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第七章 酒呑童子の想い

第36話

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「お~い、まりなとマシュー。こっちに来ていいぞ」

 酒呑童子は大きな声で、暗闇の広がる洞窟の奥に向かって叫ぶ。
 すると、手足でも縛られていると想像していたまりなとマシューは、自分たちの足で歩いて大祇の方までやってきた。
  大祇の頭はさらに混乱する。

(まりなもマシューも怪我無くて良かった……。本当に良かった……)

 大祇はふたりの元気な姿を見ると、自然と涙が出てくる。[百聞は一見にしかず]  この言葉の意味を身を持って体験した気がする。
 どれだけ二人が無事だと言われても、大祇は自分の目で確認するまでは、決して気が休まることがなかった。

「大祇、ごめんね」
「いろいろ協力してくれてありがとう」

 まりなは、大祇の横に座り背中をポンポンと優しくなでた。
 まりなに続いて、マシューも感謝の言葉を大祇に伝える。

「二人とも無事で良かったよ。俺、二人の身に何かあったんじゃないかと心配で仕方がなかったよ」

 大祇は目に浮かぶ涙で視界がにじむ。涙がこぼれ落ちる前に、手のひらで目をこすってごまかした。
 でも、ふと冷静になって二人の登場を思い起こす。

(どういうこと? なんでマシューとまりなは笑顔で席についたんだ?)

 大祇の心を読んだかのように、マシューが困った顔をして謝罪をする。

「たいきがいろいろ疑問を感じているのは、わかっているよ。きちんと説明させてもらうね」

 マシューがそう言うと、
「おっと、その前に弱体化した俺に何か渡す物を忘れていないか」

 酒呑童子が、マシューと大祇の会話に割って入り込んできた。
 まだ酒呑童子に渡していない物……。
 マシューはブレザーの胸ポケットから、小さいピルケースを取り出す。

「これでしょ? 人間に戻る薬」

 マシューは、酒呑童子にピルケースを手渡す。

「さぁ、これで俺は人間として生きて、一生を終えられるぞ」

 鬼の仲間は、静かに酒呑童子の話に耳を傾ける。

「親分、今までありがとうございました。お役目ご苦労様です」

 そう一言、鬼の一人が声をかけるとすすり泣く声が聞こえてくる。

「お前ら、しんみりするんじゃねぇよ。しかと見ておけよ」

 そう声をかえた酒呑童子は手のひらに取り出した二粒の大きな丸い薬を口にためらいもせず放り込むと、一気に飲み込んだ。

 僅かばかりの沈黙の後。

「おめでとうございます。兄貴」
「親分、おめでとうございます」

 みんなが口々に祝いの言葉を贈ると、拍手が沸き起こった。
 鬼たちが落ち着いたところで、マシューが酒呑童子に話かける。

「酒呑童子。僕、たいきに伝えないといけないことがあるから、乾杯したらゆっくり話す時間をくれないかな」

「そうだな。いろいろつき合わせて悪かったな。友人は大事にしないといけないから、しっかり大祇に説明してやってくれ」

 その後、乾杯をして鬼たちは祝い酒で宴会を始めた。
 大祇たち、中学生三人にはジンジャエール、水、オレンジジュースなどが用意されていた。
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