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第六章 まりなの居場所
第30話
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大祇は、焦る気持ちを抑えながら、一歩ずつ吊り橋の方向へ足を進める。おそらく十分くらい遅れて、大祇は吊り橋に到着をする。
そこには、まりなもマシューの姿もどこにも見当たらない。
「さっき、マシューは吊り橋の手前にいるっていったから……」
大祇はそう言うと、しゃがんで足跡を探す。確かに大祇より少しだけ小さい足跡がある。おそらくこれがまりなの足跡なのだろう。その横に、確かにマシューと思われる足跡もついている。木から飛び降りたはずみで、地面に手をついたのだろう。五本の指の形も残っている。
「あの二人は無事に合流できたってことかな? じゃあ、なんですぐに俺のところに戻ってこなかったんだ……」
大祇は吊り橋を少し歩いて、下の川を流れを見る。大きな岩の間に澄み切った綺麗な川が流れていて、しばし心が洗われるように気持ちになる。
「マシューが戻ってこなかったのには、理由があるはずだ。例えば……鬼とか……」
大祇は、どこからか鬼が襲ってくるような気がして、慌てて後ろを振り向く。
でも、大祇以外、人影はどこにもない。今は川の流れる音に気がいってしまって、山の上の方で聞いたような声がしていても、恐らく聞き取れないだろう。
大祇は吊り橋をもと来た方へ戻っていく。
「さっきまで、ここに鬼もいたんだろうか。もしくは酒呑童子がいたから、慌てて避難したのかもしれないな」
大祇はもう一度、足跡を確認してみる。
さっきはわからなかったけれど、キラッと何かが反射して、大祇はそこに駆け寄る。
「やっぱりまりながいたのは間違いないな」
大祇は地面に落ちていた青いおはじきをそっと拾い上げる。太陽にかざして見ると、空はすでに橙色を帯び、雲も紫色に変わってきている。
「日が暮れるな。まりなとマシューが一緒なら安心だけど、早く二人を見つけ出して合流しよう。何かあったのかもしれない」
青いおはじきは、大祇が山を下って歩いてきた道でも、吊り橋のところでもなく、別の方向に落ちていた。
「……こちらに落ちていたってことは、この方向に行くってわざとまりなが置いて逃げたのかもしれないな」
大祇は、おはじきが偶然落ちた物ではなくて、わざと向かった方向がわかるように置いて行ったものだと推察した。
「うん。間違いない。まりなならそうするだろう」
大祇は確信すると、青いおはじきをポケットに入れて、再び歩き出す。もうじき日が暮れるから歩き回るのは限界がありそうだ。今日はどこかで野宿をすることになりそうだなと考えながら、休める場所を探す。
太陽は沈み、西の空にかすかに明るさが残るだけとなった。
大祇は、ちょうどよい高さの岩に腰をおろし、表の世界から持ってきた、防災ポーチをリュックから取り出した。
大祇は大地震などの災害時に備えて常に簡易トイレ、マスク、十円玉、ビニール袋、アルミシート、携帯食、笛、三角巾、ヘッドライトを小さいポーチに入れて、いつも持ち歩いている。小さくまとめてしまえば、そんなにかさばることはない。商業施設や建物内で停電になると困るし、水が止まるとトイレも使えなくなるので大祇の家族は、それぞれ自分専用の防災ポーチを持ち歩くことにしている。
大祇はスマートフォンを持っていないので、十円玉を持ち歩いて公衆電話からも災害伝言ダイヤルをかける練習を家族で取り組んでいる。
今、十円玉は必要ない。大祇はヘッドライトだけを取り出すと、おでこにライトをつけて再び山の中を歩き出す。
しばらく歩くと木々に隠れた岩肌の側面に小さな洞窟を見つけた。今夜はここで夜を明かすことになりそうだ。
そこには、まりなもマシューの姿もどこにも見当たらない。
「さっき、マシューは吊り橋の手前にいるっていったから……」
大祇はそう言うと、しゃがんで足跡を探す。確かに大祇より少しだけ小さい足跡がある。おそらくこれがまりなの足跡なのだろう。その横に、確かにマシューと思われる足跡もついている。木から飛び降りたはずみで、地面に手をついたのだろう。五本の指の形も残っている。
「あの二人は無事に合流できたってことかな? じゃあ、なんですぐに俺のところに戻ってこなかったんだ……」
大祇は吊り橋を少し歩いて、下の川を流れを見る。大きな岩の間に澄み切った綺麗な川が流れていて、しばし心が洗われるように気持ちになる。
「マシューが戻ってこなかったのには、理由があるはずだ。例えば……鬼とか……」
大祇は、どこからか鬼が襲ってくるような気がして、慌てて後ろを振り向く。
でも、大祇以外、人影はどこにもない。今は川の流れる音に気がいってしまって、山の上の方で聞いたような声がしていても、恐らく聞き取れないだろう。
大祇は吊り橋をもと来た方へ戻っていく。
「さっきまで、ここに鬼もいたんだろうか。もしくは酒呑童子がいたから、慌てて避難したのかもしれないな」
大祇はもう一度、足跡を確認してみる。
さっきはわからなかったけれど、キラッと何かが反射して、大祇はそこに駆け寄る。
「やっぱりまりながいたのは間違いないな」
大祇は地面に落ちていた青いおはじきをそっと拾い上げる。太陽にかざして見ると、空はすでに橙色を帯び、雲も紫色に変わってきている。
「日が暮れるな。まりなとマシューが一緒なら安心だけど、早く二人を見つけ出して合流しよう。何かあったのかもしれない」
青いおはじきは、大祇が山を下って歩いてきた道でも、吊り橋のところでもなく、別の方向に落ちていた。
「……こちらに落ちていたってことは、この方向に行くってわざとまりなが置いて逃げたのかもしれないな」
大祇は、おはじきが偶然落ちた物ではなくて、わざと向かった方向がわかるように置いて行ったものだと推察した。
「うん。間違いない。まりなならそうするだろう」
大祇は確信すると、青いおはじきをポケットに入れて、再び歩き出す。もうじき日が暮れるから歩き回るのは限界がありそうだ。今日はどこかで野宿をすることになりそうだなと考えながら、休める場所を探す。
太陽は沈み、西の空にかすかに明るさが残るだけとなった。
大祇は、ちょうどよい高さの岩に腰をおろし、表の世界から持ってきた、防災ポーチをリュックから取り出した。
大祇は大地震などの災害時に備えて常に簡易トイレ、マスク、十円玉、ビニール袋、アルミシート、携帯食、笛、三角巾、ヘッドライトを小さいポーチに入れて、いつも持ち歩いている。小さくまとめてしまえば、そんなにかさばることはない。商業施設や建物内で停電になると困るし、水が止まるとトイレも使えなくなるので大祇の家族は、それぞれ自分専用の防災ポーチを持ち歩くことにしている。
大祇はスマートフォンを持っていないので、十円玉を持ち歩いて公衆電話からも災害伝言ダイヤルをかける練習を家族で取り組んでいる。
今、十円玉は必要ない。大祇はヘッドライトだけを取り出すと、おでこにライトをつけて再び山の中を歩き出す。
しばらく歩くと木々に隠れた岩肌の側面に小さな洞窟を見つけた。今夜はここで夜を明かすことになりそうだ。
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