしかしたら、俺の幽星体に秘められていた何かが出てきたというのもあるかもしれないが、よくわからん。ガルジャパタ達も、天人回廊を通る際の影響は知っているが、詳しいことは分かっていないって感じだったしな」
「となると結局、普通は使えない道を通った代償って考えるしかないのかな」
「そういうことだろうな」
普通ではない何かに身をさらしたのなら、やはり普通ではない現象が己の身に起きるのも覚悟しなければならない。
俺達にとってそれが、天人回廊を抜けるということで、その代償が各々の体に起きた変化ということだ。
本来なら肉体の制作者にクレームを入れたいところだが、今のところ命に係わるほどのこともないし、なによりこちらからガルジャパタへ連絡する手段もないので、この体で生きていくことになるだろう。
「…それにしても、ここどこだ?」
肉体の変化に対する感情に一先ずの折り合いをつけ、次に気になっていたことである現在について意識が向く。
「さあ?どっかの山ってことは確かだけど」
俺の言葉を受けてパーラも辺りを見回し、景色の中から山という情報を口にする。
太陽の高さから今は早朝といったころで、辺りには薄く霧が漂っているものの、遠くを見てみれば山の稜線は分かり、それを辿ってみれば上には山頂が、下には森林とその先に海か湖と思われる水面が見える。
俺達がいる辺りはまだ森林限界というわけではないが、それでも木々はまばらと言っていい程度だ。
ただ、植生を見た限りでは知っている物も多く、まるっきり見知らぬ土地というわけでもなさそうだ。
「俺達がこうしてここにいるってことは、少なくともヤバい場所ってことはなさそうだが」
「エスティアンが回廊に入る前に言ってた、危険そうだったらどうにかするってやつ?」
「ああ。降りる先に危険はなかったのか、もしくはどうにかした結果でこの場所へ降りたのかはわからんが、エスティアン達の尺度では安全な場所ってことになるんだろうよ」
人知を超えた存在であるエスティアンが安全と判断する基準に多少の不安もあるが、今のところは特段危険を感じることもない。
「安全かどうかはともかくとして、これからどうするの?まさかここでずっと暮らすってわけじゃないよね?」
「当たり前だ。とにかく、飛空艇に戻るぞ。こんな山の中なのに、手元には武器すらないんだ」
「いいの?ここで待ってなくて。預けてる噴射装置とか、ここに送られてくるんじゃない?」
「そこは大丈夫だろ。俺達を追跡して、ガルジャパタが責任をもって送り付けるって言ってたし。どこにいても配達してくれるはずだ」
必ずしもこの場所に送り付けられるのではなく、俺達がその時にいる場所へ送ってくれるとガルジャパタも約束してくれている。
となれば、すぐにこの場を離れても問題はないのだが、だからといって急ぐこともない。
「ならいいけど。じゃあ、とりあえずはアシャドル王国に?」
「そうだな。最後に俺達の飛空艇があった場所をまずは目指そう」
俺達が無窮の座に行っていた間、果たして飛空艇が置いてきた場所にそのままあるのかという疑問もあるため、まずはアシャドル王国で巨人と戦った地へと向かい、飛空艇かその行方を知る人物を探すことを目標としたい。
そのために、今自分達がいる場所を正確に把握し、アシャドル王国へ向かう道を探すとしよう。
「アシャドルがどっちの方角にあるかも知りたいし、とにかく人を探そうよ。ざっと見た感じ、見える範囲に町か村なんかはないね」
「ふむ…太陽の位置から、とりあえず方角だけは分かるか。ここから見える森の先、南に水辺があるみたいだし、俺としてはそっちに行ってみたいところだ。ただ、日が暮れるのを待って、人の住む場所をおおよその当たりをつけてから、明日山を下りるってのも手だな」
俺達が大体山の六分目にいるというのは分かるが、そもそもどこの国の山なのかがわからない。
となれば、まずは人家を探したいところだが、見える範囲には分かりやすい人の住処が見当たらない。
一先ず山を下りて闇雲に人がいそうな方向を目指すか、夜を前に人が煮炊きをすることで発生する煙と明かりで町村の位置を探るかのどちらを選ぶかだが、正直悩むまでもない。
おあつらえ向きに、ここは高さ的にも申し分ないので、遠くまで見渡して人家の手掛かりを探すのには向いている。
パーラの顔を見てみると、俺と同じ答えを選ぶはずだと分かる。
「ま、普通なら後者を選ぶでしょ。私らは冒険者だし、何の確証もなしに見知らぬ土地を軽装で歩くなんてバカしないって」
「だよな。それじゃあまずはここを野営地とするか。下は少し石交じりだが、家を建てるのに十分な土もある。さくっと小屋を作っちまおう」
「お願いね。小屋が出来たら、着替えて少し周囲を探索しようよ。薪と食料を探さないとさ」
言われて、俺達が今無窮の座にいた時の恰好のままだと気付く。
トーガ風のこの服は、着心地と気楽さでは優れているが、標高の高い山では少し肌寒い。
ガルジャパタから受け取った俺達の元の服を確認すると、ちゃんと物として存在しているため、小屋を作ったらまずは着替えるとするか。
「よし、少し離れてろ。間取りは…いつも通りでいいか」
パーラを下がらせ、作る小屋の間取りを考えながら地面に手をつき、土魔術を発動させる。
もう何度もやっている作業だけに、その後の光景も見飽きたものだと思っていた。
この時までは。
「お、来た来た。いやぁ、いつ見ても面し―」
いつもの感覚でいつも通りの魔力を注ぐと、さっそく地面が盛り上がってきたのをパーラが面白そうに見ていたが、その暢気さは次の瞬間に吹き飛ぶこととなる。
土魔術の影響で始めは小さくボコリと膨らんだ地面が、瞬く間に爆発するような勢いで土の塊を天へと伸ばしていく。
その勢いたるや、巨大な塔が土中から生えてくるようで、小屋を作るというのとはまるで訳が違う現象が発生している。
「ちょっとアンディ!?どんだけの範囲を盛り上げてんの!砦でも作る気!?」
「違う!俺の魔術が勝手にっ…制御できん!」
たじろぐパーラに、俺も焦った声でそう返すしかできない。
今発動させた魔術は、せいぜい10平米の小屋を一つ作るぐらいで、今起きているような規模の魔術では断じてない。
それどころか…いや、正直に言おう。
この土の塔と呼べるものが生み出されているこれは、俺の全力の土魔術でもまず起きない規模の減少だ。
一方で、奇妙なことに使われた魔力はさほど多くない。
作ろうとした小屋の魔力分、正しく消費されたわけだが、その結果が目の前のこれでは、まさしく暴走と呼んだ俺の気持ちを分かってほしい。
想定外の結果に、すぐさま魔術の発動を止めたが、作られた土の塔はすぐには消えない。
むしろ、中途半場に中断したせいで、完全に制御を離れて一部が崩れ始め、それが俺とパーラの頭上に迫ってくる。
「なんなのよもう!アンディ!頭下げて!私が防ぐ!」
「すまん!頼んだ!」
魔術の発動と解除を短時間に行ったことで、次の発動までのインターバルが出た俺に変わってパーラが頭上への対処を買って出てくれた。
パーラが掌を上へ向けると、そこを起点に空気の渦が作られ始める。
舞い漂う誇りや土煙のおかげで視覚化された空気の渦は、あっという間に成長を遂げて巨大な竜巻となって、天へと昇りだす。
落ちてこようとしていた土塊も、竜巻に飲み込まれると翻弄されながら砕かれていき、そのまま風の流れの一部となってどこかへと飛んでいく。
これで頭上に土塊が落下してくる危険からは解放された。
しかしパーラの奴、風魔術で竜巻に似た現象を生み出せるのは知っていたし、近いことをやってもいたが、いつの間にかこんな規模の魔術が使えるようになっていたとは。
だがこれはちょっとやりすぎだ。
竜巻の規模が大きすぎて、近くに生えている低木が地面から剥がされだした。
俺の方も、そのうち体を竜巻に吸い上げられそうな危険を感じ始めている。
「やりすぎだパーラ!!もう十分だろ!」
「違うの!魔術が勝手に…っ!」
暴風の中、つい先ほど俺が放った言葉と同じものが、焦るパーラの口から飛び出す。
なんということだ。
俺がそうだったように、パーラの魔術も制御を逸しているということか。
「ちっ!お前もかよ!?とにかく発動中断だ!術への魔力供給を切れ!」
「わ、わかった!」
未だに竜巻が健在なのはパーラが魔術を維持しているからで、そこへ供給している魔力をカットすることを促す。
すぐさま術の行使が中断され、竜巻が徐々に不安定になっていく。
このまま霧散して終わるかと思った次の瞬間、乾いた音と共に猛烈な衝撃波が辺りに広がり、俺とパーラの体をその場から吹き飛ばしてしまった。
後からわかったが、衝撃波の正体は竜巻を形成するために圧縮するように集められていた空気が、急激に解放されたために起きた空気の膨張によるものだったらしい。
これまでのパーラの腕であれば、空気に圧縮を重ねに重ねてもまずこうまではならないため、大規模な魔術の暴走だったと結論づけている。
地面を離れる寸前に身体強化が間に合ったおかげで、二度ほど地面をバウンドしながらほぼ無傷の着地ができた。
パーラの方も同様で、やや不格好ながら地面に膝をつきつつも、目に見えるほどの怪我はなさそうだ。
俺達は無事だが、さっきまで竜巻が暴れていた場所では、まばらにあった草木が一掃され、ちょっとした爆心地のような景色が出来上がっている。
俺もパーラも魔術師としては素人などではないが、こうも立て続けに二人ともが制御を誤るとは、尋常のことではない。
だが身一つで山の中にいる以上、魔術に頼らず動くのはあまりにも非効率で、しかし魔術の暴発を考えると使うの躊躇われるという、どうしたらいいのかという不安を抱えてしまう。
悩ましさから唸っていると、隣から溜息が聞こえた。
パーラも俺と同じ危惧を抱いているようで、視線が合うと二人揃ってまた溜息がこぼれる。
「ほんと、なんでこうなったんだろうね」
「おいパーラ、お前さっきからそればっかりだぞ」
「だってさぁ、魔術が暴走するかもしれないなんて、私達これからどうすんのよ?こんなんで冒険者やってける?」
「別に魔術師じゃなきゃ冒険者やれないってわけじゃないだろ。それに、この小屋だって一応作れたんだから、慣れれば魔術の暴走も克服できるかもしれんぞ」
あの後、何度か失敗を重ねながら土魔術で何とか小屋を作ることに成功し、ひとまず今夜の宿を用意することができた。
小屋と言っても、想定よりも天井と床面積が大きくなってしまったので、もう立派な家屋と言ってもいいぐらいだ。
小屋の周りには失敗作ともいえる土のオブジェが建っており、あれも明日には解体しなくては。
流石に今日はもう疲れたし。
その結果わかったことだが、俺達の魔術が暴走した原因は、恐らく魔力の込めすぎではないかということだった。
どうもこの体になってから魔術の発動に必要な魔力が抑えられているようで、今まで10の魔力で発動していた魔術が、体感で2か3程度の魔力で発動できるという、極端な省エネ現象が起きているようだ。
実際、今使っているこの小屋は、普段なら小っちゃい椅子を作る感覚の魔力操作で作れた。
火を熾す際にも、いつもなら雷魔術で火花を作ってやっていたのだが、使った魔力にそぐわない放電が何度か起き、それなりの量の薪を無駄に消し炭にしてしまったほどだ。
今なら、ちょっとした集落の全オール電化システムを一人で賄える自信はある。
この世界にそんなシステムは存在しないが。
このことから、つまり今までの感覚で魔術を発動させたせいで、過剰に供給された魔力で術の方が制御を失い、あの暴走事故のようなことが起きたのではないだろうか。
「どっちにしろ、慣れるまでは下手に魔術は使えないってことでしょ。…やっぱりこの体のせいかな」
「多分そうだろうな。同じ下界で同じ魔術を使って違う結果が出た。以前と今で違うものといったら、答えは自ずと出る」
無窮の座でもちょっとした魔術は使っていたが、暴走はしなかったので、やはり原因はガルジャパタが作った肉体ということになる。
暴走という形ではあるが魔術の威力は上がっているし、省エネ効率も上がっている。
魔術師として急激な変化を迎えたため、今までの感覚で使っていた魔術も見直す必要はあるが、実力としては一つステップを上がったような感覚だ。
今までの技術や経験の蓄積を失ったわけではないものの、感覚便りなところが大きい俺達は、慣れるためにも一から鍛えなおすつもりで考える必要もありそうだ。
「小屋を作るのも火を熾すのも、完全に魔術の恩恵だったのを思い知ったな。俺達は普通の旅から離れすぎてたと思わんか?」
「そりゃあ、普通の人は魔術でそんなことはしないからね。魔術師だって、小屋もそうだけど、魔力を温存するために火熾しにも火打石を使うでしょ」
パチリと焚火が爆ぜる音で催促された気がして、新しい枝を追加する。
火魔術が使えれば野営での焚火も楽だろうと思うが、確かにパーラの言う通り魔力の温存を考えれば火打石を使ったほうがいい。
「それはそうなんだろうが、便利なのに慣れちまうとどうしてもな」
冒険者の嗜みとして、火打石を使った着火も心得てはいるが、やはり雷魔術を使ったほうがずっと楽で早いため、どうしてもそちらへ走ってしまう。
なまじ保有魔力が潤沢なのもそれを後押ししていた。
「分かるなぁ。僕も楽ならそれでいいって思う質だし、我慢と効率を天秤にかけるなら、後者をとるね。まぁ魔力を温存するって感覚はちょっと分からないけど」
突然、俺とパーラ以外の声が聞こえた。
焚火を挟んで座っているパーラと共に、声の方へと顔を向けると、そこにはやや大型のリスといったような形の動物がいた。
この狭くはないが広大でもない小屋の中で、声の発生源を間違うことはまずなく、先程の発言をしたのはこのリス風の動物で合っているはず。
…もう面倒なので、これからこいつはリスと呼ぼう。
いつも通りの恰好に着替えた際、脱いで余ったトーガ風の服で雑に作った入り口の布は小動もしておらず、つまりこのリスはそこから入ってきたわけではない。
俺もパーラも気配には敏感だし、ここまで近づかれても声を聴くまで気付かなかったということは、その正体はすぐに分かった。
こうして近くで感じる気配にも、覚えがある。
「…出たな。お前、大地の精霊か?」
そう俺が尋ねると、焚火の光を反射するまん丸の黒い目がこちらを向く。
表情といったものがなく、感情がまるで感じられない動物の顔ではあるが、不思議なことにこのリスがほほ笑んだように感じた。
「うん、そうだよ。久しぶりだね、二人とも」
やはりというか、俺の問いかけに否定をすることなく流暢に人語を操って返してきた。
このタイミングでこうして現れたということは、俺達に会いに来たと言ことで間違いないだろう。
丁度いい、こいつには言いたいことと聞きたいことがある。
主に言いたいことは文句だが、聞きたいことは精霊というその存在から、今俺達が置かれている状況への謎にきっと答えをくれると期待したい。
実は大地の精霊とは、光の精霊と巨人のことで色々と俺達に不利な情報を隠したと疑っているため、顔を合わせたら一発殴ってやろうかと思っていたが、小動物で来られてはそれもできない。
リスを殴っては動物愛護団体から文句がきて、色々と炎上しかねないのでな。
仕方ないので、その感情分も厳しく詰問させてもらうとしよう。
まさか、文句は言うまいね?
すっかり日が落ちて、星明り以外は明かりもない暗闇が辺りを包む。
近くに人里もない山の中で、土魔術で作った小屋の中で熾した火を前に、俺とパーラは身を寄せ合っているが、その間にある空気は重い。
無事に下界に降りられたというのに、素直に喜べたのはほんの一瞬。
その後はテンション駄々下がりのまま夜を迎えていた。
「なんでこうなったんだろうね…」
ポツリと呟かれたパーラの声は、疲れのせいか力が全く籠っていない。
それに対し、俺も何かを言う気力がなく、ただ頷きを返すのみだ。
何故俺達がこんな状態になっているのか。
それは天人回廊を抜けたあたりまで話は遡る。
天人回廊を落ち続けてどれほどの時間が経ったか。
まだ何分程なのか、もう何時間もなのかの感覚が希薄なのは、代わり映えのない回廊の景色のせいだ。
前後以外の上下左右に赤い雲がある以外、ただ落下していくだけの光景に、俺は早々に飽きていた。
もっとこう、オーロラや花火のような色とりどりのエフェクトでもあれば楽しめたのだがな。
そんな風に思っていると、前方の暗闇に細い光が走る。
出口かと注視する間もなく、その光の中へ俺自身が突っ込んでいく。
穏やかな海面を突き破るような感覚と光景の中、シャボン玉のような虹色の飛沫をまき散らしつつ、俺は体を守る保護膜ごと、空中へと放り出された。
朝か夕方か、赤みのある太陽の光が照らす眼下には海と大地が見え、そのことから天人回廊を抜けたと判断できたのだが、同時にかなりの高さを現在も落下中であることが危機感を煽る。
ガルジャパタから出発前に聞かされた、人が即死できる高さというのは伊達ではなく、このまま高度数百メートル、下手をすれば千メートルはあろうかという高さから自由落下で落ちていくと、噴射装置やパラシュートなしでの無事な着地はまず望めないだろう。
未だ俺の周囲を守る膜のおかげで風の影響は感じられないが、着々と地面が迫る恐怖は和らぐことはない。
あと何十秒かの猶予で何かをしようにも、手元には噴射装置もなし。
残された俺の手段としては、地面に叩きつけられる瞬間に雷化で物理的な衝撃をいなすぐらいだ。
後続にはパーラもいるし、まずは俺が無事に着地してパーラを受け止めるべきか。
そう覚悟を決めていると、俺を覆っている膜が突然形を変えだす。
回廊を抜けるまではほぼ球体だったものが、空気抵抗を考えてか、地面が近づくにつれて細長くなっていき、最終的にはライフル弾のような形状へと落ち着く。
そのまま尖った部分が地面へと触れた瞬間、飴細工が溶けるようにして潰れていき、まるでそれ全体で地面を掴むようにして辺りへと広がっていく。
それによって、低反発マットレスに似た固く弾むような感触を全身で感じながら、急速に落下の勢いが打ち消された。
俺の両足が地面を捉えたと同時に、最後まで体を覆っていた膜は空気に混ざるようにして消え始める。
ガルジャパタが寄越した道具は、見事に回廊の通過から着地までしっかり面倒を見てくれたわけだ。
―…ぉぉおおおうぅぅうわぉおっ!
役目を十分に果たして消えていく道具に感謝の念を捧げつつ、無事に下界に到着出来た安心から溜息を漏らすと、頭上からパーラの絶叫が近づいてくる。
俺の後に続いていたのだから、落下する場所もほぼ同じになるのは自明の理。
見上げると、まさに俺を目指して落ちてくるところで、このままだと俺と衝突しかねないので、その場から少し下がって、先程は俺自身で体験した膜が変形して着地の衝撃を逃がす光景を、横から見ようとよく観察する。
しかし、あいつうるせぇな。
噴射装置に慣れているくせに、何をそんなに叫んでんだ?
…いや、もしかしたら俺も自分では気付かなかっただけで、さっきは叫んでいたのか?
そうだったと言われればそんな気もするし、だとしたら叫ぶのを俺がいじるのは筋違いかもしれん。
高速で迫るパーラは、周囲の膜がやはりライフル弾の形状に変わって、地面へと接触するとグニャリと潰れながら衝撃を吸収していく光景に、ちょっとした感動を覚える。
傍から見ると、こんなに面白いとは。
「うわ…っとっと」
「おっと、大丈夫か?」
保護膜が消えていき、そのタイミングに合わせて地面に降り立ったパーラは体勢を崩すが、すぐに俺がその体を支えてやる。
この時、パーラに触れた手から感じる感触や温かさから、今の俺達がちゃんと肉体を持っているということを実感した。
「ありがと。いやぁ、回廊を抜ける時はどうなるのか怖かったけど、何とか無事に着けたね」
久しぶりの下界ということと、五体満足で到着出来たことに喜びをかみしめているパーラの顔に、俺も同じ気持ちを共有し、口元に笑みが浮かぶ。
「ああ、ガルジャパタがくれたあの道具が最後まで役に立ってくれたな」
「結構便利そうな道具だったけど、消えちゃったね。やっぱりあれってもう使えないのかな」
「ま、俺達の手元に残ってないってことは、消耗品だったってことだろ」
クッション変わりとなって俺達を守った道具は、完全に空気に溶けるように消えて行ってしまい、あのビー玉じみた形態に戻ることもなかったことから、使いきりのものだったわけだ。
噴射装置やパラシュート以外で、高空から生身で落ちても無事に着地できる道具というのは、パーラが言うように中々便利だと思え、手元に残らないのが残念でならない。
「それはそうとお前、体に違和感とかはないか?気付いてるとは思うが、俺達のこの体はガルジャパタが作ったやつだからな」
新しい肉体に魂が入り込んだ、ある意味では転生と似てはいるが、こうしている今の状況が普通ではないので、何か違和感があれば今のうちに知っておきたい。
もっとも、異変を知ったところでどうにか出来るとも限らないが。
今のところ俺の方は何も違和感を覚えることはないが、パーラの方はどうなのか。
「そういえばそうだっけ。うーん、特に変なところはないかな。そっちから見てどうなの?変なところとかってある?」
「ん?…あぁ、そうだな。見た感じだと、変なとこは―」
ガルジャパタは要望通り、ちゃんと普人種の見た目で肉体を用意してくれたようだが、ふとパーラの口から覗く歯に視線がいく。
「なぁパーラ、お前の歯って前からそんなだったか?」
「歯?なにが?」
「なんか、妙に尖ってないか?」
耳も体毛も狼化からは遠のいた普人種のものだが、唯一歯だけがイヌ科のような鋭いものに変わっているように見え、特に犬歯に当たる部分にはその特徴が顕著に表れている。
俺に言われて訝しい表情で口をモゴモゴとさせたパーラは、一瞬で顔を青ざめさせると、恐る恐るといった様子で自分の口元へ手を運ぶ。
「……なん、これっ」
鏡がないため見ることはできないからか、パーラは何度もその手で歯に触れている。
「その様子だと、どうやら普通じゃないみたいだな、それ」
「当たり前でしょ!顔は!?顔はちゃんとしてるよね!?」
「そこ以外は俺が知ってる姿と同じだな。一応、口を閉じればわからない程度ではあるし」
幸いにしてか、あの犬っぽい顔つきにはなっていない。
普人種の時のパーラの顔のままだ。
「ぐぬぬ…まぁ九割方は元の姿だと思えば…いや、でもこれ、ガルジャパタがやらかしたんじゃない?」
「そうかもな。ガルジャパタにしてみれば、とりあえず俺達が困らないような肉体を用意したが、案外細かいところは気にしないで作ったかもしれん」
回廊に入る前に、ガルジャパタは俺達の肉体について少し話してくれたが、あの時感じたものはこれだったのかもしれない。
不利にはならないという風なことを言っていたが、それはつまり、元の造形と下界で生きる性能さえ満たせば、多少の差異は気にしないという大雑把さが多分に込められていたのだろう。
それが狼としての一部を残したままのパーラの肉体というわけだが、こうして見た限りではほぼ元の姿と同じだし、とりあえず日常生活に支障があるわけでもないのでいくらかはマシと割り切るべきか。
「はぁー…まぁ体毛とか輪郭が残らなかったからよしとするしかないのかなぁ。……アンディ、それ」
「あん?」
ブツブツと言いながらも、今の心境に折り合いをつけるようなことを口にしたパーラだったが、不意に俺を見て動きが止まる。
そして、若干震える指先を俺の顔へと向けてきた。
まさかと思い、俺も自分の歯に触れてみるが特に尖っていたりということはない。
「そっちじゃなくて。アンディ、耳…」
「耳?………ん?んんんん!?」
そう言われて、今度は自分の耳を触ってみる。
蟀谷から耳の付け根、そこから耳全体の輪郭をなぞるようにしていくと、一番外側に鋭角な手ごたえを感じた。
「もしかして…俺の耳、尖ってる?」
目視はできていないが、指先で探った感覚だと耳輪と呼ばれる部分が外側へ向かって伸びているような気がする。
恐る恐るパーラに尋ねてみると、神妙な顔で頷かれてしまった。
「私にはそう見えるね。あと、耳自体も少し大きくなっている気がするけど」
「まじか。エルフぐらいに?」
「そこまでじゃないけど、普人種って言えば疑われそうではあるね」
聴覚に違和感はないが、そこまで見た目が変わっていては、この先知り合いに会った時に説明する手間が毎回かかるな。
幸い、ギルドカードには本人が希望しない限り、種族の項目などは記載されないので、そっちから偽物と疑われる心配はないはず。
「おいおい、こりゃあパーラの歯のことも他人事じゃなくなったぞ」
「他人事だと思ってたんだ…」
おっと、つい漏れた言葉で、パーラから冷たい目を向けられてしまった。
実際、さっきまでは歯程度で…という気持ちだったが、こうして自分の身に降りかかってみると意外と重くのしかかってくる。
やはり慣れ親しんだ肉体ともなれば、小さいとはいえ確実な異変があると、心理的なショックは大きいということか。
ガルジャパタの奴、何が外見に変化はでないだろう、だ。
一部とはいえガッツリ出てるじゃねぇか。
「ねぇアンディ、これは私の思い付きみたいなもんなんだけど、私の歯にしろアンディの耳にしろ、これってさ、ガルジャパタが言ってた天人回廊を通る際に起きる幽星体の変質ってやつなんじゃない?」
「…まぁそうなんだろうな、きっと」
むき出しで突入すると幽星体に損傷の可能性がある天人回廊だが、肉体を被せたうえで通過する分には最小限の影響で済むとガルジャパタからは言われていた。
だがこうして俺とパーラに出ている影響だが、あるいはこの程度で済んだとするなら、下界へ戻るリスクとして受け入れるべきなのだろうか。
「幽星体は肉体にそのまま反映されることもあると聞いた。特にパーラは狼の因子が幽星体に組み込まれてるし、狼の象徴たる牙が表出した…と考えるのが自然な気もするが」
「うーん、そうなのかな?でもそうなると、アンディの耳はどうなの?私みたいに因子とか関係なくない?」
「さてな。もしかしたら、俺の幽星体に秘められていた何かが出てきたというのもあるかもしれないが、よくわからん。ガルジャパタ達も、天人回廊を通る際の影響は知っているが、詳しいことは分かっていないって感じだったしな」
「となると結局、普通は使えない道を通った代償って考えるしかないのかな」
「そういうことだろうな」
普通ではない何かに身をさらしたのなら、やはり普通ではない現象が己の身に起きるのも覚悟しなければならない。
俺達にとってそれが、天人回廊を抜けるということで、その代償が各々の体に起きた変化ということだ。
本来なら肉体の制作者にクレームを入れたいところだが、今のところ命に係わるほどのこともないし、なによりこちらからガルジャパタへ連絡する手段もないので、この体で生きていくことになるだろう。
「…それにしても、ここどこだ?」
肉体の変化に対する感情に一先ずの折り合いをつけ、次に気になっていたことである現在について意識が向く。
「さあ?どっかの山ってことは確かだけど」
俺の言葉を受けてパーラも辺りを見回し、景色の中から山という情報を口にする。
太陽の高さから今は早朝といったころで、辺りには薄く霧が漂っているものの、遠くを見てみれば山の稜線は分かり、それを辿ってみれば上には山頂が、下には森林とその先に海か湖と思われる水面が見える。
俺達がいる辺りはまだ森林限界というわけではないが、それでも木々はまばらと言っていい程度だ。
ただ、植生を見た限りでは知っている物も多く、まるっきり見知らぬ土地というわけでもなさそうだ。
「俺達がこうしてここにいるってことは、少なくともヤバい場所ってことはなさそうだが」
「エスティアンが回廊に入る前に言ってた、危険そうだったらどうにかするってやつ?」
「ああ。降りる先に危険はなかったのか、もしくはどうにかした結果でこの場所へ降りたのかはわからんが、エスティアン達の尺度では安全な場所ってことになるんだろうよ」
人知を超えた存在であるエスティアンが安全と判断する基準に多少の不安もあるが、今のところは特段危険を感じることもない。
「安全かどうかはともかくとして、これからどうするの?まさかここでずっと暮らすってわけじゃないよね?」
「当たり前だ。とにかく、飛空艇に戻るぞ。こんな山の中なのに、手元には武器すらないんだ」
「いいの?ここで待ってなくて。預けてる噴射装置とか、ここに送られてくるんじゃない?」
「そこは大丈夫だろ。俺達を追跡して、ガルジャパタが責任をもって送り付けるって言ってたし。どこにいても配達してくれるはずだ」
必ずしもこの場所に送り付けられるのではなく、俺達がその時にいる場所へ送ってくれるとガルジャパタも約束してくれている。
となれば、すぐにこの場を離れても問題はないのだが、だからといって急ぐこともない。
「ならいいけど。じゃあ、とりあえずはアシャドル王国に?」
「そうだな。最後に俺達の飛空艇があった場所をまずは目指そう」
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おあつらえ向きに、ここは高さ的にも申し分ないので、遠くまで見渡して人家の手掛かりを探すのには向いている。
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「ま、普通なら後者を選ぶでしょ。私らは冒険者だし、何の確証もなしに見知らぬ土地を軽装で歩くなんてバカしないって」
「だよな。それじゃあまずはここを野営地とするか。下は少し石交じりだが、家を建てるのに十分な土もある。さくっと小屋を作っちまおう」
「お願いね。小屋が出来たら、着替えて少し周囲を探索しようよ。薪と食料を探さないとさ」
言われて、俺達が今無窮の座にいた時の恰好のままだと気付く。
トーガ風のこの服は、着心地と気楽さでは優れているが、標高の高い山では少し肌寒い。
ガルジャパタから受け取った俺達の元の服を確認すると、ちゃんと物として存在しているため、小屋を作ったらまずは着替えるとするか。
「よし、少し離れてろ。間取りは…いつも通りでいいか」
パーラを下がらせ、作る小屋の間取りを考えながら地面に手をつき、土魔術を発動させる。
もう何度もやっている作業だけに、その後の光景も見飽きたものだと思っていた。
この時までは。
「お、来た来た。いやぁ、いつ見ても面し―」
いつもの感覚でいつも通りの魔力を注ぐと、さっそく地面が盛り上がってきたのをパーラが面白そうに見ていたが、その暢気さは次の瞬間に吹き飛ぶこととなる。
土魔術の影響で始めは小さくボコリと膨らんだ地面が、瞬く間に爆発するような勢いで土の塊を天へと伸ばしていく。
その勢いたるや、巨大な塔が土中から生えてくるようで、小屋を作るというのとはまるで訳が違う現象が発生している。
「ちょっとアンディ!?どんだけの範囲を盛り上げてんの!砦でも作る気!?」
「違う!俺の魔術が勝手にっ…制御できん!」
たじろぐパーラに、俺も焦った声でそう返すしかできない。
今発動させた魔術は、せいぜい10平米の小屋を一つ作るぐらいで、今起きているような規模の魔術では断じてない。
それどころか…いや、正直に言おう。
この土の塔と呼べるものが生み出されているこれは、俺の全力の土魔術でもまず起きない規模の減少だ。
一方で、奇妙なことに使われた魔力はさほど多くない。
作ろうとした小屋の魔力分、正しく消費されたわけだが、その結果が目の前のこれでは、まさしく暴走と呼んだ俺の気持ちを分かってほしい。
想定外の結果に、すぐさま魔術の発動を止めたが、作られた土の塔はすぐには消えない。
むしろ、中途半場に中断したせいで、完全に制御を離れて一部が崩れ始め、それが俺とパーラの頭上に迫ってくる。
「なんなのよもう!アンディ!頭下げて!私が防ぐ!」
「すまん!頼んだ!」
魔術の発動と解除を短時間に行ったことで、次の発動までのインターバルが出た俺に変わってパーラが頭上への対処を買って出てくれた。
パーラが掌を上へ向けると、そこを起点に空気の渦が作られ始める。
舞い漂う誇りや土煙のおかげで視覚化された空気の渦は、あっという間に成長を遂げて巨大な竜巻となって、天へと昇りだす。
落ちてこようとしていた土塊も、竜巻に飲み込まれると翻弄されながら砕かれていき、そのまま風の流れの一部となってどこかへと飛んでいく。
これで頭上に土塊が落下してくる危険からは解放された。
しかしパーラの奴、風魔術で竜巻に似た現象を生み出せるのは知っていたし、近いことをやってもいたが、いつの間にかこんな規模の魔術が使えるようになっていたとは。
だがこれはちょっとやりすぎだ。
竜巻の規模が大きすぎて、近くに生えている低木が地面から剥がされだした。
俺の方も、そのうち体を竜巻に吸い上げられそうな危険を感じ始めている。
「やりすぎだパーラ!!もう十分だろ!」
「違うの!魔術が勝手に…っ!」
暴風の中、つい先ほど俺が放った言葉と同じものが、焦るパーラの口から飛び出す。
なんということだ。
俺がそうだったように、パーラの魔術も制御を逸しているということか。
「ちっ!お前もかよ!?とにかく発動中断だ!術への魔力供給を切れ!」
「わ、わかった!」
未だに竜巻が健在なのはパーラが魔術を維持しているからで、そこへ供給している魔力をカットすることを促す。
すぐさま術の行使が中断され、竜巻が徐々に不安定になっていく。
このまま霧散して終わるかと思った次の瞬間、乾いた音と共に猛烈な衝撃波が辺りに広がり、俺とパーラの体をその場から吹き飛ばしてしまった。
後からわかったが、衝撃波の正体は竜巻を形成するために圧縮するように集められていた空気が、急激に解放されたために起きた空気の膨張によるものだったらしい。
これまでのパーラの腕であれば、空気に圧縮を重ねに重ねてもまずこうまではならないため、大規模な魔術の暴走だったと結論づけている。
地面を離れる寸前に身体強化が間に合ったおかげで、二度ほど地面をバウンドしながらほぼ無傷の着地ができた。
パーラの方も同様で、やや不格好ながら地面に膝をつきつつも、目に見えるほどの怪我はなさそうだ。
俺達は無事だが、さっきまで竜巻が暴れていた場所では、まばらにあった草木が一掃され、ちょっとした爆心地のような景色が出来上がっている。
俺もパーラも魔術師としては素人などではないが、こうも立て続けに二人ともが制御を誤るとは、尋常のことではない。
だが身一つで山の中にいる以上、魔術に頼らず動くのはあまりにも非効率で、しかし魔術の暴発を考えると使うの躊躇われるという、どうしたらいいのかという不安を抱えてしまう。
悩ましさから唸っていると、隣から溜息が聞こえた。
パーラも俺と同じ危惧を抱いているようで、視線が合うと二人揃ってまた溜息がこぼれる。
「ほんと、なんでこうなったんだろうね」
「おいパーラ、お前さっきからそればっかりだぞ」
「だってさぁ、魔術が暴走するかもしれないなんて、私達これからどうすんのよ?こんなんで冒険者やってける?」
「別に魔術師じゃなきゃ冒険者やれないってわけじゃないだろ。それに、この小屋だって一応作れたんだから、慣れれば魔術の暴走も克服できるかもしれんぞ」
あの後、何度か失敗を重ねながら土魔術で何とか小屋を作ることに成功し、ひとまず今夜の宿を用意することができた。
小屋と言っても、想定よりも天井と床面積が大きくなってしまったので、もう立派な家屋と言ってもいいぐらいだ。
小屋の周りには失敗作ともいえる土のオブジェが建っており、あれも明日には解体しなくては。
流石に今日はもう疲れたし。
その結果わかったことだが、俺達の魔術が暴走した原因は、恐らく魔力の込めすぎではないかということだった。
どうもこの体になってから魔術の発動に必要な魔力が抑えられているようで、今まで10の魔力で発動していた魔術が、体感で2か3程度の魔力で発動できるという、極端な省エネ現象が起きているようだ。
実際、今使っているこの小屋は、普段なら小っちゃい椅子を作る感覚の魔力操作で作れた。
火を熾す際にも、いつもなら雷魔術で火花を作ってやっていたのだが、使った魔力にそぐわない放電が何度か起き、それなりの量の薪を無駄に消し炭にしてしまったほどだ。
今なら、ちょっとした集落の全オール電化システムを一人で賄える自信はある。
この世界にそんなシステムは存在しないが。
このことから、つまり今までの感覚で魔術を発動させたせいで、過剰に供給された魔力で術の方が制御を失い、あの暴走事故のようなことが起きたのではないだろうか。
「どっちにしろ、慣れるまでは下手に魔術は使えないってことでしょ。…やっぱりこの体のせいかな」
「多分そうだろうな。同じ下界で同じ魔術を使って違う結果が出た。以前と今で違うものといったら、答えは自ずと出る」
無窮の座でもちょっとした魔術は使っていたが、暴走はしなかったので、やはり原因はガルジャパタが作った肉体ということになる。
暴走という形ではあるが魔術の威力は上がっているし、省エネ効率も上がっている。
魔術師として急激な変化を迎えたため、今までの感覚で使っていた魔術も見直す必要はあるが、実力としては一つステップを上がったような感覚だ。
今までの技術や経験の蓄積を失ったわけではないものの、感覚便りなところが大きい俺達は、慣れるためにも一から鍛えなおすつもりで考える必要もありそうだ。
「小屋を作るのも火を熾すのも、完全に魔術の恩恵だったのを思い知ったな。俺達は普通の旅から離れすぎてたと思わんか?」
「そりゃあ、普通の人は魔術でそんなことはしないからね。魔術師だって、小屋もそうだけど、魔力を温存するために火熾しにも火打石を使うでしょ」
パチリと焚火が爆ぜる音で催促された気がして、新しい枝を追加する。
火魔術が使えれば野営での焚火も楽だろうと思うが、確かにパーラの言う通り魔力の温存を考えれば火打石を使ったほうがいい。
「それはそうなんだろうが、便利なのに慣れちまうとどうしてもな」
冒険者の嗜みとして、火打石を使った着火も心得てはいるが、やはり雷魔術を使ったほうがずっと楽で早いため、どうしてもそちらへ走ってしまう。
なまじ保有魔力が潤沢なのもそれを後押ししていた。
「分かるなぁ。僕も楽ならそれでいいって思う質だし、我慢と効率を天秤にかけるなら、後者をとるね。まぁ魔力を温存するって感覚はちょっと分からないけど」
突然、俺とパーラ以外の声が聞こえた。
焚火を挟んで座っているパーラと共に、声の方へと顔を向けると、そこにはやや大型のリスといったような形の動物がいた。
この狭くはないが広大でもない小屋の中で、声の発生源を間違うことはまずなく、先程の発言をしたのはこのリス風の動物で合っているはず。
…もう面倒なので、これからこいつはリスと呼ぼう。
いつも通りの恰好に着替えた際、脱いで余ったトーガ風の服で雑に作った入り口の布は小動もしておらず、つまりこのリスはそこから入ってきたわけではない。
俺もパーラも気配には敏感だし、ここまで近づかれても声を聴くまで気付かなかったということは、その正体はすぐに分かった。
こうして近くで感じる気配にも、覚えがある。
「…出たな。お前、大地の精霊か?」
そう俺が尋ねると、焚火の光を反射するまん丸の黒い目がこちらを向く。
表情といったものがなく、感情がまるで感じられない動物の顔ではあるが、不思議なことにこのリスがほほ笑んだように感じた。
「うん、そうだよ。久しぶりだね、二人とも」
やはりというか、俺の問いかけに否定をすることなく流暢に人語を操って返してきた。
このタイミングでこうして現れたということは、俺達に会いに来たと言ことで間違いないだろう。
丁度いい、こいつには言いたいことと聞きたいことがある。
主に言いたいことは文句だが、聞きたいことは精霊というその存在から、今俺達が置かれている状況への謎にきっと答えをくれると期待したい。
実は大地の精霊とは、光の精霊と巨人のことで色々と俺達に不利な情報を隠したと疑っているため、顔を合わせたら一発殴ってやろうかと思っていたが、小動物で来られてはそれもできない。
リスを殴っては動物愛護団体から文句がきて、色々と炎上しかねないのでな。
仕方ないので、その感情分も厳しく詰問させてもらうとしよう。
まさか、文句は言うまいね?
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