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海は広いな大きいな

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海底の探索を始めて十日ほど経った。
基点と定めた島から半径約一キロを一通り探し回ったが、流石、海は広いな大きいなというもので、遺跡のいの字も見つからない。

初日に流した浮き球によって、島の周りを流れる海流も多少把握することはできたが、やはり専門家ではない俺達には海流から遺跡の場所を割り出すなどということはできず、収穫らしい収穫と言えば、波が急激な変化を起こす海流の吹き溜まりのような場所を突き止めたぐらいだ。

当然、そこも調査はしたが、遺跡は存在せず。
変わりに、自然が作り出す芸術品のようなものを目にすることはできた。
サンゴが集まって巨大な壁のようになっているものや、波や海流によって海底の砂が複雑な模様を描いたものなど、自然が手掛けた作品には、人の手が加わっていないがゆえの引き込まれるような魅力が秘められている。

俺もパーラもそれを見て暫く呆気に取られてしまったほどで、持ち帰って好事家に売ればいい金になるんじゃないかと思ったが、これらの自然の造形物はそこにあるから美しいのであって、ここから持ち出しては作品としては死んでしまうと考え、俺達だけの心の絵としてそっと仕舞い込むことにした。

ちなみに、初日に遭遇した巨大生物は、あれ以降一切姿を見ることが無く、それらしい痕跡もないことから、突発的な遭遇だったと今は思っている。
ただ、それとは別に魚タイプの魔物には何度か飛空艇が襲撃されているのだが、装甲に傷一つ付けられずに去っていくので、今の所脅威を感じる場面はない。

そんな感じで調査というか観光というか、海底を彷徨って十日も経つ今日この頃、俺とパーラは探索にも流石に飽き始めていた。

「ふぁ~…あっふ。しっかし、遺跡の手がかりもまったく見つからんな」

今日も海に潜って遺跡を探していて、これまでの探索済みの区域から離れたところまで足を延ばしているところだが、相変わらず暗い海中でサーチライトだけを頼りに探していると欠伸もでるというものだ。
もちろんダラけて痕跡を見過ごすといったことはしていないつもりだが、それでも気怠い空気だけはどうしようもない。

「掴まされたんじゃない?大体海底に遺跡があるなんて、誰から教えてもらったのさ。私達以外で、こんなとこ来れる人いないのに」

「ま、確かに不安だろうがな、一応情報源はちゃんとしたとこだ。少なくともニセのネタを掴まされたわけじゃないから、安心しろ」

操縦席の隣に増設したサブシートに座るパーラが呆れた声でそう言う。
確かに海底を探せる人間というのが限られていると思われる今、俺の情報源を疑うのは当然のことだ。
だが未だ明かせないそのネタ元に関しては確かな筋ではあるので、濁した言い方しかできないのは許して欲しい。

「だといいけど。じゃあ予定通り、探索範囲を広げるとして、まずはどこに向かうの?」

当初の予定でも、簡単に見つかるとは考えておらず、凡そ七日ほどを目安に探索範囲の拡大はパーラにも伝えていた。
まぁ探索範囲の拡大を決めるのが少々遅いと思うが、これもこの辺りの海がきれいすぎるのが悪いのだ。

「そうだな…前に見た三角の岩があったろ。あのちょっと浅くなってるところの」

「あぁ、はいはいあれね。分かるよ」

海底を探索していた時に見つけたのだが、岩が綺麗な三角形を象って、さながらピラミッドのようになっていた場所があったのだ。
丁度あの辺りを境目にして南側は未開拓であるため、まずは分かりやすい目印としてそこを目指してみよう。

「あそこから少し南に行こう。そうだな…三角の岩を基点にして、500メートルの長さで扇状を探索範囲とするか」

「うん、いいんじゃない?あっちの方はまだ手付かずだったし、それぐらいの範囲なら三日もかかんないでしょ」

というわけで、パーラの合意も得られたので、早速俺達は目印となる三角岩を目指した。
一旦海中から出て、しばらく空を飛んでから凡その目安で再び海中へと入り、しばらく動き回って目当ての場所へと到着できた。

前に見た時も思ったが、改めて見るとこの岩はとても自然に出来たとは思えないほどに綺麗な三角錐をしている。
もしかしたらこれも古代文明の何かによってつくられた可能性もなくはないが、ざっと見た感じでは本当にただの岩でしかないため、せいぜいが古代のランドマーク程度だろう。
何か特別な施設というのではなさそうだ。

とはいえ、これが古代文明の痕跡だとするなら、この辺りに俺達の求める遺跡があるのも十分あり得そうだ。
実は密かにこの辺りが怪しいとは睨んでいたのだが、何せ当初の捜索範囲からは多少外れていたため、後回しにしていたのだ。
だが今になると、もっと早くにこの周囲を探しておくべきだったかとも思ってしまう。
それぐらいにここのところ手掛かりがなかった。

「さて、じゃあこの三角岩から南に探索だね。アンディ、明かりの角度はどう?もうちょっと浅めで絞る?」

「いや、角度はこのままでいいがもう少し拡散させろ。なるべく広い範囲を一気に見たい」

「了解…っと。こんなもん?」

「ああ、それぐらいでいい」

ここのところの探索でパーラはサーチライトの使い方に慣れており、こちらの意図を正確に汲んだ明かりを前面に投射してくれた。
投射範囲を狭くすると強い光による詳しい探索が出来るが、初めてやって来たこの辺りの探索では、まず広い範囲をざっと見て回りたい。
そのため、多少明るさは減るが、飛空艇の前面にかなりの広さを照らせるこのやり方が今はベターだ。

現在の深度は凡そ100メートルほど、すぐ先も覚束ない暗闇を裂くようにして現れたサーチライトの明かりは、先客であった魚達を驚かせてしまい、飛空艇の前を魚群がサーっと横切っていく。
光に照らされた海底は、飛空艇の前方、つまり南西側へと向けてややなだらかな傾斜となっており、特段異様な地形ということもなく、感覚の広い砂紋以外はこれといって特筆すべきものは―

「アンディ、あそこ見て。なんかあるよ」

そんなことを考えていた矢先、横合いからパーラの手が伸びてきて、右前方へと指が向けられた。
指差された方向へと顔を向けると、光が届くか届かないかの微妙な境界線の辺りに、何やら半ば砂に埋もれた物体が影として見られた。

正体を確かめるべく飛空艇をそちらへと向けて動かし、ライトの明かりを絞ってみると、砂地からひょっこりと顔を出している物体の一部の様子がよく見える。
直径1メートル弱の円錐を縦にぶった切って横倒しにしたようなそれは、恐らく砂に埋もれた円柱状の物体の1部ではないかと推測した。

素材は恐らく鉄。
石ではないことは確かだが、如何せん直接触っていない以上は外観上の質感からしか得られる情報はないのだ。

そして、少し先にも同様の素材、同様の形状をしたものが横倒しになって三分の一ほどを砂に埋めた状態で見られ、その様子から円柱という推測も裏付けが取れた。

「なんだろう、これ。柱、だよね?」

「いや、今は柱っぽい何かってとこだろうな。こんな海底に柱だけがあるってのは流石に不自然だ」

突如海底に姿を現した人工物に、疑問の声を上げるパーラ。
俺も柱というその見立てには同意したいところではあるが、これが古代文明の遺跡の一部だとするなら、そうだと決めつけるにはまだ早いだろう。
古代文明は今よりもずっと高度なものだ。
もしかしたらこれも何かの機構の一部といのも考えられる。

「そう?私にはそれ以外には見えないけど。でもこれでこの辺りに遺跡がある可能性が高くなってきたね」

「ああ。こんなもん、自然に出来上がるわけがないからな。とりあえず、そこらに散らばってる柱状の物体の分布を見て、向かう方角を決めよう。パーラ、ライトを戻してくれ」

「分かった」

再びサーチライトが広範囲を照らす状態となり、目の前の物体とその先に見られる同種の物体を辿ったその先にあると思われる遺跡へと進路を向ける。
俺達の求める遺跡は海中に沈んでいるため、この手掛かりとなる円柱こそが遺跡へと導いてくれる手掛かりとなるはずだ。

移動を開始して暫くすると、海底に沈む人工物の数も増えてきた。
これはいよいよもってこの先に遺跡があるとしか思えない。
徐々に頭が興奮を覚えてきて、鼻息も荒いものとなってきた頃、ついに俺達の目の前に探していた物が姿を見せた。

深度1400メートル、地球の潜水艦の潜航深度を優に超えるこの深さは、この飛空艇だからこそ到達できたものだ。
この点からも、古代文明が地球のものよりも遥かに高度な物だったと分かる。

加えて、今乗っているのはあくまでも飛空艇であり、本来の用途ではない潜水でここまでこれたのだ。
汎用性を追求していると言われればそれまでだが、古代文明には正しく潜水艦として作られたものも存在するだろうから、そっちになれば一体どこまで潜れるのかと少しだけワクワクしてしまう。

さて、そんな深海で南西へ向かう傾斜の途中に突如現れた棘のような物体。
大きな力によって拉げ、捻じ曲げられたビルのようなものと形容できるそれは、まさに古代文明の遺跡だといっていいものだろう。
元々の形状を推し量るには損傷が激しく、特に高熱で溶断されたような跡が一直線に走っている個所は、そこから魚達が出入りしているぐらいに、派手な裂け目となっている。

大半は砂に埋もれているようだが、露出している部分だけでも相当な大きさで、全体では一体どれほどの巨大な物体となるのか。
恐らく最初にこの場所に遺跡が落ちてきて、その後に長い年月をかけて遺跡の周りに砂が堆積していった結果が、この砂に埋もれたような形となっているではないだろうか。

「すごく大きいね…。これってソーマルガ号よりも大きいんじゃない?」

サーチライトで照らされたその巨大な遺跡に、パーラは呆けた顔でそう呟く。
俺に同意を求めたものではなく、つい漏れたことばだっただろうが、それには俺も同意として頷きを示す。
ざっと見た感じでは、突き出ている部分だけでも長さは300メートルほどはあろうかというほど。
見えていない部分を含めれば500メートルはあるかもしれないし、壊れていなければもっと大きかった可能性も考えられる。

「ああ、それは間違いない。ちょっとした島が沈んだって感じだな」

そう言いながら辺りを見回してみると、そこらには数多くの八角形の薄い板が砂地に突き刺さっていた。
薄い板とは言うが、それはこの遺跡に準じた大きさを誇っており、一番長い対角線で50メートルはくだらないものだ。
俺達の飛空艇よりもやや大きいと思われるそれが、辺りには無数に散らばっている。

恐らくだが、これらは元々全てが一繋ぎとなって巨大なプレート状をなしていたのではないだろうか。
所謂メガフロートというやつだ。
古代文明のあった時代、大規模な地殻変動があったことはわかっているが、てっきりこの遺跡もそれによって沈んだ島のものだと思っていた。

だがこうしてプレートの残骸を見てみると、海洋に常時浮かぶメガフロートだったものが、何らかの原因で沈没したと考えられる痕跡があちらこちらに見られる。
その何らかの原因についてだが、俺の見立てでは強力な兵器による攻撃で、メガフロートを支えていた基盤部分に当たるプレートと、あの途中に見つけた円柱状の物体が破壊され、浮力を保てなくなって沈んだのではないだろうか。

なにせ、そこらにあるメガフロートの一部だったと思われる部品の悉くに、強力な衝撃や高温に晒されたような破損が見受けられるのだ。
よっぽどの自然の脅威でもない限り、人の手による攻撃だったと考えるのが自然だ。

あの精霊の言葉通りなら、これは山に穴を空ける超兵器があったとされる基地的な物だったと考えられる。
それだけの高出力兵器、しかも惑星の丸みに沿ってあの山まで届かせる軌道を描かせることが出来た高度な仕組みは、地球に存在するどの兵器よりもずっと先を行っている性能だと言える。
さながら、SF映画に出てくるような曲がるレーザー兵器のようなものだったとすれば、戦争でも起きたら真っ先に攻撃対象として挙げられるため、その結果がこうして海底に沈んだ遺跡という形で今俺達の目の前にあると俺は考えた。

前にカーリピオ団地遺跡で手に入れた情報には、古代文明で起きていた戦争についての記述も見られたため、もしもこの兵器がその戦争の際に投入されていたとしたら、メガフロートごと沈めてでも使用を防ぎたいというのは、敵国にしてみたら当然の考えだろう。
もっとも、ソーマルガの国境線にある山脈が一つ欠けている今、少なくとも一発は撃っているということになる。

先に撃ったから狙われたのか、狙われたから撃ったのかは定かではないが、どちらにせよ恐ろしい兵器が使われ、その痕跡が戦争の恐ろしさと愚かさを今の俺達に示してくれているわけだ。
そういったことを含めて、過去に何があったかは実際に遺跡を調べてみてからわかるだろうが、往々にして軍事基地というのは情報の隠蔽と保管にはとにかく厳しいので、ちゃんとしたのが残っているかは少し不安ではある。
まあとにかく、まずはこの遺跡の周囲を見て回り、チャンスがあれば内部へと進入してみたいものだ。

「それにしても、遺跡が見つかったのはよかったけど、まさかこんなにボロボロだとは思わなかったね。これって海に沈んでからの浸食とかじゃないよね?」

「違うだろうな。見たところ、遺跡の外壁に使われている素材は浸食や腐食といったものに強いもののように感じる。まぁなんかあってボロボロになってから沈んだんだろうよ」

「へぇ~。古代文明の建物ってとにかく頑丈って思ってたけど、普通に壊れるんだね」

「昔も今も、人間が作ったものである以上はいつかは壊れるし、壊せるもんだ。それに、多分これは戦争でやられただろうから、使われた武器もよっぽど強力な物だったかもしれないぞ」

「戦争かぁ。やだねぇ、これだけ凄いものが作れるのに、なんで戦争なんかするのやら」

心底嫌そうな顔でそう言うパーラは、中々深いことを言う。
確かに優れた文明ともなれば悩みなんてなくなって、戦争もやる必要は無くなるという考えはわからなくはない。

しかし今も昔も人間というのは争わずにはいられない生き物だ。
文明が発達したからこそ露呈した問題もあっただろうし、何より高度な文明はそれだけ人を効率的に殺せる技術にも優れているのだ。
結局、問題を解決するためには最終的に戦争しかないという結論に至るのは、どれだけ精神的に成熟し様とも避けられない結末なのではないかと俺は思っている。

「さてな。今の俺達には分からない、大昔の人間同士の問題ってのがあったんだろうよ。それこそ戦争で解決するしかないぐらいのな」

何があって撃ったのか、撃たれたから撃ち返したという憎しみの連鎖は、戦争を知らない俺やパーラには一生分からないことなのかもしれない。
まぁ戦争の経験など、分からないで済むならそれでいい。

「嫌な時代だね。…この話はこれで終わりにしよ。それよりも、この後はどうする?」

「そうだな、まずは周辺をさっと見回る。危険が無いと分かったら内部を少し調べたい」

「調べるって、中に入るってこと?飛空艇ごと?」

「ああ。流石にこんな深海に生身では出られんからな。幸いでかい裂け目もある。こんだけでかいんだから、この飛空艇でも入れる広さも期待できそうだ」

「そうかなぁ…、大丈夫かなぁ」

意外といけそうだと思っている俺とは対照的に、飛空艇で遺跡に侵入することに不安を覚えているパーラのつぶやきが気になるところだが、無理をするつもりはないので、侵入が難しそうなら諦めるのも当然考えている。
だからあまり不安そうな顔をしないでもいい。

遺跡の周りをぐるりと一周させ、状態の確認などをしてみる。
やはりまず目につくのは、遺跡を大きく抉っている切れ目だ。
綺麗な一直線で刻まれたそれは、長い年月によって色々と付着物は見られるが、思ったよりも腐食はしておらず、まだまだ形を保っていられるのは、やはり古代文明の技術の高さゆえか。
少なくとも百年単位で海底にあったにしては綺麗なものだ。

一通り見て回った感じでは、遺跡に侵入できそうな箇所は一つしか見つけられない。
大型の搬入口のようなものもあるにはあったが、激しく歪んでしまっていて仕えないだろう。
それ以外は飛空艇で進入するには小さすぎるものばかりだ。

これが地上であればよかったが、ここは深海1000メートルを優に超える超高水圧の環境だ。
飛空艇から降りて探索などということは到底できるわけもなく、こうなるといよいよあの長大な裂け目から入るのを検討する段階がやってきたのかもしれない。

「てわけで、これからあの裂け目から進入してみようと思う」

「…まぁそれしかないとは私も思ったけど。でもやっぱり危なくない?中に何があるのか分からないんだし、どっかに飛空艇が引っかかって出られなくなったりとかさ」

確かにパーラの言う通り、内部構造がはっきりと分かっていない場所へと進入することで、脱出不可能に陥る可能性も低いわけではない。
そもそも正規のルートでの侵入ではないし、この遺跡の損壊具合によっては飛空艇が入れる広さが途中で足りなくなるというのは十分に考えられる。

「確かにパーラの心配はもっともだ。そこは十分に注意するのと、あまり深く押し入らないで引き返すつもりでいる」

それでも未知の遺跡内への進入、しかも勝手が違う海中という環境においては、まず何かが起こるというのを前提に臨んだほうがいいだろう。
最善なのはこのまま遺跡内の探索をせずに帰ることだが、折角見つけたのだから何か収穫は欲しいと思うのが人間の性だ。
多少のリスクを冒すことにはなるが、ここは遺跡内部の調査を慣行したい。

早速飛空艇を遺跡の亀裂の方へと移動させ、サーチライトをその中へと向けて投射する。
これだけで多少は内部の様子が見られると思い、目を凝らして明かりが照らす先を見つめると、そこには想像していたのとはちょっと違った光景が広がっていた。

「…壁、かな?」

「壁だな」

亀裂の奥にあったのは壁だった。
これは少々意外だ。
てっきり亀裂は内部にまで及んでいて、そこから内部へと進入できるものとばかり思っていたのだが、裂け目から少し奥の部分は普通に壁で覆われており、これでは飛空艇が入っていけない。

「変だな。最初見つけた時、ライトを当てたらまだ奥がありそうに思えたんだけど」

「暗かったから見間違えたのかもよ?なんにせよ、これじゃあ中に入るのは無理そうだね」

残念そうな中にも安堵感が滲むパーラの声から、よっぽど飛空艇での内部進入が嫌だったと見える。
しかし困ったな。
外部から得られる情報はもうこれ以上ないし、内部の様子も見られないとなるとお手上げになる。
危険ではあるが、外壁の一部をどうにか破壊することも検討するべきか?

「…あれ?」

このあとのことに悩んでいると、パーラが怪訝そうな声を上げた。

「どうした?なんか見えたか?」

「いや、そうじゃなくて、今壁が動いたような…」

壁が動いた?
有り得ないとは思うが、もしかして遺跡が生きているのか?
あの壁が隔壁か何かで、稼働できるのなら何かしら手がありそうだ。
その手が何かを考えていると、突然、その壁がグルリと横にスライドするようにして動いた。

「うお!?なんだ!?」

急激に動きを見せた壁に、ようやく俺は気付いた。
こいつは壁じゃなく、生き物の体の一部だったということに。

「アンディ!これ、壁じゃないよ!」

「分かってる!船体を捻りながら急速後退する!パーラ、座れ!」

一瞬のうちに沸き上がった嫌な予感に対抗すべく、操縦桿を一気に右側へ倒し、船体が傾くのと同時に推力を後退へと切り替えて一気にスロットルを空ける。
飛空艇を右側へ60度ほどロールしつつ後退し、遺跡から十分に離れた瞬間、亀裂から牙の並んだ口が飛び出してきた。

それはウツボのような体をした生き物だった。
顔付きといい鋭い牙といい、俺の知るウツボとよく似ているが、色々と違う所もあるのは槍異世界の生き物だからか。
最大の違いはその大きさだ。
大きく開いた口は飛空艇を十分に挟み込めるだけのものであり、牙の一つだけでも成人男性の胴回りに迫るほどのものだ。

そんな凶悪な生き物が今、俺達に食いつかんと迫ってきていた。
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