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冬期休暇と帰省
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ディケットの街にも本格的な雪が降り始めた。
初雪自体はもっと前にあったが、道を埋めるほどの着雪は例年よりいくらか遅いらしい。
そのくせ今日までの寒さは例年よりも厳しいと、長年街に暮らす人はこぼしていた。
冬には冬の暮らしというものがあり、雪が降ると街の賑わいも少しだけ落ち着いたように見え、半露店のところなんかは屋根まで販売スペースを下げたおかげで、道が少し広くなったぐらいだ。
そんな中でも、年中忙しさが変わらないところと言えば、やはり衛兵の詰め所だろう。
営みあるところに衛兵の出番ありとまで言われるほどで、雪が降ろうが嵐が来ようが衛兵はいつでも仕事をしているのだ。
平時は人の流れの整理から軽犯罪の摘発、交代で門の番に立つのも衛兵の仕事とあって、雪が積もったことで人の往来は減ってもやることは多い。
そんな衛兵の仕事には、街中で起きた殺人事件の調査というのも当然含まれる。
しょっちゅうあるものではないが、お世辞にも治安がいいとは言えないこの世界、殺人事件が起きるのも稀によくある。
殺人現場で現行犯逮捕できればいいが、中には犯人が分からないというケースも決して少なくはない。
科学捜査などという気の利いたものがない以上、そういう時にやることは日本の警察と大体同じだ。
地道な聞き込みで犯人探しをするしかないわけなのだが、それでも見つかるのはあくまでも犯人の疑いがある人物であり、自白が取れないと逮捕までいけないこともままある。
基本的にどこの国も公には拷問を禁止しているため、自白を引き出すのは大変な手間がかかり、正直、未解決で終わった殺人事件も多い。
こっちの世界でも証拠が物を言うのは同じようで、状況証拠をいくら積み上げても物証がなければ被疑者を有罪にするのはまず無理だ。
科学捜査がまだないだけに、物証の重要度は地球の法治国家よりも上かもしれない。
そのため、証拠集めは衛兵の重要な仕事ではあるのだが、その証拠集めに特殊な技能が必要だと判断されると、そういった技術を持つ冒険者や傭兵に協力を要請することがある。
特に嗅覚に優れた系統の獣人などには、匂いで犯人を追跡できる能力を頼るそうだ。
他にも、犯人から自白を引き出す交渉力や抵抗する相手を傷一つ負わせることなく拘束する捕縛術など、その時々で必要とされる能力は変わってくる。
そして、今回ディケットで発生した殺人事件では、また別の能力が必要とされ、なんと俺達に白羽の矢が立ってしまった。
ギルドを通した正式な指名依頼、しかも顔見知りであるマークレーたっての願いとあって断るのも忍びなく、俺はその事件の捜査に一部加わるため、衛兵の詰め所へとやってきていた。
日が昇って大分経つが、窓がない部屋はその恩恵を受けられず、薄暗い中に灯されたランプの明かりに照らされ、俺とマークレーはこの世で最も無口な者と対面している。
「遺体の傷跡を見るに、犯人は手にしたナイフで心臓をひと突きにしようとした。しかし、肋骨に刃が逸らされたんでしょう。即死とまではいかず、それでも出血は激しいものとなり、少し時間が経ってから意識を失った、というのが俺の見立てですね」
詰め所に設けられた遺体安置所のようなところには遺体となった成人男性が横たわっていて、その脇腹のあたりに空いた穴から体内を覗き込みながら所見を話す。
聞けば被害者は刺された後もしばらくは生きていて、出血しながら動き回った形跡があったらしい。
その点からも、心臓を一発でやられたというのは否定され、死因が出血死だというのを後押しした。
「そうか。使われたのはこのナイフで合ってるか?」
「…の、ようですね。これぐらいの大きさでないと、もっと傷口は広がってしまっていたでしょう。傷と凶器が一致したと俺は判断します」
マークレーが差し出してきたナイフを受け取り、その刃先を遺体の傷穴に添わせるようにしてみると、傷の大きさと凡その一致を確認できる。
刃渡りはそこそこあるが幅は意外と細く、刺殺に向いた形状だと言えるだろう。
そのまま傷穴の奥へと押し込んでみると、ほとんど抵抗らしい抵抗もないまま、肋骨に当たるところまで差し込めてしまう。
緩さもそれほどなく、傷と刃がピッタリ合ったと表現していい。
あくまでも目視での確認なので実は違うという可能性もあるが、このナイフが殺害現場に血痕と共に残されていたと事前に聞いていたので、他になければこれが凶器で間違いはないはずだ。
「…とまぁこんなところでどうですかね?マークレーさん」
近くに置いた桶に張った水で手を洗いながら、ここの責任者であるマークレーに確認をとる。
今日の俺は彼の依頼で遺体の検視のようなものをしているので、マークレーが納得しないとやった意味がない。
「ああ、十分だ。流石だな、アンディ。中々堂に入った検視をするじゃないか。今後はこの手のやつはお前に頼もうかな?」
「何言ってんですか。ちゃんとした医者がいるなら、検視は本職に任せた方が確実でしょうに」
はっきり言って俺の医学の知識は、家庭の医学片手に民間療法を頼るのと大差がない。
せいぜい人体の構造を多少なりとも理解していることと、武器を使って人が死ぬことに触れてきた経験で死因を探るぐらいが関の山だ。
今回は偶々医者の手が空いていなかったことと、以前のサッチ村での捜査能力を買われて半ば無理やりマークレーにやらされたに過ぎない。
検視の真似事ならできなくもないと、気楽に言ってしまった俺も悪いが。
ちゃんとした医学知識を持っている人間がいるなら、そっちを頼ってほしい。
「そうは言うがな、この国じゃ医者は皆聖職者と同じ扱いだ。こうして多少なりとも遺体に傷をつけて調べるのも嫌がられる傾向にあるんだよ」
確かに、先程俺は凶器と傷口の一致を確認するため、遺体に刃を差し込んだが、普通の意識からすれば遺体を傷つけていると言えなくもないので、忌避間を覚えても不思議ではない。
「まぁ宗教的には、遺体を傷つけるのは許容されにくいかもしれませんね。けど、全くやってくれないわけでもないんでしょう?」
「そこはほれ、そういうのをやらないと食っていけない医者ってのがいてだな…」
少し声を潜めたマークレーの言葉に、なるほどと頷かされる。
怪我や病気の治療には治癒魔術が使われることが多いこの世界で、医者というのはどうしても二番手に扱われやすく、収入はバラつきが大きい。
その中でも貧しい部類に入る医者に協力を要請し、検視を行うというのがマークレー達にとってはよくあるのことなのだろう。
「なんとも世知辛い…と言った方がいいんですかね。それで、この事件の犯人は分かってるんですか?」
少しだけ世の中のいやらしさに遠い目になりかけたが、それをぐっとこらえて話を変えようとマークレーに事件の情報を尋ねてみた。
元々俺は殺人事件の捜査協力の名目で依頼を受けているので、ある程度の情報は共有できる立場にある。
検視をしたせいか、俺もこの事件について多少の興味を持ってきている。
「ああ、殺された者の妻がそうだ、と俺は睨んでる」
「そう言うってことは、確たる証拠はないと?」
「決定的な物証はな。しかし、近所の聞き込みでは夫婦仲は最悪に近く、事件の起きた日には大急ぎで家から出てくるその妻を目撃した人間も大勢いた。状況証拠でしかないが、恐らく日頃の恨みから夫を殺し、家を飛び出したんじゃないかと思ってる」
夫婦間の積もり積もったものが爆発し、妻が夫を刺殺したというやつか。
あんまりな言いようかもしれないが、ありがちな理由だな。
しかし凶器はあるが技術的に指紋の照合ができない以上、物証に乏しいと言えなくもない。
「その妻はまだ逃亡中ですか?」
「いや、もう捕まえてある」
「おや、なら後は自白をとるだけじゃないですか。俺が検視をした意味ってありますかね?」
普通、検視は遺体を調べることで殺害の状況と犯人を追うものだが、その犯人が既に捕まっているなら直接話を聞けばいいわけで、全く意味がないとは言わないが必要性は幾分落ちる。
事件の裏付けを補強する点では大事ではあるが、それにしてもやる意味はあったのかと思ってしまう。
「勿論、意味はあったさ。その妻だがな、夫を殺したことがよっぽど堪えているようだ。錯乱気味でまだ話を聞きだせていない。だから先に遺体の情報を知っておいて、この後の自白で使いたかった。お前の仕事は無駄じゃないぞ」
まともな人間性を有していれば、人を殺して平然としていられないものだ。
夫婦仲はよくなかったようだが、それでも夫婦だったらなおさらだろう。
落ち着くまでは自白もできないというマークレーの言葉には納得できるものがある。
「マークレーさんいる?」
俺達のいる部屋の扉が、突然ノックもなしに開かれる。
声の主はパーラだ。
外から帰って来てすぐなのか、頭と肩辺りに少量の雪が乗っている。
「おう、パーラか。どうだった?」
「塒は特定したよ。それと、仲間の人数も把握してる。今は動きはないみたいだから、早いとこ見張りの人を送った方がいいね」
マークレーからの協力要請は俺とパーラに出されており、俺は検視だったがパーラは街に潜り込んでいる盗賊団の協力者を見つけるという仕事があった。
俺とパーラは全くの別件でそれぞれ動いていたわけだが、そこは適性を考えて振り分けられていた。
「そうか、では後はこちらで手配しておこう。塒の場所と人数を教えてくれ」
口頭でパーラが諸々を告げると、マークレーが部屋の外へと出ていき、少ししたらまた戻ってきた。
見張りの手配を部下に指示してきたのだろう。
「しかし意外だったな。見た目は普人種だが獣人種並みの嗅覚とは。先祖にそっちの血でも入ってたのか?」
「ん…まぁ、そんなとこかな」
少し白々しさを感じるパーラの答えだったが、それに気付けたのは付き合いの長い俺だからだろう。
実際パーラは知る限りの先祖に獣人種はいなく、優れた嗅覚を発揮している原因は別にあるのだが、それをマークレーに言う必要はないため、獣人種の遺伝によるものと思わせるつもりだろう。
マークレーの言葉からもわかる通り、実はパーラは最近身に着けた嗅覚を生かした追跡というのを使って依頼に臨んでいた。
アミズの協力で狼化する加護は封印されたはずだったのだが、どうも封印が定着した影響か、暫くするとパーラの意思で狼の特性を一時的に引き出すことができてしまった。
強化魔術を使う要領で加護の一部、特に嗅覚が鋭くなるのだが、見た目は変わることがないのはパーラにとっては許容できるため、それを今回の依頼で役立てたようだ。
最初、日に日に鋭くなっていく嗅覚を深刻に受け止め、悲壮な顔でパーラは俺とアミズに相談をしてきたのだが、封印は問題なく効力を発揮していると診断され、それ以降はこうして強化魔術の延長として使えると分かってからは本人も便利そうに使ってはいる。
嗅覚を強化しても顔が犬っぽくならないことが重要なようで、パーラも今ではもう安心だそうだ。
これでパーラは耳と鼻の感覚に優れた存在となったわけだが、こうなるとパーラは戦闘よりも探知能力に特化していきそうではある。
俺の魔術がどちらかというと戦闘に向いたものばかりなので、パーラがそうなるとバランスが取れていいかもしれない。
「マークレーさん達の方はどうなったの?確か殺人事件だよね」
パーラの追っていた方は手を離れたと言っていいので、興味は俺の検視したあの遺体の事件に移ったようだ。
「こっちの検視はアンディがやったとこだ。後は被疑者の自白をとれれば逮捕できるな」
「そうなの?じゃあアンディはもう用済み?」
「物騒な言い方すんな」
確かに仕事が終わった以上は用はないだろうが、俺が始末されるかのような物言いはよしてくれ。
「はははは、まぁ確かに用済みだな。アンディ、後はもういい。パーラと一緒に帰っていぞ」
「いいんですか?検視した立場から、取り調べにも立ち会ったほうがいいのでは」
俺達がマークレーから受けた依頼は事件の捜査に協力することなので、取り調べにも立ち会うつもりだった。
そうしろとは言われてはいないが、なんとなくそうなると思っていた。
「構わん。どうせ犯人はもう決まってるようなものだ。検視結果は使うが、お前が立ち会うほどじゃない」
件の妻はまだ被疑者の段階だが、状況証拠でマークレーは黒だと睨んでいる。
検視した遺体の状況では妻が犯人かどうかは断定できないが、どう殺されたかは分かるため、その辺りを突いて自白を引き出すのだろう。
あくまでも俺は外部からの協力者に過ぎず、取り調べの勝手もわからないただの冒険者だし、あとは経験豊富な取調官の仕事となり、必ずしも俺はいらないわけだ。
「じゃあそういうことなら、俺達はこれで」
「おう、今日までご苦労さん。明日からソーマルガに行くんだってな?」
俺とパーラが受けている依頼は今日までで、明日からはエリーと一緒にソーマルガへと出発することになっている。
その辺りはマークレーにも言っていたので、もしかしたらそのこともあって俺達に仕事の終わりを告げたのかもしれない。
「ええ、知り合いの帰省に同行することになってます」
「エリーっていう学園の生徒なんだけどね、あっちは迎えの飛空艇があるんだから、何も私達と一緒に行くことないのにさ」
そう口を尖らせるパーラは、ソーマルガに行くこと自体は賛成だが、飛空艇にエリーも同乗するという話が気に入らないらしい。
「そう言うなって。エリーも俺達と一緒の旅の方が気楽でいいってんだから」
「私達って言うより、アンディとでしょ」
エリーのことが事後承諾のような形になってしまったのがまだ尾を引いているようで、半目でこちらをねめつけてくる姿からもわかる通り、この話になるとパーラの機嫌はまだ直りそうにない。
「…アンディよ、これは先達としての助言だが、嫁さんの機嫌は損ねない方がいいぞ。夫婦生活を平穏に過ごしたいのなら他の女との距離は―」
「いや、俺とパーラは夫婦じゃありませんよ」
何とも言えない苦み走った顔で助言をしてきたマークレーだったが、残念ながらそれは的外れだったと言わざるを得ない。
パーラはそもそも俺の嫁じゃないし、エリーを他の女と扱ってイチャイチャするつもりもない。
「そうなのか?てっきりそうだとばかり思ってたが」
「もーやだー、マークレーさんったら。私が嫁だなんて…お目が高い!」
「何がだよ」
意外そうな顔をするマークレーに、唐突な褒めを口にしたパーラに突っ込んでおく。
とはいえ、今のやり取りでパーラの機嫌がよくなったので、マークレーには心の中で礼を言っておこう。
翌日、俺とパーラは学園でエリーと合流した。
冬休みに入った学園は静かなもの、などということはなく、ほとんどの生徒が学園に残ることから、むしろ賑わいが増しているぐらいだ。
生徒からしたら、学園で過ごそうが故郷で過ごそうが長い休みには違いないので、帰省できない人間は学園内や街の方などで思い思いの休暇を楽しむ。
シペアやスーリアも、学園に残って過ごすとのこと。
二人とも実家のある町までの距離が問題で居残るしかないのだが、じゃあ俺達の飛空艇で送ろうかとなっても、元々故郷にはもう何年も帰っていないので、学園にいた方が気が楽なのだそうだ。
そんなわけで、エリーを連れて俺達は飛空艇を隠している場所まで向かうことになったのだが、意外なことにリヒャルトは同行しないという。
「あの子はお兄様と一緒の飛空艇に乗るわ」
「なんで?別にエリーと一緒でもよくない?」
てっきり同行者は二人になると思っていただけに、パーラの疑問には俺も頷いて同意する。
「よくないわよ。だって、リヒャルトは皇都じゃなくて領地の方に行くんだもの」
エリーが言うには、リヒャルトの帰省先は実家のある領地へとなっているそうで、行先の違いから俺達とは別の飛空艇に乗るのがいいらしい。
学園にはエリーとエッケルド他、ソーマルガ出身の生徒を乗せる迎えの飛空艇が五隻やってきているため、リヒャルトを含めた何人かはその内の一隻にまとめて乗り込んで帰省することになっている。
元々飛空艇での帰省は今年からやることになったため、異なる方面へと向かう飛空艇をそれぞれ設定し、実家のある方向が合う生徒同士で固まらせて運ぶ手立てとなっていた。
それにはリヒャルトも適応されるため、俺達とは別行動となったわけだ。
エリーの側仕えがあっさりと離れたものだと思ったが、エリー曰く、『領地で待つ婚約者に一刻でも早く会いたいリヒャルトならおかしくはない』とのことで、こういうところでは忠義を別におけるのは若さゆえの情熱か。
まぁそういうことなら、これで飛空艇に乗るのはエリーだけとなるわけか。
後は隠し場所までどうやって行くかという話になるが、前ならバイクに乗せていたところだが生憎今は故障中だ。
馬で行こうにも、片道での移動となり、俺達が飛空艇に乗ると馬は置いてきぼりになってしまう。
賢い動物である馬なら、行きだけ乗って帰りは勝手に戻らせるということもできなくはないが、無事に戻らないという可能性もゼロではないのでこれはやめておこう。
となれば、残る手は馬車を借りるしかないわけだ。
勿論、馭者とセットでだ。
飛空艇を隠してある丘の近くまで馬車で行き、そこから歩いて飛空艇を目指す。
「え、歩くの?馬車を借りるなら、飛空艇の前まで乗りつけたらいいじゃない」
エリーのその言葉は、徒歩を嫌ってというより、馬車を使うのならギリギリまで乗っておくべきという思いからのものだろう。
エリーのような貴族のお嬢様にとっては、それがごくごく当たり前のものなのだ。
「無理だよ。飛空艇を隠してあるところって結構道が悪いの。私達は噴射装置で飛び越えてきたけど、馬車は到底通れる道じゃないね」
今回も前と同じ場所に飛空艇を隠したのだが、実は前の出発時に派手に丘を壊して飛び立ったせいか、周りの道がかなり悪くなっていたのだ。
バイクでもギリギリ通れるかというぐらいだったのだから、馬車が通り抜けるのは難しいだろう。
そのため、馬車は途中までで後は歩くことになる。
エリー一人なら抱えても噴射装置で飛んでいけそうではあるが、そこは安全を重視して徒歩にしておく。
流石に噴射装置での飛行に慣れていない人間を担いでとなると、色々と不安がある。
まぁパーラならいけそうな気もするが、あいつはエリーのことになるといらん悪戯心を出しそうなので、やはりやめておこう。
そんなわけで、先に借りておいた馬車を待たせてある場所へと向かい、馭者に報酬を先払いして乗り込む。
パーラも俺に続いて乗り込むが、何故かエリーは渋い顔を浮かべて乗り込もうとしない。
「エリー?どうした?忘れ物か?」
エリーが持ってきているのは、何日か分の着替えと小物を詰め込んだデカい旅行鞄一つのみ。
他に国許へ持っていくものはエッケルドが使う飛空艇に預けてあるので、忘れ物をしたのなら一旦学園に取りに戻って俺達の飛空艇に乗せるしかないな。
「…ねぇ、借りた馬車って本当にこれなの?」
「ああ」
「なに?もしかして狭いの気にしてる?ダメじゃないのさ、エリー。そんな我儘言っちゃ。ったく、これだから甘やかされて育ったお姫様は…」
学園が冬休みに入ったことで、生徒が帰省のため一斉に馬車を借りたため、残っていたのは農家が普段野菜などを運ぶのに使う小さめな馬車ばかりだ。
長距離移動には向かないが、街からすぐそこまでしか行かない俺達には十分と言える。
パーラの言う通り、乗り込むと隣同士で肩が触れ合うほどに狭いが、他にない以上は仕方ないだろう。
「そうじゃなくて!これ屋根も幌もないやつじゃない!こんな寒い時期にこんなのに乗ってくの!?凍死しちゃうでしょうが!」
我儘という部分に一瞬顔をしかめたエリーだったが、それ以上に馬車の姿が耐え難いものだったようだ。
元々エリーは砂漠の国の出身であるため、寒さには強くない。
というか滅法弱い。
今も毛皮のコートに毛皮の帽子、毛皮のブーツと全身毛だらけのエリーは、遠目には熊が二足歩行していると錯覚してしまうほどに厚着をしていた。
それだけ寒さに備えているだけに、吹き晒しの荷台に座るというのがあり得ないというのが今の叫びに現れている。
「まぁ確かに寒さは辛いだろうが、そのためにカイロを用意したんだし、少しの距離は我慢してくれよ」
寒さ対策として、俺は四人分のカイロを用意していた。
リヒャルトの分は無駄になったが、それでも備えはしていたのだ。
「ちょっと待って。カイロなんて私貰ってないけど」
「なんだと?そんなはずは…エリーに渡してくれってパーラに預けて―おい、まさかお前」
ハッと思い至って隣にいるパーラの方を見てみると、この季節にしてはあり得ないほどの汗を顔に浮かべており、明後日の方向へ音のならない口笛を吹き続ける姿が目に付いた。
その白々しさが、俺の右手を振るわせる。
「スフィー、フィース…っあいだ!ちょっと、何で殴るのさ!」
「ガキみたいな嫌がらせすんな。さっさとエリーにカイロをやれ」
「べ、別に嫌がらせじゃないもん。ちょっと忘れてただけだしー」
エリーが寒さに弱いのはパーラも当然知っており、カイロなしで寒風吹きすさぶ移動を耐えられるとは思っていないはず。
それでもカイロを渡していなかったのは、エリーへの悪戯のつもりなのだろう。
こいつは本当にエリーが絡むとアホになるな。
「なら今の一撃で思い出したろ。ほら、早く渡せ」
「へーい、おらよ」
やはりエリーの分を隠し持っていたようで、パーラがやる気のない声でカイロを投げ渡す。
「おっとっと、はぁ~…あったかぁ」
「それがあれば寒さも多少は耐えられるだろ。」
毛むくじゃらがカイロの温かさを手に入れたことで、ようやく出発できるようになった。
馭者に行って馬車を走らせ、門を抜けて街の外へと出る。
冬とはいえディケットほどの大都市ともなれば街道の往来はそれなりにあるもので、俺達以外に馬車や徒歩の人間がちらほらと見えた。
「うぅ…カイロはあったかいけど、でもまだ寒いわね」
「そんだけ厚着してるのに?エリーが特に寒がりなだけでしょ」
「バカね、寒いのが得意な人間なんていないわよ。寒過ぎて死ぬ人もいるんだから」
「それこそバカ言ってる。暑くても人は死ぬじゃん」
寒さをごまかすためか。普段よりも饒舌なエリーに、パーラも律義に答えてやる姿は仲の良さをうかがわせる。
馬車の狭さから、進行方向に背を向ける形でパーラとエリーが、その対面に俺が座ることで前からの風を背中で受ける形のパーラ達は多少寒さもマシかもしれない。
俺は向かい風を受けて顔面がもう痛いがな。
「ところでアンディ、そっちの飛空艇に私の部屋ってある?ないならアンディと一緒でもいいけど」
自分の部屋の確認をするのはおかしなことじゃないが、その後の言葉がおかしい。
そこは普通、パーラと一緒でいいだろうが。
「なんでだよ。ちゃんと用意してるわ」
現在、飛空艇には個室が三つあり、そのうち二つを俺とパーラがそれぞれ使い、残る一つは倉庫として使っていた。
だが以前グバトリアを乗せた際、その倉庫代わりの部屋を彼にあてがってからそのまま残していたため、今回はエリーにそこを使わせる。
立て続けに使うのが親子なのだから、もうあそこは半ば王族専用だな。
「ふーん、そうなんだ」
「なにちょっと不貞腐れてんの?言っとくけど、不備があったからアンディと一緒の部屋でなんて、天が認めても私が認めないよ」
「……そ、そんなふしだらな真似、するわけがありませんことよ。おほほほほ」
ジトっとした目を向けられ、そこから何かを感じ取ったようで、急にアイリーンのような口調をするエリー。
この白々しさ、なにかやるつもりだったな。
大方、部屋が寒いと言って俺の部屋にくるとかだろう。
空調が聞いた飛空艇内では、まったくあり得ないクレームだ。
婚約者にするという例の話は一時棚上げ状態だが、それはそれとしてなんかしでかそうとするところは、パーラとよく似ている。
とりあえずパーラが釘を刺したが、これからの空の旅でエリーがどんな行動に出るか読めないので、警戒だけはしておくとしよう。
親譲りの度胸に宰相が施した強かさを備えたエリーと、短い間だが共同生活を送ることに密かに戦慄を覚える。
ここにパーラも対抗意識をもって加わると、何とも騒々しい旅になりそうだが、湿っぽいのよりは大分ましだとポジティブに考えておこう。
「ねぇアンディ、このカイロってのもっとない?一つだけじゃまだ寒いんだけど」
「あぁ、ならリヒャルトに持たせるつもりだった分が余ってるし、これ使え」
丁度一つ余っていたので、それをエリーに渡してやる。
これ一つでも十分温かいのだが、寒がりには二つも必要か。
「ありがと。これって手で持つのがいいの?それともお腹に当てたりとか?」
「んなもん、自分で温めたいところに当てればいいさ。まぁ強いておすすめするなら、肩甲骨の間とか腰だな」
この背中と腰には所謂ツボというやつがあり、そこを温めると全身も温かくなると言われている。
太い血管のある場所も温めるポイントとしてはいいが、人体のツボというのもバカにできず、意外と効果は高い。
「へぇ、そういうことなら早速」
「私も」
エリーに続いてパーラも手にしていたカイロを腰へと持っていく。
残念ながらこのカイロには貼る機能はないが、馬車に座っているだけの今なら腰と背もたれで挟んで固定もできる。
しばらくすると、カイロの温かさが全身を包みだしたようで、二人ともがほっこりとした顔に変わっていった。
こういう姿には年相応の可愛らしさが滲み出ていて、二人揃って同じ表情を見せているのはまるで姉妹のように思えて微笑ましい。
寒い時には寒いなりに和める瞬間というのが訪れるものだと、二人を見て改めて思う日となった。
初雪自体はもっと前にあったが、道を埋めるほどの着雪は例年よりいくらか遅いらしい。
そのくせ今日までの寒さは例年よりも厳しいと、長年街に暮らす人はこぼしていた。
冬には冬の暮らしというものがあり、雪が降ると街の賑わいも少しだけ落ち着いたように見え、半露店のところなんかは屋根まで販売スペースを下げたおかげで、道が少し広くなったぐらいだ。
そんな中でも、年中忙しさが変わらないところと言えば、やはり衛兵の詰め所だろう。
営みあるところに衛兵の出番ありとまで言われるほどで、雪が降ろうが嵐が来ようが衛兵はいつでも仕事をしているのだ。
平時は人の流れの整理から軽犯罪の摘発、交代で門の番に立つのも衛兵の仕事とあって、雪が積もったことで人の往来は減ってもやることは多い。
そんな衛兵の仕事には、街中で起きた殺人事件の調査というのも当然含まれる。
しょっちゅうあるものではないが、お世辞にも治安がいいとは言えないこの世界、殺人事件が起きるのも稀によくある。
殺人現場で現行犯逮捕できればいいが、中には犯人が分からないというケースも決して少なくはない。
科学捜査などという気の利いたものがない以上、そういう時にやることは日本の警察と大体同じだ。
地道な聞き込みで犯人探しをするしかないわけなのだが、それでも見つかるのはあくまでも犯人の疑いがある人物であり、自白が取れないと逮捕までいけないこともままある。
基本的にどこの国も公には拷問を禁止しているため、自白を引き出すのは大変な手間がかかり、正直、未解決で終わった殺人事件も多い。
こっちの世界でも証拠が物を言うのは同じようで、状況証拠をいくら積み上げても物証がなければ被疑者を有罪にするのはまず無理だ。
科学捜査がまだないだけに、物証の重要度は地球の法治国家よりも上かもしれない。
そのため、証拠集めは衛兵の重要な仕事ではあるのだが、その証拠集めに特殊な技能が必要だと判断されると、そういった技術を持つ冒険者や傭兵に協力を要請することがある。
特に嗅覚に優れた系統の獣人などには、匂いで犯人を追跡できる能力を頼るそうだ。
他にも、犯人から自白を引き出す交渉力や抵抗する相手を傷一つ負わせることなく拘束する捕縛術など、その時々で必要とされる能力は変わってくる。
そして、今回ディケットで発生した殺人事件では、また別の能力が必要とされ、なんと俺達に白羽の矢が立ってしまった。
ギルドを通した正式な指名依頼、しかも顔見知りであるマークレーたっての願いとあって断るのも忍びなく、俺はその事件の捜査に一部加わるため、衛兵の詰め所へとやってきていた。
日が昇って大分経つが、窓がない部屋はその恩恵を受けられず、薄暗い中に灯されたランプの明かりに照らされ、俺とマークレーはこの世で最も無口な者と対面している。
「遺体の傷跡を見るに、犯人は手にしたナイフで心臓をひと突きにしようとした。しかし、肋骨に刃が逸らされたんでしょう。即死とまではいかず、それでも出血は激しいものとなり、少し時間が経ってから意識を失った、というのが俺の見立てですね」
詰め所に設けられた遺体安置所のようなところには遺体となった成人男性が横たわっていて、その脇腹のあたりに空いた穴から体内を覗き込みながら所見を話す。
聞けば被害者は刺された後もしばらくは生きていて、出血しながら動き回った形跡があったらしい。
その点からも、心臓を一発でやられたというのは否定され、死因が出血死だというのを後押しした。
「そうか。使われたのはこのナイフで合ってるか?」
「…の、ようですね。これぐらいの大きさでないと、もっと傷口は広がってしまっていたでしょう。傷と凶器が一致したと俺は判断します」
マークレーが差し出してきたナイフを受け取り、その刃先を遺体の傷穴に添わせるようにしてみると、傷の大きさと凡その一致を確認できる。
刃渡りはそこそこあるが幅は意外と細く、刺殺に向いた形状だと言えるだろう。
そのまま傷穴の奥へと押し込んでみると、ほとんど抵抗らしい抵抗もないまま、肋骨に当たるところまで差し込めてしまう。
緩さもそれほどなく、傷と刃がピッタリ合ったと表現していい。
あくまでも目視での確認なので実は違うという可能性もあるが、このナイフが殺害現場に血痕と共に残されていたと事前に聞いていたので、他になければこれが凶器で間違いはないはずだ。
「…とまぁこんなところでどうですかね?マークレーさん」
近くに置いた桶に張った水で手を洗いながら、ここの責任者であるマークレーに確認をとる。
今日の俺は彼の依頼で遺体の検視のようなものをしているので、マークレーが納得しないとやった意味がない。
「ああ、十分だ。流石だな、アンディ。中々堂に入った検視をするじゃないか。今後はこの手のやつはお前に頼もうかな?」
「何言ってんですか。ちゃんとした医者がいるなら、検視は本職に任せた方が確実でしょうに」
はっきり言って俺の医学の知識は、家庭の医学片手に民間療法を頼るのと大差がない。
せいぜい人体の構造を多少なりとも理解していることと、武器を使って人が死ぬことに触れてきた経験で死因を探るぐらいが関の山だ。
今回は偶々医者の手が空いていなかったことと、以前のサッチ村での捜査能力を買われて半ば無理やりマークレーにやらされたに過ぎない。
検視の真似事ならできなくもないと、気楽に言ってしまった俺も悪いが。
ちゃんとした医学知識を持っている人間がいるなら、そっちを頼ってほしい。
「そうは言うがな、この国じゃ医者は皆聖職者と同じ扱いだ。こうして多少なりとも遺体に傷をつけて調べるのも嫌がられる傾向にあるんだよ」
確かに、先程俺は凶器と傷口の一致を確認するため、遺体に刃を差し込んだが、普通の意識からすれば遺体を傷つけていると言えなくもないので、忌避間を覚えても不思議ではない。
「まぁ宗教的には、遺体を傷つけるのは許容されにくいかもしれませんね。けど、全くやってくれないわけでもないんでしょう?」
「そこはほれ、そういうのをやらないと食っていけない医者ってのがいてだな…」
少し声を潜めたマークレーの言葉に、なるほどと頷かされる。
怪我や病気の治療には治癒魔術が使われることが多いこの世界で、医者というのはどうしても二番手に扱われやすく、収入はバラつきが大きい。
その中でも貧しい部類に入る医者に協力を要請し、検視を行うというのがマークレー達にとってはよくあるのことなのだろう。
「なんとも世知辛い…と言った方がいいんですかね。それで、この事件の犯人は分かってるんですか?」
少しだけ世の中のいやらしさに遠い目になりかけたが、それをぐっとこらえて話を変えようとマークレーに事件の情報を尋ねてみた。
元々俺は殺人事件の捜査協力の名目で依頼を受けているので、ある程度の情報は共有できる立場にある。
検視をしたせいか、俺もこの事件について多少の興味を持ってきている。
「ああ、殺された者の妻がそうだ、と俺は睨んでる」
「そう言うってことは、確たる証拠はないと?」
「決定的な物証はな。しかし、近所の聞き込みでは夫婦仲は最悪に近く、事件の起きた日には大急ぎで家から出てくるその妻を目撃した人間も大勢いた。状況証拠でしかないが、恐らく日頃の恨みから夫を殺し、家を飛び出したんじゃないかと思ってる」
夫婦間の積もり積もったものが爆発し、妻が夫を刺殺したというやつか。
あんまりな言いようかもしれないが、ありがちな理由だな。
しかし凶器はあるが技術的に指紋の照合ができない以上、物証に乏しいと言えなくもない。
「その妻はまだ逃亡中ですか?」
「いや、もう捕まえてある」
「おや、なら後は自白をとるだけじゃないですか。俺が検視をした意味ってありますかね?」
普通、検視は遺体を調べることで殺害の状況と犯人を追うものだが、その犯人が既に捕まっているなら直接話を聞けばいいわけで、全く意味がないとは言わないが必要性は幾分落ちる。
事件の裏付けを補強する点では大事ではあるが、それにしてもやる意味はあったのかと思ってしまう。
「勿論、意味はあったさ。その妻だがな、夫を殺したことがよっぽど堪えているようだ。錯乱気味でまだ話を聞きだせていない。だから先に遺体の情報を知っておいて、この後の自白で使いたかった。お前の仕事は無駄じゃないぞ」
まともな人間性を有していれば、人を殺して平然としていられないものだ。
夫婦仲はよくなかったようだが、それでも夫婦だったらなおさらだろう。
落ち着くまでは自白もできないというマークレーの言葉には納得できるものがある。
「マークレーさんいる?」
俺達のいる部屋の扉が、突然ノックもなしに開かれる。
声の主はパーラだ。
外から帰って来てすぐなのか、頭と肩辺りに少量の雪が乗っている。
「おう、パーラか。どうだった?」
「塒は特定したよ。それと、仲間の人数も把握してる。今は動きはないみたいだから、早いとこ見張りの人を送った方がいいね」
マークレーからの協力要請は俺とパーラに出されており、俺は検視だったがパーラは街に潜り込んでいる盗賊団の協力者を見つけるという仕事があった。
俺とパーラは全くの別件でそれぞれ動いていたわけだが、そこは適性を考えて振り分けられていた。
「そうか、では後はこちらで手配しておこう。塒の場所と人数を教えてくれ」
口頭でパーラが諸々を告げると、マークレーが部屋の外へと出ていき、少ししたらまた戻ってきた。
見張りの手配を部下に指示してきたのだろう。
「しかし意外だったな。見た目は普人種だが獣人種並みの嗅覚とは。先祖にそっちの血でも入ってたのか?」
「ん…まぁ、そんなとこかな」
少し白々しさを感じるパーラの答えだったが、それに気付けたのは付き合いの長い俺だからだろう。
実際パーラは知る限りの先祖に獣人種はいなく、優れた嗅覚を発揮している原因は別にあるのだが、それをマークレーに言う必要はないため、獣人種の遺伝によるものと思わせるつもりだろう。
マークレーの言葉からもわかる通り、実はパーラは最近身に着けた嗅覚を生かした追跡というのを使って依頼に臨んでいた。
アミズの協力で狼化する加護は封印されたはずだったのだが、どうも封印が定着した影響か、暫くするとパーラの意思で狼の特性を一時的に引き出すことができてしまった。
強化魔術を使う要領で加護の一部、特に嗅覚が鋭くなるのだが、見た目は変わることがないのはパーラにとっては許容できるため、それを今回の依頼で役立てたようだ。
最初、日に日に鋭くなっていく嗅覚を深刻に受け止め、悲壮な顔でパーラは俺とアミズに相談をしてきたのだが、封印は問題なく効力を発揮していると診断され、それ以降はこうして強化魔術の延長として使えると分かってからは本人も便利そうに使ってはいる。
嗅覚を強化しても顔が犬っぽくならないことが重要なようで、パーラも今ではもう安心だそうだ。
これでパーラは耳と鼻の感覚に優れた存在となったわけだが、こうなるとパーラは戦闘よりも探知能力に特化していきそうではある。
俺の魔術がどちらかというと戦闘に向いたものばかりなので、パーラがそうなるとバランスが取れていいかもしれない。
「マークレーさん達の方はどうなったの?確か殺人事件だよね」
パーラの追っていた方は手を離れたと言っていいので、興味は俺の検視したあの遺体の事件に移ったようだ。
「こっちの検視はアンディがやったとこだ。後は被疑者の自白をとれれば逮捕できるな」
「そうなの?じゃあアンディはもう用済み?」
「物騒な言い方すんな」
確かに仕事が終わった以上は用はないだろうが、俺が始末されるかのような物言いはよしてくれ。
「はははは、まぁ確かに用済みだな。アンディ、後はもういい。パーラと一緒に帰っていぞ」
「いいんですか?検視した立場から、取り調べにも立ち会ったほうがいいのでは」
俺達がマークレーから受けた依頼は事件の捜査に協力することなので、取り調べにも立ち会うつもりだった。
そうしろとは言われてはいないが、なんとなくそうなると思っていた。
「構わん。どうせ犯人はもう決まってるようなものだ。検視結果は使うが、お前が立ち会うほどじゃない」
件の妻はまだ被疑者の段階だが、状況証拠でマークレーは黒だと睨んでいる。
検視した遺体の状況では妻が犯人かどうかは断定できないが、どう殺されたかは分かるため、その辺りを突いて自白を引き出すのだろう。
あくまでも俺は外部からの協力者に過ぎず、取り調べの勝手もわからないただの冒険者だし、あとは経験豊富な取調官の仕事となり、必ずしも俺はいらないわけだ。
「じゃあそういうことなら、俺達はこれで」
「おう、今日までご苦労さん。明日からソーマルガに行くんだってな?」
俺とパーラが受けている依頼は今日までで、明日からはエリーと一緒にソーマルガへと出発することになっている。
その辺りはマークレーにも言っていたので、もしかしたらそのこともあって俺達に仕事の終わりを告げたのかもしれない。
「ええ、知り合いの帰省に同行することになってます」
「エリーっていう学園の生徒なんだけどね、あっちは迎えの飛空艇があるんだから、何も私達と一緒に行くことないのにさ」
そう口を尖らせるパーラは、ソーマルガに行くこと自体は賛成だが、飛空艇にエリーも同乗するという話が気に入らないらしい。
「そう言うなって。エリーも俺達と一緒の旅の方が気楽でいいってんだから」
「私達って言うより、アンディとでしょ」
エリーのことが事後承諾のような形になってしまったのがまだ尾を引いているようで、半目でこちらをねめつけてくる姿からもわかる通り、この話になるとパーラの機嫌はまだ直りそうにない。
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「いや、俺とパーラは夫婦じゃありませんよ」
何とも言えない苦み走った顔で助言をしてきたマークレーだったが、残念ながらそれは的外れだったと言わざるを得ない。
パーラはそもそも俺の嫁じゃないし、エリーを他の女と扱ってイチャイチャするつもりもない。
「そうなのか?てっきりそうだとばかり思ってたが」
「もーやだー、マークレーさんったら。私が嫁だなんて…お目が高い!」
「何がだよ」
意外そうな顔をするマークレーに、唐突な褒めを口にしたパーラに突っ込んでおく。
とはいえ、今のやり取りでパーラの機嫌がよくなったので、マークレーには心の中で礼を言っておこう。
翌日、俺とパーラは学園でエリーと合流した。
冬休みに入った学園は静かなもの、などということはなく、ほとんどの生徒が学園に残ることから、むしろ賑わいが増しているぐらいだ。
生徒からしたら、学園で過ごそうが故郷で過ごそうが長い休みには違いないので、帰省できない人間は学園内や街の方などで思い思いの休暇を楽しむ。
シペアやスーリアも、学園に残って過ごすとのこと。
二人とも実家のある町までの距離が問題で居残るしかないのだが、じゃあ俺達の飛空艇で送ろうかとなっても、元々故郷にはもう何年も帰っていないので、学園にいた方が気が楽なのだそうだ。
そんなわけで、エリーを連れて俺達は飛空艇を隠している場所まで向かうことになったのだが、意外なことにリヒャルトは同行しないという。
「あの子はお兄様と一緒の飛空艇に乗るわ」
「なんで?別にエリーと一緒でもよくない?」
てっきり同行者は二人になると思っていただけに、パーラの疑問には俺も頷いて同意する。
「よくないわよ。だって、リヒャルトは皇都じゃなくて領地の方に行くんだもの」
エリーが言うには、リヒャルトの帰省先は実家のある領地へとなっているそうで、行先の違いから俺達とは別の飛空艇に乗るのがいいらしい。
学園にはエリーとエッケルド他、ソーマルガ出身の生徒を乗せる迎えの飛空艇が五隻やってきているため、リヒャルトを含めた何人かはその内の一隻にまとめて乗り込んで帰省することになっている。
元々飛空艇での帰省は今年からやることになったため、異なる方面へと向かう飛空艇をそれぞれ設定し、実家のある方向が合う生徒同士で固まらせて運ぶ手立てとなっていた。
それにはリヒャルトも適応されるため、俺達とは別行動となったわけだ。
エリーの側仕えがあっさりと離れたものだと思ったが、エリー曰く、『領地で待つ婚約者に一刻でも早く会いたいリヒャルトならおかしくはない』とのことで、こういうところでは忠義を別におけるのは若さゆえの情熱か。
まぁそういうことなら、これで飛空艇に乗るのはエリーだけとなるわけか。
後は隠し場所までどうやって行くかという話になるが、前ならバイクに乗せていたところだが生憎今は故障中だ。
馬で行こうにも、片道での移動となり、俺達が飛空艇に乗ると馬は置いてきぼりになってしまう。
賢い動物である馬なら、行きだけ乗って帰りは勝手に戻らせるということもできなくはないが、無事に戻らないという可能性もゼロではないのでこれはやめておこう。
となれば、残る手は馬車を借りるしかないわけだ。
勿論、馭者とセットでだ。
飛空艇を隠してある丘の近くまで馬車で行き、そこから歩いて飛空艇を目指す。
「え、歩くの?馬車を借りるなら、飛空艇の前まで乗りつけたらいいじゃない」
エリーのその言葉は、徒歩を嫌ってというより、馬車を使うのならギリギリまで乗っておくべきという思いからのものだろう。
エリーのような貴族のお嬢様にとっては、それがごくごく当たり前のものなのだ。
「無理だよ。飛空艇を隠してあるところって結構道が悪いの。私達は噴射装置で飛び越えてきたけど、馬車は到底通れる道じゃないね」
今回も前と同じ場所に飛空艇を隠したのだが、実は前の出発時に派手に丘を壊して飛び立ったせいか、周りの道がかなり悪くなっていたのだ。
バイクでもギリギリ通れるかというぐらいだったのだから、馬車が通り抜けるのは難しいだろう。
そのため、馬車は途中までで後は歩くことになる。
エリー一人なら抱えても噴射装置で飛んでいけそうではあるが、そこは安全を重視して徒歩にしておく。
流石に噴射装置での飛行に慣れていない人間を担いでとなると、色々と不安がある。
まぁパーラならいけそうな気もするが、あいつはエリーのことになるといらん悪戯心を出しそうなので、やはりやめておこう。
そんなわけで、先に借りておいた馬車を待たせてある場所へと向かい、馭者に報酬を先払いして乗り込む。
パーラも俺に続いて乗り込むが、何故かエリーは渋い顔を浮かべて乗り込もうとしない。
「エリー?どうした?忘れ物か?」
エリーが持ってきているのは、何日か分の着替えと小物を詰め込んだデカい旅行鞄一つのみ。
他に国許へ持っていくものはエッケルドが使う飛空艇に預けてあるので、忘れ物をしたのなら一旦学園に取りに戻って俺達の飛空艇に乗せるしかないな。
「…ねぇ、借りた馬車って本当にこれなの?」
「ああ」
「なに?もしかして狭いの気にしてる?ダメじゃないのさ、エリー。そんな我儘言っちゃ。ったく、これだから甘やかされて育ったお姫様は…」
学園が冬休みに入ったことで、生徒が帰省のため一斉に馬車を借りたため、残っていたのは農家が普段野菜などを運ぶのに使う小さめな馬車ばかりだ。
長距離移動には向かないが、街からすぐそこまでしか行かない俺達には十分と言える。
パーラの言う通り、乗り込むと隣同士で肩が触れ合うほどに狭いが、他にない以上は仕方ないだろう。
「そうじゃなくて!これ屋根も幌もないやつじゃない!こんな寒い時期にこんなのに乗ってくの!?凍死しちゃうでしょうが!」
我儘という部分に一瞬顔をしかめたエリーだったが、それ以上に馬車の姿が耐え難いものだったようだ。
元々エリーは砂漠の国の出身であるため、寒さには強くない。
というか滅法弱い。
今も毛皮のコートに毛皮の帽子、毛皮のブーツと全身毛だらけのエリーは、遠目には熊が二足歩行していると錯覚してしまうほどに厚着をしていた。
それだけ寒さに備えているだけに、吹き晒しの荷台に座るというのがあり得ないというのが今の叫びに現れている。
「まぁ確かに寒さは辛いだろうが、そのためにカイロを用意したんだし、少しの距離は我慢してくれよ」
寒さ対策として、俺は四人分のカイロを用意していた。
リヒャルトの分は無駄になったが、それでも備えはしていたのだ。
「ちょっと待って。カイロなんて私貰ってないけど」
「なんだと?そんなはずは…エリーに渡してくれってパーラに預けて―おい、まさかお前」
ハッと思い至って隣にいるパーラの方を見てみると、この季節にしてはあり得ないほどの汗を顔に浮かべており、明後日の方向へ音のならない口笛を吹き続ける姿が目に付いた。
その白々しさが、俺の右手を振るわせる。
「スフィー、フィース…っあいだ!ちょっと、何で殴るのさ!」
「ガキみたいな嫌がらせすんな。さっさとエリーにカイロをやれ」
「べ、別に嫌がらせじゃないもん。ちょっと忘れてただけだしー」
エリーが寒さに弱いのはパーラも当然知っており、カイロなしで寒風吹きすさぶ移動を耐えられるとは思っていないはず。
それでもカイロを渡していなかったのは、エリーへの悪戯のつもりなのだろう。
こいつは本当にエリーが絡むとアホになるな。
「なら今の一撃で思い出したろ。ほら、早く渡せ」
「へーい、おらよ」
やはりエリーの分を隠し持っていたようで、パーラがやる気のない声でカイロを投げ渡す。
「おっとっと、はぁ~…あったかぁ」
「それがあれば寒さも多少は耐えられるだろ。」
毛むくじゃらがカイロの温かさを手に入れたことで、ようやく出発できるようになった。
馭者に行って馬車を走らせ、門を抜けて街の外へと出る。
冬とはいえディケットほどの大都市ともなれば街道の往来はそれなりにあるもので、俺達以外に馬車や徒歩の人間がちらほらと見えた。
「うぅ…カイロはあったかいけど、でもまだ寒いわね」
「そんだけ厚着してるのに?エリーが特に寒がりなだけでしょ」
「バカね、寒いのが得意な人間なんていないわよ。寒過ぎて死ぬ人もいるんだから」
「それこそバカ言ってる。暑くても人は死ぬじゃん」
寒さをごまかすためか。普段よりも饒舌なエリーに、パーラも律義に答えてやる姿は仲の良さをうかがわせる。
馬車の狭さから、進行方向に背を向ける形でパーラとエリーが、その対面に俺が座ることで前からの風を背中で受ける形のパーラ達は多少寒さもマシかもしれない。
俺は向かい風を受けて顔面がもう痛いがな。
「ところでアンディ、そっちの飛空艇に私の部屋ってある?ないならアンディと一緒でもいいけど」
自分の部屋の確認をするのはおかしなことじゃないが、その後の言葉がおかしい。
そこは普通、パーラと一緒でいいだろうが。
「なんでだよ。ちゃんと用意してるわ」
現在、飛空艇には個室が三つあり、そのうち二つを俺とパーラがそれぞれ使い、残る一つは倉庫として使っていた。
だが以前グバトリアを乗せた際、その倉庫代わりの部屋を彼にあてがってからそのまま残していたため、今回はエリーにそこを使わせる。
立て続けに使うのが親子なのだから、もうあそこは半ば王族専用だな。
「ふーん、そうなんだ」
「なにちょっと不貞腐れてんの?言っとくけど、不備があったからアンディと一緒の部屋でなんて、天が認めても私が認めないよ」
「……そ、そんなふしだらな真似、するわけがありませんことよ。おほほほほ」
ジトっとした目を向けられ、そこから何かを感じ取ったようで、急にアイリーンのような口調をするエリー。
この白々しさ、なにかやるつもりだったな。
大方、部屋が寒いと言って俺の部屋にくるとかだろう。
空調が聞いた飛空艇内では、まったくあり得ないクレームだ。
婚約者にするという例の話は一時棚上げ状態だが、それはそれとしてなんかしでかそうとするところは、パーラとよく似ている。
とりあえずパーラが釘を刺したが、これからの空の旅でエリーがどんな行動に出るか読めないので、警戒だけはしておくとしよう。
親譲りの度胸に宰相が施した強かさを備えたエリーと、短い間だが共同生活を送ることに密かに戦慄を覚える。
ここにパーラも対抗意識をもって加わると、何とも騒々しい旅になりそうだが、湿っぽいのよりは大分ましだとポジティブに考えておこう。
「ねぇアンディ、このカイロってのもっとない?一つだけじゃまだ寒いんだけど」
「あぁ、ならリヒャルトに持たせるつもりだった分が余ってるし、これ使え」
丁度一つ余っていたので、それをエリーに渡してやる。
これ一つでも十分温かいのだが、寒がりには二つも必要か。
「ありがと。これって手で持つのがいいの?それともお腹に当てたりとか?」
「んなもん、自分で温めたいところに当てればいいさ。まぁ強いておすすめするなら、肩甲骨の間とか腰だな」
この背中と腰には所謂ツボというやつがあり、そこを温めると全身も温かくなると言われている。
太い血管のある場所も温めるポイントとしてはいいが、人体のツボというのもバカにできず、意外と効果は高い。
「へぇ、そういうことなら早速」
「私も」
エリーに続いてパーラも手にしていたカイロを腰へと持っていく。
残念ながらこのカイロには貼る機能はないが、馬車に座っているだけの今なら腰と背もたれで挟んで固定もできる。
しばらくすると、カイロの温かさが全身を包みだしたようで、二人ともがほっこりとした顔に変わっていった。
こういう姿には年相応の可愛らしさが滲み出ていて、二人揃って同じ表情を見せているのはまるで姉妹のように思えて微笑ましい。
寒い時には寒いなりに和める瞬間というのが訪れるものだと、二人を見て改めて思う日となった。
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