世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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着艦ショー

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戦闘機による空母への着艦は、コントロールされた墜落だと言われる。
失速ギリギリで飛び続ける高度な操縦技術と、極端に短い滑走路へと突っ込む度胸を併せ持ったパイロットのみが可能とする神業だと、俺は思っている。

そんな空母への着艦だが、垂直離着陸能力を持つ航空機であれば多少ハードルが下がる。
つまりこの世界の飛空艇は、着艦に向いた性能を標準で供えた航空機だとも言えなくもない。
というか、どのような場所でも着陸しやすいという性能のおかげで、空母へも楽に降りれるというだけだな。

これはあくまでも俺の予想だが、あの84号遺跡で見つかった飛空艇群は、どれもがこうした空母への離着艦を性能の内に組み込んで作られていたのではないだろうか。
ソーマルガ号の甲板から格納庫へと降りる昇降装置が、飛空艇のサイズに合わせてあることからもそう考えた。

もっとも、俺の飛空艇はこの昇降装置の幅ギリギリだったため、あくまでも84号遺跡で見つかった飛空艇の多くは、という話になるが。

なぜ今こんな話をしているかというと、その中型以下の飛空艇がソーマルガ号へと着艦する訓練が、甲板に用意された桟敷席でくつろぐパーティの招待客達の目の前で行われているからだ。




ラシーブ一味のパーティ襲撃事件から一晩経ち、仕切り直しというわけではないが、ケチのついたパーティの代わりと言わんばかりに、公開訓練の実施を急遽行うという通達が、グバトリアからパーティ参加者達に急遽告げられた。

人質事件に巻き込まれたことで参っている人間もいたようで、流石に招待客が全員揃うとはいかなかったが、貴重な飛空艇の訓練風景を拝めるとあって、なかなかの賑わいとなっている。
あんなことがあった後だけに、甲板までに限って護衛の同行も今日ばかりは認めており、その分だけ増えた人数で甲板上には多くの人たちが集まっていた。

甲板の上に設けた日よけされたスペースには椅子やテーブルが並べられ、それらに優雅に腰かける人間達は暑さに汗をかきながらも、目の前の光景に夢中と言った様子だ。
俺とパーラもここに加わっているのだが、用意された席は何故かグバトリアの隣という、結構なVIP並みの待遇を受けている。

ただし、これは飛空艇を操縦できる人間ということで、俺とパーラが時折グバトリアから飛んでくる質問に答えられるようにとの配慮だそうだが、正直、居心地はよくない。
俺とパーラ、というか主に俺に向けられた視線の煩わしさが、この居心地の悪さを助長していると言っていい。

視線の多くはラシーブ達から救出してくれた俺に対する好意的な物なのだが、中には探るような鋭い目も存在しており、どうも接触のタイミングを計っているような感がある。

彼らの狙いは恐らく、あのフラッシュバン擬きだろう。
人質に被害を出さず、敵を無力化できるあれが一体何か知りたいと、態度から丸わかりだ。
とはいえ、教えろと言われても困るところでもある。
あれは俺の魔術だから再現できただけで、他の人間なら火魔術の使い手で近いことが出来るかどうかという程度のものだ。

今聞かれても、彼らの欲求を満たせる答えを俺は出せない。
なので、この手合いの熱烈なアプローチは極力無視するに限る。
そういう人達と視線を合わないようにと、自然と俺の意識は目の前に立つ男性へと向けられていく。

「あちらで滞空中の飛空艇は、ソーマルガが保有する中では最も小型のものとなります。速度と小回りに優れており、着艦の際の甲板へ与える衝撃も小さいのが利点です」

着艦シークエンスの最終段階であるファイナルアプローチ、垂直着陸のために甲板から少し高い位置に滞空している小型飛空艇を指差しながら、周りに向けて説明をしているのはソーマルガ号付きの技術者で、今日ばかりは身分の低さを問われることなく、貴族達へ直接説明する機会が許されていた。

流石は専門畑だけあり、高位の貴族達に見つめられながらも説明する口は実に滑らかなものだ。

「現在ソーマルガ号は海面に着水していますので、波の影響で時折甲板が揺れるため、着艦の際には甲板の角度、上下のぶれなどを加味し、適切な瞬間を操縦者は見極める必要があります。最適な着艦を行えない場合、飛空艇だけではなく甲板にも損傷を発生させかねないため、操縦者の判断によって着艦をやり直すという時もございます」

滞空中だった飛空艇は既に甲板から数十センチと言った高さまで降りてきていたが、説明にあった通り、甲板は並の影響で微妙に上下に揺れているため、着地のタイミングを計らなければならない。
もしもソーマルガ号の甲板が高くなった瞬間に着地してしまうと、飛空艇にダメージを与えかねない。

今ある飛空艇のどれもが、車輪ではなく船底を直接地面につける形でのスタイルを採っているため、着陸で受けるダメージは船底から船全体へと及ぶ可能性もある。
非常に繊細な操縦が要求される。

ただし、飛空艇には離着陸の際には高度なアシストが利いているため、この着艦の際にも操縦の難易度はかなり抑えられたものになるはずだ。
現に今、目の前でも飛空艇は危なげなく着陸を果たし、それを見た見物客からはどよめきのような歓声が上がっていた。

「御覧のように、我が国が誇る操縦者はこのような場面の着艦もこなせるほど、練度を高めております。今後、国内で飛空艇を運用するにあたり、彼らのような操縦者であれば、ソーマルガの空を安全に飛び回る飛空艇の姿が誰の目にも映ることでしょう」

この技術者は飛空艇のアシスト機能のことは当然分かっているはずだが、あえて今のがパイロットの腕によると強調している節がある。
これは恐らく、飛空艇の性能がパイロットの技量に大きく依存していると印象付けることで、特別感をアピールする狙いがあったのではないだろうか。

つい昨日、飛空艇を狙って押し込み強盗でやってきた人間もいたことだし、飛空艇単体では十全に生かせないということを印象付けたいと見える。
飛空艇だけでなくパイロットも重要だと思い込ませるというこの目論見は、一技術者のものではなく、軍上層部の人間の入れ知恵ではなかろうか。

「アンディよ、実際のところはどうなのだ?お前の感覚での話が聞きたいものだが」

小声でそう尋ねてきたグバトリアは、今の技術者の話だけでなく、飛空艇を肌で知る人間に意見を求めたかったようだ。

「は。確かに甲板へ問題なく着艦できるだけの腕のあり操縦者であれば、今後のソーマルガの空を行くのに不安はないかと。ただ、一つ申し上げるなら、飛空艇は非常に高度な安全措置が施された遺物です。そうそう事故などは起こらないかと思いますが、もしあるとしたら、やはり人為的なものに起因するということだけは心の隅に留めおくべきでしょう」

「ふぅむ…なるほどな」

今よりもはるかに発達していた古代文明の遺物である飛空艇はアシスト機能が充実しており、真っ直ぐ飛ばすだけなら、それほど訓練を必要としない。
不測の事態には、パイロットに警告と操縦への介入がなされるほど、安全に配慮された乗り物だ。

一種のオーバーテクノロジーである飛空艇だが、当然ながらパイロットなしでは飛べない。
目の前の技術者が言うように、声高にパイロットの練度を誇ったところで、人はミスをする生き物だ。
人為的なミスで墜落する可能性がある以上、どれほどの安全装置が備わっていようと過信するべきではない。

俺の言葉を聞いて鷹揚に頷いたグバトリアは、それだけ言って再び訓練風景を眺める姿勢に戻っていった。





その後も訓練は続き、小型に続いて中型の着艦を行い、最後に十隻以上の飛空艇による編隊飛行が披露されて、催しは好評のうちに終わった。
見物客には特に最後の編隊飛行が見ものだったようで、青空を切り裂いて高速で飛ぶ飛空艇の姿に、今日一番の歓声が上がっていたほどだ。

派手な締めくくりによって公開訓練は終わり、この場は解散の運びとなる。
普通ならこの後昼食会とでもなるのだろうが、昨日あんな事件があったため、今は格納庫より下の階層には外部の人間は立ち入りが許されていない。
なので、客達は甲板に用意された飛空艇に乗り込んで、陸へと戻っていくことになる。

人数が多いので数回に分けての搬送となるのだが、最初のグループを乗せた飛空艇が飛び立つのを見送ると、残った人間が俺の方へと声を掛けてきた。
彼らの第一声がまずは昨日の事件についての礼で、次にやはり彼らが聞き出そうとしてきたのはフラッシュバンについての情報だった。

露骨に聞いてくるということはしないが、遠回しに原理を聞いてくるのには参る。
直接的でないだけに、下手に切って捨てる物言いをすると無礼打ちにも発展しかねない。
だがここはきっぱりと『そういう魔術だ』と言い張ることにした。
魔術師が自分だけの技術だと言うことで、それ以上の追及の手を緩めるというのはよく使う手だ。

おかげでフラッシュバンについての話は打ち切ることが出来たのだが、次に聞かれるのが少々厄介なことだった。

「アンディ殿、貴公が名乗ったあのジェシー・ライバックというのは一体なんなのかね?偽名だとしても、あの一味の連中にはなにやら知られているふうだったのだが」

「あぁ…あれですか。あれは少し前に使った偽名でして、私の故郷にそういう名前の戦う料理人がいましたので、今回拝借しただけです。連中が知っていたのは、以前、スワラッド商国がよく立ち寄る港で、その名前を使ったことがありましたので、そのせいでしょう。あまり大きな意味はありませんので、忘れて頂ければ」

実際の所、半分ぐらいは悪ふざけで名乗った偽名であり、アンディという名前があまり広まらないようにという狙いはあったものの、この様子だとその意味も失せてしまったと見ていい。
なにせ、彼らは俺とジェシー・ライバックをイコールで知ってしまっているからな。

そんな風に、何故偽名を名乗るのかのちゃんとした理由は明かさず、向こうも納得はしていないがそれ以上は踏み込んでこず、なんともおかしな雰囲気が間に横たわったところで、次の便が彼らを呼ぶ。
話しをまだ続けたそうにする彼らだったが、自分達の番が来たとなってはいつまでもこうしていることもできない。

若干の名残惜しさを匂わせながら、去っていく貴族達を俺も見送った。
俺にとってはいいタイミングで別れることが出来て、密かにほっとしている。
そんなことを思いつつ、甲板を飛び立っていく飛空艇を見上げていると、パーラが俺の背中に話しかけてきた。

「アンディ、陛下がこの後昼食を一緒にどうかだって」

「お、そうか。んじゃご相伴に与るとしよう」

グバトリアからの昼食の誘いとあっては断るのは失礼だ。
それに、ラシーブ一味の尋問についても色々と聞いておきたい。

エレベーターへと向かうグバトリアの後を追い、パーラと一緒に移動を開始する。
そう言えば、外部の人間は船内への立ち入り禁止となっているが、俺とパーラいいのだろうか?
俺達は他国の人間で、しがない冒険者なのだが。
いや、ダンガ勲章が力を発揮していると思えばおかしくはないか。





グバトリアとの昼食は、国王専用に用意された部屋で摂ることとなった。
船内スペースの関係上、それほど広い部屋ではないが、絨毯や壁はしっかりと豪奢に整えられているし、テーブルや椅子、調度品は質のいいものが置かれている辺り、プライベートな会食なんかにも使えるようにしてあるようだ。

そこで出される料理は、バネッサ達が腕によりをかけているようで、ここの食堂で出されるものよりは大分手の込んだ豪華なものだ。
長テーブルの上座に座るグバトリアを頂点に、アイリーン、俺、パーラと四人がそれぞれ目の前の皿をつつく光景は、一見すると和やかではあるが、そこで話される内容は少々剣呑さがある。

「ではあまり情報は得られていないと?尋問官は手でも抜いていますの?」

「いや、そうではない。そもそも、奴らが持っている情報自体が少ないのだ。聞けたのは雇い主と接触した場所と時期、成功した場合に受け取るはずだった報酬などが分かったぐらいか。少なくとも、スワラッドが今回の事件を目論んだという線はない」

話題はラシーブ達から得られた情報についてで、主に切り出したのはアイリーンだったが、俺とパーラも知りたいことではあったので、大人しく耳を傾ける。

む、この魚、白身にしては中々脂が乗っているな。
ソテーにしてあるようだが、ハーブが鋭く利いてて実に美味。

「そうなりますと、雇い主が分からないことには、今回の事件の責任を追及する矛先に困りますわね…」

「うむ。一応、ラシーブ一味を連れてきたスワラッド商国に対して抗議をすることは考えているが、自国の貴族を殺されている上に、事件の黒幕が他にいると考えると、あまり強くも言えん」

今回の件の黒幕はよほど周到だったようで、正体を隠して接触してきた使いの者というのも、スワラッドの人間ではない以外、分かることはないそうだ。
正直、そんな訳の分からん相手からの依頼を受けるなとラシーブを説教してやりたいところだが、胡散臭い話を飲むほどに魅力的な額を提示されていたのだろう。

「ですが、責任の一端はありましょう?そこをつついて、何かしら賠償を求めるのは悪くありませんわ」

「そうは言うがな、あそこの国とはあまり密な交流ではないのだ。むしろ、今回の件を貸し…もとい、足場にして、交流を活発化させるのがいいとは思わんか?」

直接でなくとも、スワラッドの責任を追及する手もあるにはあるだろうが、それよりも今まで細かった交流を太くするチャンスに変えようとするグバトリアは流石と言いたい。
スワラッドの商売人として小さい交流はあるが、国同士の付き合いはそれほどでもないというソーマルガにとって、ある意味今回の件はいいきっかけになる。
既に起きたことを引きずらず、未来へ前進する力にしようとするのは優れた政治家の大事な資質だろう。

…ほう、果物のドレッシングですか、大したものですね。
酸味と甘みが混ざってマイルドになっている。
おまけに酢漬けの果実も添えられていて、栄養価もイイ。

「…正直、他の国に侮られるのではないかと思えてなりませんわ」

「かもしれぬ。だがな、政治というのは互いの弱い部分を突くだけではなく、時に譲り合うことで調和が取れていくもの。外交もまた然りだ。お前はまだ若い。こういうのも少しづつ覚えていくといい」

王として、また伯父としての半々ずつの立場からアイリーンに助言をするという、レアな場面を見ることが出来た。
諭すような口調ではあるが、言葉には力強さが感じられることから、グバトリアにも強く刻まれている考え方なのかもしれない。

おや、この皿、魚と肉を一緒に煮込んであるのか。
…ふむ、魚の臭みは若干残るものの、これをアクセントと考えれば悪くない。
魚はホロホロ、肉はやや硬めなのが食感の差となって面白い。
ハーブをやや弱めにして、素材本来の風味を楽しませる狙いか。
ぬぅ…天晴れだ。

「…あなた達、先程から食事に夢中ですわね。もう少し、こちらの話に興味を持ってくれても構いませんのよ?」

おーっと!アイリーンの呆れたような視線が俺を襲うぅ!

まぁ確かに料理に舌鼓を打っていたので、一見すると彼らの会話を一切聞いてなかったようにとられても仕方ない。

「ングッ…んん、いえ、別に陛下達の話に興味がないわけではありませんよ?食べながらちゃんと聞いてましたし。なぁ?パーラ」

言わせてもらうなら、料理を楽しみながらも、俺はちゃんと話は聞いていた。
両方同時に出来る程度には、どちらにも興味は持っていたのだ。
それはきっとパーラも同様で、俺の隣に座るパーラに同意を求めて声を掛ける。

「ぷひ?にゃんまかんまー」

しかし俺が見た先では、料理を口いっぱいに頬張る、人間大のリスとなったパーラがおり、一応答えは返ってきたが口にものを入れたまま喋るせいで何を言っているのか分からない。
おまけに、いつの間に頼んでいたのか、ここまで出されたコースよりも多い皿がパーラの前には積まれており、この短時間で一体どれだけの料理をその腹に収めたというのか。

「…いや、いい。気にせず食べてろ」

「もい」

会話を諦めて食事に戻るように勧めると、再び皿へと挑むパーラの前に、料理人が新しい皿を差し出す。
見ると、どうやら同じ料理をもう一皿持ってこさせたようで、この感じだと常に三人分を俺達と同じスピードで平らげているらしい。
呆れた食欲だ。

あまりパーラの食いっぷりを見ているとこちらの食欲がなくなってしまいそうなので、視線はグバトリアとアイリーンの方へと戻す。

「相変わらずいい食いっぷりだ。俺もアイリーンもそう食わんから、見ているだけでも気持ちがいい。パーラ、遠慮せずにどんどん食えよ」

グバトリアは上機嫌にそう言うが、出来ればあまり甘やかさないでほしい。
このレベルの料理を腹いっぱい食べたら、またパーラの舌が肥えてしまう。
後であれが食いたいとかリクエストをされる俺の身にもなってくれ。

「ところで、えー…あぁそうそう。ラシーブ達はこの後どうなるんでしょうか?あれだけのことをしでかしましたから、穏やかな未来が待っているとは思いませんが」

一先ず食い気に走るパーラを余所に、先程アイリーンに言われたからではないが、ラシーブ達の今後についてグバトリアに尋ねてみる。
まぁ大体予想はつくが。

「そうだな。王族が乗る船に害意を持って押し入ったのだ。尋問で情報を搾り取ったらすぐに処刑だな」

そりゃそうか。
貴族を人質に取っただけでも重罪なのに、一国の王も巻き込んでいる以上、処刑以外には有り得ない。
それに他国の人間にも、王族に刃を向けた人間の末路を知らしめないと体裁が悪い。

「では皇都へ連れて行って、公開での?」

「いいえ、彼らは他国の人間にも危害を加えようとしてましたでしょう?ですから、人質となった貴族達の前で首を刎ねませんと、我が国も示しが付けられませんわ。処刑はすぐそこの浜で執り行うことになりますわね」

「アイリーンの言う通り、これは我が国が主催したパーティで、我が国が管理する船内で起きた事件だ。犯人の処刑を被害にあった人間の目でしっかりと見届けるように手配するのもけじめの一つだ」

要するに、捕まえた犯人を招待客達の前で処刑することで、事件の区切りとするわけか。
これは決して非道なものではなく、貴族に敵対した人間に対する処罰としては、この世界では当然なことだ。

「処刑の日程はまだ正式には決まっていないが、明後日以降にはなるだろう。アンディよ、気になるなら立ち会うか?お前が捕まえた下手人だ。その権利はあるぞ」

「あ、いえ、俺は結構です」

「そうか?まぁ処刑など、見るには面白いものでもないか」

「どうしても見届ける義務でもない限り、進んで見ようとする人間はあまりいませんわ」

この世界で過ごして長くなった俺も、罪人の公開処刑を見る機会は何度かあったが、あまり見ていて楽しいとは思えるものではなかった。
だがグバトリアやアイリーンは平然と処刑の話を口にし、同時に料理も平然と口にしていることから、それなりに慣れたもののようではある。

「それはそうと、アイリーンさん。パーティはこれで終わりですよね?領地への帰還はいつにしますか?」

美味い飯を食いながら、処刑についてあーだこーだいうのが少し嫌になり、話題の変更という感じでアイリーンに帰還予定を尋ねてみる。
パーティの終わりと共にこの地には用が無くなったため、領主であるアイリーンは早く帰ったほうがいいだろう。
きっと仕事も溜まっているはずだしな。

「そうですわねぇ…では三日後に発つと致しましょう。流石にそれ以上時間が経てば、レジルも待ち侘びてしまいますわ。陛下、よろしいでしょうか?」

「ああ。パーティが終わった以上、もうお前が残る必要はないしな。早く領地へ戻って、領主としての職責を果たすがいい」

この船での最上位者であるグバトリアの許しがもらえたので、三日後の出発が決まった。
自前の飛空艇がある俺達は明日の出発でも対応できるが、それでも予定に余裕があるのは精神的に楽でいい。

…いや、そう言えば貨物室が使用人達の寝床に使われていたな。
それも撤去しなければならないか。

俺達の世話をしてくれている使用人達は、あくまでも旅の間のグバトリアのために手配されていた人員なので、そのままマルステル男爵領へと連れていくわけにはいかない。
なので、彼女達とはここでお別れだ。

なんやかんやで世話になって、それなりに仲もよくなっていただけに、若干の寂しさは覚えるが、こればかりはどうしようもないので、別れを惜しみはしても引きずることはしないでおこう。

「ねぇねぇ、アンディ」

と、いつの間に口の中を片付けたのか、ちゃんとした口調でパーラが話しかけてきた。

「ん?なんだ、どうした」

「男爵領に帰るのはいいんだけどさ、皇都に置いてるバイクとかどうすんの?そのまま預けとくの?」

「あ……すっかり忘れてたな。どうしようか…」

パーラに指摘され、皇都でダリアに預けたままにしていたバイクを思い出した。
別に今すぐ必要というわけではないが、まだまだ貴重なバイクをいつまでも預けたままにしておくのもどうかと思うので、出来れば回収しておきたい。

タラッカ地方からマルステル男爵領までは直線距離では意外と近いが、タラッカ地方から皇都までは距離はそれなりにあるし、今の時期は風向きが悪く、移動にかかる時間は多くなる。
一度皇都へ行くのは手間が気になるため、バイクの回収はまた今度の機会とするべきかもしれない。
いやしかし…。

「なんだ、そういうことなら、こちらで飛空艇を出して、アイリーンを送らせよう。アンディとパーラは皇都へ行って用事を済ませてくるといい」

「それは助かりますが、よろしいのですか?」

「俺はソーマルガの王だぞ。姪のために飛空艇を出すぐらい構わんだろう」

悩んでいた俺に、グバトリアが助け舟を出してくれた。
飛空艇一隻では足りないが、アイリーンの足をグバトリアの方で用意してくれるなら、俺達は心置きなくバイクの回収へ行ける。

というわけで、アイリーンはグバトリアが手配する飛空艇で領地へ戻り、俺とパーラは自分の飛空艇で皇都へ向かうという、別行動をとることとなった。
しかしそうなると、俺達がアイリーンのところに戻るのには少し時間がかかってしまうだろう。

俺達がいなくても大丈夫かという若干の不安はあるが、元々俺とパーラは領民ではないのだし、いなくても何とか回せないとマルステル男爵領の未来は暗い。
だからきっと問題ないはず。

とはいえ、やはり仕事を手伝っていた身としては早いとこ戻って手伝いに復帰してやりたいという思いはある。
正直、今のマルステル男爵領の人材不足は身に染みて理解しているしな。
なるべく早く戻れるように、明日から準備に動いて、出発を早めるようにしてみよう。

そんな風に思っていると、新しい料理が運ばれてきた。
目の前に置かれた料理は、どうやらデザートのようで、鮮やかな赤一色のシュウマイっぽい見た目だが、立ち上る香りはフルーツの爽やかさが感じられる。
スプーンを入れてみた感触は、モンブランケーキのような手応えだ。

おぅ?

一口含むと、マンゴーのような風味の中に、熟れ柿のようなネットリとした甘さが印象的だ。
ただの果物ではなく、何か一手間加えたことによるこの甘味は、スイーツが少ないこの世界ではダントツのデザートらしさがある。

ふむ、これはまた、コース料理の最後としては悪くない一品だ。
いいものを食わせてもらった。
シェフを呼べ!

…と、流石に口に出しはしないが、この料理を作ってくれたバネッサ達に感謝の念を送って締めるとしよう。

美味である!天晴れ!
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