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浮かび上がる目的地
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グエンの処刑から1日経ち、アレイトスとの面会のために屋敷を訪れた俺達は、ザルバに案内されて前に通された応接間でアレイトスが現れるのを待っていた。
ザルバに聞いたところ、アレイトスはまだグエンの死を吹っ切れたとは言えないが、それでも大分落ち着いたようで、今朝も普通に仕事をしていたのだそうだ。
前と同じように俺とパーラがお茶を頂いていると応接間の扉が開かれてアレイトスが入って来た。
立ち上がって挨拶をと腰を浮かしかけた俺達に手で着席を促し、そのまま俺達の対面に腰かける。
「昨日はろくな挨拶もせずに引っ込んでしまって済まなかったな。あんな息子とはいえやはり死ぬとこたえるものだと思い知らされたよ」
「心中お察しいたします」
俺の言葉に合わせてパーラも頭を下げる。
流石に息子が死んでから1日ではまだ万全とは程遠いのか、目の前にいるアレイトスの様子は以前と比べて格段に活力が足りていないように感じた。
「今日来てもらったのはアンディに槍の代金を、パーラには慰霊と詫びの金を手渡すためだ」
そう言って部屋に入る時から手に持っていた袋を俺とパーラの前にそれぞれ一つずつ置く。
袋を置いた時に聞こえてきた音から、かなりの額が入っていると思うのだが、それぞれの袋の大きさはあまり差は無く、恐らく大体同じ金額が入っていると予想される。
断って中身を見ると、ほとんどが銀貨であったが、大銀貨もいくらか混じっており、ざっとであるが大銀貨換算で5枚、50万ルパほどだろうと思われた。
家宝の金額としては安いのではないかと思ったが、それを読んだのかわからないがアレイトスから付け加えられた言葉で納得した。
「本来の槍の価値からは程遠い金額なのだが、正直に言って今私の一存で動かせる金額はこれが精いっぱいでな。出せるギリギリの額を2人に分けて渡した形になる。すまないがこれで勘弁してくれ」
アレイトスが恥じ入るような声色で頭を下げて詫び、家の内情を明かしてくれた。
今のバスラン男爵家はグエンによって起こされた不祥事のおかげで、近いうちに王都からの査察が来る可能性が浮上している。
その際に当然帳簿も検められることになるのだが、その時にグエンの死と前後して多額の金額が動いたとなれば疑いがかかり、そうなるとシウテスの槍のことも明らかになるだろう。
貴族家が独自に魔道具を所蔵するのは珍しい事ではないのだが、シウテスの槍に関しては勝手が違う。
なにせあずかり知らぬところでとはいえ男爵の息子がこれを使って商人ギルド所属の傭兵を殺しているのだ。
難癖をつけて没収しようと動く者が必ず現れるに違いない。
先祖から伝わる家宝を取り上げられるのだけは避けたかったアレイトスは、バスラン男爵家を突っつく材料を極力減らすためにも自分のポケットマネーからしか金を出せず、こうやって俺達に頭を下げているのだろう。
元々槍を売ったのもグエンに辿り着くためのただの切っ掛け作りに過ぎず、問答無用で男爵家に取り上げられると思っていただけに金を貰えるだけでもありがたい気分だ。
パーラも兄の仇を討てたことの方が大きいため、あまり金額にはこだわっていないようだ。
そのことをアレイトスに告げると安心したようで、もう一度礼を言われてこの話題は終わった。
「ウルカルムがこの町に店を構えていたのは確かだが、商っていた物に関しては特段おかしなものは無かったはずだ。食料に布、あとは多少の宝石もあったがそれぐらいだろう」
「そうですか…。何か手掛かりが欲しい所なんですが、他に気になる点はありませんでしたか?なんでも構いません。話し方とか故郷の話に親類縁者とか」
ウルカルムのことをアレイトスに尋ねてみたが、元々この町でもそれほど大きい商売をしていたわけでもないため、あまり印象に残っていることは無いのだそうだ。
一応ウルカルムがバスラン男爵領で商売の許可を取る際に提出されたという書類を見せてもらったのだが、目立って重要な情報は見つけられない。
ウルカルムがペルケティアにいることは間違いないと思うが、細かな所在地までは分かるはずも無く、直接現地に行ってから調べるのもいいが、それよりも先に大凡の当たりをつけたほうが効率はいいだろう。
アシャドル王国と比べてペルケティアの国土の広さは同じぐらいだが、地理的に高低差がある地域を多く含むため、やみくもに移動するには少々時間がかかる。
捕まったザムルから何か情報は得られないかと思ったが、彼はそもそもウルカルムと接触した後のグエンが集めた人員のため、めぼしい情報は持っていないだろう。
アレイトスから提供された書類に加え、俺の方からはウルカルムからグエンに宛てたと思われる手紙を提出したが、すでに何度も調べたもののため、新しい事実の発見はありえないと思った。
手紙を読み始めた途端、アレイトスは紙の手触りを確かめるようにして何度もその表面を撫で始めた。
「ん?この紙は…アンディ、少し切り取るぞ」
取り出したナイフで手紙の余白の部分を細く切り取り、こよりを作って火をつけるそうで、部屋の中にあった燭台に俺が魔術で着火して渡してやった。
初めてみる雷魔術の着火にアレイトスが驚きの声を上げたが、それよりも先を急かす俺の声に応えてこよりに火を付けた。
ユックリと燃え始めていた炎がある程度の大きさになると一気に色が変わる。
理科の実験で見たことのある炎色反応によくにているそれは、鮮やかなエメラルドグリーンとなって幻想的な光を灯していた。
「やはりか…。これはペルケティアの東部の地方で作られた紙だ。生産量の少なさから作られた土地でしか出回らないだろうから、出所は絞れるな。地図は持ってるか?」
俺が急いでテーブルの上に広げた地図を見て、大凡の場所を指で囲んでからその近くにある町や村をピックアップしていき、その中から一つの町に絞り込む。
「他国からの参入で商売を始めるにはそこそこの大きさと発展性を見込む必要がある。その条件でいえばヒュプリオスの町は丁度よかったはずだ。ここは入植者が作った町だし、主要な街道からもそう離れていない」
指さした先はべスネー村とは山脈を挟んで少し南側にある場所で、大きな街道からは多少外れているが、枝分かれした支道が通っているので人の流れはあるだろう。
「地図で見るとやはり山脈が邪魔ですね。馬車の行程で大きく南を回り込む形だと3週間ってところですか」
「それぐらいと見るのが妥当だろう。ペルケティアに入国するのはそれほど難しくないが、あちらの山脈側は今の季節だとかなりの寒さだと聞く。十分備えておくようにな」
貴族たるもの他国の情勢には多少は通じている必要があるため、アレイトスから聞かされるアドバイスはその土地の風土に即したものが多く、非常に役立ちそうに感じた。
「それにしてもアレイトス様はよくあの紙の特性をご存知でしたね」
「あれは長男のダレオスから聞かされていたのだ。あ奴は以前、ペルケティアに留学したことがあってな」
聞けばダレオスが留学していた時に実地学習の機会があり、その時にペルケティアの特定地方にしか自生しない植物で作られた紙の炎色反応を偶然であるが目にし、それを帰国してから持ち帰った実物を使って家族に話したのをアレイトスが覚えていたため、もしやと思いやってみた結果、手紙の出所がつかめたというわけだ。
製造過程でつなぎとして混ぜ込まれる植物によってこの紙には独特の手触りがあり、一度触ったことのあるアレイトスだからこそ気付けた違いだろう。
「ですがウルカルムがわざわざ出所が分かりやすい紙を使ったのは何故でしょう?慎重に事を運ぶような性格だと思ったんですが、これでは大きな証拠になりますよ」
「いや、恐らくウルカルムはこの紙の特性を知らなかったんだろう。ダレオスからも現地の者でこれを知っているのはいなかったと言っていた。まさか使った紙から場所を特定されるとは夢にも思わなかったのではないか?」
確かに一枚の紙から得られる情報としては今回のものは破格と言っていいほどの密度だ。
おまけに相手はこちらが追う側に回っていることに気付いていない可能性も高い。
「正直、グエンを誑かして私にその命を奪わせたウルカルムをこの手で殺してやりたい気持ちはある。だが私は簡単にこの地を離れるわけにはいかないし、男爵程度の地位では他国の商人を引き渡す要請は通らないだろう。奴に会ったら私の分も一発くれてやってくれ」
「わかりました、必ずや」
握手を交わしてアレイトスの怒りも託されたところで改めて復讐を誓い、屋敷を後にする。
資金も出来たことだし、ペルケティアを目指す準備は王都でするとして、明日にでもこの町を離れて王都を目指す。
そのための物資の買付けを行い、この日は過ぎていった。
ザルバに聞いたところ、アレイトスはまだグエンの死を吹っ切れたとは言えないが、それでも大分落ち着いたようで、今朝も普通に仕事をしていたのだそうだ。
前と同じように俺とパーラがお茶を頂いていると応接間の扉が開かれてアレイトスが入って来た。
立ち上がって挨拶をと腰を浮かしかけた俺達に手で着席を促し、そのまま俺達の対面に腰かける。
「昨日はろくな挨拶もせずに引っ込んでしまって済まなかったな。あんな息子とはいえやはり死ぬとこたえるものだと思い知らされたよ」
「心中お察しいたします」
俺の言葉に合わせてパーラも頭を下げる。
流石に息子が死んでから1日ではまだ万全とは程遠いのか、目の前にいるアレイトスの様子は以前と比べて格段に活力が足りていないように感じた。
「今日来てもらったのはアンディに槍の代金を、パーラには慰霊と詫びの金を手渡すためだ」
そう言って部屋に入る時から手に持っていた袋を俺とパーラの前にそれぞれ一つずつ置く。
袋を置いた時に聞こえてきた音から、かなりの額が入っていると思うのだが、それぞれの袋の大きさはあまり差は無く、恐らく大体同じ金額が入っていると予想される。
断って中身を見ると、ほとんどが銀貨であったが、大銀貨もいくらか混じっており、ざっとであるが大銀貨換算で5枚、50万ルパほどだろうと思われた。
家宝の金額としては安いのではないかと思ったが、それを読んだのかわからないがアレイトスから付け加えられた言葉で納得した。
「本来の槍の価値からは程遠い金額なのだが、正直に言って今私の一存で動かせる金額はこれが精いっぱいでな。出せるギリギリの額を2人に分けて渡した形になる。すまないがこれで勘弁してくれ」
アレイトスが恥じ入るような声色で頭を下げて詫び、家の内情を明かしてくれた。
今のバスラン男爵家はグエンによって起こされた不祥事のおかげで、近いうちに王都からの査察が来る可能性が浮上している。
その際に当然帳簿も検められることになるのだが、その時にグエンの死と前後して多額の金額が動いたとなれば疑いがかかり、そうなるとシウテスの槍のことも明らかになるだろう。
貴族家が独自に魔道具を所蔵するのは珍しい事ではないのだが、シウテスの槍に関しては勝手が違う。
なにせあずかり知らぬところでとはいえ男爵の息子がこれを使って商人ギルド所属の傭兵を殺しているのだ。
難癖をつけて没収しようと動く者が必ず現れるに違いない。
先祖から伝わる家宝を取り上げられるのだけは避けたかったアレイトスは、バスラン男爵家を突っつく材料を極力減らすためにも自分のポケットマネーからしか金を出せず、こうやって俺達に頭を下げているのだろう。
元々槍を売ったのもグエンに辿り着くためのただの切っ掛け作りに過ぎず、問答無用で男爵家に取り上げられると思っていただけに金を貰えるだけでもありがたい気分だ。
パーラも兄の仇を討てたことの方が大きいため、あまり金額にはこだわっていないようだ。
そのことをアレイトスに告げると安心したようで、もう一度礼を言われてこの話題は終わった。
「ウルカルムがこの町に店を構えていたのは確かだが、商っていた物に関しては特段おかしなものは無かったはずだ。食料に布、あとは多少の宝石もあったがそれぐらいだろう」
「そうですか…。何か手掛かりが欲しい所なんですが、他に気になる点はありませんでしたか?なんでも構いません。話し方とか故郷の話に親類縁者とか」
ウルカルムのことをアレイトスに尋ねてみたが、元々この町でもそれほど大きい商売をしていたわけでもないため、あまり印象に残っていることは無いのだそうだ。
一応ウルカルムがバスラン男爵領で商売の許可を取る際に提出されたという書類を見せてもらったのだが、目立って重要な情報は見つけられない。
ウルカルムがペルケティアにいることは間違いないと思うが、細かな所在地までは分かるはずも無く、直接現地に行ってから調べるのもいいが、それよりも先に大凡の当たりをつけたほうが効率はいいだろう。
アシャドル王国と比べてペルケティアの国土の広さは同じぐらいだが、地理的に高低差がある地域を多く含むため、やみくもに移動するには少々時間がかかる。
捕まったザムルから何か情報は得られないかと思ったが、彼はそもそもウルカルムと接触した後のグエンが集めた人員のため、めぼしい情報は持っていないだろう。
アレイトスから提供された書類に加え、俺の方からはウルカルムからグエンに宛てたと思われる手紙を提出したが、すでに何度も調べたもののため、新しい事実の発見はありえないと思った。
手紙を読み始めた途端、アレイトスは紙の手触りを確かめるようにして何度もその表面を撫で始めた。
「ん?この紙は…アンディ、少し切り取るぞ」
取り出したナイフで手紙の余白の部分を細く切り取り、こよりを作って火をつけるそうで、部屋の中にあった燭台に俺が魔術で着火して渡してやった。
初めてみる雷魔術の着火にアレイトスが驚きの声を上げたが、それよりも先を急かす俺の声に応えてこよりに火を付けた。
ユックリと燃え始めていた炎がある程度の大きさになると一気に色が変わる。
理科の実験で見たことのある炎色反応によくにているそれは、鮮やかなエメラルドグリーンとなって幻想的な光を灯していた。
「やはりか…。これはペルケティアの東部の地方で作られた紙だ。生産量の少なさから作られた土地でしか出回らないだろうから、出所は絞れるな。地図は持ってるか?」
俺が急いでテーブルの上に広げた地図を見て、大凡の場所を指で囲んでからその近くにある町や村をピックアップしていき、その中から一つの町に絞り込む。
「他国からの参入で商売を始めるにはそこそこの大きさと発展性を見込む必要がある。その条件でいえばヒュプリオスの町は丁度よかったはずだ。ここは入植者が作った町だし、主要な街道からもそう離れていない」
指さした先はべスネー村とは山脈を挟んで少し南側にある場所で、大きな街道からは多少外れているが、枝分かれした支道が通っているので人の流れはあるだろう。
「地図で見るとやはり山脈が邪魔ですね。馬車の行程で大きく南を回り込む形だと3週間ってところですか」
「それぐらいと見るのが妥当だろう。ペルケティアに入国するのはそれほど難しくないが、あちらの山脈側は今の季節だとかなりの寒さだと聞く。十分備えておくようにな」
貴族たるもの他国の情勢には多少は通じている必要があるため、アレイトスから聞かされるアドバイスはその土地の風土に即したものが多く、非常に役立ちそうに感じた。
「それにしてもアレイトス様はよくあの紙の特性をご存知でしたね」
「あれは長男のダレオスから聞かされていたのだ。あ奴は以前、ペルケティアに留学したことがあってな」
聞けばダレオスが留学していた時に実地学習の機会があり、その時にペルケティアの特定地方にしか自生しない植物で作られた紙の炎色反応を偶然であるが目にし、それを帰国してから持ち帰った実物を使って家族に話したのをアレイトスが覚えていたため、もしやと思いやってみた結果、手紙の出所がつかめたというわけだ。
製造過程でつなぎとして混ぜ込まれる植物によってこの紙には独特の手触りがあり、一度触ったことのあるアレイトスだからこそ気付けた違いだろう。
「ですがウルカルムがわざわざ出所が分かりやすい紙を使ったのは何故でしょう?慎重に事を運ぶような性格だと思ったんですが、これでは大きな証拠になりますよ」
「いや、恐らくウルカルムはこの紙の特性を知らなかったんだろう。ダレオスからも現地の者でこれを知っているのはいなかったと言っていた。まさか使った紙から場所を特定されるとは夢にも思わなかったのではないか?」
確かに一枚の紙から得られる情報としては今回のものは破格と言っていいほどの密度だ。
おまけに相手はこちらが追う側に回っていることに気付いていない可能性も高い。
「正直、グエンを誑かして私にその命を奪わせたウルカルムをこの手で殺してやりたい気持ちはある。だが私は簡単にこの地を離れるわけにはいかないし、男爵程度の地位では他国の商人を引き渡す要請は通らないだろう。奴に会ったら私の分も一発くれてやってくれ」
「わかりました、必ずや」
握手を交わしてアレイトスの怒りも託されたところで改めて復讐を誓い、屋敷を後にする。
資金も出来たことだし、ペルケティアを目指す準備は王都でするとして、明日にでもこの町を離れて王都を目指す。
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