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雷化の弱点
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―魔導器
魔力を使って様々な効果を発揮する道具を総じて魔道具というが、その中で特に構造の解析が困難で、複製がまず不可能なほどに未知で高度なものを指して魔導器と呼ばれている。
あえて分類するなら、地球基準で言うところの機械的な仕組みが多用されているのが魔道具、儀式や超自然の法則を封じ込めたのが魔導器といえるだろう。
魔道具が便利な道具、魔導器は強力な武器という認識が一般的だ。
古来より、魔剣や聖剣といった、伝承における英雄達が振るった武器こそが魔導器だったというのが、歴史を研究する人間にとっての通説となっている。
現代の魔道具職人が複製できる魔道具に対し、魔導器は仕組みや製造方法があまりにも特殊であるため、せいぜい劣化したものぐらいしか作れない。
そのため、強力な威力を発揮する魔導器を手に入れるには、ジャンル的に古代魔導文明と呼ばれる系統の遺跡で発掘するしか手に入らないので、非常に貴重な品だ。
正直、効果の減衰していない魔剣なら、一本でも国に献上すれば即爵位が貰えるほどだ。
ものによっては飛空艇と交換してもお釣りがくる。
敢えて戦闘力を計るなら、武装した兵士を1として、魔導器を持った人間は100と見てもいい。
分かりやすく例えるなら、初期のヤジ〇ベーとラディ〇ツぐらいの差があるわけだ。
それぐらい貴重で強力な武器を、ハイガンが手にしているということのに恐ろしさたるや。
丸腰で対峙している俺は、はたから見れば自殺志願者としか思われないだろう。
「ふっ!」
「あーらよっとぉー!」
裂帛の声と共に、俺の頭を狙って振り下ろされた剣を、体を捩じらせるようにして大きく躱す。
暗闇の中では視認しずらい黒い剣身ではあるが、幸運なことにハイガンの剣の腕は素人ではないが達人でもないおかげで、来ると分かっていれば凡その軌跡は予想できる。
ただし、正確な軌跡までは分からないため、自然と回避動作は大振りになり、カウンターを決め辛いという難点はある。
「はぁっ!…意外と躱すのが上手い。聞けば魔術師だそうだが、撃ってこないのかね?」
横薙ぎの一撃をしゃがんで躱し、そのまま後転の要領で下がった俺に、ハイガンのイラついた声が投げかけられた。
なお、その際に折れている肋骨が激しく痛んだが、情けない叫び声は我慢できた俺は偉い子。
「…挑発には乗らない。魔導器は魔術での攻撃を吸収できることぐらい知ってるぞ」
「ほう、よく知っていたな。偉いねぇ~」
心底バカにした声で言われて、俺は先程自分に送った称賛を撤回したくなった。
魔導器には所持者に向けて放たれた魔術を吸収して、自分のエネルギーとして再利用する性質がある。
魔術的な効果を発生させる武器であると同時に、向けられた魔術での攻撃を吸収して防ぐという、魔術師殺しとも言っていいほどの凶悪なものだ。
以前、似たような特性の鎧を持つ人間もいたが、こちらの方が遥かに効果は高い。
剣で戦う人間の天敵は遠距離から攻撃してくる弓や魔術だが、特に強力である魔術師からの攻撃を防げるとあれば、使い手にとっては実に頼もしいことだろう。
そんなわけで、製圧力に長けた電撃は使えず、質量のある攻撃に使える水や土は船内にはないため、攻め手に欠いている状態で回避を強いられているわけだ。
「ヘイムダル、ハイガンと俺の間に隔壁を降ろして遮断できないか?」
多少距離がある今の内に、タブレット越しでヘイムダルに指示を出す。
ハイガンを倒すのが一番いいが、ここを切り抜けて人を呼びに行くのも手ではある。
もしくは装備を整えに戻るかだ。
『了解しました。船体後部へあと7メートル後退してください。その位置にある隔壁であれば、ご希望に沿えます』
それじゃあだめだ。
7メートルも後退したら、それだけ隙をハイガンに晒すことになる。
奴ならそこを確実についてくるだろう。
「遠すぎる。最寄りのは?」
『ハイガン様の後方1メートルの位置にあります』
「ちっ、戻れるかよ」
ぬぅ、この指示はもう少し早く出すべきだったか。
どうにもタイミングがまずかった。
こうなると、ヘイムダル号の船内に制圧用の対人兵器が備え付けられていなかったのが痛いな。
それがあれば、俺がここに来る前にヘイムダルが自己判断でハイガンを戦闘不能にしていたというのに。
……いや、待てよ?そう言えば船内に保安用の武器が各所にあるっつってたな。
貨物区画にある分はチェックしてたが、他の船内に備え付けの分は調べていなかった。
もしかしたら、近場にあったりしないだろうか?
「ヘイムダル、保安用の武器は近くにあるか?」
『あります』
「よし!どこだ?」
『左手側後方2メートルの位置にあります』
…微妙だな。
近いと言えば近いが、2メートルもあれば剣で切りかかられるには十分だ。
だが他に武器はないし、それにかけるしかないか。
「さて、そろそろこの戦いも終わりにしたいものだ。この後も私はやることがあるんでね」
自分が優位に立っていると理解しているハイガンは、余裕の態度で話しかけてくる。
実際、魔導器と丸腰の魔術師の対峙だ。
どちらに分があるのかは考えるまでも無い。
「最後に面白いものを見せてやろう。溶岩剣は本来の力を失ったとはいえ、まだ……こういうこともできるのだよ!」
そう言い、剣を持った手を後ろへ大きく下げ、刺突の形で切先を俺へと突き出してきた。
次の瞬間、黒一色だった剣身にはひび割れるように赤い光が走り、それが先端へと移動するや否や、強烈な熱風を発生させる。
「あっつっ!こりゃやべぇ!」
目には見えずとも、すぐに肌に感じた強烈な熱に、俺は全身を雷化させた。
膨張した空気は雷と化した体をかき消す勢いで通り過ぎ、その際、衣服やタブレットを一瞬で丸焦げに変えてしまった。
早い話、フルチンで本当の丸腰だ。
雷化で黒焦げを免れたのは俺の肉体だけで、それ以外、通路のいたるところも熱で焦げていた。
溶けなかったのは船の耐熱温度が高かったおかげだが、それでも生物なら確実に死んでいたほどの熱風だ。
ハイガンは突き出していた剣を降ろし、満足気だった顔がすぐに引き締められた。
「…驚いたな。よくあれを食らって生きていたものだ。何か特別な魔術でも使ったのかね?」
「さて、どうだったかな。俺もここで生活して長いから、熱さには慣れてたおかげかもしれん」
「ふんっ、手の内を明かさんか。魔術師というのもまたケチな生き物だ」
確かにハイガンの驚きようは理解できる。
先程の攻撃は、どんな生物をも焼き殺せる熱風といえるもので、普通の魔術師では防ぎようがないものだった。
一方向を守っても、熱風という性質上、回り込んできて焼かれるため、防ぐには全方位をまんべんなく守る必要がある。
この場でそんなことが出来るのは、風魔術ぐらいなものだが、あの威力を考えると、並の風魔術では簡単に突破してきたはずだ。
そんな攻撃を受けて、服を焼かれた俺はまず防いだとは思われず、くらっていながら耐えたという風に思えなくもない状態だ。
驚愕と警戒を表情に表しているハイガンの気持ちはわからんでもない。
だが、この警戒してハイガンが動きを止めている状況は正に好機。
動くならここしかない。
生憎タブレットは使い物にならないが、ヘイムダルに指示は出せる。
「ヘイムダル!船長権限により、保安機器の使用を許可する!最寄りのを展開させろ!」
『了解しました。保安要綱56条により、保安用火器の使用が承認されました。船長以下、一級以上の乗組員は、直ちに火器を受領してください』
事前に聞いていたキーワードともいえる、この船長権限を使い、ヘイムダルが船の危機を救うための動きを見せ始める。
すぐに、保安機器のある場所が光で示され、空気の抜けるような音を立てて、俺のすぐ後ろにあった小窓のような部分が開放された。
「保安用…かき?何のことだ?」
突如聞こえたヘイムダルの声に、ハイガンが訝しむが、その言葉の正確な意味を理解できないために、ただその場に佇むのみだ。
それもまたいい隙となり、後ろへ大きく飛び退った俺は、冷蔵庫のように開いた小窓から覗いている銃把のようなものを握る。
ヘイムダルが火器というぐらいだし、銃として使うもので間違いないはず。
銃の全身を引き抜くと、現れたのは短めのトンファーと言った感じのものだった。
銃口とトリガーの位置から、使う向きを間違うことはない。
先端をハイガンに向けて、引き金を引く。
このぐらいの距離なら、そうそう外すことも無い。
発射された弾丸は奴の体を食い破ってくれることだろう。
「勝ったな!がはは!くらえぃいいーん!」
「む!?」
―カチカチ
「……あれ?」
しかし、二度三度引き金を引いても、想像していた結果が生まれることはなかった。
思わず聞こえた間抜けな声が、自分の口から洩れたものだと気付くのに一瞬遅れたほどの意外性。
「…ん?」
何か仕掛けてくると、剣を盾に防御態勢をとっていたハイガンも、何も起こらないことで不思議そうな顔で硬直から解放された。
互いの間に何とも言えない空気が横たわるが、追い詰められてからの逆転、そこからさらにまた追い詰められた形の俺は内心、冷や汗だらだらだ。
「何かしようとしたようだが、失敗でもしたのかね?」
「いや、まぁ…その」
あいえー!?なんで?なんで発射しないのー?
まさか、これは銃じゃないのか?
一見銃に見えて、実はドライヤーとかってオチ?
いや、保安用って言っていてドライヤーはないな。
てことは、何か使用のための条件が―
「あ、そっか。安全装置!」
火器と謳うぐらいの代物だ。
安全装置は掛けられていて当然だろう。
手探りで色々と触ってみると、丁度握りこんだ小指の辺りにそれらしい手応えがあった。
それをどうにか動かし、ピロンという音と共に安全装置が解除されたと判断したところで、引き金を引きまくる。
「それ以上妙な真似は―」
とどめのつもりだろう。
俺に熱風が通じないと理解し、確実な手として袈裟がけで斬りかかってきたハイガンに、俺の手にある銃が火を噴いた。
いや、実際火薬は使われていないので火は噴いていないが、あくまでも比喩だ。
銃口から飛び出した何かがハイガンの体にぶち当たり、白い糸が直撃したあたりを中心にぶちまけられた。
「なんだ!?ねば…か、体がっくそ!おい貴様!なにをした!」
ブチャっとした音と共に、ハイガンを包み込んだその白い物体は、どうやら粘性のあるものらしく、仄暗い中で見た感じでは蜘蛛の糸に近いものだろうか。
あるいはトリモチかもしれない。
そんなものに体を覆われ、その余りで床や壁に伸びた分が、ハイガンをその場へ強く拘束している。
もがけばもがくほど体に絡まり、歩くことは勿論、手を動かすことすらできないようだ。
「ふぅ~…紙一重だったか。ヘイムダル、あれはなんだ」
『暴徒鎮圧用に使用される、高い粘度と持続性に優れた拘束弾です。人間大の生物であれば、例外なく効力を発揮させることが出来ます』
「まぁそれは見ればわかるが。危険はないのか?一回くっついたら取れなくなるとか」
『特殊な薬剤で剥離可能です。薬剤は貨物区画12号のコンテナに保管されています』
なるほど、拘束後のこともちゃんとケアは出来ているわけか。
呼吸を阻害しないように気を付ければ、スタンガンなんかよりもよっぽど安全な鎮圧用の武器だ。
「ぎゃぁあああああっ!熱いっ…焼けるっ!」
突然、悲鳴を上げたハイガンに、驚きと焦りを覚える。
ヘイムダルの説明を聞いた限りでは、人体にダメージがあるとは思わなかったが、この苦しみようは尋常ではない。
もしや、何か特殊な効果が発動でもしたのだろうか。
「おいヘイムダル!あいつ苦しんでるぞ!あの粘着物、熱でも出してんのか!?」
『所持している武器から熱が発生しています。拘束した際、肉体と接触する位置に巻き込んだ可能性があります』
「武器―溶岩剣かっ!」
あれはハイガンの持っていた武器が悪い。
何せあれは剣の形をした溶岩だ。
実際に一撃を掠った身から言わせてもらえば、ずっと当てられて火傷程度で済むはずがなく、そう遠くない内に高熱で炙られるのに耐えられず死ぬ。
というか、持ち主の魔力で熱を生み出しているはずなのだが、こうしてハイガンを苦しめているということは、オンオフができないのだろうか。
あるいは、一度熱を持たせた剣は暫く熱いままで、そのせいでああなったということも考えられる。
いずれにしても、使い手に厳しい武器だ。
辺りに漂う、人の焼ける匂いも、大分ひどい。
これはしばらく焼肉は食いたくないな。
できれば生かして捕らえて、色々と吐いてから裁かれて欲しいものだが、こればかりは仕方ない。
剥離剤を取りに行く暇はないし、そもそもそれほどハイガンの命を惜しむ気持ちは俺にはないのだ。
大体の事情はハイガンがバカ丁寧に説明してくれたし。
もっとも、それが嘘だったら話は変わってくるが、あの状況で嘘を吐くほどこいつは高潔な人間に思えない。
いよいよ熱で喉がやられたか、叫び声をあげることも無くなったハイガンの身は徐々に黒ずんでいく。
血液からなにから、あらゆる水分が抜け始めたのだろう。
そんな姿であっても、ハイガンの目は俺を睨みつけている。
眼球からも体液が失われている影響で、黒目が際立って見えるのがまた怖い。
「…おっかねー目だ。ハイガンさんよ、あんたもう分かってると思うが、そろそろ死ぬぞ?大事な船を盗もうとしたんだ。情けはかけないつもりだったんだが、この死に方はあんまりだ。一応、遺言でもあったら聞くだけ聞くが?」
喉をやられてはいるだろうが、辛うじて声を出すぐらいはできるはずだ。
現に今も、掠れたうめき声だけは聞こえているからな。
内容によっては、葬り方なんかも配慮してもいい。
死んだら皆仏ってやつだ。
「…ぉ…」
「ん?なんだって?」
意志を持って出した声を拾い損ね、もう一度尋ねる。
「あの世…で、殺して…やる」
命乞いでもなく、生への執着でもない。
この期に及んで俺への憎悪を口にできるなど、ハイガンも中々骨がある。
まぁもうじき、本当に骨だけになるが。
しかしあの世でも殺すとは、またおもしろいことを言う。
俺は一回死んでも、また死ぬことになるようだ。
その言葉を最後に、体を激しく痙攣させたハイガンは首を大きく仰け反らせた格好で絶命した。
溶岩剣は持ち主が死んでもまだ熱を生み出しているようで、ハイガンの死体は徐々にミイラのような乾きが酷くなっている。
「…多分俺は天国に行くから会えないと思うけど、ま、がんばんな」
死後の世界があるとしたら、まずハイガンは地獄行きだし、俺は日頃の行いがいいから天国行きだろう。
それに俺は寿命まで生きるつもりだから、あっちに旅立つのは当分先のことになる。
今際の際にしては気の長いことを言うハイガンに若干呆れてしまうが、それだけ俺に恨みがあったということか。
スパイってのはどうしてこう、勤勉な奴ばっかりなのかね。
もっと恨みとか憎しみを忘れて、気楽に生きればこんな死に方はしなかったろうに。
まぁそういうことが出来ない不器用さから、スパイが務まるのかもしれないが。
さて、これでひとまずの危機は去ったので、次は後片付けをしなくては。
熱でやられた壁の惨状は、今は手を着けられた無いので明日からだ。
となれば、とりあえずハイガンの死体からなんとかしよう。
死体が焼けて臭いが酷いし、溶岩剣がまだ熱を出したままだ。
まずは危険な物から優先的に処理していく。
ハイガンに纏わりつく粘着物を剥離剤で剥がし、大部分が焦げ尽くした遺体を放って、溶岩剣を回収する。
所持者が死んで魔力が供給されていないはずなのだが、まだまだ高熱を発している溶岩剣。
近付くのも躊躇われるほどの熱さは、不思議なことに柄を握った瞬間、一気に収まっていった。
これは実際に熱が抑えられたのではなく、持ち主を熱から保護する機能が溶岩剣にはあるようで、周りには輻射熱の影響が見て取れるのに、俺は汗一つかかないという、なんとも都合のいい造りをしていた。
だがこれで合点も行った。
あれだけの熱風を放っておきながら、ハイガンが平然としていたのはこのせいだったわけか。
これはもしかしたら、熱に対する防御手段としてだけでもかなり有用かもしれない。
しかしここで疑問が出てくる。
手にするだけで熱に耐性を得るのなら、ハイガンはなんで焼け死んだのだろうか。
その答えは、あの拘束弾にあった。
ヘイムダル曰く、あれに使われている粘性物質の一部には、高温と低温に耐えられるよう、熱を溜め込んで同化する性質があるそうで、あの時は溶岩剣に密着して溜められていく熱が、拘束していたハイガンを焼いたというわけだった。
『船長、現在地の温度が著しく上昇しています。排煙装置を起動しますか?』
おっと、しげしげと見ていた間にも、熱は撒き散らされていたな。
確かに溶岩剣を握るまでは、それなりに熱かった。
「そういうのがあるのか。なら早速やってくれ」
『了解しました』
すぐに天井付近で装置が展開され、辺りの空気が上へと吸い上げられていく。
船内の熱い空気をどこかから排出し、上がった温度を下げようというのだろう。
スプリンクラーでもあればなおよかったが、どうやらないらしい。
俺の方も、溶岩剣の温度を下げるように努力してみる。
魔導器に触るのは初めてだが、なるほど、魔道具を使う感覚で魔力を通してみれば、感覚的に熱の発生をどうにかできるのが、自然と分かってくる。
その感覚に従ってみれば、溶岩剣はとっくにスイッチは切れている状態なのだが、余熱だけは発生し続けている。
余熱だけで人間を焼き殺したのだから、この剣の持つ力はとんでもない。
しかしそうなると、一々使用には余熱に気を配る必要がある、随分と使い勝手の悪い武器ということになる。
そんなものを何の対策もなしに持ち歩けるとは思えない俺は、ふとハイガンの死体にくっついている鞘に目が行く。
鞘の部分と剣の鍔の部分が似たような模様をしていることから、鞘と剣は真に人揃えだと分かる。
そして、これがカギだと思いつく。
すぐに死体から鞘を引き剥がし、それに溶岩剣を納めてみる。
すると、すぐに溶岩剣が発する熱が鞘にかき消されるのが分かった。
『周辺温度が許容値へと戻りました。排煙装置を停止します』
排煙装置が効いたのか、溶岩剣が鞘に収まったからか、あるいはその両方かは分からないが、とにかく熱の方はなんとかなったようだ。
ここに至り、ドッと疲れが襲ってきた俺は、その場に尻もちをつく勢いで座り込む。
眠りにつくところを叩き起こされ、ここまで大急ぎでやってきて、ヤバい状況で一戦を交えるという、一日の最後の最後にとんでもないイベントをこなした。
そりゃあ疲れもするわ。
できればこのまま眠ってしまいたいところだが、アイリーンとメイエルに報告はしたほうがいいだろう。
他国のスパイとはいえ、研究者として招いた人物を殺したのだ。
知らせるのは早いほうがいい。
だが、その前に―
「ヘイムダル、ハイガンと俺のやり取りは録音しているか?」
『はい船長。映像、音声共に記録しています』
「よし、ならいつでも再生できるように…そうだな、タブレットにでも送信しといてくれ」
『了解しました』
これでハイガンの罪状と俺の正当性は明らかに出来る。
後で新しいタブレットを貨物区画で見つけておかなくては。
証拠映像をダウンロードしたタブレットを手に、船を離れて屋敷へと向かう。
道中、屋敷の門に松明の明かりが見え、到着すると門番になにやら指示を出しているマルザンがいた。
「とにかくアンディが帰ってくるまでは状況が読めん。明かりは絶やすな。3番隊を一時的に解体し、1・2番隊に組み入れろ」
どうやら俺が急いで出ていったのを誰かが知って、屋敷の警備を強化させてしまったらしい。
大型の魔物を単独で狩れる魔術師が、夜中に単独で飛び出していったら何かあると思っても不思議ではない。
屋敷には寝ずの番などはいないが、それでも有事に備えて兵士は詰めている。
ここに集まっているのは、そういった人間だろう。
そんな中の一人が、俺の姿に気付いてギョッとした顔を浮かべて、マルザンに耳打ちをすると、マルザンもこちらを向いて、彼もまたギョッとしてから話しかけてきた。
「アンディ、戻ったか。何故急に飛び出していったのか聞きたいところだが、それよりもまず一つ教えてくれ。なぜ、裸なんだ?」
言われて、俺は改めて自分の体を見下ろした。
深夜にフルチンでタブレットを持った男が一人。
字面だけなら言い訳のしようもない、ただの変質者だ。
現代日本のみならず、どの世界でもまず捕まえるべき対象だろう。
「……違うんです。これには事情が。いや、俺は変態じゃないんです。仮に変態だとしても、変態という名の紳士で―」
「マルザンさん!私のところの研究者がいなきゃぁあああああっ!」
『あ』
内心の焦りを隠し、冷静に弁明をしていたところにタイミング悪くメイエルが現れた。
マルザンの影になっていた俺だが、メイエルが近付いてくるとその視線が俺を捉えてしまい、暗闇で松明の明かりに照らされる、股間丸出しの男がいては悲鳴を上げてしまうのも仕方ない。
メイエルの言いかけた言葉には、ハイガンの行方知れずをマルザンに伝えに来たというのが分かる。
実際、ハイガンは密かに船にやってきたようだったしな。
屋敷の警備が強化されたことで、研究者達の代表として部下の現状を把握しに動いた結果、一人いない人間がいたことでマルザンに報告に来たというわけだ。
「なんっなんななんですかこここの人!なんで裸なんですかー!?」
顔を手で覆って、恥ずかしがっているメイエルだが、その指は隙間が空いていて、チラチラと俺の股間を見ている。
このムッツリ娘が。
俺も恥ずかしくないわけがないので、視線から避けるように体をよじる。
本来なら、股間を隠すのにお盆でも欲しいところだ。
「落ち着け、メイエル殿。これはアンディだ。変質者ではない…多分」
「多分って何ですか。俺は変態じゃないですって。仮に変態だとしても」
「それはもういい。さっき聞いた。とにかく、危険な人間ではない。アンディ、とりあえず何か着ろ。それから何があったのか話してくれ」
「わかりました。ちょっと部屋に戻って着替えてきます。…ところでこの騒ぎをアイリーンさんは?」
「無論、知っている。今は執務室で状況の報告を待っておられる。着替えたらそっちに向かってくれ。アイリーン様に直接話されたほうがいいだろう」
まぁこれだけの人間が動いていて、アイリーンだけがスヤスヤというわけがない。
しかし起きているのなら都合はいい。
フルチンから文明人へとドレスアップしたら、ハイガンのことを含めた諸々を報告しに行くとしよう。
「じゃあ失礼しますよ。…メイエルさん、そうジロジロと見ないでくださいよ。恥ずかしいじゃあないですか」
横を通り過ぎようとした際、俺の聖剣に視線が奪われているメイエルにそう言わずにはいられなかった。
年頃の女性に股間をまじまじと見られて平然とはできない。
「いや見てませんけど!?私そんなの見てませんから!」
「にしては顔を覆ってる指の隙間が広いようですけど」
「…これはあれです。学術的なあれで、あれでして」
どれ?
「その…なんていうか、意外とかわいいんですね。男の人のって」
「ぐふぅっっ!」
それはつまり俺のナニは、サイズ的にかわいいということか。
胸に何かが刺さったような気分だ。
いかん、足下が覚束ない。
男に対して、それを言っちゃあおしめぇよ。
よそう、この話はあまり長引かせてはダメージが大きすぎる。
「落ち着け、アンディ」
「マルザンさん?」
フラつきかけた俺に、低音の効いたマルザンの渋い声が背中を支えてくれた。
そうだよ、この場には良識のあるマルザンという人間も―
「男は大きさじゃない。硬さだ」
「あんた急に何言ってんの?」
「若い内は大きさにこだわるもんだが、歳をとってくると硬さが大事だってわかるもんだ。だから、大きさを気にするよりも、まずは技術を磨けばいい。そうすれば自ずと相手の女を喜ばせる時間も―」
「そりゃあんたの今の心境だろうが!というか、今その話をする必要はないでしょう。もういい、俺は部屋に帰らせてもらう」
急に参入してきたマルザンの言葉に呆れながらも、その場を後にして俺は部屋へと向かう。
その際、集まっていた門番達にも微妙な顔をされたのが尚苦しかった。
雷化はメリットは大きいが、服を無くすのは結構デメリットもでかいと、改めて知った瞬間だった。
魔力を使って様々な効果を発揮する道具を総じて魔道具というが、その中で特に構造の解析が困難で、複製がまず不可能なほどに未知で高度なものを指して魔導器と呼ばれている。
あえて分類するなら、地球基準で言うところの機械的な仕組みが多用されているのが魔道具、儀式や超自然の法則を封じ込めたのが魔導器といえるだろう。
魔道具が便利な道具、魔導器は強力な武器という認識が一般的だ。
古来より、魔剣や聖剣といった、伝承における英雄達が振るった武器こそが魔導器だったというのが、歴史を研究する人間にとっての通説となっている。
現代の魔道具職人が複製できる魔道具に対し、魔導器は仕組みや製造方法があまりにも特殊であるため、せいぜい劣化したものぐらいしか作れない。
そのため、強力な威力を発揮する魔導器を手に入れるには、ジャンル的に古代魔導文明と呼ばれる系統の遺跡で発掘するしか手に入らないので、非常に貴重な品だ。
正直、効果の減衰していない魔剣なら、一本でも国に献上すれば即爵位が貰えるほどだ。
ものによっては飛空艇と交換してもお釣りがくる。
敢えて戦闘力を計るなら、武装した兵士を1として、魔導器を持った人間は100と見てもいい。
分かりやすく例えるなら、初期のヤジ〇ベーとラディ〇ツぐらいの差があるわけだ。
それぐらい貴重で強力な武器を、ハイガンが手にしているということのに恐ろしさたるや。
丸腰で対峙している俺は、はたから見れば自殺志願者としか思われないだろう。
「ふっ!」
「あーらよっとぉー!」
裂帛の声と共に、俺の頭を狙って振り下ろされた剣を、体を捩じらせるようにして大きく躱す。
暗闇の中では視認しずらい黒い剣身ではあるが、幸運なことにハイガンの剣の腕は素人ではないが達人でもないおかげで、来ると分かっていれば凡その軌跡は予想できる。
ただし、正確な軌跡までは分からないため、自然と回避動作は大振りになり、カウンターを決め辛いという難点はある。
「はぁっ!…意外と躱すのが上手い。聞けば魔術師だそうだが、撃ってこないのかね?」
横薙ぎの一撃をしゃがんで躱し、そのまま後転の要領で下がった俺に、ハイガンのイラついた声が投げかけられた。
なお、その際に折れている肋骨が激しく痛んだが、情けない叫び声は我慢できた俺は偉い子。
「…挑発には乗らない。魔導器は魔術での攻撃を吸収できることぐらい知ってるぞ」
「ほう、よく知っていたな。偉いねぇ~」
心底バカにした声で言われて、俺は先程自分に送った称賛を撤回したくなった。
魔導器には所持者に向けて放たれた魔術を吸収して、自分のエネルギーとして再利用する性質がある。
魔術的な効果を発生させる武器であると同時に、向けられた魔術での攻撃を吸収して防ぐという、魔術師殺しとも言っていいほどの凶悪なものだ。
以前、似たような特性の鎧を持つ人間もいたが、こちらの方が遥かに効果は高い。
剣で戦う人間の天敵は遠距離から攻撃してくる弓や魔術だが、特に強力である魔術師からの攻撃を防げるとあれば、使い手にとっては実に頼もしいことだろう。
そんなわけで、製圧力に長けた電撃は使えず、質量のある攻撃に使える水や土は船内にはないため、攻め手に欠いている状態で回避を強いられているわけだ。
「ヘイムダル、ハイガンと俺の間に隔壁を降ろして遮断できないか?」
多少距離がある今の内に、タブレット越しでヘイムダルに指示を出す。
ハイガンを倒すのが一番いいが、ここを切り抜けて人を呼びに行くのも手ではある。
もしくは装備を整えに戻るかだ。
『了解しました。船体後部へあと7メートル後退してください。その位置にある隔壁であれば、ご希望に沿えます』
それじゃあだめだ。
7メートルも後退したら、それだけ隙をハイガンに晒すことになる。
奴ならそこを確実についてくるだろう。
「遠すぎる。最寄りのは?」
『ハイガン様の後方1メートルの位置にあります』
「ちっ、戻れるかよ」
ぬぅ、この指示はもう少し早く出すべきだったか。
どうにもタイミングがまずかった。
こうなると、ヘイムダル号の船内に制圧用の対人兵器が備え付けられていなかったのが痛いな。
それがあれば、俺がここに来る前にヘイムダルが自己判断でハイガンを戦闘不能にしていたというのに。
……いや、待てよ?そう言えば船内に保安用の武器が各所にあるっつってたな。
貨物区画にある分はチェックしてたが、他の船内に備え付けの分は調べていなかった。
もしかしたら、近場にあったりしないだろうか?
「ヘイムダル、保安用の武器は近くにあるか?」
『あります』
「よし!どこだ?」
『左手側後方2メートルの位置にあります』
…微妙だな。
近いと言えば近いが、2メートルもあれば剣で切りかかられるには十分だ。
だが他に武器はないし、それにかけるしかないか。
「さて、そろそろこの戦いも終わりにしたいものだ。この後も私はやることがあるんでね」
自分が優位に立っていると理解しているハイガンは、余裕の態度で話しかけてくる。
実際、魔導器と丸腰の魔術師の対峙だ。
どちらに分があるのかは考えるまでも無い。
「最後に面白いものを見せてやろう。溶岩剣は本来の力を失ったとはいえ、まだ……こういうこともできるのだよ!」
そう言い、剣を持った手を後ろへ大きく下げ、刺突の形で切先を俺へと突き出してきた。
次の瞬間、黒一色だった剣身にはひび割れるように赤い光が走り、それが先端へと移動するや否や、強烈な熱風を発生させる。
「あっつっ!こりゃやべぇ!」
目には見えずとも、すぐに肌に感じた強烈な熱に、俺は全身を雷化させた。
膨張した空気は雷と化した体をかき消す勢いで通り過ぎ、その際、衣服やタブレットを一瞬で丸焦げに変えてしまった。
早い話、フルチンで本当の丸腰だ。
雷化で黒焦げを免れたのは俺の肉体だけで、それ以外、通路のいたるところも熱で焦げていた。
溶けなかったのは船の耐熱温度が高かったおかげだが、それでも生物なら確実に死んでいたほどの熱風だ。
ハイガンは突き出していた剣を降ろし、満足気だった顔がすぐに引き締められた。
「…驚いたな。よくあれを食らって生きていたものだ。何か特別な魔術でも使ったのかね?」
「さて、どうだったかな。俺もここで生活して長いから、熱さには慣れてたおかげかもしれん」
「ふんっ、手の内を明かさんか。魔術師というのもまたケチな生き物だ」
確かにハイガンの驚きようは理解できる。
先程の攻撃は、どんな生物をも焼き殺せる熱風といえるもので、普通の魔術師では防ぎようがないものだった。
一方向を守っても、熱風という性質上、回り込んできて焼かれるため、防ぐには全方位をまんべんなく守る必要がある。
この場でそんなことが出来るのは、風魔術ぐらいなものだが、あの威力を考えると、並の風魔術では簡単に突破してきたはずだ。
そんな攻撃を受けて、服を焼かれた俺はまず防いだとは思われず、くらっていながら耐えたという風に思えなくもない状態だ。
驚愕と警戒を表情に表しているハイガンの気持ちはわからんでもない。
だが、この警戒してハイガンが動きを止めている状況は正に好機。
動くならここしかない。
生憎タブレットは使い物にならないが、ヘイムダルに指示は出せる。
「ヘイムダル!船長権限により、保安機器の使用を許可する!最寄りのを展開させろ!」
『了解しました。保安要綱56条により、保安用火器の使用が承認されました。船長以下、一級以上の乗組員は、直ちに火器を受領してください』
事前に聞いていたキーワードともいえる、この船長権限を使い、ヘイムダルが船の危機を救うための動きを見せ始める。
すぐに、保安機器のある場所が光で示され、空気の抜けるような音を立てて、俺のすぐ後ろにあった小窓のような部分が開放された。
「保安用…かき?何のことだ?」
突如聞こえたヘイムダルの声に、ハイガンが訝しむが、その言葉の正確な意味を理解できないために、ただその場に佇むのみだ。
それもまたいい隙となり、後ろへ大きく飛び退った俺は、冷蔵庫のように開いた小窓から覗いている銃把のようなものを握る。
ヘイムダルが火器というぐらいだし、銃として使うもので間違いないはず。
銃の全身を引き抜くと、現れたのは短めのトンファーと言った感じのものだった。
銃口とトリガーの位置から、使う向きを間違うことはない。
先端をハイガンに向けて、引き金を引く。
このぐらいの距離なら、そうそう外すことも無い。
発射された弾丸は奴の体を食い破ってくれることだろう。
「勝ったな!がはは!くらえぃいいーん!」
「む!?」
―カチカチ
「……あれ?」
しかし、二度三度引き金を引いても、想像していた結果が生まれることはなかった。
思わず聞こえた間抜けな声が、自分の口から洩れたものだと気付くのに一瞬遅れたほどの意外性。
「…ん?」
何か仕掛けてくると、剣を盾に防御態勢をとっていたハイガンも、何も起こらないことで不思議そうな顔で硬直から解放された。
互いの間に何とも言えない空気が横たわるが、追い詰められてからの逆転、そこからさらにまた追い詰められた形の俺は内心、冷や汗だらだらだ。
「何かしようとしたようだが、失敗でもしたのかね?」
「いや、まぁ…その」
あいえー!?なんで?なんで発射しないのー?
まさか、これは銃じゃないのか?
一見銃に見えて、実はドライヤーとかってオチ?
いや、保安用って言っていてドライヤーはないな。
てことは、何か使用のための条件が―
「あ、そっか。安全装置!」
火器と謳うぐらいの代物だ。
安全装置は掛けられていて当然だろう。
手探りで色々と触ってみると、丁度握りこんだ小指の辺りにそれらしい手応えがあった。
それをどうにか動かし、ピロンという音と共に安全装置が解除されたと判断したところで、引き金を引きまくる。
「それ以上妙な真似は―」
とどめのつもりだろう。
俺に熱風が通じないと理解し、確実な手として袈裟がけで斬りかかってきたハイガンに、俺の手にある銃が火を噴いた。
いや、実際火薬は使われていないので火は噴いていないが、あくまでも比喩だ。
銃口から飛び出した何かがハイガンの体にぶち当たり、白い糸が直撃したあたりを中心にぶちまけられた。
「なんだ!?ねば…か、体がっくそ!おい貴様!なにをした!」
ブチャっとした音と共に、ハイガンを包み込んだその白い物体は、どうやら粘性のあるものらしく、仄暗い中で見た感じでは蜘蛛の糸に近いものだろうか。
あるいはトリモチかもしれない。
そんなものに体を覆われ、その余りで床や壁に伸びた分が、ハイガンをその場へ強く拘束している。
もがけばもがくほど体に絡まり、歩くことは勿論、手を動かすことすらできないようだ。
「ふぅ~…紙一重だったか。ヘイムダル、あれはなんだ」
『暴徒鎮圧用に使用される、高い粘度と持続性に優れた拘束弾です。人間大の生物であれば、例外なく効力を発揮させることが出来ます』
「まぁそれは見ればわかるが。危険はないのか?一回くっついたら取れなくなるとか」
『特殊な薬剤で剥離可能です。薬剤は貨物区画12号のコンテナに保管されています』
なるほど、拘束後のこともちゃんとケアは出来ているわけか。
呼吸を阻害しないように気を付ければ、スタンガンなんかよりもよっぽど安全な鎮圧用の武器だ。
「ぎゃぁあああああっ!熱いっ…焼けるっ!」
突然、悲鳴を上げたハイガンに、驚きと焦りを覚える。
ヘイムダルの説明を聞いた限りでは、人体にダメージがあるとは思わなかったが、この苦しみようは尋常ではない。
もしや、何か特殊な効果が発動でもしたのだろうか。
「おいヘイムダル!あいつ苦しんでるぞ!あの粘着物、熱でも出してんのか!?」
『所持している武器から熱が発生しています。拘束した際、肉体と接触する位置に巻き込んだ可能性があります』
「武器―溶岩剣かっ!」
あれはハイガンの持っていた武器が悪い。
何せあれは剣の形をした溶岩だ。
実際に一撃を掠った身から言わせてもらえば、ずっと当てられて火傷程度で済むはずがなく、そう遠くない内に高熱で炙られるのに耐えられず死ぬ。
というか、持ち主の魔力で熱を生み出しているはずなのだが、こうしてハイガンを苦しめているということは、オンオフができないのだろうか。
あるいは、一度熱を持たせた剣は暫く熱いままで、そのせいでああなったということも考えられる。
いずれにしても、使い手に厳しい武器だ。
辺りに漂う、人の焼ける匂いも、大分ひどい。
これはしばらく焼肉は食いたくないな。
できれば生かして捕らえて、色々と吐いてから裁かれて欲しいものだが、こればかりは仕方ない。
剥離剤を取りに行く暇はないし、そもそもそれほどハイガンの命を惜しむ気持ちは俺にはないのだ。
大体の事情はハイガンがバカ丁寧に説明してくれたし。
もっとも、それが嘘だったら話は変わってくるが、あの状況で嘘を吐くほどこいつは高潔な人間に思えない。
いよいよ熱で喉がやられたか、叫び声をあげることも無くなったハイガンの身は徐々に黒ずんでいく。
血液からなにから、あらゆる水分が抜け始めたのだろう。
そんな姿であっても、ハイガンの目は俺を睨みつけている。
眼球からも体液が失われている影響で、黒目が際立って見えるのがまた怖い。
「…おっかねー目だ。ハイガンさんよ、あんたもう分かってると思うが、そろそろ死ぬぞ?大事な船を盗もうとしたんだ。情けはかけないつもりだったんだが、この死に方はあんまりだ。一応、遺言でもあったら聞くだけ聞くが?」
喉をやられてはいるだろうが、辛うじて声を出すぐらいはできるはずだ。
現に今も、掠れたうめき声だけは聞こえているからな。
内容によっては、葬り方なんかも配慮してもいい。
死んだら皆仏ってやつだ。
「…ぉ…」
「ん?なんだって?」
意志を持って出した声を拾い損ね、もう一度尋ねる。
「あの世…で、殺して…やる」
命乞いでもなく、生への執着でもない。
この期に及んで俺への憎悪を口にできるなど、ハイガンも中々骨がある。
まぁもうじき、本当に骨だけになるが。
しかしあの世でも殺すとは、またおもしろいことを言う。
俺は一回死んでも、また死ぬことになるようだ。
その言葉を最後に、体を激しく痙攣させたハイガンは首を大きく仰け反らせた格好で絶命した。
溶岩剣は持ち主が死んでもまだ熱を生み出しているようで、ハイガンの死体は徐々にミイラのような乾きが酷くなっている。
「…多分俺は天国に行くから会えないと思うけど、ま、がんばんな」
死後の世界があるとしたら、まずハイガンは地獄行きだし、俺は日頃の行いがいいから天国行きだろう。
それに俺は寿命まで生きるつもりだから、あっちに旅立つのは当分先のことになる。
今際の際にしては気の長いことを言うハイガンに若干呆れてしまうが、それだけ俺に恨みがあったということか。
スパイってのはどうしてこう、勤勉な奴ばっかりなのかね。
もっと恨みとか憎しみを忘れて、気楽に生きればこんな死に方はしなかったろうに。
まぁそういうことが出来ない不器用さから、スパイが務まるのかもしれないが。
さて、これでひとまずの危機は去ったので、次は後片付けをしなくては。
熱でやられた壁の惨状は、今は手を着けられた無いので明日からだ。
となれば、とりあえずハイガンの死体からなんとかしよう。
死体が焼けて臭いが酷いし、溶岩剣がまだ熱を出したままだ。
まずは危険な物から優先的に処理していく。
ハイガンに纏わりつく粘着物を剥離剤で剥がし、大部分が焦げ尽くした遺体を放って、溶岩剣を回収する。
所持者が死んで魔力が供給されていないはずなのだが、まだまだ高熱を発している溶岩剣。
近付くのも躊躇われるほどの熱さは、不思議なことに柄を握った瞬間、一気に収まっていった。
これは実際に熱が抑えられたのではなく、持ち主を熱から保護する機能が溶岩剣にはあるようで、周りには輻射熱の影響が見て取れるのに、俺は汗一つかかないという、なんとも都合のいい造りをしていた。
だがこれで合点も行った。
あれだけの熱風を放っておきながら、ハイガンが平然としていたのはこのせいだったわけか。
これはもしかしたら、熱に対する防御手段としてだけでもかなり有用かもしれない。
しかしここで疑問が出てくる。
手にするだけで熱に耐性を得るのなら、ハイガンはなんで焼け死んだのだろうか。
その答えは、あの拘束弾にあった。
ヘイムダル曰く、あれに使われている粘性物質の一部には、高温と低温に耐えられるよう、熱を溜め込んで同化する性質があるそうで、あの時は溶岩剣に密着して溜められていく熱が、拘束していたハイガンを焼いたというわけだった。
『船長、現在地の温度が著しく上昇しています。排煙装置を起動しますか?』
おっと、しげしげと見ていた間にも、熱は撒き散らされていたな。
確かに溶岩剣を握るまでは、それなりに熱かった。
「そういうのがあるのか。なら早速やってくれ」
『了解しました』
すぐに天井付近で装置が展開され、辺りの空気が上へと吸い上げられていく。
船内の熱い空気をどこかから排出し、上がった温度を下げようというのだろう。
スプリンクラーでもあればなおよかったが、どうやらないらしい。
俺の方も、溶岩剣の温度を下げるように努力してみる。
魔導器に触るのは初めてだが、なるほど、魔道具を使う感覚で魔力を通してみれば、感覚的に熱の発生をどうにかできるのが、自然と分かってくる。
その感覚に従ってみれば、溶岩剣はとっくにスイッチは切れている状態なのだが、余熱だけは発生し続けている。
余熱だけで人間を焼き殺したのだから、この剣の持つ力はとんでもない。
しかしそうなると、一々使用には余熱に気を配る必要がある、随分と使い勝手の悪い武器ということになる。
そんなものを何の対策もなしに持ち歩けるとは思えない俺は、ふとハイガンの死体にくっついている鞘に目が行く。
鞘の部分と剣の鍔の部分が似たような模様をしていることから、鞘と剣は真に人揃えだと分かる。
そして、これがカギだと思いつく。
すぐに死体から鞘を引き剥がし、それに溶岩剣を納めてみる。
すると、すぐに溶岩剣が発する熱が鞘にかき消されるのが分かった。
『周辺温度が許容値へと戻りました。排煙装置を停止します』
排煙装置が効いたのか、溶岩剣が鞘に収まったからか、あるいはその両方かは分からないが、とにかく熱の方はなんとかなったようだ。
ここに至り、ドッと疲れが襲ってきた俺は、その場に尻もちをつく勢いで座り込む。
眠りにつくところを叩き起こされ、ここまで大急ぎでやってきて、ヤバい状況で一戦を交えるという、一日の最後の最後にとんでもないイベントをこなした。
そりゃあ疲れもするわ。
できればこのまま眠ってしまいたいところだが、アイリーンとメイエルに報告はしたほうがいいだろう。
他国のスパイとはいえ、研究者として招いた人物を殺したのだ。
知らせるのは早いほうがいい。
だが、その前に―
「ヘイムダル、ハイガンと俺のやり取りは録音しているか?」
『はい船長。映像、音声共に記録しています』
「よし、ならいつでも再生できるように…そうだな、タブレットにでも送信しといてくれ」
『了解しました』
これでハイガンの罪状と俺の正当性は明らかに出来る。
後で新しいタブレットを貨物区画で見つけておかなくては。
証拠映像をダウンロードしたタブレットを手に、船を離れて屋敷へと向かう。
道中、屋敷の門に松明の明かりが見え、到着すると門番になにやら指示を出しているマルザンがいた。
「とにかくアンディが帰ってくるまでは状況が読めん。明かりは絶やすな。3番隊を一時的に解体し、1・2番隊に組み入れろ」
どうやら俺が急いで出ていったのを誰かが知って、屋敷の警備を強化させてしまったらしい。
大型の魔物を単独で狩れる魔術師が、夜中に単独で飛び出していったら何かあると思っても不思議ではない。
屋敷には寝ずの番などはいないが、それでも有事に備えて兵士は詰めている。
ここに集まっているのは、そういった人間だろう。
そんな中の一人が、俺の姿に気付いてギョッとした顔を浮かべて、マルザンに耳打ちをすると、マルザンもこちらを向いて、彼もまたギョッとしてから話しかけてきた。
「アンディ、戻ったか。何故急に飛び出していったのか聞きたいところだが、それよりもまず一つ教えてくれ。なぜ、裸なんだ?」
言われて、俺は改めて自分の体を見下ろした。
深夜にフルチンでタブレットを持った男が一人。
字面だけなら言い訳のしようもない、ただの変質者だ。
現代日本のみならず、どの世界でもまず捕まえるべき対象だろう。
「……違うんです。これには事情が。いや、俺は変態じゃないんです。仮に変態だとしても、変態という名の紳士で―」
「マルザンさん!私のところの研究者がいなきゃぁあああああっ!」
『あ』
内心の焦りを隠し、冷静に弁明をしていたところにタイミング悪くメイエルが現れた。
マルザンの影になっていた俺だが、メイエルが近付いてくるとその視線が俺を捉えてしまい、暗闇で松明の明かりに照らされる、股間丸出しの男がいては悲鳴を上げてしまうのも仕方ない。
メイエルの言いかけた言葉には、ハイガンの行方知れずをマルザンに伝えに来たというのが分かる。
実際、ハイガンは密かに船にやってきたようだったしな。
屋敷の警備が強化されたことで、研究者達の代表として部下の現状を把握しに動いた結果、一人いない人間がいたことでマルザンに報告に来たというわけだ。
「なんっなんななんですかこここの人!なんで裸なんですかー!?」
顔を手で覆って、恥ずかしがっているメイエルだが、その指は隙間が空いていて、チラチラと俺の股間を見ている。
このムッツリ娘が。
俺も恥ずかしくないわけがないので、視線から避けるように体をよじる。
本来なら、股間を隠すのにお盆でも欲しいところだ。
「落ち着け、メイエル殿。これはアンディだ。変質者ではない…多分」
「多分って何ですか。俺は変態じゃないですって。仮に変態だとしても」
「それはもういい。さっき聞いた。とにかく、危険な人間ではない。アンディ、とりあえず何か着ろ。それから何があったのか話してくれ」
「わかりました。ちょっと部屋に戻って着替えてきます。…ところでこの騒ぎをアイリーンさんは?」
「無論、知っている。今は執務室で状況の報告を待っておられる。着替えたらそっちに向かってくれ。アイリーン様に直接話されたほうがいいだろう」
まぁこれだけの人間が動いていて、アイリーンだけがスヤスヤというわけがない。
しかし起きているのなら都合はいい。
フルチンから文明人へとドレスアップしたら、ハイガンのことを含めた諸々を報告しに行くとしよう。
「じゃあ失礼しますよ。…メイエルさん、そうジロジロと見ないでくださいよ。恥ずかしいじゃあないですか」
横を通り過ぎようとした際、俺の聖剣に視線が奪われているメイエルにそう言わずにはいられなかった。
年頃の女性に股間をまじまじと見られて平然とはできない。
「いや見てませんけど!?私そんなの見てませんから!」
「にしては顔を覆ってる指の隙間が広いようですけど」
「…これはあれです。学術的なあれで、あれでして」
どれ?
「その…なんていうか、意外とかわいいんですね。男の人のって」
「ぐふぅっっ!」
それはつまり俺のナニは、サイズ的にかわいいということか。
胸に何かが刺さったような気分だ。
いかん、足下が覚束ない。
男に対して、それを言っちゃあおしめぇよ。
よそう、この話はあまり長引かせてはダメージが大きすぎる。
「落ち着け、アンディ」
「マルザンさん?」
フラつきかけた俺に、低音の効いたマルザンの渋い声が背中を支えてくれた。
そうだよ、この場には良識のあるマルザンという人間も―
「男は大きさじゃない。硬さだ」
「あんた急に何言ってんの?」
「若い内は大きさにこだわるもんだが、歳をとってくると硬さが大事だってわかるもんだ。だから、大きさを気にするよりも、まずは技術を磨けばいい。そうすれば自ずと相手の女を喜ばせる時間も―」
「そりゃあんたの今の心境だろうが!というか、今その話をする必要はないでしょう。もういい、俺は部屋に帰らせてもらう」
急に参入してきたマルザンの言葉に呆れながらも、その場を後にして俺は部屋へと向かう。
その際、集まっていた門番達にも微妙な顔をされたのが尚苦しかった。
雷化はメリットは大きいが、服を無くすのは結構デメリットもでかいと、改めて知った瞬間だった。
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