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日本の国家予算100兆越えって、これもうわけわかんねーな
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巨大船の調査が本格的に開始され、ひと月ほどが経った。
当初、専門家集団による調査はスムーズに進んでいたのだが、降ってわいたテルテアド号の人工頭脳の修復に人手が多く裂かれ、結果として予定していた日程が大きくずれ込み、皇都へ送られる第一陣の調査報告が今朝方、ようやく風紋船によって持ち出されたところだ。
俺は調査に深くかかわってはいないが、夜になれば食堂にやってくるメイエルから色々と聞けたことによれば、まず船の造られた凡その年代が特定されたそうだ。
これは記録として残っていたものの他に、船の動力に彫り込まれていた製造年月日から割り出したもので、今からおよそ2800年前に存在した古代文明時代に作られたものらしい。
想像よりもずっと古い年代に驚くが、現在見つかっている遺跡には4000年以上前のものもあるそうなので、メイエル曰く、そこそこの古さなのだそうだ。
ちなみに、俺達の乗る飛空艇が存在していたのが1000年から1700年ほど前と言われており、それと比べると相当古いように思えるが、双方の遺物には共通した文明の痕跡が見て取れるため、巨大船と飛空艇は同じ文明によって造られたと研究者達は見ている。
ただ、製造された年代自体は離れているらしい。
船自体の調査に、大量にあるコンテナの中身の検証にと、忙しさに悲鳴を上げているそうだが、大半の研究者は遺物調査が大好きな息もなので、嬉しい悲鳴ではあるとのこと。
大変なのはメイエルを始めとした、テルテアド号の修復を手掛けている人達だ。
こういう仕事をしているだけあって、研究者達も遺物の修復も経験があり、魔道具技師にも負けない腕を持った人間もそこそこいる。
そんな人間が揃っていながら、今日までかかって修理の進展はほぼゼロだというのは、やはりそれだけ人工頭脳に関することは高度でデリケートなものだからだろう。
ヘイムダルに助言を受けて集算室に置かれた装置を色々と弄っているそうだが、これまで携わってきたどの遺物とも比べものにならないぐらい高度なものだそうだ。
どこが壊れてどこが壊れていないかを調べるだけでも大仕事で、正直、普通に取り掛かると何年もかかるかもしれないのだが、ヘイムダルのサポートがあるおかげでずっと楽になっている。
ただ、それでも進捗は今一で、何日も徹夜をして、半日気絶するように眠ってまた徹夜という日々が続いていた。
一度だけそんな研究者を見かけたが、幽鬼のように歩く姿は哀愁と恐怖を抱かせるものだった。
こうなると、修復が終わるのはまだまだ先のことになるだろう。
俺が出した交換条件をメイエルが達成するのは無理かと思ったが、遺物の修復は難易度が高いものであるため、もうちょっと気長に見て欲しいと、慌てた様子でメイエルが弁明していた。
それに、こういうのは何かのきっかけで一気に進むことが往々にしてあるそうなので、希望的観測であってもそういったブレイクスルーを期待したい。
まぁ俺もすぐに結果を出せとは言わないから、そんな焦って言い訳をしなくてもいい。
さて、そんな風にメイエル達が巨大船の調査に勤しむ傍ら、俺はパーラに今回確保した武器のお披露目を行っていた。
場所はジンナ村から少し離れたところにある岩山だ。
真昼の岩山の頂上は太陽の日差しがきついが、人目を避けるには悪くない場所である。
今回試すのは、メイエル達には内緒でキープした武器なだけに、できれば扱っているところを見られたくはない。
そのためにわざわざ、出発が目立つ飛空艇を遣わずに、噴射装置だけでここまでやってきたのだから。
「へぇ、これがその可変籠手?ただの手袋みたいだけど、本当に武器になるの?」
そう言ってグーとパーを繰り返すパーラは、果たして自分の手にはまっている手袋が俺の説明通りの物なのかを疑っているようだ。
その気持ちはわかる。
俺だって実際に体験していなければ、手袋が変形するなんて微塵も思わない。
「まぁいいからやってみ。魔道具を使う感じで、可変籠手に魔力を通すんだ。あ、武器の形状を明確に頭に描くのを忘れずにな」
「ふむ、じゃあ……お?おぉ?おお!?」
パーラがイメージしたのは剣だったようで、揃えられた右手の指部分が伸びていき、あっという間に50センチほどの長さの剣が形作られたのを見て、目を輝かせながら驚きの声を上げている。
「すっごーい!本当に剣になったよ!…んでもちょっと短いかな?もうちょっと長くても」
「そこは想像力次第だ。長いのを意識すればそういう風になる。ただし、籠手自体に使われてる金属量的に、大きさには限度があるから、長さも無尽蔵にとはいかんがな」
可変籠手は特殊な金属を特殊な製法で繊維状にして手袋へと変えているため、使われている金属量を超えた変形は出来ない仕組みだ。
今のパーラはやや幅の太い剣を形作ったため、長さが抑え気味になったのだろう。
もう少し細くイメージすれば、もっと長さは稼げたかもしれないが、そこはおいおい慣れていけばいい。
「ちなみにこういうのもできるぞ」
俺の手首から先を砲身状に変え、衝撃波を撃ちだして見せる。
「うっはぁー!なにそれ!?アンディの魔術じゃないよね?それも可変籠手の機能?」
砂を撒きあげながら、見えない弾丸が走り去っていくのは結構パーラにうけた。
なお、これで肩をイワした過去があるので、威力は控え気味にしていた。
おかげで体が反動でやや押される程度で済んだ。
「こんな感じかな……あ、きたきた。キター!」
暫定的に波動砲形態と名付けていたそれは、俺以外にパーラが可変籠手を変形させても作り出せたことから、基本的な形態なのかもしれない。
「おー……か、かっこいい…」
ウットリとした顔で変形した左手を見るパーラの言葉には、俺も頷かざるを得ない。
この可変籠手の造詣は、どの形態をとってもこちらの琴線に触れてくるものがあり、今のパーラのように思わず見惚れてしまうのだ。
「んじゃ早速」
そう言って波動砲を構えるパーラ。
「あ、待てパーラ!」
「分かってるって。人に向けちゃダメなんでしょ」
いや、そりゃそうだけど、それ以前に注意事項を聞かないで撃つとえらい目に遭うぞ。
「臓物をぶちまけろー!」
お前はなにを言ってるんだ?
俺が注意を口にするより早く、ボゥという音と共に、辺りに砂煙が巻き起こる。
パーラが衝撃波を放った際、やや下気味の角度をとってしまったため、地面の砂が吹きあがったのだろう。
「ぎにゃぁぁあああっ!腕がっ、肩がー!パニィって!肩がパニィってー!」
「言わんこっちゃない…」
砂煙からゴロゴロと転がりながら飛び出してきたパーラは、案の定腕と肩をやっちまったようだ。
経験者の忠告として、撃つ前の注意を聞いてほしかったのだが、今回は先走ったパーラが悪い。
「うぅっ、痛いよぅ…」
「だから待てって言ったろ―が。ほら、見せてみろ。腕と肩か?…あぁ、外れてはいないな」
パーラの身を起こし、その体の様子を探ってみると、幸い俺の時のように肩を外したりしてはいないようだが、それでも痛みはあるようで、この分だとどこか捻挫しているのかもしれないな。
ポロポロ涙を流すパーラに治療を施し、ひとまず問題のないことを確認したところで、半ば分かり切った感想を尋ねてみる。
「あれはヤバい。人間の体を一切考慮してない武器って感じだよ。私達が使うなら、強化魔術の併用は必須だね」
「だろうな。一応、コツを掴めば強化魔術なしでも発射には耐えられるぞ」
「えー?ほんとにぃ?」
「ああ。まぁそれでも反動は完全に逃しきれないから、使いどころは気を付けたほうがいいだろう」
俺も先程波動砲を使ったダメージはまだ痺れとして残っており、完全にノーダメージで扱えるようになるにはもう少し練習は必要だ。
パーラの言う通り、強化魔術を使ってもいいが、できるのなら素で扱えるようになりたい。
このガツンと来る反動が、なんだかちょっとだけ癖になりつつあるからな。
怪我しない程度に感じられるようになれればいいなと思っている。
「さて、これのお試しはこんなもんか。こいつはお互いに一つずつ、自己責任で管理ってことでいいな?」
「うん、いいよ。特別な整備とかはいらないんだよね?」
「そうらしい。汚れとかを取り除くぐらいでいいそうだ」
可変籠手は自己修復機能とかいう都合のいいものは搭載されていないが、極小の金属の集合体のようなものであるため、中核となる制御装置さえ無事ならメンテナンスはいらない。
破損個所が出来ても、そこだけを自動で排除し、また部品の配列が自動で調整されて、元の形を保つ機能が搭載されていた。
むしろ、素材と製法が特殊な分、下手に弄らないほうがいいという忠告をヘイムダルから貰っているぐらいだ。
特殊部隊が使うものだけに、頑丈さは折り紙付きだが、予備があまりないので、常用するというよりは、ここ一番に備えておくものと考えたほうがいいだろう。
まぁ日常使いの手袋として使うのにはもっと相応しいものが既にあるので、可変籠手を持ち出すとしたら荒事が予想される時ぐらいか。
貴重な品なので保管は厳重に、しかし使い時にはケチらないということにしよう。
可変籠手の方はこれぐらいにして、今度はもう一つのアイテムを試す。
取り出したるは金属製の盾。
直径50センチ弱の丸型で、厚みは10センチほどと、重量がかなりありそうだが実際には見た目よりも軽い。
古代の特殊合金製で軽くて丈夫、百人乗っても大丈夫そうだ。
さてこの品、盾とは言ったが本当は違う。
あくまでも形がそれだというだけで、本来の用途は盾としてのものではない。
近い物ではあるが。
「なにこれ。盾?」
「のように見える鎧だな」
「鎧~?どこが?」
俺の言葉に胡散臭さ全開という反応をするパーラに、こいつの本来の姿を見せてやる。
丸い盾状の裏側にある二つの取っ手を握り、そこに魔力を浸透させながら思いっきり左右に引っ張る。
すると、盾部分が鎖のように形を変えてほどけていき、取っ手部分からガチャガチャと俺の腕を侵食するようにして全身へと広がっていく。
「アンディ!?」
「大丈夫だ。問題ない」
傍から見ると、金属に飲み込まれているように見える俺の姿に悲痛な声を上げるパーラだが、これは想定通りの状態だ。
纏わりついた金属パーツはすぐに俺のボディラインに沿ってフィットし、出来上がったのは顔以外を鈍い銀色の金属鎧に身を包んだこの俺である。
「こいつは『魔力駆動外骨格』っていうらしい。古代文明時代では、長いから駆動鎧って呼ばれてたそうだ」
この駆動鎧は、古代文明ではもう廃れた道具ではあるが、ヘイムダル号とテルテアド号には少ない数ではあるが搭載されていたものの一つだ。
大口径で高威力の銃が普通にある時代では、あまり人気のない防具だったそうで、普及率はそう高くない。
魔導鎧とは違い、人間が身に着けるタイプで、着用者の魔力を動力とするため、豊富な魔力を持った人間でないと扱いきれないというのも、普及を妨げた点だろう。
「うん、思ったより動きやすいな」
肩を回し、屈伸もして体の動きに阻害がないことを確認する。
全身鎧としてみると破格の軽さと動きやすさではあるが、防御力としてはどうかというと、生半可な刃物は通さないし、各パーツ毎に身体機能をアシストする機能があるパワードスーツとしても機能する。
駆動鎧は基本的に、使用者の魔力で展開し、身体能力を強化するものだ。
アシスト機能の方は強化魔術が使える俺達にとってはあまり恩恵はないが、防御力の高さには魅力を感じる。
顔こそ丸出しだが、俺の今の姿を一言で現すなら、仮面ライダ〇系の悪者と言った感じだ。
もしくはアイア〇マンでもいい。
「ねぇアンディ、それ私にもやらせてよ」
「お、興味出たか?」
俺の姿に何かが刺激されたのか、パーラがそう言いだした。
「まぁね。最初はちょっとびっくりしたけど、こうして見ると中々かっこよさげじゃん」
分かる、分かるぞ。
俺も自分の姿を見下ろしてみて、子供の時に覚えたヒーローへの憧れと、大人になってから持った悪への美学が同時に沸き立ってたまらんのだ。
流石にパーラが俺と同じ感情とは言わないが、近いものを抱いているに違いない。
駆動鎧に再び魔力を通し、元の丸い盾状に戻す。
先程の早戻しのようにして形を変える様は、まるで脱皮のような感覚を覚えてちょっぴり面白い。
「ほれ、やってみろ。そこに取っ手があるだろ?そこを握って、魔力を通すんだ」
「これね。んじゃあ…お!きた!」
俺の時と同様、体を覆い始めた金属で、あっという間にパーラは全身鎧に姿を変える。
改めて人が身に着けているのを見ると、ダークヒーロー感が半端ない。
「思ったより軽くて動きやすいね。これぐらいなら、噴射装置で普通に飛べそう。…ちょっと体の線が強調されるのが恥ずかしいけど」
その場でくるりと回り、軽くストレッチをしたパーラだったが、すぐに自分の体を見下ろしてそんな言葉を零す。
やはりボディラインがハッキリわかるのは恥ずかしいようで、頬を赤らめているパーラの姿には新鮮さを覚える。
裸よりも、体にぴったり沿った服の方が逆にエロいという、あの感覚は異世界でも共通なのかもしれない。
「動きやすさを追求すると、そういう感じになるんだろう。どうしても気になるなら、上からローブを羽織るしかないな」
「ま、それがいいか。それでこれって一つだけしかないの?」
「いや、20個ぐらいあったぞ」
「20個も?結構あるじゃん」
古代文明においては、防具はもう普通に防弾チョッキのようなタイプが主流になっており、駆動鎧は使われることはほとんどなくなっていた。
可変籠手同様、特殊部隊向けの装備として少数だけが船に積まれていたのを、今回引っ張り出してきたわけだ。
「そうそう壊れないとは思うが、一応予備にも限りがあるから大事に使っていこう」
「だね。じゃあとりあえずこれは返すね」
盾の状態に戻った駆動鎧を手渡される。
一応これは俺の物ということなので、帰ったらパーラ用のも用意しておこう。
メイエル達に見せられず、俺達で確保しておきたい品は貨物区画から秘密の場所へ移しているので、見つからないように後で取りに行くとしよう。
その後は、超振動剣の試し斬りも行ったが、こちらは前の二つに比べてパーラの反応は薄かった。
まぁ原理がどうであれ、よく切れる剣というだけなので、可変籠手や駆動鎧のインパクトに比べたらそうなるわな。
さらにひと月ほど経ち、遺物の調査もそれなりに進んで成果と呼べるものがちらほらと出始めた頃、待ち望んでいたものがジンナ村へとやってきた。
以前、パーラがダリアに頼んだバイクの部品がようやく届けられたのだ。
これでモーターボートの部品にされてしまったバイクが直せる。
もっとも、砂漠ではあまり出番がないバイクなので、部品が届いた時も正直、そう言うのがあったなという感じだ。
貨物室の隅に追いやっていたのもよくなかった。
わざわざ飛空艇にまで持ってきてくれた人達に、思わず不審げな顔をしてしまったのは反省したい。
届いたパーツはバイクにそのまま適合するものではないので、モーターボートの船外機を一度バラし、それに浸かっていたパーツをバイクに戻して、新しく届いたので組みなおすという作業が必要だ。
少し手間ではあるが、ロニが手伝ってくれるし、調査員の中にモーターボートに興味を持った人間もいるので、その人達にも手伝ってもらうとしよう。
そしてもう一つ、ヘイムダル号の船長候補と船員がやってきた。
船長候補はムンドという名前の男性で、年齢はまだ40前だが、日に焼けた逞しい体つきは年齢以上の貫録がある。
彼はマルステル公爵家のコネによる紹介で、きちんと身辺を洗ってくれた信頼できる人物だそうだ。
この船長候補は、風紋船の船長として10年近く勤めてきたベテランで、海上を行く船の経験はないが、ソーマルガが所有する予定になるヘイムダル号の船長を任せるには、能力・人間性共に最適な人選と国から太鼓判を貰っている。
まだヘイムダル号とテルテアド号は調査が続いているので動かせないが、一先ずムンドをヘイムダル号の操舵室へと連れ込んで引継ぎを行うことにした。
船員も数が揃ったことで、ムンドの船長就任は問題なく行われた。
ただ、ヘイムダル号の方はいいが、テルテアド号の方はまだどうなるかわからないので、船長は変わらずパーラのままでとなった。
そのため、ヘイムダル号に設けていた俺の部屋は、テルテアド号の方へと移すことになり、合わせて私物の類も一緒に移動させておいた。
武器類の調査で貨物区画は人の出入りは多いが、居住区はほとんど人がこないので、相変わらずのんびり過ごすのにはいい場所だ。
もっとも、食事と寝泊まりは相変わらず屋敷の方で世話になっているので、船の方は別荘感覚なのも否めない。
人が増えれば色々と問題も起きるもので、いきなり大勢を受け入れたジンナ村では、滞在中の宿泊先がまず挙げられていたが、これに関してはヘイムダル号の客室を宿泊所として提供することで解決している。
研究者の多くは船の中で仕事をして、そのまま寝泊まりできることが好評なのだが、中には船の揺れがどうしても気になると陸で寝起きしている人間もそれなりにいて、そういう人達には、仮設で建てられた宿が活躍している。
人が増えたことで衛生面な不安を覚えた俺は、ジンナ村に風呂を作ることを計画した。
現状、風呂というのはあまり一般的ではないが、水浴びで海に飛び込むだけというのがあまり衛生的とは言えない。
今ある風呂と言えば、アイリーンの屋敷か飛空艇にあるものだけなので、多くの人間が利用するには少々手狭だ。
そこで、ジンナ村の一角に大浴場の建設をアイリーンに提案したら、あっさりと承認され、その責任者に俺が任命されてしまった。
言い出しっぺであるので仕方ないとは言えるが、まさか総監督までさせられるとは思わなかった。
しかしやる以上は手を抜かない。
木材があまり潤沢ではないジンナ村では、基本的に白壁の建材がメインとなる。
だがこの白壁は強い湿気に長時間晒されると変色する性質がある為、あまり風呂に向いたものではない。
そこで、一部の壁や柱は白壁を使い、屋根やほとんどの壁には布を張ることにした。
サイドの布をとることで露天風呂風になるし、昼間は屋根を開放することで差し込む強い日差しで溜めた水を温めて沸かす手間を減らすという利点もある。
これには村で使われる帆布が流用できたのも、採用された理由だ。
岩と木材を組み合わせて湯船を作り、そこを白壁と布で覆って完成した大浴場は、当初の十人単位で入れる程度だったものが、最終的には大人三十人が余裕で入れる巨大なものとなってしまっていた。
これには理由がある。
当初、風呂に使う水は村の生活用水から引き込む予定だったが、ヘイムダル号にあった装置で海水のろ過が可能ということが判明し、海水を真水に変えて使うことが可能となったことにより、アイリーンが湯船の拡張を打診してきたのだった。
生活用水をあまり派手に風呂へ使うのは躊躇われたが、ろ過装置のおかげで海水という大量の水が使えるようになったのため、どうせならでかいほうが気持ちいいだろうということで大浴場の設計は大幅に変更が加えられた。
まぁこの村のトップはアイリーンなので、彼女がそうすると決めたら従うしかない。
最終的に、脱衣所と洗い場、湯船を含めて予定の4倍以上の大きさとなってしまったが、出来に関しては満足している。
湯船が完成した際、手掛けた者の特権として俺は一番風呂を味わったが、壁を開放した露天風呂は、広大な海とその先の地平線を同時に味わえて気持ちがよかった。
あれはもう、インフィニティお風呂とでも呼ぶのが正しいだろう。
少し気になったのは、お湯が少ししょっぱいところか。
ろ過装置で海水を真水に近付けてはいるが、装置がまだ完全に復旧できていないようで、特にフィルターにあたる部分があり合わせの布で代用したため、本来の性能を発揮しきれず、塩分を完全に取り除くことが出来ないらしい。
飲用には向かないが、風呂の湯には問題ないので、ろ過装置は今後、風呂専用に使われることになる。
お湯を沸かすのは、主に俺かアイリーンの仕事となった。
薪が豊富とは言えないジンナ村で、俺やアイリーンは風呂焚き要因として重宝される。
俺はともかく、領主に風呂の仕事をやらせるのはどうかと思ったが、書類仕事でたまったストレスを発散させるのに火魔術を使ういい機会だと、アイリーンは嬉々として湯船に炎を叩きこんでいた。
その時の、ちょっとイっちゃってる顔は怖かった。
『薙ぎ払え!どうした化け物、それでもこの世で最も邪悪な一族と言われた末裔か!』
そんな具合で、夜に一人、何かを演じながら炎を撒き散らしていた姿は、見てないことにしてやったが。
というか、アイリーンは例のアニメを見たことがあるのだろうか?
こうして完成された大浴場は村人達に解放され、一日の仕事終わりに研究員達も利用するようになり、村人と交流を図る場ともなっていた。
お湯につかる習慣がなかった村人達だが、アイリーンの屋敷で働く使用人からそのよさを聞いていたようで、完成したその日から村中から人が詰めかける騒ぎとなったのは驚きだった。
一応湯船を布で仕切って男女別にしているが、この布を残すかどうかは村の人間で決めて欲しい。
そんな風に過ごしていたある日、俺とパーラはメイエルに呼び出された。
どうも船の買い取り金額の査定が終わったそうで、その報告があるそうだ。
アイリーンの屋敷の一室を借りて、そこで対面した俺達は、険しい顔でメイエルから差し出された書類を見て腰を抜かしかけた。
「…え、え?やだ、なにこれ…怖い」
書類には船とコンテナを貨幣に換算した金額とその内訳が書き込まれていた。
そしてそれを見て、視線をメイエルと俺と書類の三方へ巡らせて忙しいパーラは震えた声を出した。
さもありなん。
俺だって表情筋が固まって劇画調になってしまっているぐらいだ。
それぐらい、驚愕の事実がこの書類には記されている。
「メイエルさん、失礼ですがこの金額に間違いはないんですね?」
「残念ながら。細かい内訳はそちらに書いてあるので省きますが、現在算出されている査定額は、1718億ルパとなっています。あぁ、端数は除いていますので」
おいまじか。
一億越えってどんだけだよ。
某麦わらの海賊ですら、初頭の手配額は3千万だったのに。
いや、あれだけの巨大な遺物と大量の積載物から、相当な金額にはなるだろうとは思っていたが、まさか一千億を超えてくるとは。
「念のため聞きますが、この金額で確定で?」
「いえいえ、まさかそんな」
あぁ、よかった。
その言葉に一先ず胸を撫で下ろす。
どうやらザっと出された金額のようで、変動の余地はありそうだ。
こんなアホみたいな金額、心臓に悪すぎるわ。
高く買い取ってくれるに越したことはないが、それでも過剰な金を持つのは流石にな。
「まだまだ金額は上がりそうなんですよ、これ。今分かっている船の性能とコンテナに金額を付けただけなので、調査が進めばあと二割は上乗せされるんじゃないかって考えてます」
安くなるかと思ったらそんなことはなかったぜ。
「あわ…あわわわわ…。ち、ちょっとアンディ、これ下手したら二千億いくんじゃない?」
「いくだろうな」
もう体全体が震え始めたパーラの言う通り、少なくとも二割上乗せとなれば、それぐらいはいくだろう。
…いやまじでおっかねぇな。
日本の国家予算が100兆ぐらいだったか?
それと比べればまだまだだが、それでもこの世界の物価や貨幣価値から考えれば、小国の国家予算並みだ。
これだけの金を持った個人、この時点でもう厄介事が色々と想像できてしまう。
「実は今日お二人をお呼びしたのは、この買い取り金額についてご相談したいと思いまして…」
そう言ってメイエルが新たに取り出したのは、見覚えがある封蝋の押された手紙だった。
断りを入れて中を見てみると、そこには封蝋の印の主であるソーマルガ皇国宰相直々に書いた文章がびっしりと見えた。
内容は、今回の船の買い取りに支払われる金額があまりにも高額すぎるため、何年かに分けての支払いや物納でお願いしたいというのが、ばか丁寧に長々と綴られていた。
これが宰相の手紙のデフォルトというわけがなく、今回の件でこちらに配慮をして欲しいという願いが、この恐ろしく下手に出た言い回しを書かせたのだろう。
考えてみれば、ソーマルガの国家予算の何パーセントが支払いに使われるにしろ、莫大な金額であることに変わりはない。
将来的に船を研究して得られる技術情報の価値が上回るとしても、一時的に出ていく金額はいかんともしがたい。
国としてはその気になれば問答無用で取り上げることはできるが、それをしないでローンを組むということを提案したのは、今日まで築いてきた信頼関係の賜だと思える。
「メイエルさんはこの手紙の内容を?」
「大体は。私にも手紙は来ていましたから」
「なるほど、では支払いの猶予に関してはどのように聞いてますか?」
「分割での場合は、利息つきで20年払いが望ましいとのことです。ただ、ハリム様はなるべく物納の方向で話を纏めて欲しいそうです」
「物納ですか…、この金額のものとなれば、かなりの価値の物でないと釣り合いませんよ」
「ええ、当然ですね。いくつか候補がありますけど、まず一つは伯爵位をと」
「結構です」
「ですよね~。まぁこれはあまり期待していないようでしたね。もう一つ、ミエリスタ王女との婚約というのを―」
「だめ。私が認めません」
急に声のトーンがマジになったパーラによって、メイエルの言葉はかき消される。
まぁエリーが嫌い云々よりも、王族との婚約など望む気にはなれないので、俺としてもパーラに意見には賛同だ。
それに、エリーにはこんな形で婚約者が決まるなどと切ない思いはさせたくない。
…いや、もしかしたらこの世界だと普通なのか?
貴族同士だと、よくあることと聞いた覚えがある。
まぁ受ける気はないからどうでもいいが。
「あ、あはははは、そうですよねぇ。アンディさんにはパーラちゃんがいますもんねぇ。では最後の一つ、こちらが本命のようです。年間の支払金額を8割引きしてくれるのと引き換えで、テルテアド号の個人所有を認めるというものはどうか、とのことです」
中々太っ腹なことだ。
しかしその提案には頷くのは難しいだろう。
何せ今、テルテアド号は人工頭脳が壊れたままだ。
修復は試みられているが、芳しいとは言えない。
だからこそ、ほぼ無傷と言えるヘイムダル号ではなく、テルテアド号の所有で話を持ち掛けられたのだろうけど。
そのことをメイエルに伝えると、もちろんその点も考慮されているらしい。
提案を飲んだ場合、テルテアド号の完全修復はソーマルガが責任をもって行い、また船内の生活空間の構築も全てソーマルガが面倒を見るという。
船が欲しいかどうかで言えば正直微妙だが、飛空艇にはない広大な生活空間と運搬能力には魅力を感じる俺としては、この提案は受けてもいいと思える。
海上限定だが、移動式の拠点を自前で持てるのは今後の冒険者生活で損にはならない。
しかも、修復から内装まで全て向こうに任せられる。
ヘタに大金の保有で悩むよりもずっとましだ。
船にある重機類もセットで貰えるように交渉するのを念頭に、話を進めてみてもいいだろう。
「わかりました。ではその方向で話を進めてください。パーラもそれでいいか?」
「賛成。あんな大金、もらっても落ち着かないよ。船って形でならまぁなんとか気が楽だしね」
「そうですか!いやぁよかった~…。これで話が纏まらなかったら、代案の提出までまたお腹が痛い日を送りそうでしたよ。お二人共、本当にありがとうございます」
安堵の息を吐いてお腹をさするメイエルは、どうやらこの案件で相当なストレスを抱えていたらしい。
額が額なだけに、いち研究者として抱えるのは重過ぎる問題だからな。
あとで胃に優しいものを差し入れてやろう。
さて、これでヘイムダル号は売却がほぼ決まり、テルテアド号は俺達所有で話は進むはず。
正直、船の処遇が決まるまではソーマルガを離れられないので、こういうのが決まると冒険者としては有難い。
まだその予定はないが、いずれくるであろう旅立ちの日には身軽でいたいものだ。
ただ、大幅値引きはされても買い取り金額は未だ膨大ではあるため、その受け取りについても色々と話はしなくてはならない。
メイエルはあくまでも現場の人間なので、その手の話は後日、皇都へ行ってハリムと直接するとしよう。
なのでとりあえず、今は…
「いやーしかし、大金が入ったら何しよう。バイクをもう一台買っちまうか?」
「ちょっと、無駄遣いしないでよね。まぁバイクの買い増しはちょっとそそられるけどさ」
金の使い道をパーラと相談だな。
大金過ぎると委縮するが、そこそこの大金であれば気軽に使えるのが俺達だ。
まぁ実際は貯金に回すことにはなるだろうが。
『常に備えよ』が俺のモットーだから。
確か海兵隊の教えだったな。
いや、ボーイスカウトだっけ?
まぁどうでもいいや。
とはいえ、夢を語るぐらいいいじゃないか。
正当な報酬だもの。
当初、専門家集団による調査はスムーズに進んでいたのだが、降ってわいたテルテアド号の人工頭脳の修復に人手が多く裂かれ、結果として予定していた日程が大きくずれ込み、皇都へ送られる第一陣の調査報告が今朝方、ようやく風紋船によって持ち出されたところだ。
俺は調査に深くかかわってはいないが、夜になれば食堂にやってくるメイエルから色々と聞けたことによれば、まず船の造られた凡その年代が特定されたそうだ。
これは記録として残っていたものの他に、船の動力に彫り込まれていた製造年月日から割り出したもので、今からおよそ2800年前に存在した古代文明時代に作られたものらしい。
想像よりもずっと古い年代に驚くが、現在見つかっている遺跡には4000年以上前のものもあるそうなので、メイエル曰く、そこそこの古さなのだそうだ。
ちなみに、俺達の乗る飛空艇が存在していたのが1000年から1700年ほど前と言われており、それと比べると相当古いように思えるが、双方の遺物には共通した文明の痕跡が見て取れるため、巨大船と飛空艇は同じ文明によって造られたと研究者達は見ている。
ただ、製造された年代自体は離れているらしい。
船自体の調査に、大量にあるコンテナの中身の検証にと、忙しさに悲鳴を上げているそうだが、大半の研究者は遺物調査が大好きな息もなので、嬉しい悲鳴ではあるとのこと。
大変なのはメイエルを始めとした、テルテアド号の修復を手掛けている人達だ。
こういう仕事をしているだけあって、研究者達も遺物の修復も経験があり、魔道具技師にも負けない腕を持った人間もそこそこいる。
そんな人間が揃っていながら、今日までかかって修理の進展はほぼゼロだというのは、やはりそれだけ人工頭脳に関することは高度でデリケートなものだからだろう。
ヘイムダルに助言を受けて集算室に置かれた装置を色々と弄っているそうだが、これまで携わってきたどの遺物とも比べものにならないぐらい高度なものだそうだ。
どこが壊れてどこが壊れていないかを調べるだけでも大仕事で、正直、普通に取り掛かると何年もかかるかもしれないのだが、ヘイムダルのサポートがあるおかげでずっと楽になっている。
ただ、それでも進捗は今一で、何日も徹夜をして、半日気絶するように眠ってまた徹夜という日々が続いていた。
一度だけそんな研究者を見かけたが、幽鬼のように歩く姿は哀愁と恐怖を抱かせるものだった。
こうなると、修復が終わるのはまだまだ先のことになるだろう。
俺が出した交換条件をメイエルが達成するのは無理かと思ったが、遺物の修復は難易度が高いものであるため、もうちょっと気長に見て欲しいと、慌てた様子でメイエルが弁明していた。
それに、こういうのは何かのきっかけで一気に進むことが往々にしてあるそうなので、希望的観測であってもそういったブレイクスルーを期待したい。
まぁ俺もすぐに結果を出せとは言わないから、そんな焦って言い訳をしなくてもいい。
さて、そんな風にメイエル達が巨大船の調査に勤しむ傍ら、俺はパーラに今回確保した武器のお披露目を行っていた。
場所はジンナ村から少し離れたところにある岩山だ。
真昼の岩山の頂上は太陽の日差しがきついが、人目を避けるには悪くない場所である。
今回試すのは、メイエル達には内緒でキープした武器なだけに、できれば扱っているところを見られたくはない。
そのためにわざわざ、出発が目立つ飛空艇を遣わずに、噴射装置だけでここまでやってきたのだから。
「へぇ、これがその可変籠手?ただの手袋みたいだけど、本当に武器になるの?」
そう言ってグーとパーを繰り返すパーラは、果たして自分の手にはまっている手袋が俺の説明通りの物なのかを疑っているようだ。
その気持ちはわかる。
俺だって実際に体験していなければ、手袋が変形するなんて微塵も思わない。
「まぁいいからやってみ。魔道具を使う感じで、可変籠手に魔力を通すんだ。あ、武器の形状を明確に頭に描くのを忘れずにな」
「ふむ、じゃあ……お?おぉ?おお!?」
パーラがイメージしたのは剣だったようで、揃えられた右手の指部分が伸びていき、あっという間に50センチほどの長さの剣が形作られたのを見て、目を輝かせながら驚きの声を上げている。
「すっごーい!本当に剣になったよ!…んでもちょっと短いかな?もうちょっと長くても」
「そこは想像力次第だ。長いのを意識すればそういう風になる。ただし、籠手自体に使われてる金属量的に、大きさには限度があるから、長さも無尽蔵にとはいかんがな」
可変籠手は特殊な金属を特殊な製法で繊維状にして手袋へと変えているため、使われている金属量を超えた変形は出来ない仕組みだ。
今のパーラはやや幅の太い剣を形作ったため、長さが抑え気味になったのだろう。
もう少し細くイメージすれば、もっと長さは稼げたかもしれないが、そこはおいおい慣れていけばいい。
「ちなみにこういうのもできるぞ」
俺の手首から先を砲身状に変え、衝撃波を撃ちだして見せる。
「うっはぁー!なにそれ!?アンディの魔術じゃないよね?それも可変籠手の機能?」
砂を撒きあげながら、見えない弾丸が走り去っていくのは結構パーラにうけた。
なお、これで肩をイワした過去があるので、威力は控え気味にしていた。
おかげで体が反動でやや押される程度で済んだ。
「こんな感じかな……あ、きたきた。キター!」
暫定的に波動砲形態と名付けていたそれは、俺以外にパーラが可変籠手を変形させても作り出せたことから、基本的な形態なのかもしれない。
「おー……か、かっこいい…」
ウットリとした顔で変形した左手を見るパーラの言葉には、俺も頷かざるを得ない。
この可変籠手の造詣は、どの形態をとってもこちらの琴線に触れてくるものがあり、今のパーラのように思わず見惚れてしまうのだ。
「んじゃ早速」
そう言って波動砲を構えるパーラ。
「あ、待てパーラ!」
「分かってるって。人に向けちゃダメなんでしょ」
いや、そりゃそうだけど、それ以前に注意事項を聞かないで撃つとえらい目に遭うぞ。
「臓物をぶちまけろー!」
お前はなにを言ってるんだ?
俺が注意を口にするより早く、ボゥという音と共に、辺りに砂煙が巻き起こる。
パーラが衝撃波を放った際、やや下気味の角度をとってしまったため、地面の砂が吹きあがったのだろう。
「ぎにゃぁぁあああっ!腕がっ、肩がー!パニィって!肩がパニィってー!」
「言わんこっちゃない…」
砂煙からゴロゴロと転がりながら飛び出してきたパーラは、案の定腕と肩をやっちまったようだ。
経験者の忠告として、撃つ前の注意を聞いてほしかったのだが、今回は先走ったパーラが悪い。
「うぅっ、痛いよぅ…」
「だから待てって言ったろ―が。ほら、見せてみろ。腕と肩か?…あぁ、外れてはいないな」
パーラの身を起こし、その体の様子を探ってみると、幸い俺の時のように肩を外したりしてはいないようだが、それでも痛みはあるようで、この分だとどこか捻挫しているのかもしれないな。
ポロポロ涙を流すパーラに治療を施し、ひとまず問題のないことを確認したところで、半ば分かり切った感想を尋ねてみる。
「あれはヤバい。人間の体を一切考慮してない武器って感じだよ。私達が使うなら、強化魔術の併用は必須だね」
「だろうな。一応、コツを掴めば強化魔術なしでも発射には耐えられるぞ」
「えー?ほんとにぃ?」
「ああ。まぁそれでも反動は完全に逃しきれないから、使いどころは気を付けたほうがいいだろう」
俺も先程波動砲を使ったダメージはまだ痺れとして残っており、完全にノーダメージで扱えるようになるにはもう少し練習は必要だ。
パーラの言う通り、強化魔術を使ってもいいが、できるのなら素で扱えるようになりたい。
このガツンと来る反動が、なんだかちょっとだけ癖になりつつあるからな。
怪我しない程度に感じられるようになれればいいなと思っている。
「さて、これのお試しはこんなもんか。こいつはお互いに一つずつ、自己責任で管理ってことでいいな?」
「うん、いいよ。特別な整備とかはいらないんだよね?」
「そうらしい。汚れとかを取り除くぐらいでいいそうだ」
可変籠手は自己修復機能とかいう都合のいいものは搭載されていないが、極小の金属の集合体のようなものであるため、中核となる制御装置さえ無事ならメンテナンスはいらない。
破損個所が出来ても、そこだけを自動で排除し、また部品の配列が自動で調整されて、元の形を保つ機能が搭載されていた。
むしろ、素材と製法が特殊な分、下手に弄らないほうがいいという忠告をヘイムダルから貰っているぐらいだ。
特殊部隊が使うものだけに、頑丈さは折り紙付きだが、予備があまりないので、常用するというよりは、ここ一番に備えておくものと考えたほうがいいだろう。
まぁ日常使いの手袋として使うのにはもっと相応しいものが既にあるので、可変籠手を持ち出すとしたら荒事が予想される時ぐらいか。
貴重な品なので保管は厳重に、しかし使い時にはケチらないということにしよう。
可変籠手の方はこれぐらいにして、今度はもう一つのアイテムを試す。
取り出したるは金属製の盾。
直径50センチ弱の丸型で、厚みは10センチほどと、重量がかなりありそうだが実際には見た目よりも軽い。
古代の特殊合金製で軽くて丈夫、百人乗っても大丈夫そうだ。
さてこの品、盾とは言ったが本当は違う。
あくまでも形がそれだというだけで、本来の用途は盾としてのものではない。
近い物ではあるが。
「なにこれ。盾?」
「のように見える鎧だな」
「鎧~?どこが?」
俺の言葉に胡散臭さ全開という反応をするパーラに、こいつの本来の姿を見せてやる。
丸い盾状の裏側にある二つの取っ手を握り、そこに魔力を浸透させながら思いっきり左右に引っ張る。
すると、盾部分が鎖のように形を変えてほどけていき、取っ手部分からガチャガチャと俺の腕を侵食するようにして全身へと広がっていく。
「アンディ!?」
「大丈夫だ。問題ない」
傍から見ると、金属に飲み込まれているように見える俺の姿に悲痛な声を上げるパーラだが、これは想定通りの状態だ。
纏わりついた金属パーツはすぐに俺のボディラインに沿ってフィットし、出来上がったのは顔以外を鈍い銀色の金属鎧に身を包んだこの俺である。
「こいつは『魔力駆動外骨格』っていうらしい。古代文明時代では、長いから駆動鎧って呼ばれてたそうだ」
この駆動鎧は、古代文明ではもう廃れた道具ではあるが、ヘイムダル号とテルテアド号には少ない数ではあるが搭載されていたものの一つだ。
大口径で高威力の銃が普通にある時代では、あまり人気のない防具だったそうで、普及率はそう高くない。
魔導鎧とは違い、人間が身に着けるタイプで、着用者の魔力を動力とするため、豊富な魔力を持った人間でないと扱いきれないというのも、普及を妨げた点だろう。
「うん、思ったより動きやすいな」
肩を回し、屈伸もして体の動きに阻害がないことを確認する。
全身鎧としてみると破格の軽さと動きやすさではあるが、防御力としてはどうかというと、生半可な刃物は通さないし、各パーツ毎に身体機能をアシストする機能があるパワードスーツとしても機能する。
駆動鎧は基本的に、使用者の魔力で展開し、身体能力を強化するものだ。
アシスト機能の方は強化魔術が使える俺達にとってはあまり恩恵はないが、防御力の高さには魅力を感じる。
顔こそ丸出しだが、俺の今の姿を一言で現すなら、仮面ライダ〇系の悪者と言った感じだ。
もしくはアイア〇マンでもいい。
「ねぇアンディ、それ私にもやらせてよ」
「お、興味出たか?」
俺の姿に何かが刺激されたのか、パーラがそう言いだした。
「まぁね。最初はちょっとびっくりしたけど、こうして見ると中々かっこよさげじゃん」
分かる、分かるぞ。
俺も自分の姿を見下ろしてみて、子供の時に覚えたヒーローへの憧れと、大人になってから持った悪への美学が同時に沸き立ってたまらんのだ。
流石にパーラが俺と同じ感情とは言わないが、近いものを抱いているに違いない。
駆動鎧に再び魔力を通し、元の丸い盾状に戻す。
先程の早戻しのようにして形を変える様は、まるで脱皮のような感覚を覚えてちょっぴり面白い。
「ほれ、やってみろ。そこに取っ手があるだろ?そこを握って、魔力を通すんだ」
「これね。んじゃあ…お!きた!」
俺の時と同様、体を覆い始めた金属で、あっという間にパーラは全身鎧に姿を変える。
改めて人が身に着けているのを見ると、ダークヒーロー感が半端ない。
「思ったより軽くて動きやすいね。これぐらいなら、噴射装置で普通に飛べそう。…ちょっと体の線が強調されるのが恥ずかしいけど」
その場でくるりと回り、軽くストレッチをしたパーラだったが、すぐに自分の体を見下ろしてそんな言葉を零す。
やはりボディラインがハッキリわかるのは恥ずかしいようで、頬を赤らめているパーラの姿には新鮮さを覚える。
裸よりも、体にぴったり沿った服の方が逆にエロいという、あの感覚は異世界でも共通なのかもしれない。
「動きやすさを追求すると、そういう感じになるんだろう。どうしても気になるなら、上からローブを羽織るしかないな」
「ま、それがいいか。それでこれって一つだけしかないの?」
「いや、20個ぐらいあったぞ」
「20個も?結構あるじゃん」
古代文明においては、防具はもう普通に防弾チョッキのようなタイプが主流になっており、駆動鎧は使われることはほとんどなくなっていた。
可変籠手同様、特殊部隊向けの装備として少数だけが船に積まれていたのを、今回引っ張り出してきたわけだ。
「そうそう壊れないとは思うが、一応予備にも限りがあるから大事に使っていこう」
「だね。じゃあとりあえずこれは返すね」
盾の状態に戻った駆動鎧を手渡される。
一応これは俺の物ということなので、帰ったらパーラ用のも用意しておこう。
メイエル達に見せられず、俺達で確保しておきたい品は貨物区画から秘密の場所へ移しているので、見つからないように後で取りに行くとしよう。
その後は、超振動剣の試し斬りも行ったが、こちらは前の二つに比べてパーラの反応は薄かった。
まぁ原理がどうであれ、よく切れる剣というだけなので、可変籠手や駆動鎧のインパクトに比べたらそうなるわな。
さらにひと月ほど経ち、遺物の調査もそれなりに進んで成果と呼べるものがちらほらと出始めた頃、待ち望んでいたものがジンナ村へとやってきた。
以前、パーラがダリアに頼んだバイクの部品がようやく届けられたのだ。
これでモーターボートの部品にされてしまったバイクが直せる。
もっとも、砂漠ではあまり出番がないバイクなので、部品が届いた時も正直、そう言うのがあったなという感じだ。
貨物室の隅に追いやっていたのもよくなかった。
わざわざ飛空艇にまで持ってきてくれた人達に、思わず不審げな顔をしてしまったのは反省したい。
届いたパーツはバイクにそのまま適合するものではないので、モーターボートの船外機を一度バラし、それに浸かっていたパーツをバイクに戻して、新しく届いたので組みなおすという作業が必要だ。
少し手間ではあるが、ロニが手伝ってくれるし、調査員の中にモーターボートに興味を持った人間もいるので、その人達にも手伝ってもらうとしよう。
そしてもう一つ、ヘイムダル号の船長候補と船員がやってきた。
船長候補はムンドという名前の男性で、年齢はまだ40前だが、日に焼けた逞しい体つきは年齢以上の貫録がある。
彼はマルステル公爵家のコネによる紹介で、きちんと身辺を洗ってくれた信頼できる人物だそうだ。
この船長候補は、風紋船の船長として10年近く勤めてきたベテランで、海上を行く船の経験はないが、ソーマルガが所有する予定になるヘイムダル号の船長を任せるには、能力・人間性共に最適な人選と国から太鼓判を貰っている。
まだヘイムダル号とテルテアド号は調査が続いているので動かせないが、一先ずムンドをヘイムダル号の操舵室へと連れ込んで引継ぎを行うことにした。
船員も数が揃ったことで、ムンドの船長就任は問題なく行われた。
ただ、ヘイムダル号の方はいいが、テルテアド号の方はまだどうなるかわからないので、船長は変わらずパーラのままでとなった。
そのため、ヘイムダル号に設けていた俺の部屋は、テルテアド号の方へと移すことになり、合わせて私物の類も一緒に移動させておいた。
武器類の調査で貨物区画は人の出入りは多いが、居住区はほとんど人がこないので、相変わらずのんびり過ごすのにはいい場所だ。
もっとも、食事と寝泊まりは相変わらず屋敷の方で世話になっているので、船の方は別荘感覚なのも否めない。
人が増えれば色々と問題も起きるもので、いきなり大勢を受け入れたジンナ村では、滞在中の宿泊先がまず挙げられていたが、これに関してはヘイムダル号の客室を宿泊所として提供することで解決している。
研究者の多くは船の中で仕事をして、そのまま寝泊まりできることが好評なのだが、中には船の揺れがどうしても気になると陸で寝起きしている人間もそれなりにいて、そういう人達には、仮設で建てられた宿が活躍している。
人が増えたことで衛生面な不安を覚えた俺は、ジンナ村に風呂を作ることを計画した。
現状、風呂というのはあまり一般的ではないが、水浴びで海に飛び込むだけというのがあまり衛生的とは言えない。
今ある風呂と言えば、アイリーンの屋敷か飛空艇にあるものだけなので、多くの人間が利用するには少々手狭だ。
そこで、ジンナ村の一角に大浴場の建設をアイリーンに提案したら、あっさりと承認され、その責任者に俺が任命されてしまった。
言い出しっぺであるので仕方ないとは言えるが、まさか総監督までさせられるとは思わなかった。
しかしやる以上は手を抜かない。
木材があまり潤沢ではないジンナ村では、基本的に白壁の建材がメインとなる。
だがこの白壁は強い湿気に長時間晒されると変色する性質がある為、あまり風呂に向いたものではない。
そこで、一部の壁や柱は白壁を使い、屋根やほとんどの壁には布を張ることにした。
サイドの布をとることで露天風呂風になるし、昼間は屋根を開放することで差し込む強い日差しで溜めた水を温めて沸かす手間を減らすという利点もある。
これには村で使われる帆布が流用できたのも、採用された理由だ。
岩と木材を組み合わせて湯船を作り、そこを白壁と布で覆って完成した大浴場は、当初の十人単位で入れる程度だったものが、最終的には大人三十人が余裕で入れる巨大なものとなってしまっていた。
これには理由がある。
当初、風呂に使う水は村の生活用水から引き込む予定だったが、ヘイムダル号にあった装置で海水のろ過が可能ということが判明し、海水を真水に変えて使うことが可能となったことにより、アイリーンが湯船の拡張を打診してきたのだった。
生活用水をあまり派手に風呂へ使うのは躊躇われたが、ろ過装置のおかげで海水という大量の水が使えるようになったのため、どうせならでかいほうが気持ちいいだろうということで大浴場の設計は大幅に変更が加えられた。
まぁこの村のトップはアイリーンなので、彼女がそうすると決めたら従うしかない。
最終的に、脱衣所と洗い場、湯船を含めて予定の4倍以上の大きさとなってしまったが、出来に関しては満足している。
湯船が完成した際、手掛けた者の特権として俺は一番風呂を味わったが、壁を開放した露天風呂は、広大な海とその先の地平線を同時に味わえて気持ちがよかった。
あれはもう、インフィニティお風呂とでも呼ぶのが正しいだろう。
少し気になったのは、お湯が少ししょっぱいところか。
ろ過装置で海水を真水に近付けてはいるが、装置がまだ完全に復旧できていないようで、特にフィルターにあたる部分があり合わせの布で代用したため、本来の性能を発揮しきれず、塩分を完全に取り除くことが出来ないらしい。
飲用には向かないが、風呂の湯には問題ないので、ろ過装置は今後、風呂専用に使われることになる。
お湯を沸かすのは、主に俺かアイリーンの仕事となった。
薪が豊富とは言えないジンナ村で、俺やアイリーンは風呂焚き要因として重宝される。
俺はともかく、領主に風呂の仕事をやらせるのはどうかと思ったが、書類仕事でたまったストレスを発散させるのに火魔術を使ういい機会だと、アイリーンは嬉々として湯船に炎を叩きこんでいた。
その時の、ちょっとイっちゃってる顔は怖かった。
『薙ぎ払え!どうした化け物、それでもこの世で最も邪悪な一族と言われた末裔か!』
そんな具合で、夜に一人、何かを演じながら炎を撒き散らしていた姿は、見てないことにしてやったが。
というか、アイリーンは例のアニメを見たことがあるのだろうか?
こうして完成された大浴場は村人達に解放され、一日の仕事終わりに研究員達も利用するようになり、村人と交流を図る場ともなっていた。
お湯につかる習慣がなかった村人達だが、アイリーンの屋敷で働く使用人からそのよさを聞いていたようで、完成したその日から村中から人が詰めかける騒ぎとなったのは驚きだった。
一応湯船を布で仕切って男女別にしているが、この布を残すかどうかは村の人間で決めて欲しい。
そんな風に過ごしていたある日、俺とパーラはメイエルに呼び出された。
どうも船の買い取り金額の査定が終わったそうで、その報告があるそうだ。
アイリーンの屋敷の一室を借りて、そこで対面した俺達は、険しい顔でメイエルから差し出された書類を見て腰を抜かしかけた。
「…え、え?やだ、なにこれ…怖い」
書類には船とコンテナを貨幣に換算した金額とその内訳が書き込まれていた。
そしてそれを見て、視線をメイエルと俺と書類の三方へ巡らせて忙しいパーラは震えた声を出した。
さもありなん。
俺だって表情筋が固まって劇画調になってしまっているぐらいだ。
それぐらい、驚愕の事実がこの書類には記されている。
「メイエルさん、失礼ですがこの金額に間違いはないんですね?」
「残念ながら。細かい内訳はそちらに書いてあるので省きますが、現在算出されている査定額は、1718億ルパとなっています。あぁ、端数は除いていますので」
おいまじか。
一億越えってどんだけだよ。
某麦わらの海賊ですら、初頭の手配額は3千万だったのに。
いや、あれだけの巨大な遺物と大量の積載物から、相当な金額にはなるだろうとは思っていたが、まさか一千億を超えてくるとは。
「念のため聞きますが、この金額で確定で?」
「いえいえ、まさかそんな」
あぁ、よかった。
その言葉に一先ず胸を撫で下ろす。
どうやらザっと出された金額のようで、変動の余地はありそうだ。
こんなアホみたいな金額、心臓に悪すぎるわ。
高く買い取ってくれるに越したことはないが、それでも過剰な金を持つのは流石にな。
「まだまだ金額は上がりそうなんですよ、これ。今分かっている船の性能とコンテナに金額を付けただけなので、調査が進めばあと二割は上乗せされるんじゃないかって考えてます」
安くなるかと思ったらそんなことはなかったぜ。
「あわ…あわわわわ…。ち、ちょっとアンディ、これ下手したら二千億いくんじゃない?」
「いくだろうな」
もう体全体が震え始めたパーラの言う通り、少なくとも二割上乗せとなれば、それぐらいはいくだろう。
…いやまじでおっかねぇな。
日本の国家予算が100兆ぐらいだったか?
それと比べればまだまだだが、それでもこの世界の物価や貨幣価値から考えれば、小国の国家予算並みだ。
これだけの金を持った個人、この時点でもう厄介事が色々と想像できてしまう。
「実は今日お二人をお呼びしたのは、この買い取り金額についてご相談したいと思いまして…」
そう言ってメイエルが新たに取り出したのは、見覚えがある封蝋の押された手紙だった。
断りを入れて中を見てみると、そこには封蝋の印の主であるソーマルガ皇国宰相直々に書いた文章がびっしりと見えた。
内容は、今回の船の買い取りに支払われる金額があまりにも高額すぎるため、何年かに分けての支払いや物納でお願いしたいというのが、ばか丁寧に長々と綴られていた。
これが宰相の手紙のデフォルトというわけがなく、今回の件でこちらに配慮をして欲しいという願いが、この恐ろしく下手に出た言い回しを書かせたのだろう。
考えてみれば、ソーマルガの国家予算の何パーセントが支払いに使われるにしろ、莫大な金額であることに変わりはない。
将来的に船を研究して得られる技術情報の価値が上回るとしても、一時的に出ていく金額はいかんともしがたい。
国としてはその気になれば問答無用で取り上げることはできるが、それをしないでローンを組むということを提案したのは、今日まで築いてきた信頼関係の賜だと思える。
「メイエルさんはこの手紙の内容を?」
「大体は。私にも手紙は来ていましたから」
「なるほど、では支払いの猶予に関してはどのように聞いてますか?」
「分割での場合は、利息つきで20年払いが望ましいとのことです。ただ、ハリム様はなるべく物納の方向で話を纏めて欲しいそうです」
「物納ですか…、この金額のものとなれば、かなりの価値の物でないと釣り合いませんよ」
「ええ、当然ですね。いくつか候補がありますけど、まず一つは伯爵位をと」
「結構です」
「ですよね~。まぁこれはあまり期待していないようでしたね。もう一つ、ミエリスタ王女との婚約というのを―」
「だめ。私が認めません」
急に声のトーンがマジになったパーラによって、メイエルの言葉はかき消される。
まぁエリーが嫌い云々よりも、王族との婚約など望む気にはなれないので、俺としてもパーラに意見には賛同だ。
それに、エリーにはこんな形で婚約者が決まるなどと切ない思いはさせたくない。
…いや、もしかしたらこの世界だと普通なのか?
貴族同士だと、よくあることと聞いた覚えがある。
まぁ受ける気はないからどうでもいいが。
「あ、あはははは、そうですよねぇ。アンディさんにはパーラちゃんがいますもんねぇ。では最後の一つ、こちらが本命のようです。年間の支払金額を8割引きしてくれるのと引き換えで、テルテアド号の個人所有を認めるというものはどうか、とのことです」
中々太っ腹なことだ。
しかしその提案には頷くのは難しいだろう。
何せ今、テルテアド号は人工頭脳が壊れたままだ。
修復は試みられているが、芳しいとは言えない。
だからこそ、ほぼ無傷と言えるヘイムダル号ではなく、テルテアド号の所有で話を持ち掛けられたのだろうけど。
そのことをメイエルに伝えると、もちろんその点も考慮されているらしい。
提案を飲んだ場合、テルテアド号の完全修復はソーマルガが責任をもって行い、また船内の生活空間の構築も全てソーマルガが面倒を見るという。
船が欲しいかどうかで言えば正直微妙だが、飛空艇にはない広大な生活空間と運搬能力には魅力を感じる俺としては、この提案は受けてもいいと思える。
海上限定だが、移動式の拠点を自前で持てるのは今後の冒険者生活で損にはならない。
しかも、修復から内装まで全て向こうに任せられる。
ヘタに大金の保有で悩むよりもずっとましだ。
船にある重機類もセットで貰えるように交渉するのを念頭に、話を進めてみてもいいだろう。
「わかりました。ではその方向で話を進めてください。パーラもそれでいいか?」
「賛成。あんな大金、もらっても落ち着かないよ。船って形でならまぁなんとか気が楽だしね」
「そうですか!いやぁよかった~…。これで話が纏まらなかったら、代案の提出までまたお腹が痛い日を送りそうでしたよ。お二人共、本当にありがとうございます」
安堵の息を吐いてお腹をさするメイエルは、どうやらこの案件で相当なストレスを抱えていたらしい。
額が額なだけに、いち研究者として抱えるのは重過ぎる問題だからな。
あとで胃に優しいものを差し入れてやろう。
さて、これでヘイムダル号は売却がほぼ決まり、テルテアド号は俺達所有で話は進むはず。
正直、船の処遇が決まるまではソーマルガを離れられないので、こういうのが決まると冒険者としては有難い。
まだその予定はないが、いずれくるであろう旅立ちの日には身軽でいたいものだ。
ただ、大幅値引きはされても買い取り金額は未だ膨大ではあるため、その受け取りについても色々と話はしなくてはならない。
メイエルはあくまでも現場の人間なので、その手の話は後日、皇都へ行ってハリムと直接するとしよう。
なのでとりあえず、今は…
「いやーしかし、大金が入ったら何しよう。バイクをもう一台買っちまうか?」
「ちょっと、無駄遣いしないでよね。まぁバイクの買い増しはちょっとそそられるけどさ」
金の使い道をパーラと相談だな。
大金過ぎると委縮するが、そこそこの大金であれば気軽に使えるのが俺達だ。
まぁ実際は貯金に回すことにはなるだろうが。
『常に備えよ』が俺のモットーだから。
確か海兵隊の教えだったな。
いや、ボーイスカウトだっけ?
まぁどうでもいいや。
とはいえ、夢を語るぐらいいいじゃないか。
正当な報酬だもの。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
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みちこ
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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