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悪夢の八人
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最近、ヘスニルの冒険者ギルドは活気がある。
こう聞くと、じゃあ今までは無かったのかという話になってしまうが、前よりも活気を増したという意味だ。
季節柄、様々な依頼が舞い込むということもこの活気の一因ではあるが、それよりも大きな理由として、今年の駆け出し冒険者の未帰還率の低さが挙げられる。
例年であれば、冒険者として新たなスタートを切った人間は、大体このぐらいの時期に最初の試練を向かえる。
それは冬眠明けから完全に復活した魔物との遭遇により、生きて帰ってこれるかどうかの篩に掛けられるのだ。
黒級の駆け出しが最初に受けられる依頼なんかは採取系がほとんどだが、依頼に赴いた先で魔物に襲われるというのはよくある話だ。
経験の浅い冒険者は、不意の遭遇で何も出来ずにそのままやられることが多いため、今の時期で生き残っているということは、最初の篩での選別に残れたそこそこ有望な者ととれる。
しかし、今年はこの新人冒険者達の死亡率が異常に低いおかげで、春先にギルドへ加入した新人冒険者の数だけ増した賑わいが、落ち着くことなく今のギルドを騒がせているというわけだ。
そして、この新人達の活躍に、実は俺達の行った初心者講習が大きく関わっていた。
俺とパーラが講習で関わったのは最初の一回、八人の駆け出し冒険者だけなのだが、その後のギルドが開いた初心者講習では参加者が一気に数を増し、なんとその年の新人達の多くが参加したという。
これは、俺達の薫陶を受けた新入り八人が、駆け出しには相応しくないほどに危なげなく多くの依頼を達成し、それどころか魔物に襲われた他の駆け出し冒険者を救い出して逃げかえってくるという、なんとも信じられない活躍をしているせいだ。
俺はあの短い初心者講習の間、彼らに生き残るための手段と考え方を可能な限り教え込んだつもりだ。
普通の冒険者の思考とは違う、生き汚いほどに生へと執着させることで、格上の魔物に襲われた場合、勝てなくても逃げ出せただけでなく、同じく襲われている他の人間を逃がすことができるほど、生存性の高い冒険者に仕上がってしまっていた。
そもそもこの初心者講習自体が今年からの試みであるため、初めて冒険者となった者に勧めはしても、強制できるほどの実績のある物ではない。
認知度の低さのせいか、勧めても必要ないと大半の駆け出しが断っていたが、ここにきて妙に活躍が目立つ駆け出しの存在を知ると、その活躍の元となっている初心者講習というものに自然と答えが行きつき、それなら自分達もと初心者講習を受講してみようとする駆け出し冒険者が増えていったそうだ。
折よく、ヘスニルのギルドへ招かれていた教官も到着し、本格的に初心者講習は稼働していったわけで、その結果として新人冒険者の依頼達成率も着実に上昇していき、今のギルドにおける人手不足による依頼のダブつきは徐々にではあるが解消されつつあった。
ちなみに、この初心者講習は新しくやってきた教官が多少手は加えたものの、俺とパーラが組んだカリキュラムを踏襲した内容で進められていた。
一般的な冒険者に必要な技能の他に、ヘスニル郊外にある森を使ってのサバイバル技術向上を図る実地での講習も加わったのが、今の駆け出し冒険者の生存率を高めたとか。
その後俺とパーラに、もう一度教官役をしないか?とギルドマスターからの誘いがあったが、既に指導者がいるのに今更俺達が出張るのもよくないと、それらしい理由を立てて断った。
本音のところは、人を育てることの難しさをこの前の講習で知ったせいで、まだまだ経験の足りていない俺が教官なんてやったら真っ直ぐに育つ冒険者が減ってしまうからだ。
ある程度、俺達のようなスタイルの冒険者もいてもいいだろうが、やはりオーソドックススタイルの冒険者が好まれる風潮のあるこの世界では、教官役は経験豊富なちゃんとした人間に任せた方がいいだろう。
ただ、この初心者講習の噂を聞きつけ、一度だけ俺達に新兵の教育法で相談に来た人間がいた。
何を隠そう、このエイントリア領の騎士団のトップであるアデスだ。
騎士団には独自の新兵育成法というものはあるが、毎年同じものをやるというのも芸がないと、まぁアデスの気まぐれとも言える考えで、駆け出し冒険者の質を引き上げたと噂のある俺達に白羽の矢が立ったというわけだ。
アデスにはそこそこ借りもあるので、相談には乗ってみたものの、正規の軍人としての経験がない俺には新兵の育成をどうすればいいのか分からない。
冒険者と同じに鍛えるのも間違いではないだろうが、果たしてそれが軍人として正しい成長につながるかどうか…。
とはいえ、何も考えつかないというわけでもない。
新兵というからには軍人としての心構えはまだできていない段階だと推測する。
であれば、必要なのは精神的な醸成だろう。
まず基本方針としてはとにかく走らせる。
これは冒険者にも言えることだが、戦いで最後にものをいうのはどれだけ走りこんだかという体力と精神力だ。
それらを鍛えるのに走り込みは最適だと、先にコット達が示している。
当然ながらアデスも走り込みはさせるというので、これはいい。
では次いで軍人に必要なものは何か。
もちろん組織として成り立つ以上、上意下達は当然のことだし、他の人間とのチームワークも必要だ。
そっちに関しては俺が何かするより、騎士団内で教育することだろうから考えないでいい。
俺がどうにかできることで、軍人に必要な資質を考えたところ、結局は活力をいかにして保つかに尽きる。
つまり、いついかなる状況でも飯を食えるということだ。
早食いであれば尚いい。
戦場において、悠長に飯を食ってられるとは限らないし、周りが死体で一杯の状態でも気にせず食事ができるというのは、体力を回復させるという観点で非常に大事なことだ。
極限の状態では、体力を回復できない人間は精神も早くにやられるものだ。
たとえ目の前で内臓がはみ出た死体があろうと、糞の匂いが充満していようとも食欲を失わない兵士はまだまだ戦えるというもの。
この辺りをアデスに話すと、納得できるものがあるのか、早速持ち帰って検討すると言って慌てたように帰っていった。
後日、ある場所で糞尿の溜められた桶と大量の動物の死体とに囲まれながら食事をするという、なんとも奇妙な兵士の集団が見かけられたが、訓練中と通達されたその集団に向けられる視線には同情の色が濃かったという。
まぁ…なんか…ごめんよ。
いつもの日課とまでは言わないが、やはり冒険者たるものギルドに顔を出すのも仕事の内だ。
今日も依頼を吟味すべく、パーラと共にギルドへと現れた俺を出迎えたのは、久しぶりに聞く声だった。
「おんや、教官方。久しぶりだじゃな」
「あ?……おぉウルンか。久しぶりだな。てか、もう俺達は教官じゃないんだから、そう呼ぶのはやめろよ」
「なぁに言っちゃあ。ウチらにとりゃ教官は教官だばん」
俺達を教官と呼ぶのは、今のところ八人だけだ。
その中でこの特徴的な方言で話すのは一人しかいない。
俺達よりも年上でありながら、ずっと小柄な体格というのが違和感を抱かずにいられないこのウルン。
初心者講習の時はあまり口を開かなかったせいで分からなかったが、元々この方言の方が地であり、特に必要が無ければこっちの話し方を貫き通すという、何とも気持ちのいい性格をしている。
「相変わらず凄い言葉してるね。一応何とかわかるけど、それだとパーティ組んだ時に連携で苦労しない?」
「したってパーラ教官や、こいばしぁ抜けよらん。死んだ爺っこのせいと諦めじゃあ」
「あ、うん」
……まじで言ってることがなんとかわかる程度だってあたり、方言というのはすごいな。
一応拾えた単語から推測すると、『こればかりは抜けない、死んだ爺さんのせいだと諦めてる』って感じか。
パーラもとりあえず頷いて返事を返したが、果たして俺と同じぐらいに言葉は通じているのかどうか。
「お待たせ、ウルン…って教官!あ、おはようございます!」
「お、おう。おはよう」
「おはようさん。んー…確かヨーだっけ?ウルンと一緒に動いてるの?」
横合いから突然ウルンの名前を呼ぶ女性の声がしたかと思った次の瞬間、大声での挨拶をされてしまって気圧された形になった俺も普通に挨拶を返してしまった。
俺達を見て教官と呼んだということは、この少女も初心者講習の参加者のようだ。
残念ながら帽子を目深にかぶっているせいで、俺には顔での判別は難しいが、パーラの方は見分けがついたらしい。
「はい。講習が終わってすぐに、私の方からパーティを組もうって誘ったんです」
「ウチは長物さ得っぱあんで。ヨーど組みゃーあんづまししてな」
「…え?なんて?」
「あはは…えーっと、自分は長い武器が得意だから、ヨーと組めば楽だって言ってます。私は剣を使うんで、お互いの間合いを補い合えるからってのもパーティを組んだ理由の一つなんですよ」
こいつ、なかなか凄いな。
今のは俺もウルンの言いたいことはギリでなんとなくわかったが、それでも付き合いがまだそこそこのはずのヨーがこうまで通訳が出来るとはな。
普通はパーラのような反応が当たり前なはずだ。
この辺りでも一応方言のようなものを話している人を見たことはあるが、ウルンみたいに極端な訛りというのは初めて聞いた。
ヨーは普通に訛りのない話し方をしてはいるのだが、こうして意思の疎通が出来ているということは、もしかしたら同じ地方の出とかなのだろうか。
久しぶりに会った教え子に近況をもう少し聞こうかと思ったが、掲示板に新しく依頼が張り出される時間となったため、そこで話を切り上げて別れることになった。
「しかしあの講習の参加者同士でパーティを組んだか。おかしくはないが、ちょっと意外だったな」
「そう?私はちょくちょくギルドであの子達を見かけたけど、結構そういうの多かったよ」
「へぇ。まぁ全くの他人よりは同じ時間を共有した奴の方がいいってのは分かるけど」
掲示板を眺めつつ、そんなことを話していると、不意に遠くの方で怒鳴り声が上がった。
朝の喧騒の中であってもはっきりと主張される大声は、ギルドにいる冒険者の多くを注目させている。
俺達も自然とそちらへ視線が向くが、そこにあった光景に驚いてしまう。
「このアマァ、誰に口きいてんのか分かってんのかよ!俺は黄級だぞ!黒級のくせにでけぇ口叩くんじゃねえ!」
「黄も黒もねぇ。女二人さ粉かけて何する気がってらんだ」
掲示板から少し離れた場所で大柄な男数名と、顔見知りの女二人が対峙していた。
双方の間にあるのは険悪な空気で、どう穏便に見ても揉めてる以外の何物でもない。
主に話しているのはウルンと相手側のリーダー格と思しき大男だけだが、ヨーはウルンの左前に立つことで何かあれば守るという姿勢を見せている。
「わざわざ黄級のこの俺がお前らをパーティに入れてやるって言ってんだ。黒級の駆け出し、女なんかじゃろくな依頼もこなせてねぇんだろ?俺達と一緒になれば楽出来るぜ」
そう言っていやらしく笑う姿は、絵に描いたような三下の下卑た姿だ。
いっそ教科書に載せてもいいほどに。
「しゃっから言ってらぁばん。まともな勧誘だばギルド職員さ仲介してもらうって。おめらのが勧誘だったば、今から窓口さ行くべしゃ」
「…さっきから言ってるが、まともな勧誘ならギルド職員を仲介しましょう。そちらが一応勧誘だと言うのなら、今からでも窓口へ行きましょう、と」
基本、訛りの酷いウルンはヨーの通訳なしには相手に意思が伝わり辛い。
そういう点では、今からでも睨み合いに立つのはヨーと変わったほうがいい気もする。
ただ、見た感じではヨーよりもウルンの方が場慣れしてる感があるので、侮られないようにするにはウルンが矢面に立つ方がいいようには俺も感じている。
「いや、それは…必要ねぇ!黄級の俺がこうして誘ってんだ!ギルド職員を通すこたぁねーんだよ!」
「はぁ~…ほんつけねな」
「どうしようもないバカ、と」
呆れたように溜め息を吐くウルンとヨーが訳した言葉を聞いて、男達は俄かに剣呑さの増した空気を背負いだした。
これはもう、いつ武器を抜いてもおかしくない雰囲気だ。
しかしまぁ、揉めてる理由の方はなんとなくわかった。
ウルン達を二人だけの女性パーティだと知ったあの大男達は、ランク差を餌に自分の所に引き入れて、あんなことやこんなことをしようとぐへぐへ考えてたわけだが、きっぱりと断られて頭に血が上ったといったところか。
黄級の自分に黒級の女が従わないのは気に入らない、というのがその怒りの源なのだろうが、だとすればその程度の精神性で黄級になれたこの大男は相当腕が立つということになる。
こうしてみた限りではそれほどでもないのに、巧妙にその強さを隠しているとしたらもう一段脅威度を上げたほうがいい。
俺の知る黄級の人間というのは、そのどれもが高い戦闘能力を有していた。
仮に俺が戦ったとしたら、不意を突く搦手なら勝てるが、正面きってのタイマンなら勝率はグンと落ちる、黄級とはそのぐらいに強い存在なのだ。
このままではウルン達が危ないと、助けに入ることを考え、パーラと目配せをしていた時、近くにいた冒険者達の呟く言葉が耳に入ってきた。
「やばいぞ、あいつら。なんてのに手を出してやがるんだよ」
やはりあの大男たちはそれほどに強いのかと、ウルン達を助ける手段に高威力の魔術を選択肢に入れた時だった。
続いて聞こえてきた、別の所にいた冒険者の言葉に、動き出そうとしていた足は床を離れることはなかった。
「よりにもよって、悪夢の八人の内の二人じゃねーか。あの男共、明日から地獄だな」
『…え?』
そんな呆けたような声を出したのは俺とパーラだ。
奇妙なことに、ここにいる冒険者達はウルン達ではなく、あの大男達の方をに同情の目を向けている。
まるで、これから起こるのは男達にとっての悪夢だと言わんばかりに。
「こっ…!こんのクソ女が!」
限界に近いほどに青筋を浮かべていた男は、ギルド内御法度である冒険者同士の殺し合いをすべく、背中に背負っていた大斧を抜き、ウルンへと振り下ろした。
いくらなんでもやらないだろうと思っていた武器の使用に、内心で驚きと焦りをないまぜにした感情で体を突き動かされそうになったが、遠目に見ていたウルン達の動きからその心配はないと判断できた。
斧が迫るのに気付いてすぐ、ヨーとウルンはそれぞれ左右へと動き、床へと落とされた斧の一撃を余裕で躱す。
正直、見ていて今の一撃は鋭さも早さもない、全く怖くない一撃だった。
あの程度なら多少目のいい人間なら躱すのは難しくない。
この時点で、あの大男が黄級に相応しい戦闘能力を持っていないと断言できる。
戦闘能力が低くても、長い時間をかけて戦い以外でギルドへ貢献していけば黄級にはなれるので、きっとあの男もその口だろう。
それでもいざとなったら介入できるように目を凝らしていると、ウルンとヨーが何やら男達に向けてばら撒いたのが見えた。
粉末状の何かとしか分からないそれは、男達を一人残らず包み込むと、次の瞬間には男たちが上げる絶叫でギルド内は満たされた。
「ぎゃぁああああああ!目っ目がぁああ!」
「げぇっほげはぐえっへ!喉っ焼けっ…!」
「息できなっ…目っ鼻熱っ…」
粉煙に包まれた男達は例外なく全員が床に崩れ落ち、共通して顔を押さえてのたうち回っていた。
仕掛けた側のウルン達はいち早く距離を取り、粉末が舞う範囲のさらに外で様子を窺っている。
「くそ!やっぱりやりやがった!最悪だ!」
「目と鼻と口をふさいで外に出ろ!」
「窓は開けるな!風で拡散しちまうぞ!」
一方、見ていた冒険者達も大慌てで男達から距離を取り、急いでギルドから逃げ出していく。
その様子から、使われた粉末の正体に思い至った俺は、パーラに声を掛ける。
「パーラ!あの粉を外に追い出せ!煙突からだ!」
「あいよ!」
パーラによって生み出された空気の渦は、男達の周りから徐々に拡散し始めた粉煙を搦め取ると、細く煙の道となって暖炉の方へと向かい、その中を通って外へと吐き出されていった。
ほんの十数秒ほどで、粉煙は完全に姿を消したが、それを食らった男達はまだ痛みから逃げられずに叫んでいる。
「こら!ウルン!ヨー!お前らなんてものを使ってんだ!」
隅の方に退避していたウルン達に向けて、俺がそう叫ぶと、二人は申し訳なさそうな様子でこちらへと近付いてきた。
先程ウルン達が使ったのは唐辛子の粉末だ。
この世界での唐辛子は、地球のものと大体同じなので、それを粉末にしてばら撒くと、簡単に催涙ガスと同じ効果を生み出せる。
今痛みに悶えている男達のように、目や鼻、口から入って喉と、粘膜に付着するととてつもない痛みを発生させるため、不意打ちで散布すると防御不可の攻撃として凶悪極まりない結果を作り出してしまう。
俺も唐辛子の粉は調味料兼疑似ケミカル兵器として常備しているので、その怖さは十分理解している。
「確かにお前らはか弱い女の子だし、相手は黄級の大男だから普通に戦うのは不利だ。だからって周りの迷惑になるような攻撃を使うのは―」
「お言葉ですが教官!強敵と対峙した際、目潰しをしてから戦えと私達は教わりました!」
「しかも周りさ被害出してもけぇねってぐらい思いきれって」
「……そうだっけ?」
「うん、言ってたね」
念のため、パーラに尋ねてみたが、確かに俺はヨー達にそう教えていたようだ。
そういえば調味料のほとんどが武器になるというのは教えた記憶がある。
その流れで危険なものをピックアップして、使い方をレクチャーしたような気もする。
だがこうまで躊躇なしに実行するほどにヨー達が染まりつつあるのは嬉しいやら悲しいやら…、複雑。
「-そうですか…そこの二人!こちらへ来なさい!」
どう説教したものかあぐねているところに、誰かが鋭い声を飛ばしてきた。
二人というのはウルン達を指しているのだろうが、俺とパーラもついその声に引き寄せられて、四人揃ってそちらへと向かう。
声の主であるヘルガの前へ自然と整列してしまったのは、その険しい顔が故にだ。
明らかに今の騒動に関して怒ってると分かるその顔は、主にウルン達に向けられているが、俺とパーラにも何か言いたいことがあるのはなんとなくわかる。
「アンディさん達も一緒ですか。丁度いい。お二人にも言いたいことがあるので少しそのままで待っていてください」
「俺達も?いやでもこの騒ぎはウルン達のせいで―」
「いいえ。お二人も全くの無関係ではありませんよ」
いつになく厳しい目を向けてくるヘルガに一瞬気圧される。
今の騒動に俺達は関わっていないのだが、どうも俺達にも原因があると思い込んでいる節があるヘルガに、ちゃんと説明をしようと、ウルン達への用が終わるのを待ってみることにした。
そしてヘルガによるウルン達への説教が始まる。
ギルド内での私闘は禁止されているのに、先に剣を抜いた男達の方に非があることはヘルガも分かっている。
他の職員から状況を聞いたそうだ。
武器を抜いて先に手を出してきた男達に対し、ウルン達は唐辛子粉を散布はしたが、武器を使っていないので処罰されるとしたら男達だけというのを聞き、安堵の表情を浮かべていた。
だがそれとは別に、人が大勢いる室内で凶悪な物体を無差別に撒き散らしたことをヘルガは怒っており、その姿には流石冒険者ギルドで職員を取り纏めるに相応しい迫力がある。
「武器を抜いていないお二人はお咎めなしですが、だからといってギルド内でああいうことをされては困ります。…まったく、これで何度目だか」
『何度目?』
まるでウルン達の前にも同じことをした奴がいたと言わんばかりのヘルガの話しように、俺達は四人揃って首を傾げてしまう。
「あのーヘルガさん?もしかして、俺達の他にも同じような騒ぎを起こした奴がいたんですか?」
「…ご存じないのですか?この手の騒動が最近は何件か起きてますよ。ギルド内で絡まれて、刺激物を散布するというのが。というか、これらをやったのはアンディさん達の関係者なのですけど?」
「俺達の?」
「はい。あの初心者講習の参加者ですよ」
ジトッとしたヘルガの視線を受け、ウルンとヨーは気まずそうに顔を見合わせる。
そして、その様子を見た俺とパーラも若干の気まずさを覚えたのは、やはり原因が俺達が教官を務めた初心者講習にあるからだろうか。
聞けば、最近のギルドでは駆け出しの人数が増えたことで、黒級の依頼を取り合ってのいざこざが増えているらしい。
揉めた黒級同士が互いに嫌悪感を向け合い、ギルドの空気が少しギスギスしているせいで白級などのベテランも伝播するようにイライラが溜まっていき、黒級の駆け出しに白や黄といったランクの冒険者が絡むことも結構増えてきているのだとか。
まだ大きな事件にはなるほどではないが、それでも小競り合い程度の騒ぎがちょくちょく起きているギルド内で、ある時事件が起きる。
特に問題を起こしているわけではなくとも、ただ駆け出しの黒級というだけの相手にイラついていた白級の冒険者がいちゃもんをつけて絡み、すわ乱闘かとなった寸前、唐辛子粉を顔面に吹きかけられて丸一日活動不能に陥るということがあった。
その絡まれた方である黒級の冒険者というのが、俺達が教官を務めた初心者講習に参加していた者達だったそうだ。
黒級の冒険者で、俺達の講習に参加した人間という条件にある八人の内、今日のウルン達を含めると五人が唐辛子粉を使っての騒動を起こしていた。
武器を使わないという点ではギルド側からは処罰できないが、室内に刺激物を撒き散らすという行為に対して注意をした、とヘルガは語る。
遡れば、コット達が決闘を挑んできた冒険者を塩でノックダウンしたことから話は始まりそうなものだが、凶悪度で言えば明らかに唐辛子の方がずっとひどいので、問題にするならあの八人からとしたのかもしれない。
「正直、調味料程度で屈強な冒険者を行動不能にするということが想定外なんです。ギルドの規約には直接触れていないので、表だって罰することができないのも問題になっています」
「…あ、もしかして悪夢の八人ってのは」
「あぁ、他の冒険者からはそう呼ばれているらしいですね。あれだけの騒ぎを起こした人間ですから、少し調べれば初心者講習のことにも簡単に行きつきますので。凶悪な手を使う人間、同じ思考をするのが八人いるということで、誰が呼んだか悪夢の八人、と」
なるほど、それであの時、周りの冒険者は手慣れた様子で避難していったのか。
実際にとばっちりを受けた人間もそれなりにいたのは、あの時に真っ先に動いた人間の多さから推測できる。
それにしても、悪夢と冠されるとは、随分怖がられているようだな。
とはいえ、そう呼びたくなるのもわからないわけではない。
凶悪な手段を使ったとはいえ、上位者をノックダウンさせた黒級というのは無視できない存在だ。
しかも一人だけではなく、数人が全く同じ手を使ったということで、同じ教えを受けた者達だと推測するのは容易い。
そして、探った先で初心者講習というものを知ると、参加した八人が全員同じタイプだと考えるだろう。
確かにその考えは正しい。
実際、俺はそういう戦い方を教えた記憶もあるからな。
初手から戦いにすらならない状態を作り出すというその凶悪な思考は、さぞ他の冒険者達に戦慄を覚えせたことだろう。
「その本人達は問題を起こさない優良な冒険者なのですが、一度揉めると周囲に被害を出す手を平気で使うせいで、腫れ物に触れるような扱いをされているようです」
俺達の薫陶を受けたせいで、ダーティな手段を使うことのハードルが下がった影響か。
彼らが今のギルドでの微妙な立場になっているのは、大本を辿ると俺のせいだと言えるかもしれない。
本当に…済まないと思っている。
「さて、それでは次はアンディさん達にもお説教を受けてもらいましょうか」
反省した姿を見せているウルン達に満足したのか、今度は俺達に矛先を向けてくるヘルガ。
顔に笑みはたたえても目が笑っていないという、典型的な怖い状態を見せられては逃げる気になれない。
ギルド職員も迷惑を被っているだけに、手心も期待できないだろう。
「ちょっと待って!…この件はアンディに大本の責任があるから、私はお説教を免除してもらうってことでここはひとつ」
「おまっパーラてめぇ!俺を生贄にする気か!?」
「だって唐辛子を目潰しにしろって教えたのアンディじゃん!私はその時のを見てただけだから悪くないよ!」
よりにもよって、俺を踏み台にして自分だけは助かろうとするパーラのやり口に焦る。
そりゃあパーラの言うことは間違っていないが、講習時に異議を唱えずに見ていたというのも立派に共犯だろうに。
「その見てた時だってニヤニヤしてただろ!むしろいいぞもっとやれって感じの顔だったな!」
「そんな顔してませぇ~ん。なんか勘違いしてるんじゃない?」
ふてぶてしい態度を見せるパーラだが、その額に浮かぶ汗を見るに、多少の後ろ暗さは感じているようだ。
つまり、嘘は言っていないが俺のやり方を許容してはいたということは認めている。
その上で何とか説教を回避しようとする姿に、ヘルガが動いた。
「どうやらお二人は反省の意志が全くないようで…。元凶とまでは言わずとも、一因はお二人の講習にあるということを心得てくださいね?」
『ハイ!』
決して強い口調ではないのに、スルリと耳に流し込まれるようにして聞こえたその声に、いがみ合っていたのも忘れてパーラ多と共にいい返事が口を飛び出した。
今のヘルガが纏う空気には、相対した人間から逆らう気を奪う凄みがある。
俺とパーラが駆け出し冒険者に施した教育はどうしようもないが、今後彼らと顔を合わせる機会があれば、やり過ぎていることを言い含めるようにとヘルガと約束してしまった。
正直、講習を終えた彼らに今更教官面して指図するのはどうかと思ったが、ヘルガにあの笑顔で言われては従わざるを得ない。
だって怖いんだもん。
こう聞くと、じゃあ今までは無かったのかという話になってしまうが、前よりも活気を増したという意味だ。
季節柄、様々な依頼が舞い込むということもこの活気の一因ではあるが、それよりも大きな理由として、今年の駆け出し冒険者の未帰還率の低さが挙げられる。
例年であれば、冒険者として新たなスタートを切った人間は、大体このぐらいの時期に最初の試練を向かえる。
それは冬眠明けから完全に復活した魔物との遭遇により、生きて帰ってこれるかどうかの篩に掛けられるのだ。
黒級の駆け出しが最初に受けられる依頼なんかは採取系がほとんどだが、依頼に赴いた先で魔物に襲われるというのはよくある話だ。
経験の浅い冒険者は、不意の遭遇で何も出来ずにそのままやられることが多いため、今の時期で生き残っているということは、最初の篩での選別に残れたそこそこ有望な者ととれる。
しかし、今年はこの新人冒険者達の死亡率が異常に低いおかげで、春先にギルドへ加入した新人冒険者の数だけ増した賑わいが、落ち着くことなく今のギルドを騒がせているというわけだ。
そして、この新人達の活躍に、実は俺達の行った初心者講習が大きく関わっていた。
俺とパーラが講習で関わったのは最初の一回、八人の駆け出し冒険者だけなのだが、その後のギルドが開いた初心者講習では参加者が一気に数を増し、なんとその年の新人達の多くが参加したという。
これは、俺達の薫陶を受けた新入り八人が、駆け出しには相応しくないほどに危なげなく多くの依頼を達成し、それどころか魔物に襲われた他の駆け出し冒険者を救い出して逃げかえってくるという、なんとも信じられない活躍をしているせいだ。
俺はあの短い初心者講習の間、彼らに生き残るための手段と考え方を可能な限り教え込んだつもりだ。
普通の冒険者の思考とは違う、生き汚いほどに生へと執着させることで、格上の魔物に襲われた場合、勝てなくても逃げ出せただけでなく、同じく襲われている他の人間を逃がすことができるほど、生存性の高い冒険者に仕上がってしまっていた。
そもそもこの初心者講習自体が今年からの試みであるため、初めて冒険者となった者に勧めはしても、強制できるほどの実績のある物ではない。
認知度の低さのせいか、勧めても必要ないと大半の駆け出しが断っていたが、ここにきて妙に活躍が目立つ駆け出しの存在を知ると、その活躍の元となっている初心者講習というものに自然と答えが行きつき、それなら自分達もと初心者講習を受講してみようとする駆け出し冒険者が増えていったそうだ。
折よく、ヘスニルのギルドへ招かれていた教官も到着し、本格的に初心者講習は稼働していったわけで、その結果として新人冒険者の依頼達成率も着実に上昇していき、今のギルドにおける人手不足による依頼のダブつきは徐々にではあるが解消されつつあった。
ちなみに、この初心者講習は新しくやってきた教官が多少手は加えたものの、俺とパーラが組んだカリキュラムを踏襲した内容で進められていた。
一般的な冒険者に必要な技能の他に、ヘスニル郊外にある森を使ってのサバイバル技術向上を図る実地での講習も加わったのが、今の駆け出し冒険者の生存率を高めたとか。
その後俺とパーラに、もう一度教官役をしないか?とギルドマスターからの誘いがあったが、既に指導者がいるのに今更俺達が出張るのもよくないと、それらしい理由を立てて断った。
本音のところは、人を育てることの難しさをこの前の講習で知ったせいで、まだまだ経験の足りていない俺が教官なんてやったら真っ直ぐに育つ冒険者が減ってしまうからだ。
ある程度、俺達のようなスタイルの冒険者もいてもいいだろうが、やはりオーソドックススタイルの冒険者が好まれる風潮のあるこの世界では、教官役は経験豊富なちゃんとした人間に任せた方がいいだろう。
ただ、この初心者講習の噂を聞きつけ、一度だけ俺達に新兵の教育法で相談に来た人間がいた。
何を隠そう、このエイントリア領の騎士団のトップであるアデスだ。
騎士団には独自の新兵育成法というものはあるが、毎年同じものをやるというのも芸がないと、まぁアデスの気まぐれとも言える考えで、駆け出し冒険者の質を引き上げたと噂のある俺達に白羽の矢が立ったというわけだ。
アデスにはそこそこ借りもあるので、相談には乗ってみたものの、正規の軍人としての経験がない俺には新兵の育成をどうすればいいのか分からない。
冒険者と同じに鍛えるのも間違いではないだろうが、果たしてそれが軍人として正しい成長につながるかどうか…。
とはいえ、何も考えつかないというわけでもない。
新兵というからには軍人としての心構えはまだできていない段階だと推測する。
であれば、必要なのは精神的な醸成だろう。
まず基本方針としてはとにかく走らせる。
これは冒険者にも言えることだが、戦いで最後にものをいうのはどれだけ走りこんだかという体力と精神力だ。
それらを鍛えるのに走り込みは最適だと、先にコット達が示している。
当然ながらアデスも走り込みはさせるというので、これはいい。
では次いで軍人に必要なものは何か。
もちろん組織として成り立つ以上、上意下達は当然のことだし、他の人間とのチームワークも必要だ。
そっちに関しては俺が何かするより、騎士団内で教育することだろうから考えないでいい。
俺がどうにかできることで、軍人に必要な資質を考えたところ、結局は活力をいかにして保つかに尽きる。
つまり、いついかなる状況でも飯を食えるということだ。
早食いであれば尚いい。
戦場において、悠長に飯を食ってられるとは限らないし、周りが死体で一杯の状態でも気にせず食事ができるというのは、体力を回復させるという観点で非常に大事なことだ。
極限の状態では、体力を回復できない人間は精神も早くにやられるものだ。
たとえ目の前で内臓がはみ出た死体があろうと、糞の匂いが充満していようとも食欲を失わない兵士はまだまだ戦えるというもの。
この辺りをアデスに話すと、納得できるものがあるのか、早速持ち帰って検討すると言って慌てたように帰っていった。
後日、ある場所で糞尿の溜められた桶と大量の動物の死体とに囲まれながら食事をするという、なんとも奇妙な兵士の集団が見かけられたが、訓練中と通達されたその集団に向けられる視線には同情の色が濃かったという。
まぁ…なんか…ごめんよ。
いつもの日課とまでは言わないが、やはり冒険者たるものギルドに顔を出すのも仕事の内だ。
今日も依頼を吟味すべく、パーラと共にギルドへと現れた俺を出迎えたのは、久しぶりに聞く声だった。
「おんや、教官方。久しぶりだじゃな」
「あ?……おぉウルンか。久しぶりだな。てか、もう俺達は教官じゃないんだから、そう呼ぶのはやめろよ」
「なぁに言っちゃあ。ウチらにとりゃ教官は教官だばん」
俺達を教官と呼ぶのは、今のところ八人だけだ。
その中でこの特徴的な方言で話すのは一人しかいない。
俺達よりも年上でありながら、ずっと小柄な体格というのが違和感を抱かずにいられないこのウルン。
初心者講習の時はあまり口を開かなかったせいで分からなかったが、元々この方言の方が地であり、特に必要が無ければこっちの話し方を貫き通すという、何とも気持ちのいい性格をしている。
「相変わらず凄い言葉してるね。一応何とかわかるけど、それだとパーティ組んだ時に連携で苦労しない?」
「したってパーラ教官や、こいばしぁ抜けよらん。死んだ爺っこのせいと諦めじゃあ」
「あ、うん」
……まじで言ってることがなんとかわかる程度だってあたり、方言というのはすごいな。
一応拾えた単語から推測すると、『こればかりは抜けない、死んだ爺さんのせいだと諦めてる』って感じか。
パーラもとりあえず頷いて返事を返したが、果たして俺と同じぐらいに言葉は通じているのかどうか。
「お待たせ、ウルン…って教官!あ、おはようございます!」
「お、おう。おはよう」
「おはようさん。んー…確かヨーだっけ?ウルンと一緒に動いてるの?」
横合いから突然ウルンの名前を呼ぶ女性の声がしたかと思った次の瞬間、大声での挨拶をされてしまって気圧された形になった俺も普通に挨拶を返してしまった。
俺達を見て教官と呼んだということは、この少女も初心者講習の参加者のようだ。
残念ながら帽子を目深にかぶっているせいで、俺には顔での判別は難しいが、パーラの方は見分けがついたらしい。
「はい。講習が終わってすぐに、私の方からパーティを組もうって誘ったんです」
「ウチは長物さ得っぱあんで。ヨーど組みゃーあんづまししてな」
「…え?なんて?」
「あはは…えーっと、自分は長い武器が得意だから、ヨーと組めば楽だって言ってます。私は剣を使うんで、お互いの間合いを補い合えるからってのもパーティを組んだ理由の一つなんですよ」
こいつ、なかなか凄いな。
今のは俺もウルンの言いたいことはギリでなんとなくわかったが、それでも付き合いがまだそこそこのはずのヨーがこうまで通訳が出来るとはな。
普通はパーラのような反応が当たり前なはずだ。
この辺りでも一応方言のようなものを話している人を見たことはあるが、ウルンみたいに極端な訛りというのは初めて聞いた。
ヨーは普通に訛りのない話し方をしてはいるのだが、こうして意思の疎通が出来ているということは、もしかしたら同じ地方の出とかなのだろうか。
久しぶりに会った教え子に近況をもう少し聞こうかと思ったが、掲示板に新しく依頼が張り出される時間となったため、そこで話を切り上げて別れることになった。
「しかしあの講習の参加者同士でパーティを組んだか。おかしくはないが、ちょっと意外だったな」
「そう?私はちょくちょくギルドであの子達を見かけたけど、結構そういうの多かったよ」
「へぇ。まぁ全くの他人よりは同じ時間を共有した奴の方がいいってのは分かるけど」
掲示板を眺めつつ、そんなことを話していると、不意に遠くの方で怒鳴り声が上がった。
朝の喧騒の中であってもはっきりと主張される大声は、ギルドにいる冒険者の多くを注目させている。
俺達も自然とそちらへ視線が向くが、そこにあった光景に驚いてしまう。
「このアマァ、誰に口きいてんのか分かってんのかよ!俺は黄級だぞ!黒級のくせにでけぇ口叩くんじゃねえ!」
「黄も黒もねぇ。女二人さ粉かけて何する気がってらんだ」
掲示板から少し離れた場所で大柄な男数名と、顔見知りの女二人が対峙していた。
双方の間にあるのは険悪な空気で、どう穏便に見ても揉めてる以外の何物でもない。
主に話しているのはウルンと相手側のリーダー格と思しき大男だけだが、ヨーはウルンの左前に立つことで何かあれば守るという姿勢を見せている。
「わざわざ黄級のこの俺がお前らをパーティに入れてやるって言ってんだ。黒級の駆け出し、女なんかじゃろくな依頼もこなせてねぇんだろ?俺達と一緒になれば楽出来るぜ」
そう言っていやらしく笑う姿は、絵に描いたような三下の下卑た姿だ。
いっそ教科書に載せてもいいほどに。
「しゃっから言ってらぁばん。まともな勧誘だばギルド職員さ仲介してもらうって。おめらのが勧誘だったば、今から窓口さ行くべしゃ」
「…さっきから言ってるが、まともな勧誘ならギルド職員を仲介しましょう。そちらが一応勧誘だと言うのなら、今からでも窓口へ行きましょう、と」
基本、訛りの酷いウルンはヨーの通訳なしには相手に意思が伝わり辛い。
そういう点では、今からでも睨み合いに立つのはヨーと変わったほうがいい気もする。
ただ、見た感じではヨーよりもウルンの方が場慣れしてる感があるので、侮られないようにするにはウルンが矢面に立つ方がいいようには俺も感じている。
「いや、それは…必要ねぇ!黄級の俺がこうして誘ってんだ!ギルド職員を通すこたぁねーんだよ!」
「はぁ~…ほんつけねな」
「どうしようもないバカ、と」
呆れたように溜め息を吐くウルンとヨーが訳した言葉を聞いて、男達は俄かに剣呑さの増した空気を背負いだした。
これはもう、いつ武器を抜いてもおかしくない雰囲気だ。
しかしまぁ、揉めてる理由の方はなんとなくわかった。
ウルン達を二人だけの女性パーティだと知ったあの大男達は、ランク差を餌に自分の所に引き入れて、あんなことやこんなことをしようとぐへぐへ考えてたわけだが、きっぱりと断られて頭に血が上ったといったところか。
黄級の自分に黒級の女が従わないのは気に入らない、というのがその怒りの源なのだろうが、だとすればその程度の精神性で黄級になれたこの大男は相当腕が立つということになる。
こうしてみた限りではそれほどでもないのに、巧妙にその強さを隠しているとしたらもう一段脅威度を上げたほうがいい。
俺の知る黄級の人間というのは、そのどれもが高い戦闘能力を有していた。
仮に俺が戦ったとしたら、不意を突く搦手なら勝てるが、正面きってのタイマンなら勝率はグンと落ちる、黄級とはそのぐらいに強い存在なのだ。
このままではウルン達が危ないと、助けに入ることを考え、パーラと目配せをしていた時、近くにいた冒険者達の呟く言葉が耳に入ってきた。
「やばいぞ、あいつら。なんてのに手を出してやがるんだよ」
やはりあの大男たちはそれほどに強いのかと、ウルン達を助ける手段に高威力の魔術を選択肢に入れた時だった。
続いて聞こえてきた、別の所にいた冒険者の言葉に、動き出そうとしていた足は床を離れることはなかった。
「よりにもよって、悪夢の八人の内の二人じゃねーか。あの男共、明日から地獄だな」
『…え?』
そんな呆けたような声を出したのは俺とパーラだ。
奇妙なことに、ここにいる冒険者達はウルン達ではなく、あの大男達の方をに同情の目を向けている。
まるで、これから起こるのは男達にとっての悪夢だと言わんばかりに。
「こっ…!こんのクソ女が!」
限界に近いほどに青筋を浮かべていた男は、ギルド内御法度である冒険者同士の殺し合いをすべく、背中に背負っていた大斧を抜き、ウルンへと振り下ろした。
いくらなんでもやらないだろうと思っていた武器の使用に、内心で驚きと焦りをないまぜにした感情で体を突き動かされそうになったが、遠目に見ていたウルン達の動きからその心配はないと判断できた。
斧が迫るのに気付いてすぐ、ヨーとウルンはそれぞれ左右へと動き、床へと落とされた斧の一撃を余裕で躱す。
正直、見ていて今の一撃は鋭さも早さもない、全く怖くない一撃だった。
あの程度なら多少目のいい人間なら躱すのは難しくない。
この時点で、あの大男が黄級に相応しい戦闘能力を持っていないと断言できる。
戦闘能力が低くても、長い時間をかけて戦い以外でギルドへ貢献していけば黄級にはなれるので、きっとあの男もその口だろう。
それでもいざとなったら介入できるように目を凝らしていると、ウルンとヨーが何やら男達に向けてばら撒いたのが見えた。
粉末状の何かとしか分からないそれは、男達を一人残らず包み込むと、次の瞬間には男たちが上げる絶叫でギルド内は満たされた。
「ぎゃぁああああああ!目っ目がぁああ!」
「げぇっほげはぐえっへ!喉っ焼けっ…!」
「息できなっ…目っ鼻熱っ…」
粉煙に包まれた男達は例外なく全員が床に崩れ落ち、共通して顔を押さえてのたうち回っていた。
仕掛けた側のウルン達はいち早く距離を取り、粉末が舞う範囲のさらに外で様子を窺っている。
「くそ!やっぱりやりやがった!最悪だ!」
「目と鼻と口をふさいで外に出ろ!」
「窓は開けるな!風で拡散しちまうぞ!」
一方、見ていた冒険者達も大慌てで男達から距離を取り、急いでギルドから逃げ出していく。
その様子から、使われた粉末の正体に思い至った俺は、パーラに声を掛ける。
「パーラ!あの粉を外に追い出せ!煙突からだ!」
「あいよ!」
パーラによって生み出された空気の渦は、男達の周りから徐々に拡散し始めた粉煙を搦め取ると、細く煙の道となって暖炉の方へと向かい、その中を通って外へと吐き出されていった。
ほんの十数秒ほどで、粉煙は完全に姿を消したが、それを食らった男達はまだ痛みから逃げられずに叫んでいる。
「こら!ウルン!ヨー!お前らなんてものを使ってんだ!」
隅の方に退避していたウルン達に向けて、俺がそう叫ぶと、二人は申し訳なさそうな様子でこちらへと近付いてきた。
先程ウルン達が使ったのは唐辛子の粉末だ。
この世界での唐辛子は、地球のものと大体同じなので、それを粉末にしてばら撒くと、簡単に催涙ガスと同じ効果を生み出せる。
今痛みに悶えている男達のように、目や鼻、口から入って喉と、粘膜に付着するととてつもない痛みを発生させるため、不意打ちで散布すると防御不可の攻撃として凶悪極まりない結果を作り出してしまう。
俺も唐辛子の粉は調味料兼疑似ケミカル兵器として常備しているので、その怖さは十分理解している。
「確かにお前らはか弱い女の子だし、相手は黄級の大男だから普通に戦うのは不利だ。だからって周りの迷惑になるような攻撃を使うのは―」
「お言葉ですが教官!強敵と対峙した際、目潰しをしてから戦えと私達は教わりました!」
「しかも周りさ被害出してもけぇねってぐらい思いきれって」
「……そうだっけ?」
「うん、言ってたね」
念のため、パーラに尋ねてみたが、確かに俺はヨー達にそう教えていたようだ。
そういえば調味料のほとんどが武器になるというのは教えた記憶がある。
その流れで危険なものをピックアップして、使い方をレクチャーしたような気もする。
だがこうまで躊躇なしに実行するほどにヨー達が染まりつつあるのは嬉しいやら悲しいやら…、複雑。
「-そうですか…そこの二人!こちらへ来なさい!」
どう説教したものかあぐねているところに、誰かが鋭い声を飛ばしてきた。
二人というのはウルン達を指しているのだろうが、俺とパーラもついその声に引き寄せられて、四人揃ってそちらへと向かう。
声の主であるヘルガの前へ自然と整列してしまったのは、その険しい顔が故にだ。
明らかに今の騒動に関して怒ってると分かるその顔は、主にウルン達に向けられているが、俺とパーラにも何か言いたいことがあるのはなんとなくわかる。
「アンディさん達も一緒ですか。丁度いい。お二人にも言いたいことがあるので少しそのままで待っていてください」
「俺達も?いやでもこの騒ぎはウルン達のせいで―」
「いいえ。お二人も全くの無関係ではありませんよ」
いつになく厳しい目を向けてくるヘルガに一瞬気圧される。
今の騒動に俺達は関わっていないのだが、どうも俺達にも原因があると思い込んでいる節があるヘルガに、ちゃんと説明をしようと、ウルン達への用が終わるのを待ってみることにした。
そしてヘルガによるウルン達への説教が始まる。
ギルド内での私闘は禁止されているのに、先に剣を抜いた男達の方に非があることはヘルガも分かっている。
他の職員から状況を聞いたそうだ。
武器を抜いて先に手を出してきた男達に対し、ウルン達は唐辛子粉を散布はしたが、武器を使っていないので処罰されるとしたら男達だけというのを聞き、安堵の表情を浮かべていた。
だがそれとは別に、人が大勢いる室内で凶悪な物体を無差別に撒き散らしたことをヘルガは怒っており、その姿には流石冒険者ギルドで職員を取り纏めるに相応しい迫力がある。
「武器を抜いていないお二人はお咎めなしですが、だからといってギルド内でああいうことをされては困ります。…まったく、これで何度目だか」
『何度目?』
まるでウルン達の前にも同じことをした奴がいたと言わんばかりのヘルガの話しように、俺達は四人揃って首を傾げてしまう。
「あのーヘルガさん?もしかして、俺達の他にも同じような騒ぎを起こした奴がいたんですか?」
「…ご存じないのですか?この手の騒動が最近は何件か起きてますよ。ギルド内で絡まれて、刺激物を散布するというのが。というか、これらをやったのはアンディさん達の関係者なのですけど?」
「俺達の?」
「はい。あの初心者講習の参加者ですよ」
ジトッとしたヘルガの視線を受け、ウルンとヨーは気まずそうに顔を見合わせる。
そして、その様子を見た俺とパーラも若干の気まずさを覚えたのは、やはり原因が俺達が教官を務めた初心者講習にあるからだろうか。
聞けば、最近のギルドでは駆け出しの人数が増えたことで、黒級の依頼を取り合ってのいざこざが増えているらしい。
揉めた黒級同士が互いに嫌悪感を向け合い、ギルドの空気が少しギスギスしているせいで白級などのベテランも伝播するようにイライラが溜まっていき、黒級の駆け出しに白や黄といったランクの冒険者が絡むことも結構増えてきているのだとか。
まだ大きな事件にはなるほどではないが、それでも小競り合い程度の騒ぎがちょくちょく起きているギルド内で、ある時事件が起きる。
特に問題を起こしているわけではなくとも、ただ駆け出しの黒級というだけの相手にイラついていた白級の冒険者がいちゃもんをつけて絡み、すわ乱闘かとなった寸前、唐辛子粉を顔面に吹きかけられて丸一日活動不能に陥るということがあった。
その絡まれた方である黒級の冒険者というのが、俺達が教官を務めた初心者講習に参加していた者達だったそうだ。
黒級の冒険者で、俺達の講習に参加した人間という条件にある八人の内、今日のウルン達を含めると五人が唐辛子粉を使っての騒動を起こしていた。
武器を使わないという点ではギルド側からは処罰できないが、室内に刺激物を撒き散らすという行為に対して注意をした、とヘルガは語る。
遡れば、コット達が決闘を挑んできた冒険者を塩でノックダウンしたことから話は始まりそうなものだが、凶悪度で言えば明らかに唐辛子の方がずっとひどいので、問題にするならあの八人からとしたのかもしれない。
「正直、調味料程度で屈強な冒険者を行動不能にするということが想定外なんです。ギルドの規約には直接触れていないので、表だって罰することができないのも問題になっています」
「…あ、もしかして悪夢の八人ってのは」
「あぁ、他の冒険者からはそう呼ばれているらしいですね。あれだけの騒ぎを起こした人間ですから、少し調べれば初心者講習のことにも簡単に行きつきますので。凶悪な手を使う人間、同じ思考をするのが八人いるということで、誰が呼んだか悪夢の八人、と」
なるほど、それであの時、周りの冒険者は手慣れた様子で避難していったのか。
実際にとばっちりを受けた人間もそれなりにいたのは、あの時に真っ先に動いた人間の多さから推測できる。
それにしても、悪夢と冠されるとは、随分怖がられているようだな。
とはいえ、そう呼びたくなるのもわからないわけではない。
凶悪な手段を使ったとはいえ、上位者をノックダウンさせた黒級というのは無視できない存在だ。
しかも一人だけではなく、数人が全く同じ手を使ったということで、同じ教えを受けた者達だと推測するのは容易い。
そして、探った先で初心者講習というものを知ると、参加した八人が全員同じタイプだと考えるだろう。
確かにその考えは正しい。
実際、俺はそういう戦い方を教えた記憶もあるからな。
初手から戦いにすらならない状態を作り出すというその凶悪な思考は、さぞ他の冒険者達に戦慄を覚えせたことだろう。
「その本人達は問題を起こさない優良な冒険者なのですが、一度揉めると周囲に被害を出す手を平気で使うせいで、腫れ物に触れるような扱いをされているようです」
俺達の薫陶を受けたせいで、ダーティな手段を使うことのハードルが下がった影響か。
彼らが今のギルドでの微妙な立場になっているのは、大本を辿ると俺のせいだと言えるかもしれない。
本当に…済まないと思っている。
「さて、それでは次はアンディさん達にもお説教を受けてもらいましょうか」
反省した姿を見せているウルン達に満足したのか、今度は俺達に矛先を向けてくるヘルガ。
顔に笑みはたたえても目が笑っていないという、典型的な怖い状態を見せられては逃げる気になれない。
ギルド職員も迷惑を被っているだけに、手心も期待できないだろう。
「ちょっと待って!…この件はアンディに大本の責任があるから、私はお説教を免除してもらうってことでここはひとつ」
「おまっパーラてめぇ!俺を生贄にする気か!?」
「だって唐辛子を目潰しにしろって教えたのアンディじゃん!私はその時のを見てただけだから悪くないよ!」
よりにもよって、俺を踏み台にして自分だけは助かろうとするパーラのやり口に焦る。
そりゃあパーラの言うことは間違っていないが、講習時に異議を唱えずに見ていたというのも立派に共犯だろうに。
「その見てた時だってニヤニヤしてただろ!むしろいいぞもっとやれって感じの顔だったな!」
「そんな顔してませぇ~ん。なんか勘違いしてるんじゃない?」
ふてぶてしい態度を見せるパーラだが、その額に浮かぶ汗を見るに、多少の後ろ暗さは感じているようだ。
つまり、嘘は言っていないが俺のやり方を許容してはいたということは認めている。
その上で何とか説教を回避しようとする姿に、ヘルガが動いた。
「どうやらお二人は反省の意志が全くないようで…。元凶とまでは言わずとも、一因はお二人の講習にあるということを心得てくださいね?」
『ハイ!』
決して強い口調ではないのに、スルリと耳に流し込まれるようにして聞こえたその声に、いがみ合っていたのも忘れてパーラ多と共にいい返事が口を飛び出した。
今のヘルガが纏う空気には、相対した人間から逆らう気を奪う凄みがある。
俺とパーラが駆け出し冒険者に施した教育はどうしようもないが、今後彼らと顔を合わせる機会があれば、やり過ぎていることを言い含めるようにとヘルガと約束してしまった。
正直、講習を終えた彼らに今更教官面して指図するのはどうかと思ったが、ヘルガにあの笑顔で言われては従わざるを得ない。
だって怖いんだもん。
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