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航空攻撃部隊出動

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 男というのはとかくでかいものが動く瞬間には興奮を覚える。
 大型重機しかり、巨大タンカーの出航しかり、豊満ボディなグラビアアイドルの縄跳びしかり、そういったものを見ては騒いでしまうものだ。

 そして、それは世界が変わっても同じで、離陸したソーマルガ号の下では、それを見送る非戦闘員の手を振って騒いでいる様子が、声は聞こえずともよくわかる。

「艦底が約三十メートルの高さに到達。主機は定格出力で稼働中」

「姿勢制御に問題なし。艦首艦尾両舷いずれも依然水平を保っています」

「通信機に応答を確認。発艦機が直掩に回ります」

 艦橋ではオペレーターの冷静で確実な報告が飛び交い、艦長席に座るアルベルトがそれに対して時折頷きを返す。
 基本的に細かいことは士官が判断しており、今のところアルベルトはお飾りのようなものだ。
 勿論、艦内での最優先の指揮権は有しているので、不測の事態で決断を下すのは彼の役割でもある。

「中々に壮観ですね。これだけの威容を空に示せるのは、ソーマルガ号ならではでしょう」

 俺はというと、そのアルベルトの横に立ち、参謀のような佇まいでいる。
 現状では最も巨人との空戦経験が豊富な俺に、アルベルトのアドバイザーとしての役割も与えられた。
 そのため、戦闘が始まっていないうちはやることもなく、船の運航に艦橋の人員が総出で取り組んでいる今、アルベルトに声をかけられる暇人は俺ぐらいだ。

 外の景色を写す窓には、小型飛空艇と中型飛空艇が隊列を組んでソーマルガ号を守るように飛ぶ光景が見え、空母とそれを守る艦載機の織り成すフォーメーションには軍事的な芸術性を感じてしまう。

「うむ、巨大さもさることながら、艦載機を侍らせての飛行はやはり頼もしさが違う。他国へ飛空艇が派遣されての軍事行動はこれが初めてとなるが、皆よくやっている」

 ソーマルガ号自体、実戦に投入されるのは恐らくこれが初めてで、艦を動かしている人達も緊張していないわけもなく、それにしてはスムーズに離陸したあたり、艦の運用には優れた人材が揃っている証拠だろう。

「艦長、準備が整いました」

 出発の準備が出来たようで、アルベルトに変わって各所に指示を飛ばしていた年嵩の男性士官がそう声をかけて来た。
 この士官はソーマルガ号を国許からここまで運んでくるまでの間、艦長職を務めていた人で、アルベルトに指揮を譲ってからは、副艦長としてサポートに回ってくれている。

「よし…これより本艦は前進し、巨人との戦闘へ移行する」

 艦長席の側に設けられた伝声管にアルベルトは口を寄せ、よくとおる声が艦内へと伝わっていく。

「作戦の概要は既に知っていようが、まずは地上部隊が攻撃と攪乱を仕掛ける。その間に本艦は巨人に接近し、地上部隊の後退に合わせて投石器による攻撃を敢行。両舷の投石器を稼働させるため、担当の者は所定の配置にて待機せよ」

 現在、ソーマルガ号の甲板には二十基の投石器が備わっているが、左右の舷側に十基ずつという配置となっており、まずは十基による投石を行い、次弾の装填の間に船の向きを変えて今度は逆舷側の十基が投石を行う。
 それを交互に行うことで連続した投石攻撃となり、巨人に痛撃を与えるという作戦となっていた。

「…ここは我らの国ではない。諸君らの中には、ソーマルガのためにこそ戦いたいという思いはあろう。しかし、彼の巨人をこの地で倒さねば、いずれはその足でソーマルガの大地が蹂躙されよう。愛すべき我らの家族、友のために今日、あれは倒して見せると吠え猛る諸君らこそ我が誉れとなる。この危急の折に盟邦へ手を差し伸べた我らが国王陛下の御心に恥じぬよう、己が手で巨人を屠らんと奮起せよ」

 冷静でありながら言葉の端々に熱が感じられる言葉を淡々と吐き出しきると、伝声管越しに艦内のいたるところから歓声染みた返事が返ってきた。
 中々に聞き手の心を揺さぶる語り口と言葉のチョイスに、聞いていた俺も何故かこみあげるものを覚えたほどだ。

「…本艦は移動を開始する。微速前進、発光信号準備、前線の部隊へソーマルガ号の前進を伝えよ」

「微速前進!発光信号用ー意!」

 艦橋内に向けて発せられた声に副長が復唱を重ね、オペレーターがそれに応えるための操作へ没頭していく。
 クンという少しだけ体が揺れる感覚に襲われた直後、外の景色が動き出した。
 ソーマルガ号がゆっくりと前進を開始したのだ。

 しばらく進むと、左斜め前で光の点滅が見えた。
 それは発光信号をやり取りするために前線に配置した人員によるもので、丁度地上部隊がいるあたりから発せられたその光には、了解と作戦開始の意味が込められている。

 音声が使える通信機はまだ飛空艇にしか搭載していないので、遠距離でのやり取りは依然発光信号だよりだが、この世界の常識から見れば、有効距離と情報量では革命的と言っていい発光信号は卑怯なほどに便利だ。

 遠くの方では二本の足で立つ巨人の姿があるが、その周りをパーラや先発した小型飛空艇が攪乱を続けているおかげで、問題なく足止めは出来ている。
 そんな巨人だが、ソーマルガ号が徐々に近づくとやはりこちらに気付くもので、目のない顔と体の向きがソーマルガ号に相対しようと動いていく。

 その隙をついたのか、足下ではイーリスによって巨人の態勢を崩す一撃が繰り出されたようで、傾いでいく巨体に対し、ソーマルガ号は右舷側を向けるようにその場で回転を始める。

「巨人、態勢を崩しました。地上と空中の陽動部隊は後退を開始。発光信号確認、巨人の周りに友軍なし、イーリス殿とグロウズ殿も回収済みとのことです」

 オペレーターの報告に対し、副長は鷹揚に頷き、通信機へと手を伸ばす。

「よし…投石部隊、準備は出来ているか?」

『一番から十番、装填いつでもいけます!』

『二十番までも同じく』

 甲板に増設した通信機越しにやり取りをしていた副長が艦長席へ視線を向けると、そこに座るアルベルトが頷きを返すことで投石準備開始の許可が出る。

「よろしい、まずは艦右舷より投石を開始する。現地点は射程距離いっぱいだ。目標に向きを合わせるだけでいい」

『了解、装填用ー意!』

 意気軒高な声と共に、甲板上では投石機がターンテーブルが動くようにしてその向きが微調整されていく。
 ソーマルガ号は動きを止めてその場で滞空するのみで、あの投石器は巨人を確かに狙っているのだろう。

「…へぇ、重機で岩を装填してるんですね」

 投石機という性質上、岩をスプーン状の部分にセットしなければならないが、今回、甲板上ではその岩を持ち上げてスプーンに乗せるというのを重機が行っており、その意外な光景に思わず感嘆の声が漏れる。
 爪を増やしたフォークリフトのようなその重機は、重さ百キロは優に超えていそうな岩を掴んで持ち上げるという作業を易々と行っている。

「うむ、岩の重さを考えると人の手では時間がかかるのでな。連射速度を考えて、今回は装填作業に重機を充てている」

 そんな俺の質問に答えたのは副長で、各方面へ指示を出しながら俺の呟きもしっかり拾ってちゃんと答えるとは、優秀な指揮官の証拠である視野の広さがなせる業か。

 人間を遥かの上回るパワーを発揮する重機によって、投石器の側に積み上げられていた岩が次々とセットされていき、あっという間に全てに岩が収まる。
 後は投石器に発射の操作を行うだけで、あの岩は巨人へと殺到することになるだろう。

『装填完了!』

「艦長、よろしいですか?」

「ああ、やってくれ」

 最終確認に尋ねた副長にアルベルトがそう返し、それを合図にして通信機へ向けて鋭い声が飛ぶ。

「発射用意……撃てっ!」

 その声で投石機が少し発射のタイミングをずらしつつ、次々と空へと岩を放り投げていく。
 十基もの投石器が作動した反動はやはりかなりのもので、ソーマルガ号の浮遊能力を若干乱すほどの揺れが船を襲うが、姿勢制御システムが優秀なのか、揺れを吸収するようにして艦はすぐに落ち着いた。

 そんな中でも、艦橋では誰もが飛んでいく岩の軌道を目で追い、数秒の間をおいて巨人の体に都合十個の岩が見事に全弾命中すると、ワッとした歓声が巻き起こる。
 魔術が通じない相手というだけあって、どこか投石も効果が薄いのではという思いはあったが、着弾と同時に巻き上がった雪と土の勢いを見るに、質量兵器としてはこの上ない投石器の凶悪さを改めて見せつけられた気分だ。

「これは…すさまじい光景だな。投石器を船に搭載して運用するというのも画期的だったが、流石は攻城兵器だけあって威力は申し分ない」

 城に対してではなく、巨人とは言え単体へ向けて岩が放たれる光景に、アルベルトは唸るようにして言葉を吐く。
 固定しての運用が基本の投石機が、こうして船の甲板を使い動きながら射撃ができることの恐ろしさも感じているのだろう。

「あれで倒しきれればいいのですが…まぁそううまくはいかないか」

 希望的観測を口にした俺の言葉を否定するように、巨人がまた動き出す。
 あれだけの岩を食らってもまだ活動を停止しないそのタフネスは、相手をし続けて来た俺には納得できるものだ。

「艦回頭、左舷側を巨人に向けよ。投石器、十一番から二十番、用意はいいか」

『発射準備完了しています』

「よし、発射用意……ってーぃ!」

 すぐさま次の攻撃に移るべく副長の指示が飛び、今度はソーマルガ号の左側の投石器が巨人へと狙いを定められる。
 こうして右舷左舷交互に放って発射間隔を短縮し、時間当たりのダメージを稼ぐ。

 投石機の準備が終わったのを確認して、再び発射の指示が出された。
 副長の飛ばした撃ての言葉は少しだけ掠れていたが、それだけ随分と気も逸っているようだ。

 指示を受けて発射された岩は、先程見たのとほぼ変わらない軌道を描いて巨人へと降り注ぎ、ようやく晴れた雪煙が再び舞い上がり、巨人の姿を覆い隠してしまう。
 今度は全弾命中とはいかず、一発がそれて何もない大地へと落ちたが、それでも九発を当てたのは大したものだ。

 初撃の時もそうだったが、照準器がろくにないであろう投石器でこの命中率は驚嘆に値する。
 よほど扱いの慣れた人間が投石器の運用についているのだろう。

 一つで重さ百キロを超える岩が二十発近く撃ち込まれ、ひょっとしたら倒したのではないかと思わせるほどの攻撃に、俺も思わず拳を強く握りしめる。
 艦橋内では今度は歓声こそ上がらないものの、勝利を確信したかのような緩んだ空気が漂っていた。

 そうしていると、誰もが見つめる先にあった雪煙が風によって晴らされ、倒れている巨人の姿が露になる。
 巨人の体の上とその周りには飛来した岩が散乱しており、それによってつけられた打撃痕が皮膚表面のあちこちに見えた。
 あらゆる攻撃に耐性を持つ中、打撃には弱いとされていただけあって、岩の直撃によって作られた傷跡は未だ回復が始まる様子はなく、傍目には死体のような静寂を体現している。

「…やった、か?」

 ボソリと誰かが呟いたその言葉は、まさしくフラグとなってしまう。
 まるでその言葉に応えるかのように、おもむろに巨人は上半身を起こし、近くにあった岩を掴んでその手を大きく振りかぶった。

「機関最大!後退しつつ急速上昇!急げ!」

「え…あ!りょ、了解!」

 あれを見て巨人が何をするつもりかは誰もが理解できていたが、しかし反応が一瞬遅れている艦橋内に、アルベルトが一喝するように鋭い声で指示を飛ばす。
 オペレーターもそれを受けてソーマルガ号を動かそうとするが、それより一瞬早く、巨人の手に握られた岩がこちらへと投げつけられた。
 俺達の放った岩が、今度は俺達を襲う。

 剛腕ピッチャーが放つようなストレートで飛来する岩は、ソーマルガ号の甲板を抉るかと思われたが、若干とはいえ既に上昇していたおかげで船体の下へと逸れていく。

「衝撃に備っ…」

 恐らく船底辺りに当たったのか、ドンという重い音と共に、まるで嵐にでもあったかのような揺れがソーマルガ号を襲う。

 ―うぉぉおお!?

 ―きゃぁぁあああっ!

 艦橋内は上下にも左右にも揺さぶられ、悲鳴と絶叫が充満していく。
 衝撃はあまりにも激しく、椅子に着くか何かに捕まっていなければ、人体が天井と床を往復でバウンドしていたことだろう。

 唯一、この中では椅子に座らず立っていた俺がまさにその危険はあったが、衝撃があった瞬間、足元に電磁力を発生させることで体を固定出来たものの、上半身は揺れがそのまま伝わってしまい、頭がクラクラする。

「…っはぁ、艦の被害は!」

「うぅ…し、主機出力、稼働率に異常なし。高度、姿勢共に安定しています。航行に支障はありません。……流石ソーマルガ号だ、なんともない」

 いち早く立ち直った副長が被害状況を尋ねると、計器を見ているオペレーターが一先ず安心できる情報を伝えて来る。
 あの衝撃で主機が普通に動いているとは、ソーマルガ号の頑丈さが今は心強い。

『こちら艦内最下層!船底に亀裂アリ!応急処置に入ります!』

『右舷側四層区画!ひしゃげた装甲が船内にめり込んでいます!』

『格納庫で怪我人発生!治療係を寄こしてください!』

 伝声管からは艦内の被害がひっきりなしに聞こえてきて、巨人がたった一発放った投石によって、ソーマルガ号は混乱こそないが大騒ぎとなっている。
 あの揺れで船底に亀裂で済んでいるということは、直撃はしていないのかもしれない。
 今ソーマルガ号が航行可能な状態で被害が収まっているのは、アルベルトが出した指示のおかげだろう。

『こちら甲板の投石器部隊っ、さっきの衝撃で五名、甲板の外へ放り出されました…』

 そんな中、無線機から聞こえて来た投石器部隊の被害に誰もが息をのんだ。
 投石器部隊には生憎パラシュートが配備されておらず、その放り出されたという人間はまず助からない。
 地上までの数秒、放り出された人間は迫る死に対して何を思ったのか、空に身を置く者としてその恐怖のいくばくかは理解できる。
 それはここにいる誰もが共有できるものだろう。

「…そうか、今は艦内の被害を確認中だ。余剰人員を確保出来次第、そちらに回す。それまで投石機と重機の状態を確認して、保全に努めてくれ」

『っ了解…』

 被害は艦内のいたるところに出ている以上、怪我人や艦の運航に必要人間を除き、余剰人員を生み出すのに少し時間が必要だ。
 副長の言葉に、無線機の向こうの人も悔し気だが、こればかりはどうにもならない。

「艦内に通達。被害のあった個所の修復と―」

「き、巨人がっ…第二投の体勢に入りました!」

 伝声管へ指示を告げようとしたその時、オペレーターの一人が新たな危機を告げる。
 言われて視線を巨人へ向けると、確かにその手は岩を掴んでおり、再びこちらへと投げつけんと振りかぶるところだった。

「なんだと!くっ……一時後退だ!高度を上げつつ、距離を取る!巨人の投げる岩が友軍に向かないよう、位置取りは間違えるな!」

 先程投げられた岩は、幸いにして友軍のいる方角には向かっていないが、次に投げる岩も友軍に向かわないよう、ソーマルガ号は移動する先に注意しなくてはならない。
 副長の指示によって、ソーマルガ号は急速に高度を稼ぎ、巨人が第二投を投げる頃には十分に距離が出来ており、再びの剛速球は船体に掠ることもなく通り過ぎていく。

「続いて第三投の構えに―いえ、諦めたようです」

 次の投石を行おうと岩を手にした巨人だったが、何故かその手を降ろしてしまう。
 どうやらソーマルガ号が離れたことで、双方の投石が届かないというのを察したようだ。
 連続して岩を投げつけてこないのは、こちらも少し余裕が出来て有難い。

「してやられたか。まさかこちらが投石で使った岩を利用されるとは」

 忌々し気に言うアルベルトの言葉に、それまで艦内への指示を行っていた副長も眉間の皺を深めながら頷きを返す。

「はっ、よもやあのような手で返されるとは、我らも考えが浅かったと言わざるを得ませんな。しかし、投石器の効果は十分にあったと見ていいでしょう。見た所、岩が直撃した痕はかなりものも。このまま投石機での攻撃を続ければいずれは…」

「それをするには、またあの巨人からの投石を掻い潜らねばならんな。それに一体あといくつ岩を当てれば倒せるのかも考えねば…」

「しかし、こちらの投石機の射程距離まで近づけば、向こうの投石の危険にも晒されることになりますからな。幸い、向こうもこちらを警戒してか、今の内は睨みあいの状況に持ち込めましょうが」

 二人の言う通り、目下の問題は投石器の射程距離だ。
 投石を当てようと巨人に近付けば、向こうからも岩を投げつけられるし、しかも巨人の防御力は十発程度の投石は耐えらえるのに、ソーマルガ号は一発掠っただけで致命的という差がある。

 今は巨人も距離を読んでか攻撃はしてこないが、互いに投石を使った撃ち合いになれば、こちらの不利は明らかだ。
 手数では劣らないが、一発貰ったらアウトという状況で戦い続けるのは精神的にも辛いものがある。

 可能ならこちらが一方的に投石可能な方法があれば……と思ったところで、閃いた。
 このやり方なら、ひょっとしたら巨人からの投石をある程度無視しながら、ソーマルガ号の投石を当てることは出来そうな気がする。

「話に割り込むようで失礼しますが、俺の意見を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」

「おぉ、何かよい策でも思いついたか、アンディ殿」

 俺が声をかけると、アルベルトが嬉々として反応したが、策とかそういったレベルの話ではないのだがな。

「あまり期待されるほどの話でもないのですが、お話を聞いていた限りでは、ソーマルガ号が巨人からの投石の危機にさらされない状態で攻撃出来ればよろしいのでしょう?」

「うむ、それはそうだが、こちらの投石機の射程距離まで近づけば、巨人からの投石もだな…」

「ええ、それは分かります。ただ、お忘れですか?ソーマルガ号は空を飛んでいるんです。であれば、高さを生かして投石を行うのはいかがでしょう」

「高さを?どういう…」

「…そうか、高い位置から下へ向けて投石すれば、横に飛ばすよりも落下の勢いが足されて射程距離は伸びる。しかも、巨人が下から上へ石を投げる場合、その勢いは弱まるというわけだな?」

 首を傾げるアルベルトと違い、副長はメリットをすぐに理解したようで、やや興奮した口調で俺の言わんとしたことを全て代弁してくれた。

「なるほど、ソーマルガ号は高高度から一方的に投石を…いや待て、甲板に設置している投石機は、横方向にしか撃てないはずだろう。調整できる角度にも限度がある」

 納得しかけたアルベルトだったが、やはり頭は悪くないようで、高高度からの投石の問題点にすぐ気付いてしまった。

 確かに甲板に今ある投石機は、真横へ発射することを想定して設置されていた。
 高度を上げると当然、投石器は巨人のいない虚空へ向けて発射される形になるだろう。
 丁度放物線の先で目標に直撃するポイントを一々探すのも面倒だ。
 しかしそれについての対処を俺は既に考えていた。

「仰る通り、高度を上げると投石器の射線も高くなり、巨人を狙いにくくなります。ですので、投石器の発射の際は、上空でソーマルガ号を傾けて、舷側を地上へ向けるようにします」

 このように、と自分の手で傾くのを表現すると、アルベルト達は何とも言えない顔を見せた。

 要するに、発射する際に投石機の射線が地上へ向いていればいいわけで、それなら船体を左右どちらかへある程度傾ければ射線が確保される。

「…また突拍子もないことを考えるな、貴公は。それを実践するかどうかはともかく、上空で甲板がそこまで傾いては作業している人間が危険ではないか?」

「ええ、ですからその際には作業員と道具類、重機なんかもすべて固定して行わねばなりません」

 流石に投石機を無人で運用することは無理なので、作業員には危険を強いることになるだろうが、アルベルト達が主導して可能な限り安全対策を施して欲しい。
 弾である岩なんかも、船体の傾きで甲板から滑り落ちないようにしなければならず、固定作業は大変なものとなるだろう。

「どうだろう、副長。私はアンディ殿の提案に乗ろうと思うが」

「はっ、私もそれがよろしいかと」

 この二人は柔軟な思考と突飛なアイディアを受け入れる器のデカさがあるようで、あっさりと俺の提案を飲んでしまった。

 早速オペレーターに指示を出し、ソーマルガ号は上昇を開始。
 巨人もこちらに注目はしているようだが、特に手出しはしてこない。
 この距離は巨人にとって投石が無意味だと分かる位置となるのだろう。

「艦内の様子はどうなっている?」

「…芳しくはありません。修理は順調に進んでいますが、思いの外怪我人が多いようです」

 アルベルトの問いかけに、副長の返す声は苦々しいものだ。
 艦の物理的損傷は応急処置で比較的すぐに解消できるが、人的被害の方はそうもいかず、怪我人が多く出れば艦の運用にも直接響きかねない。

 先程から伝声管でのやり取りがひっきりなしに行われているが、艦内のいたるところで怪我人への対処に人員が割かれているようだ。

「そうか……やることが決まった以上、甲板の投石部隊に人員を補充したいところだが、できそうか?」

「平時であれば五名程度、すぐに抽出で来ましょうが、艦内がこれではそれも中々…」

「仕方あるまい。地上部隊の方はどうだ?発光信号で何か言ってきていないか?」

「はっ、先程の巨人の投石でこちらの被害を確認してきています。一先ず問題はないと返しましたが、どうも地上でも巨人の投石で混乱しているようです」

「だろうな。あの巨人がこれまでになかった手段での攻撃に出たのだ。ソーマルガ号の次は自分達が狙われたらと想像してしまえば、ただ大人しくもしていられん。しかしそうなると、地上部隊に巨人の投石が向かない様にこちらから攻撃をしておきたいものだ。……アンディ殿、例の航空攻撃部隊を今使いたい。どうだ?」

 一旦瞑目したアルベルトが次に目を開くと、鋭い眼光と共に俺へと力のこもった声が投げかけられる。

「一応、直掩の中型飛空艇で待機中です。本来なら作戦の後半で投入することになっていましたが、まぁこうなっては、前倒しで使うのも悪くはないでしょう」

 対巨人の航空攻撃、あるいは空挺降下といった戦いを想定して用意した特殊部隊は、本来であれば投石機である程度巨人にダメージを蓄積させた作戦の後半の頃に投入する手筈となっていた。
 しかし、今は巨人がソーマルガ号を狙い打ったことで艦と地上それぞれの部隊は混乱しており、作戦が一時停滞している状況だ。

 誰もがビビってる今こそ、海兵隊並みに鍛え上げた部隊を動かして、全体の士気を上げるきっかけにでもしたいところだ。

「よし、ではアンディ殿はこれより、そちらの部隊の指揮に回ってくれ。その間にソーマルガ号の投石部隊も、なんとか動かせるようにしてみせる。作戦の前倒しと支援はこちらで地上に連絡しよう」

「件の中型飛空艇は甲板に降ろしておく。君はそちらで合流するといい」

「お願いします。では俺はこれで」

 テキパキとしたアルベルト達の決定を頼もしく思いつつ、俺は艦橋を後にして甲板へと向かう。
 この後は航空攻撃部隊を俺が指揮して、巨人への攻撃を敢行することとなる。

 訓練の結果、予定よりも少し多い十四名の優秀な選抜者が集められた部隊は、対巨人を意識した戦術を嫌というほど練って来た特殊部隊でもある。
 投石というイレギュラーな事態で混乱している中でも、任務をきちんと果たしてくれると信じるのみだ。

 甲板に出ると、投石器の周りで大声をあげながら作業している人達の間を抜け、待機していた中型飛空艇へと飛び込むようにして乗り込む。
 パイロットに離陸の指示を出しつつ、視線を貨物室へ向けてみれば、その中には俺達が育て上げた特殊部隊の姿があり、乗り込んできた俺を見たその顔に若干の恐怖が走ったのに気付いてしまった。

 彼らの訓練教官をしていた時は、それこそ鬼軍曹という言葉が相応しい厳しさで接していたため、訓練中以外でも顔を合わせると大抵こういう顔を見せて来る。
 舐められるよりはずっとましだが、恐怖心を植え付けすぎたのを反省してしまう程の大袈裟なリアクションだ。

「全員揃っているな?」

「はっ!航空攻撃部隊員十四名、いつでもいけます!」

 俺の問いかけに、隊のリーダーである青年がハキハキと答える。
 やっておいてなんだが、引くほど厳しい訓練を潜り抜けた彼らは精強といっていい顔と雰囲気を兼ね備えている。

「よし、作戦に多少の変更は出たが、移動しながらそのあたりは説明する。だが、基本的にやることは変わらない。お前達の錬成した技をもって、巨人を打ち倒すだけだ。俺は操縦士として支援するが、いざとなれば、攻撃にも加わることにもなると頭の隅に留め置いてくれ」

 作戦の変更を意識させないよう、あえて抑揚を押さえた平坦な声で伝える。
 ここにいるのはどいつも若く、作戦全体を事細かく把握して戦えるほど経験は多くない。
 必要なことを知り、そこに力を注ぐことで、彼らのパフォーマンスは正しく発揮されるのだ。

 俺のそんな狙いはうまく効いたようで、誰もがその顔には真剣さが一層強く滲み、訓練の成果を発揮できる機会が近いことに興奮も覚えているようだ。
 この雰囲気なら、あれこれ考えて体が動かないという最悪の状況にはならないだろう。

「アンディ殿、ソーマルガ号艦橋より通信です。こちらを」

 不意にコックピットから俺の名前が呼ばれ、インカムが手渡された。

「アンディです」

 インカムに用向きを尋ねると、副長の声が返ってくる。

『作戦の変更を地上部隊に連絡し、問題なく受理された。君達の行動に呼応して、地上の方でも陽動と攻撃を行こととなる』

「そうですか」

『開始の合図はそちらで好きに出してくれていいそうだ。それと、君達の部隊にパーラ殿が合流する。彼女は噴射装置で自在に飛びまわるゆえ、邪魔にはならんだろうとのことだ』

 航空攻撃部隊にパーラが合流するというのは作戦前にはなかった話だが、色々と変更があったため、何かの保険に使える手駒としてこちらに配置してくれたのだろう。
 パーラもこの部隊の訓練には教官役として参加していたため、実際の戦闘時には十分連携は取れる。
 噴射装置の機動性を手駒として使えるのは実に有難い。
 これを決めた誰かはいい判断をしてくれた。

「へぇ、パーラが…分かりました。合流したらこちらの指揮に組み込みます。連絡は以上ですか?」

『ああ、今伝えることはこれで全てだ。ではな、健闘を祈る』

「ええ、お互いに」

 通信が切れ、インカムをパイロットへ返すと、俺は再び貨物室へと向かう。
 今追加された情報を、部隊内で共有しなくてはならないが、巨人へ攻撃を開始するまでそう時間はない。
 ついでにこの流れでブリーフィングに入り、各員の役割と目標の最終確認をしておこう。

 なお、この部隊には巨人との接近戦を行うにあたり、ある武器が貸与されている。
 提供元は俺で、巨人のあの防御力抜群の表面へ効果的にダメージを与えるべく、古代文明の技術で作られた特別な剣が必要だ。
 その剣とはご存じ、振動剣だ。

 未だ巨人に使った実績のない振動剣だが、切断という点に関してはこいつは今のところ最良の武器だと言えるため、今回秘蔵していた振動剣の内十四本を特別にこの部隊に配備してみた。
 果たしてこれがどれだけ威力を発揮するのか、ぶっつけ本番で知ることとなるが、願わくばこれが巨人を倒す一手とならんことを、切に願う。
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

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母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

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「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

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