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から揚げはモモよりムネの方が好き

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冬が終われば農家が忙しくなるというのはどこの世界でも同じもので、へスニル周辺にある耕作地では種撒きに勤しむ農民の姿を連日見かけるようになった。
冒険者として依頼をこなしつつ、そういった光景を目にすると今からなら何を植えるといいとか、今年の天候はどうかということばかり気になるのは、前世での職業病のようなものだ。

春になってギルドの掲示板に張り出される依頼も数を増し、様々なものをみかけるようになった。
主に冬の間に消費されて備蓄が減った食材や薬の材料など補充のために、採取系の依頼が多いのはこの季節ならではだろう。

そういった依頼に紛れて、数少ないながら張り出されている討伐依頼に懐かしい名前を見つけた。
かつて俺がその味に魅了された巨鳥、ザラスバードだ。

依頼の内容はザラスバードの尾羽を調達してほしいというものだが、あくまでも要求されるのは尾羽なので、別に討伐しなくても落ちてるのを拾ってきても達成扱いにはなりそうだ。

討伐の名目で依頼を出されているのは、拾うにしろ剥ぎ取るにしろ、ザラスバードの縄張りにかなり接近することになるので、戦闘になる可能性が高いせいだ。
推奨ランクは黄3級となっているが、俺とパーラは白1級なので、二つ上のランクまでの依頼を受けることが出来るというギルドのルールに則れば、受諾するのに問題はない。

正直この依頼は二つの意味でおいしいものと言える。
尾羽さえ納品してしまえば肉の方は丸ごとこっちが貰ってもいいということだし、ザラスバードの味を知っている身としては、報酬に加えて食材も手に入るこの依頼は舌と懐の両方を喜ばせるものと期待してしまう。

「パーラ、お前ザラスバードって食ったことあるか?」
「ないよ。アンディは食べたことあるんでしょ?なんか変異種っぽいでかいの倒したって言ってたし」
「あぁ前に話したっけ。俺は手羽とムネ肉を食ったけど、あれはうまいぞ~。歯応えブリーンの肉汁ブワーでたまらんなありゃ」

いかん、思い出しただけで口の中に涎があふれてきた。
ギルドの掲示板を見ながら涎を垂らしている冒険者なんて奇妙だし、恥ずかしいわ。

「…ちょっと、そんなおいしそうに言わないでよ。お腹減ってくるじゃない」
「さっき朝飯食っただろ。でも分かるぞ。…でだ、ザラスバードを狩りに行ってみないか?」
「行く行く!超行く!そこまで言われて、食べなきゃどうかしてるよ」
「じゃ決まりだな」

パーティ内での同意も得られたことで、早速掲示板から依頼票を手にして、窓口へと向かう。
受付嬢が話す依頼の詳細を聞き、問題ないことを確認したら、早速準備してザラスバードの生息地へと向かう。

俺が知る限りでザラスバードの生息地と言えば、ヘスニルから徒歩で二日ほどの距離にある岩場なのだが、受付嬢から聞いた話だと、ザラスバードは頻繁に縄張りを変えはしないが、寒い時期には温かい地域へと移るため、今現在、件の岩場にザラスバードはいないとのこと。

その代わり、ややヘスニルから南東に向かった荒地にならザラスバードがいるという情報ももらったので、そこを目指すことになった。
以前は飛空艇などなかったため、わざわざ歩いていったものだが、今は目的地が多少遠くなっても短い時間で行けるようになったのは実に喜ばしい。

飛空艇を飛ばして辿り着いた荒地は、アシャドル王国と南東のサライアス王国の間に広がる国境線とも言える地帯だ。
特に町村もなく、耕作に向いた土地でもないため、二つの国どちらも開拓民を入植させることはせず、国家間の緩衝地帯としてずっと昔に設定されたまま現代に至る、という場所だ。

そんな場所でも魔物や野生生物なんかはそれなりに生息しているもので、ザラスバードもその一つだ。
姿を見かけたという情報のあった場所へ向かうと、小高い丘になっている場所に何頭かのザラスバードの姿を見つけた。

上空から見た感じでは特に飛び立つ気配もなく、文字通り羽を休めている状態のようで、この中の一頭を狩ればいいだろう。
だが問題は、一頭に手を出すと他のザラスバードも一斉に襲い掛かってくるかもしれないということだ。
このザラスバードは魔物ではないがとにかく獰猛な性格で、仲間が攻撃を受ければ当然こちらを敵とみなして反撃をしてくる。

数自体はさほどでもないが、なにせ一頭一頭がでかいため、四方八方から襲われては俺もパーラもひとたまりもない。
どうにかして群れから引き剥がして一頭だけになっているのを狙いたいものだ。

と思っていたら、群れの中の一頭が宙に浮かんでいる飛空艇に気付いたようで、こちらを凝視したのち、一気に飛び上がってきた。
飛空艇を敵だと思ったのか、あるいは餌とでも思ったのかはザラスバードにしかわからないが、いずれにせよこのままでは飛空艇と衝突する未来が待っているのみだ。

ただこれは好機ではある。
飛び上がったのが一頭だけということもあり、群れを丸ごと敵に回さなくて済むのは有難い。

飛空艇の向きを変えて地上の群れから離れるように飛び、一頭だけ着いてきているのを確認すると、少し移動したあたりで一気に攻撃を仕掛ける。
飛空艇の操縦は俺がしているので、仕掛けるのはパーラだ。
この役割分担を申し出たのはパーラの方からで、

「よし、いいぞ!」
『パーラ、行っきまーす!』

既に噴射装置を装着し、貨物室で待機しているパーラに向けて、伝声管越しに合図を送る。
ちなみにこの伝声管だが、少し前にヘスニルの鍛冶師に注文していたものを最近になって取りつけた。
これのおかげで船内の離れた場所同士の会話が出来るようになって助かっている。

伝声管からパーラが発進を告げるのと同時に、まるで空中でドリフトをするように船体を減速させながら右を向くことで、船体にかかる空気抵抗を増して一気に速度を落としつつ、迫りくるザラスバードにパーラが突っ込んでいくのを操縦室のモニター越しに見つける。

噴射装置を巧みに使い、ザラスバードとの距離を詰めていったパーラは、衝突するかと思われた寸前、手にしていた剣を動かすことで推力方向を調整し、滑るようにして僅かに高度を得たパーラが体を錐もみさせると、眼下を通り過ぎるザラスバードの首へ錐もみの勢いと片側の噴射装置を吹かして得た推力を足した高速の回転斬りを叩き込んだ。

一秒にも満たない交差で首を大きく抉られたザラスバードだったが、その巨体に見合う生命力で羽ばたきを三度ほど繰り返した後、大きく体を一度痙攣させて地上へと落下していった。
その落下地点を見届け、次にパーラを回収しようと最後に見た辺りを探すが、その姿を見つけられない。

もしや噴射装置の圧縮空気が尽きて、ザラスバードと共に地面に落ちていったのか?
一応パーラは噴射装置を使わなくとも風魔術で軟着陸はできるのだが、それでも心配になって飛空艇を降下させようと操縦桿を握ったその時、操縦室の扉が開かれた。

「ただいまー。…あれ、どうかした?」

呑気な声でそう言ったのは正に今探していたパーラその人であり、慌てた様子で飛空艇を操作しようとしていた俺の様子に、首を傾げて不思議そうな顔をしている。

「どうしたもなにもお前……俺はてっきり噴射停止で落ちてったかと思ったぞ」
「あぁごめん、心配かけちゃったね。あの後一気に高度を上げて飛空艇の上部甲板に降りてたんだよ。ほら、飛空艇が横向いちゃってたからさ」

パーラが飛空艇を飛び出してから、俺が飛空艇の向きを変えたせいで貨物室のハッチが丁度パーラから隠れてしまう位置となったため、一々回り込むよりは飛空艇の上部ハッチを使った方がいいと判断したようだ。

「いやー、それにしてもあのザラスバードってのは結構凄いね。あのすれ違いざまの一瞬に、私の手に噛みつこうとしてきたんだよ?」
「そうなのか?遠かったからか、俺には見えなかったけどな」
「こう目が合ってさ、口を開いて私の手を追いかけて首を動かしてきたんだって。まぁその前に首を斬り取ってやったけど」

顔の前で二本指を振る仕草をして、次に手首をうねらせてザラスバードの首の動きを模したパーラは、あの瞬間に起きた出来事を再現しようとしているようだが、正直それで俺に伝わる情報はほとんどない。
ただ、心底驚いたということだけはその早まった口調からはよく分かる。

パーラ自身、決して舐めてかかっていたわけではないだろうが、それでもあれだけの高速戦闘でしっかりと自分を捉えていたザラスバードの動体視力には、度肝を抜かれたといったところだろう。

「それにあのザラスバードの皮膚。思ったよりも硬かったよ。アンディはあれの大きい個体の首をねじ切ったんでしょ?流石だね」
「いや、俺は雷魔術で首を吹っ飛ばしただけだからな。剣一本で倒したお前の方が普通にすごいんだが」
「え~?そう?アンディに褒められるのって久しぶりで、なーんか照れるなぁ」

あの時はまだ加減の利かないレールガンもどきザラスバードの首を吹っ飛ばしたのだが、あれに比べて小型とはいえ飛行しているザラスバードに同じく飛行しながら接近して一瞬で首を斬り落としたパーラの剣の冴えは相当なものだ。

華麗かつ無駄のない動きでそれらをこなしたパーラは、ここ数年の成長に噴射装置という金棒を手に入れてしまった、正に空中戦の鬼と名乗ってもいいぐらいだ。
もっとも、この世界の鬼と言えば鬼人族を指すので、あまり適切な言葉ではないが。

褒められたことで体をくねらせているパーラは若干気持ち悪いが、今はザラスバードの死体を回収することを考えなくてはならない。
飛空艇を降下させていき、ザラスバードが落下したと思われる場所へと近付いていくと、荒地に点在する岩の一つに叩きつけられて無残な姿をさらしている巨鳥を見つけた。

首はパーラが負わせた傷でほとんどちぎれかけており、翼などは複数個所が完全に折れて歪な線を作るだけとなっている。
胴体は比較的まともな形を保ってはいるが、落下の衝撃で折れて体外に突き出たあばらが覗く穴からは、夥しい量の血液で死体の周りに赤い池を作っていた。

飛空艇を降り、ザラスバードの死体に近付いていくと、ムッとくる血の匂いに、目の前の光景の凄惨さが一層際立ってくる。

「うーん…ひどいね、こりゃ。私、死ぬときは墜落死だけは嫌だなぁ」
「俺は老衰以外で死にたくはないけどな」
「私だってそうだよ。でも冒険者なんてやってればあぁぁあー!アンディ、まずいよ!尾羽が血に浸かってる!」
「なに!?くそっ、依頼の品がっ!とりあえず急いで尾羽だけでも剥ぎ取るぞ!パーラそっち回れ!」
「わかった!」

死に様について呑気に話している間で、血の池に浸ってしまった尾羽の存在に気付いたパーラはお手柄だ。
急いで死体に駆け寄ると、手にしたナイフで尾羽を死体から剥いでいくが、元々それなりに量が多い上に体も大きいザラスバードの尾羽は、全てを回収するのに時間がかかってしまい、ほとんどの尾羽に血が付着してしまった。

血の池から離れた場所に救出した尾羽を纏めて置いたが、俺とパーラはすっかりテンションが下がり切ってしまっていた。
ひとまず血で濡れたものと無事なものとを仕分けする作業をすることにしたのだが、やればやるほど無事なものがほぼ無いという状況に、底まで下がったと思ったテンションがさらに下がるのを感じてしまう。

「参ったな、無事なのは4本だけか」
「…ごめんね。私が考えないで墜落させちゃったから」
「お前のせいじゃねぇよ。俺だってもうちょっと飛空艇の高度を降ろして誘導すればよかったんだ」

ハァと揃って溜息を吐くが、いつまでもこうしていても仕方がない。
とにかく血を落とせないか洗ってみることにしよう。

水魔術で作った水球に血塗れの尾羽をいくつか放り込み、水球内に流れを作って洗濯機のようにして洗っていく。
すぐに血の赤が水球全体に広がっていくのが見られ、これはうまくいくかと思われたが、暫く経ってから取り出してみると、赤い色は多少薄まった程度で、全体的には汚いピンク色と言う仕上がりになっていた。

「完全には落ちないね。元々の灰色に赤が混ざって薄まったって感じ?」
「だな。まぁ何もしないよりはましってところか。とりあえず、俺は尾羽洗っておくから、パーラはザラスバードの解体をやってくれるか?」
「了解。あ、でも取り出した内臓を埋めるのに穴が欲しいから、そっちの作業の前に一つお願いね」
「ああ、やっとくよ」

役割分担で作業をはじめ、先に尾羽の洗濯を終えた俺はパーラの作業を手伝い、大量の肉と血が染み込んだ大量の羽毛を飛空艇へと積み込み終えるまで、体感でおよそ2時間ほどかかった。
辺りに流れた血の匂いで他の動物や魔物なんかを呼び寄せる可能性を考え、直ぐにその場を飛び立つ。
高度をとってヘスニルの方へ進路をとると西日が顔に当たり、もうすぐ夕方になろうかという頃だと気付く。

「もう夕方かぁ。なんかあっという間に時間が経ってるね」
「そうか?ヘスニルを出たのが朝を大分過ぎてからだし、ザラスバードを探すのに少し飛び回って、解体に尾羽の洗浄もしてって考えればこんなもんだろう」
「尾羽を洗うのはちょっと余分な仕事だったよねぇ。あーそれにしてもお腹減ったー」
「俺もだ。ろくに昼も食わないで動いてたからな。よし、いい肉も手に入ったし、街に戻ったらそれでうまいもん作ってやるよ」
「ほんと?楽しみ~」

飛空艇の冷蔵庫と冷凍庫には詰めるだけ詰め込んでお入りきらない分の肉が貨物室には山のようにある。
まだ傷みやすい季節ではないが、それでも量が量なのでガンガン食べていかなければならない。
まぁ余ったらギルドに売るのもいいのだが、今回のザラスバードを狩りにきたのは、主に肉を味わうということがメインだったため、出来れば俺達で消費してしまおうと思っている。

口の端に涎を浮かべながら締まらない顔をしているパーラを横目に見つつ、どんな鳥料理があるかを思い浮かべながら帰路を辿った。









日本人なら鶏肉料理と言えば何を思い浮かべるか、大体二つに分かれる。
から揚げか焼き鳥のどちらかじゃないだろうか。

調理にとりかかる俺の目の前には、鳥のムネ肉とモモ肉が塊で置かれていて、これを使って先に挙げた二つを作るつもりだ。
とりあえず塊のままの肉では使いづらいので、パーラの手も借りて食べやすい大きさにカットしていく。

焼き鳥にはモモを、から揚げにはムネ肉を使う。
一般的にムネ肉は火を通すと固くなり、ジューシーさでモモに負けると言われがちだが、ムネ肉の歯応えは肉食ってるって感じがあるので、から揚げにムネ肉というのが俺は一番好きだ。
一応ハツや砂肝、セセリにボン尻といった部位もあるにはあるが、これらは希少部位なので別の機会に手の込んだ料理にして食べるつもりだ。

焼き鳥の串にモモ肉と切ったリーキを交互に刺していく。
この世界ではネギというものが存在しておらず、それとは別にリーキといういわゆる西洋ネギが一般に流通している。
日本で普通に食べられる根深ネギとは味わいや食感に違いはあるものの、越冬したリーキは甘味も強いので、焼いて鶏肉と一緒に食べるねぎま串としては認めてもいいだろう。

今回はオリーブ油ではなく、ザラスバードからとった脂でから揚げを作り、ねぎま串は飛空艇のオーブンで焼いていく。
真正の備長炭など存在しないこの世界ではあるが、飛空艇に備え付けのオーブンの性能はかなりいいもので、内部で発生する遠赤外線は焼き鳥を焼くのに問題なく、焼き鳥はパーラに任せることにした。

暫く経つと焼き鳥に火が通り、オーブンから香ばしさと鳥の脂の匂いが混ざった何ともいい匂いがしている。
おまけにから揚げの匂いも混ざって、まさに鳥肉のカーニバルや。

その匂いのせいか、オーブンに取りつけられている小窓を時折開けて中を除くパーラは、目を血走らせて涎を何度も飲み下しているという、ほとんど何かの禁断症状が出ている人間と変わりない。

とりあえずパーラが焼き鳥に夢中の間はつまみ食いも心配ないので、から揚げもどんどん揚げていく。
油の温度と衣の水分に気を付ければから揚げは失敗しにくい料理なので、単調な作業の連続になる。
ただ、問題なのはこの世界に油切りの道具がないことだ。

そもそも大量の油を使って揚げるという料理がほぼ無いこの世界で、油切りの道具というのは生まれることが無かったのだろう。
なので、適当なザルを代用しているのだが、ここで一つコツを教えよう。

から揚げを油から上げる際、端っこの一部分をほんのちょっぴりだけ油面に着けた状態で3・4秒ほど待つと、油が下へ流れていくのだ。
これは天ぷらを揚げる際などに使われる技術で、表面張力が作用して油が移動するという技である。
から揚げにも効果はあるのでご家庭でも役立つはずだ。

そうして出来上がった焼き鳥とから揚げをテーブルに並べ、ようやく朝飯以来のちゃんとした食事にありつけた。
本当はここに米が欲しいところだが、何せ腹が減っている今はパンでもいいからすぐに食べたい気分だ。

涎だらだらでテーブルを睨むパーラの顔がそろそろ怖いので、お預けを解除して早速かぶりつく。
まずは焼き鳥からだが、やはりモモ肉のジューシーさは焼き鳥にするとものすごい威力だ。
噛り付いた瞬間に鳥肉の香ばしい油と、焼いたリーキの甘い汁が口の中で合わさってこりゃたまらん。

今回は塩で統一しているが、いつかタレで食べる焼き鳥も楽しみたいものだ。
自家製だが一応醤油はあるし、そう遠くない未来に実現はしそうではある。
目の前で同じく焼き鳥を食べたパーラに、味の感想を求めてみる。

「どうだ。普通の串焼き違って、オーブンで焼くと結構違うだろ?」
「…まぁ美味いんじゃない?いや、美味いよ、かなり美味い。けどさ、なーんか物足りないっていうか…」
「あぁ違う違う。そのリーキも一緒に食べるんだよ。肉とリーキを口の中で合わせる感じ」
「リーキとぉ?…正直、私リーキって苦手なんだよね。こんな鳥肉と合わせても大して―美ん味ぁ!」

半信半疑と言った様子でリーキと肉を一緒に食べたパーラは、分かりやすい掌返しでリーキを誉めだした。

「リーキって焼くとこんなに甘くなるんだ!しかもこんなに肉と合うなんて……いや、合うなんてもんじゃない。互いを引き立て合って完全体になってる!」

若干大げさではあるが、パーラの言うことも分かるので、その感動に水を差すことはせず黙々と食事を続けた。

さて、次はから揚げだが、これは作っている最中に味見したので美味いのは分かっていた。
なのでパーラの反応を見てみたが、焼き鳥ほどではないがから揚げも絶賛しているのが素直に嬉しい。

ただ、やはりムネ肉のから揚げに米を合わせられなかったことにどうしても悔いてしまう。
あくまでも俺の個人的な意見だが、から揚げはモモ肉なら酒のお供でムネ肉はご飯のお供と思っている。
から揚げにするならどの部位と言うのはよく論争となってしまうのだが、最後は世界が滅びてしまうので、結局好きなのを食えで決着としようじゃないか。

「あ、そうだ。今度花見に行こうと思うんだけど、パーラも一緒に行くか?」
「花見?…あぁ!サクラだっけ。そっか、もうそんな時期なんだね」
「ヘバ村の辺りはここよりも春が早いからな。桜が満開になるのはそろそろだ」

以前御使いの足跡を辿って見つけた桜の木が咲く丘は、今頃の時期七分咲きになるらしい。
桜を見るなら七分咲きというのは日本人なら常識だが、俺は散り際の桜もいいものだと分かる男なので、満開から散るまでの桜を楽しむつもりだ。

パーラには桜はいいぞぉと長きに渡って洗の…刷り込みを行ったおかげで、俺達は花見を楽しみにするという感覚を共有できている。
どことなくソワソワとした様子になったパーラを見るに、一緒に行くのは確定したと思っていいだろう。

「いつ行くの?」
「そうだなぁ、準備が出来次第って思ってるが、明後日ぐらいを目途にしてる」
「明後日かぁ…。ね、それってミルタ達も連れてっちゃダメかな?」
「いや、別に構わんぞ。ただあいつらも仕事があるからな。ちゃんと予定を聞いて来いよ?明後日以降なら何日かは調整できるから」
「分かった。明日ちょっと見せに行って聞いてみるよ」

参加するのは俺とパーラ、タイミングが合えばミルタとローキスも加わった四人と言うことになる。
花見と言ったら欠かせないのは弁当だ。
とりあえず四人分は用意することになるが、パーラのことだ。
マースにも声をかけるはずなので、一応五人分は考えておいたほうがいいだろう。

そんなことを考えながら焼き鳥に手を伸ばすが、皿に山とあった焼き鳥が消えていた。
唯一の心当たりであるパーラを見ると、頬いっぱいに焼き鳥を詰め込みながら、両手にも焼き鳥を持った状態の意地汚い姿がそこにはあった。

「おい、あれだけあったのがなんでほんの少しの時間で無くなるんだよ」
「ンゴグ…まあまあ、焼き鳥が無くなるのは自然の摂理じゃないの」
「蒸発して無くなったみたいに言うな。ったく、俺なんかまだ3本ぐらいしか食ってないんだぞ」

幸いから揚げはまだまだ大量にあるので、そちらで腹を満たす。
苦手だったリーキをパーラが食べられるようになったことは素直に喜ばしいが、だからといって自分だけで独占してしまうのはどうなのか。

そういうところはもっと慎みを持つということを学んでほしいものだが、そうなったらなったでパーラらしくない。
0か100じゃなく、ディスイズ最高に丁度いいパーラと言う風になればいいのだが。
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