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第二章 第二理科室の秘密
第8話
しおりを挟む「今回のマシューの任務って……俺が聞いても大丈夫なのかな?」
大祇は恐る恐る尋ねてみた。
「大丈夫だよ。僕の任務は鬼の力を抑え込むというか……削ぎ落すと言ったほうがいいかもしれないね。そういう仕事かな」
またもや、空想上の生き物が出てきて、大祇の頭は混乱し出した。
「鬼って、実在しないだろう? いまいちピンとこないんだけど」
マシューは真剣な顔をしているし、彼のキラリの光る瞳も冗談や嘘をついているようには全く見えない。
「たいきは鬼を見たことがないかもしれないけど、昔話ではよく出てくるだろう? 鬼が退治される話とか物語として聞いたことあると思うのだけど。鬼退治の物語は、正確にいうと鬼の力を削ぎ落して弱らして長い年月眠らせているだけなんだ。だから、今回、そろそろ眠りから覚める鬼の力を再び削ぎ落して、弱体化させることが僕の任務ということになるかな。さっき、たいきは大江山の景色を見ただろう? あそこに千年前に存在していた鬼の名前を知っているかい?」
突然のクイズに、大祇は桃太郎や節分の鬼やら、いろんな鬼を連想してみるけど、どれがどの鬼かなんて、意識したことは無かった。鬼は一括りで鬼と思っていたけれど、彼らにも名前があると言われてみればそうなのかもしれない。でも、架空の生き物だと今の今まで思っていたのだから、名前なんてわかるはずがない。
「鬼の名前なんて、わからないなぁ。聞いたらわかるかも」
「僕が今回、捜しているのは『酒呑童子』さ。平安時代に源頼光がその首を打ち取ったという御伽草子が有名かな」
「ん~。しゅてんどうじ…しゅてんどうじ…。大江山って京都だよなぁ。高速道路で大阪の茨木市を通ると鬼の絵がついた緑色の看板が出てくるのは見たことあるけど、その鬼かな?」
「残念。それは『茨木童子』だね。でも、いい線いっているよ。茨木童子も大江山に住んでいて酒呑童子の家来だったと言われているからね。でも、今回はその親分の方かな」
「よくわからないけど、親分って事はかなり強い鬼なんじゃないの?」
「そうだね。鬼の中では最強と言われている鬼だよ」
そこまで、話を聞いていたら、急に背筋が凍るような感覚に大祇はなった。
かつて最強と呼ばれていた鬼の力を削ぎ落すなんて、下手したら自分の方が負けて負傷する可能性の方があるのではないだろうか。そんな危険な任務を目の前にいる、この同じ年の外国人に頼むなんてどうかしている。
「じゃあさ、マシューは酒呑童子をどうやって見つけるの? 学校の授業があるから休日にしか探しに行けないんじゃないの?」
「そう思うのは当然だね。でもね、さっきの時空空間を通ってあちらの世界、僕は裏の世界と呼んでいるのだけれど、そこに行っている間は、今いる世界、つまり表の世界の時間はほとんど進まないのさ。例えば、三年間、あの空間の中にいたとしてもまた戻ってくるときには、行った数分後の時間に帰ってこられるというわけだね」
「なんか、こちらの表とかいう時間が進んでいないのは嬉しいけど、三年も経っていたらマシューは十五歳の体になって、一気に身長が伸びた状態で戻ってくることになるんだろう? それってある意味、浦島太郎みたいに戻って来た時に一気に年月が過ぎてしまっている気になるから怖い気もするな」
「そうだね。実際、時空捜査員で空間の中に何年も留まった経験が誰もいないから、どうなるかわからないけど、理論上ではそうなるね」
「じゃあさ……万が一だよ、万が一、裏の世界で死んでしまったらどうなるの? こちらの家族は行方不明になったと思って、ずっと待ち続けてしまうんじゃないの?」
現実的な質問をマシューに投げかけると、マシューは少し暗い表情になる。
「それは、この表の世界に最初から存在しなかったことに世界が上書きされてしまうんだ。だから、誰も探さない。敢えて言うならば、この部署を示す刀文様通行証を持っている人だけは、存在を忘れないで心と記憶に留め置いてくれるから、その人だけ悲しんでくれるかもね」
「マシューはそれでもいいと思って、任務に赴いているの?」
マシューは、大祇の瞳をしっかり捉えて、声を出すこともなく静かに頷いた。
何が、そこまで彼を動かしているのか。
何を背負ってこの任務に当たっているのかは、きっと普通の中学生には理解はできないということだろう。でも、マシューのような任務を行っている同じ年代の人が、少なからずこの広い世界にはいるということだ。
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