みつけて、みつめて

鈴木まる

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知ってる

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 かえる様は「はい、これでできたよ。」と言ってくれたが、あかりには何の変化も感じれれなかった。本当に他の人から見えなくなったのだろうか。

「本当に大丈夫?」
「僕の色が変わったでしょ。これが目印。」

言われて見ると、かえる様は薄いピンク、桜の花びらのような色になっていた。カワイイ。

かえる様を信じて、あかりは堂々と授業中の教室に入ってみたり、教頭先生が居座る職員室に入ってみたりした。誰にも気づかれない。

なんだこれ、楽しい。

あかりはうっかり本来の目的を忘れそうになった。

 この小学校が創立80周年の時に、校庭の隅に記念館が設立された。体育館の半分くらいの大きさのその建物は、あかりの時代にはほとんど使用されていなかった。足を踏み入れるのは、しまわれている昔の道具を学習で使う時くらいだった。

その記念館に足を運んでみると、以前記念誌で読んだ通り、あかりの母親の時代には図書室として使われていた。

司書教諭にばれないよう、あかりはそうっとドアを開け一通り中を見て、またそうっと出て行った。




 何の手掛かりもないまま給食の時間まで終わってしまった。腹の虫がぎゅるぎゅる鳴るので、あかりは慌てて人気のない屋上へ続く階段へと駆け込んだ。あかりは後から気付いたのだが、学校の怪談噺の「屋上のお腹を空かせた幽霊」は恐らく自分が元になっている。

「やっぱりママに聞くしかない。昼休みが勝負だ。かえる様、元に戻して。」

あかりの言葉にかえる様は頷いた。

「がんばって!」

右前足でガッツポーズをするかえる様の色は、緑色に戻った。




 昼休み、校庭でどろけいをする6年生の集団にあかりは近付いていった。しかし、母親の姿は見当たらない。6年生によると母親は保健室にいるとのことだった。

 保健室の場所はあかりの時代とは違ったので、たどり着くまで少し時間がかかってしまった。ダメもとで養護教諭にお見舞いだと伝えたところ、案外すんなりと通してくれた。

「菜々美ちゃん、ちょっといい?」
「はあい。」

カーテンの中から少し眠たげな声が返ってきた。あかりはそっとカーテンを開けて、ベッドわきに立った。菜々美の姿は、入院中の母親のそれと被った。

「あ、あかりちゃん。さっき会ったばかりなのに、わざわざ来てくれたの?」

菜々美は嬉しそうに笑顔を浮かべて上半身を起こした。

「うん。さっきは仲間に入れてくれてありがとう。菜々美ちゃん、今日調子悪いの?」

菜々美の顔からは笑顔が消えた。俯いて布団をぎゅっと握った。

「今日…だけじゃないんだ。時々どうしても立っていられなくなって気持ち悪くなっちゃう。お医者さんには、もう体質だからどうしようもないって言われてて…。ってごめんね。あかりちゃんにこんなこと言っちゃって。なんだかあかりちゃんって初めて会った感じがしないんだよなぁ。」

弱々しい言葉があかりの胸に突き刺さり、思わず力強く反論してしまう。

「そんな…きっと大丈夫だよ!さっきもすごく足速かったじゃん。」
「でも…病院から帰った後、お母さん泣いてたの…。私がいない間にお医者さんと二人で話してたから、何か良くないこと聞いたんだと思う。」

菜々美は、少し自嘲的な笑みを浮かべた。

「私、死んじゃうのかな、なんて…。」

笑っているのは口元だけで、菜々美の目には涙が溜まっていた。あかりはやりきれない気持ちになった。

「大丈夫!マ…菜々美ちゃんは死なない!だって私は…!」

未来から来たから、と言おうとしたが口が動かなくなった。声も出ない。かえる様がきゅっとあかりの服を掴んで警告していた。そういうことは言ってはいけない、ということらしい。

「理由は言えないけど、とにかく私は菜々美ちゃんが元気に生きるのを知ってる。だから、そんなこと言わないで。ってごめんね、こんなこと言われても、意味わかんないよね…。」

あかりのことを目を丸くして見つめていた菜々美が、ふっと笑みをもらした。今度は目元も笑っている。

「確かに意味わかんないけど…あかりちゃんが真剣なのは、わかるよ。ありがとう。」

その時ちょうど、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。養護教諭がベッドを囲むカーテンの隙間から顔を出して、菜々美に体調はどうかと聞いた。

「お見舞いに来てもらって元気になりました!戻ります。」

菜々美は「またね!」とあかりに言って、教室へ戻って行ってしまった。

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