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第四章 鬼との遭遇
第22話
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マシューが先に時空を抜けて第二理科室に戻り、大祇はその後に続いて時空を通ろうとした。
何となく、先ほどの酒呑童子が後ろにいるような気がして、後ろを振り返ったけど誰もそこにはいなくて、鳥のチチチチチという鳴き声だけ遠くから聞こえるだけだった。
「気のせいか」
大祇は、そう独り言をつぶやくとマシューに続いて、時空に頭を突っ込んだ。
大祇とマシューは、帰宅するために校舎の三階から階段を下りて下駄箱に向かう。手には学校のカバンと大江山散策で履いていた外靴を手に持ち、靴下のまま下駄箱に向かう。第二理科室に行く前、つまり大江山に行く前に、一度下駄箱で上履きを下足入れに入れてから、外靴を持ち出していたからだ。
マシューは、下駄箱に到着すると、早々と外靴を履いて、まだ外靴を履こうとしない大祇の様子を不思議そうに見ている。
「なんで、たいきは上履きの中を覗いているの? ラブレターでも探しているのかい?」
笑いながら、マシューが大祇に尋ねてくる。
「はは。俺にとってはラブレターみたいなものかな」
そう答えながら、なぜか嫌な予感がして、上履きを逆さにするけど何も入っていない。
「大変だ。まりなは、まだ大江山にいるはずだ」
大祇が断言するのを聞いて、マシューは説明を求めた。
「実は、俺とまりなは幼馴染だろ? 幼稚園の頃からお互いの情報交換に上靴に色のついたおはじきを入れるっていう習慣があるんだよ」
大祇とまりなは、連絡手段であるスマートフォンはまだ持っていない。
中学生にもなると、塾や習い事の帰りが遅くなる子もいるので、クラスメートでも持っている子を見かけたことがある。しかし大祇の場合、仲の良いまりなとは家が近いし、すぐに会いに行ける距離だから必要がないというのと、この幼稚園時代からの独特の連絡手段があるので、スマートフォンは必要だとは感じていなかった。
大祇は、制服のポケットから色のついた三色のおはじきを手のひらに乗せて、マシューに見せる。
「初めて見るけど、これが日本のおはじきという物かな?」
「そうだよ。例えば、青色は[一緒に帰ろう]、赤色は[用事があるから一緒に帰れない]、黄色は[帰宅したら家に集合]とか、色によって俺たちだけがわかる意味が決めてあるんだ。小さい頃からの習慣で毎日、入れるのが当たり前になっているんだよ」
そこまで、説明するとマシューは意味を理解したようで、まりながまだ下駄箱まで辿り着いていない、つまりまだ大江山にいる可能性があることを感じとってくれた。
「でもさ、まりなが宿題をしていたところには、荷物は無かったよね?」
大祇は、あまり想像したくないけれど、物事を悪い方向に考えるようになっていた。
「たいき、君の予想通りだよ。まりなは、帰宅していないし、恐らく……鬼に連れ去られたと考える方が自然だね。僕たちは、今回、酒呑童子にも遭遇しているし、その前にも他の鬼に目撃されてけん制されている」
「俺たちに更にけん制する為に、まりなを連れ去ったのかな?」
マシューは、顎に手を当てて、今までの鬼の行動と今回のまりなとの関連を情報分析している。
「平安時代、京の都では若い女性の連れ去りが多かったんだ。犯人は酒呑童子を含め、鬼たちが連れ去っていたからと言われている。その人の連れ去りをしている者を討伐するために源 頼光をはじめとする討伐隊が組まれたんだ」
大祇は、マシューの話を聞きながら、背中がゾクゾクするのを感じる。平安時代にも人の連れ去り事件があったのなら、今回、まりなの行方不明にもやはり関連があると、思わざるを得ない。
「それで……連れ去った女性たちはどうなったの?」
「文献によって記録は違うのだけれど、連れ去った女性と鬼とが夫婦になって子供を産んだという話も残っているし、鬼の宴会に調理された人間が出されたという話もある。真実はわからないけれど、若い女性を狙った人さらいが横行していたのは間違いない」
「……早く助けなきゃ……」
マシューの情報は、大祇にとってはどちらも受け入れることはできなかった。
(でも、先ほど慌てて俺たちは酒呑童子から逃げてきたのに、どうやって立ち向かっていけばまりなを救出できるのだろう)
何となく、先ほどの酒呑童子が後ろにいるような気がして、後ろを振り返ったけど誰もそこにはいなくて、鳥のチチチチチという鳴き声だけ遠くから聞こえるだけだった。
「気のせいか」
大祇は、そう独り言をつぶやくとマシューに続いて、時空に頭を突っ込んだ。
大祇とマシューは、帰宅するために校舎の三階から階段を下りて下駄箱に向かう。手には学校のカバンと大江山散策で履いていた外靴を手に持ち、靴下のまま下駄箱に向かう。第二理科室に行く前、つまり大江山に行く前に、一度下駄箱で上履きを下足入れに入れてから、外靴を持ち出していたからだ。
マシューは、下駄箱に到着すると、早々と外靴を履いて、まだ外靴を履こうとしない大祇の様子を不思議そうに見ている。
「なんで、たいきは上履きの中を覗いているの? ラブレターでも探しているのかい?」
笑いながら、マシューが大祇に尋ねてくる。
「はは。俺にとってはラブレターみたいなものかな」
そう答えながら、なぜか嫌な予感がして、上履きを逆さにするけど何も入っていない。
「大変だ。まりなは、まだ大江山にいるはずだ」
大祇が断言するのを聞いて、マシューは説明を求めた。
「実は、俺とまりなは幼馴染だろ? 幼稚園の頃からお互いの情報交換に上靴に色のついたおはじきを入れるっていう習慣があるんだよ」
大祇とまりなは、連絡手段であるスマートフォンはまだ持っていない。
中学生にもなると、塾や習い事の帰りが遅くなる子もいるので、クラスメートでも持っている子を見かけたことがある。しかし大祇の場合、仲の良いまりなとは家が近いし、すぐに会いに行ける距離だから必要がないというのと、この幼稚園時代からの独特の連絡手段があるので、スマートフォンは必要だとは感じていなかった。
大祇は、制服のポケットから色のついた三色のおはじきを手のひらに乗せて、マシューに見せる。
「初めて見るけど、これが日本のおはじきという物かな?」
「そうだよ。例えば、青色は[一緒に帰ろう]、赤色は[用事があるから一緒に帰れない]、黄色は[帰宅したら家に集合]とか、色によって俺たちだけがわかる意味が決めてあるんだ。小さい頃からの習慣で毎日、入れるのが当たり前になっているんだよ」
そこまで、説明するとマシューは意味を理解したようで、まりながまだ下駄箱まで辿り着いていない、つまりまだ大江山にいる可能性があることを感じとってくれた。
「でもさ、まりなが宿題をしていたところには、荷物は無かったよね?」
大祇は、あまり想像したくないけれど、物事を悪い方向に考えるようになっていた。
「たいき、君の予想通りだよ。まりなは、帰宅していないし、恐らく……鬼に連れ去られたと考える方が自然だね。僕たちは、今回、酒呑童子にも遭遇しているし、その前にも他の鬼に目撃されてけん制されている」
「俺たちに更にけん制する為に、まりなを連れ去ったのかな?」
マシューは、顎に手を当てて、今までの鬼の行動と今回のまりなとの関連を情報分析している。
「平安時代、京の都では若い女性の連れ去りが多かったんだ。犯人は酒呑童子を含め、鬼たちが連れ去っていたからと言われている。その人の連れ去りをしている者を討伐するために源 頼光をはじめとする討伐隊が組まれたんだ」
大祇は、マシューの話を聞きながら、背中がゾクゾクするのを感じる。平安時代にも人の連れ去り事件があったのなら、今回、まりなの行方不明にもやはり関連があると、思わざるを得ない。
「それで……連れ去った女性たちはどうなったの?」
「文献によって記録は違うのだけれど、連れ去った女性と鬼とが夫婦になって子供を産んだという話も残っているし、鬼の宴会に調理された人間が出されたという話もある。真実はわからないけれど、若い女性を狙った人さらいが横行していたのは間違いない」
「……早く助けなきゃ……」
マシューの情報は、大祇にとってはどちらも受け入れることはできなかった。
(でも、先ほど慌てて俺たちは酒呑童子から逃げてきたのに、どうやって立ち向かっていけばまりなを救出できるのだろう)
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