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姫の願い
歴史の後半
しおりを挟む「お前は、黙ってろっていったじゃねぇか。俺達が怪しまれたら調査も何もねぇぞ。ラズに怒られる。」
シュートがため息混じりにミックを叱った。ミックは素直に謝り、今後聞き込みの際には一切話さないことを誓った。シュートの言うことはもっともだった。
「確かに、そうなったらラズは怒りそうだもんね。」
「俺が何だ?」
「うわっ!いつからいたの?」
ミックとシュートの背後にラズが立っていた。
「たった今来た。くだらない話ばかりしていたのではないだろうな?」
ラズは訝しげな顔をしている。シュートとミックは聞いた話をラズに伝えた。
「俺の方でもだいたい同じような話だった。確認してみる価値はあるかもな。この石も北を指して…ん?」
ラズが取り出した石の入った巾着は北を指していなかった。東の方へ強く引っ張られている。姫の真名を知ったゾルが移動したということだ。しかも、こんなに敏感に反応するということは、ごく近くにいるということになる。
ミックたちが固唾をのんで石の入った巾着を見つめていると、また動き出し北東を指し、北へと動いた。そこからは動かなくなった。結局最初と同じだ。
「コンパスみたいに、しばらくしないと安定して正確な方向を指さない…とかってある?」
ミックはラズを見つめたが、ラズも困惑しているようだった。
「わからない。どちらにせよ、ディルに確認だ。」
ミック達が広場へ行くと、ちょうど今日の昼の興行が終わったところのようだった。鷹の塊の人々と片付けをしているベルを見つけた。
「お疲れ様!ディルは?」
ミックに声をかけられたベルは、運ぼうとしていた様々な小道具が入った箱をドシンっと一旦置いた。かなり重たいものを一人で運んでいたようだ。さすがベル。
「そこら辺にいないかしら?私よりずっと先に出番は終わってて、少し畑の方へ散歩してくるって言ってたのよ。でも、興行が終わる頃には戻るって。」
周囲を見てみたが、ディルの姿はない。まだ散歩から帰っていないのだろうか。ミック達も片付けを手伝い、粗方撤収できてもディルは現れなかった。
どうしたのだろうかと心配になってきたところで、鷹の塊の仲間がベルのところへ走ってきた。
「姐さん、これが控室にしてたテントの中に。心当たりあります?」
ベルは紙切れを受け取った。それを読んだベルの顔はみるみる青くなった。いつも余裕を感じさせるベルがこの表情とは、尋常ではない。ベルの持つ紙をラズが奪うようにして取り、ミックとシュートはそれを覗き込んだ。
【歴史の後半は預かった。北の洋館に石をもって来い。】
「歴史の後半…?」
ミックが知っている限りでは、歴史の後半といえばこの王国が出来上がってからの出来事だ。ここ千三百年のことである。
「どういうことだ?この国が人質ということか?」
ラズも腑に落ちない顔をしている。
「違うわ…ディルのことよ。ディルの真名に繋る言葉なの。」
ベルは動揺しながらもミックたちの疑問に答えた。そうだとして、なぜこの手紙の送り主はそれを知っているのだろうか。
「貴様はこの送り主に心当たりがあるのか?」
ベルはゆっくりと頷いた。
「とりあえず、ディルがピンチかもしれねぇんだろ?北の洋館に行こうぜ!」
シュートの迷いのない言葉に全員が賛成した。
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